ストライクウィッチーズ 孤高の竜の物語 作:銀髪って良いよね
航空学校を卒業してから最初の一年間は地獄だった。何せ、戦闘がないためひたすら訓練を繰り返す。そこにおいて彼は圧倒的な実力を見せつけ先輩後輩関係なく、たたきのめした。その結果起きたのはやはりいじめだ。ここでも男と言うことがマイナスの意味で働いていた。しかも実力ではいじめられないために陰湿ないじめが行われ、最悪なのがストライカーユニットをいたずらされたときであった。それ以来、彼は自分のストライカーユニットを他人に触らせず、すべて自分の手で行えるように完全に秘匿するようになった。
本来はできないことであるが、彼はこのときばかりは男の陸軍士官に頼み込み、行為体制を整えてもらったのだ。表向きはウィッチ(ウィザードという単語は公式にはないため)が自分の機体をより深く理解することで、戦闘に有利になるという目的であったが、実質は彼を守るための体制であった。
そんなことが起きている間に世界では大きな動きが起きていた。
ネウロイが侵攻を開始したのだ。最初に狙われたのは日本であった。このとき日本のウィッチが必死に守り抜き、どうにか事なきを得た。彼はこのときに出撃していないので、詳しいことは分かっていないが、坂本他数人のうら若きパイロットが有名になったのはこのときだ。この戦闘は後に扶桑海事変と呼ばれるようになる。
この戦闘以来、ネウロイの侵攻は世界に拡大。ついに人類とネウロイの全面戦争にまで発展していくのだ。
「今日も良い空だ」
彼はいつもの哨戒任務に出ていた。
今は1939年。あの扶桑海事変からさらに二年がたった。この頃にもなるとネウロイも本格的に活動を始め、彼自身も何度かネウロイと交戦するようになった。最初こそ恐怖心でいっぱいであった彼であったが、三回目以降ともなるとだいぶ慣れるようになった。
そんな彼は今日も哨戒任務に就いている。彼が脚に装着しているのはキ27九七式戦闘脚と呼ばれる戦闘機だ。旋回性能に優れる反面、その馬力の小ささから、速力があまり出ない機体でもある。
「さてと、そろそろかな……」
そんなのんびりとしたことを言った直後であった。右の雲の下に黒い影が見えたのを彼は見過ごさなかった。
「ネウロイ!」
黒いフォルムをメインにして、所々にビームを発射するための赤い砲台がついている。人類の敵だ。
「こちら黒竜壱。こちら黒竜壱。ネウロイ一体確認。現在高度三〇〇〇にて本土へ向けゆっくりと飛翔中。交戦許可を求む」
黒竜壱とは彼のコールサインだ。
「こちら烏。交戦を許可する」
烏と呼ばれるレーダー監視員が指示を出し、彼は静かに持っていた機関銃を構える。持っているのは7.7ミリ機銃だ。威力は低く、不満はあるが文句ばかり言っていては仕方が無い。
「黒竜壱、交戦!」
彼は一気に高度を上げ、ネウロイ後方上空につく。攻撃位置としては最高の位置だ。
そこから上体を下に向け、急降下を始める。速力はみるみる上がり、ネウロイは急速にその姿を明らかにしていく。
ここで気づいたのであろう。ネウロイは不快に感じる鳴き声とも悲鳴ともつかぬ音を出しながら、急降下を始めた。おそらく機体を反らすのは間に合わないと踏んだのであろう。
「だが、遅い」
既に彼の機銃の標準機いっぱいにまで広がったその図体に魔力のこもった鉛玉を音速の二倍以上の早さでたたきつけていく。
キンキンと金属音が響き、ネウロイの体を的確にえぐるが、その一撃は決定的なものにはならない。ネウロイはそのまま急降下を続け、徐々に距離を離し始める。こうなれば九七式では追いつけない。
「コア持ちか……」
一瞬、ネウロイの体を削った瞬間に中に光る赤い球を見た。コアと呼ばれるもので、これを持っているものはコアを破壊しない限り撃墜できない。しかも、コア持ちは他のコアがないネウロイより優秀だ。
機体を反転させ、追うことをやめた。しかし、これであきらめたつもりはない。ネウロイの姿をじっくりと見ていると回復したからなのか、それとも撃たれたことに腹を立てたのかこちらに向かって上昇してくる。
彼はあえてネウロイから逃げるように背中を向けた。
ネウロイは何も分からず、こちらに近づいてくる。速力的にはネウロイの方が上なのであろう。その距離はぐんぐんと詰まっていく。
もう射程圏内に入るかと思った距離になった瞬間、彼は体を捻り、ベクトルを切り替えていく。
今まで眼下に見えていた海が急速に視界内で回っていき、真上になる。ループを行ったのだ。ネウロイはやってやろうじゃないかとばかりにこちらの巴戦に乗っかってくる。
「ふっ!」
彼は口元に笑みをたたえた。
勝ったな。
ネウロイはすぐに自分の失態に気づく。旋回半径が想像以上に短い、彼はすぐに今にも自分の後ろにつきそうだ。すぐに機体を急降下へ移そうとするが、彼が機銃を構える方が早かった。
「残念だな」
肩に軽い連射の衝撃が走り、過たずネウロイに命中。その装甲板を抉っていきコアをむき出しにする。彼は連射をやめずに撃ち続ける。
最後の断末魔であろうか、今までより一段と高いネウロイの鳴き声が響いた。
直後、コアが白く光り砕ける。それと同時にネウロイの体も光り、砕けた。
「こちら黒竜壱。ネウロイのコア破壊を確認。これより帰投する」
彼はそう言ってその場を後にした。
(思ったよりもここのコア持ちのネウロイは弱かった。こんなもんなのか……?)
彼は不思議に思いながら、基地への帰路を急いだ。