ストライクウィッチーズ 孤高の竜の物語 作:銀髪って良いよね
コア持ちとの戦闘から数日後、世界を揺るがす事態が発生した。ついにネウロイが本格的な攻勢に出てきたのだ。その強力な戦力ゆえ、各国は苦戦。中には完全に敗北し国が消滅する事態にまで発展していた。
ネウロイ達は欧州方面に兵力を集結させているようで、扶桑周辺のネウロイの攻勢は下火になっていた。しかし、欧州方面が全滅し、侵攻する地が無くなればその兵力が扶桑へ向くことになる。そんなことになったら絶対に防ぎ混むことは不可能だ。そのために扶桑はウィッチ達を義勇兵として派遣することが決まった。その中にウィザードである彼の姿もあった。
彼は陸軍のウィッチとして船で欧州のブリタニアまで派遣され、その後部隊の配属が言い渡された。
「んで、ここに行けと……」
決まったのはスオムスのヘルシンキの基地だ。
スオムスへはさらに船で数日間揺られ、到着したのはヘルシンキの玄関口であるエテラ港だ。ここで現地の士官と待ち合わせることとなっている。
「それにしても疲れたな……」
彼はここ数ヶ月を船上で過ごしている。今まで船にほとんど乗ったことが無い人間がこれほどの長期間、船に揺られ見慣れぬ土地に来たのだ。精神的、身体的な疲労は共にピークを迎えていた。
「あれぇ、ここに新しいウィッチが来るはずなんだけどな……」
近くで小柄な女性が周りをキョロキョロと見渡している。軍服を着ており階級章から士官であるこが窺えるが、彼女もウィッチを探しているようだ。
「なあ、あんたヘルシンキ基地の士官を知らないか? ここで落ち合うことになっているのだが……」
彼は彼女に尋ねることにした。
「士官ですか……。私はヘルシンキ基地から派遣されている士官ではありますが……。私以外は知りませんよ」
もしやと思い、彼は彼女に尋ねる。
「もしかして扶桑からのウィッチを探しているのか?」
「ええ。よくご存じで、もしかしてお知り合いですか?」
「いや、たぶんそれは俺のことだ」
「へ?」
「俺は男だが、魔法力を使える。おそらくは情報を伝える過程で間違ってウィッチが行くと伝えたのだろう」
「あなたがウィッチ?」
「厳密に言えばウィザードだが、扱いがめんどくさいからウィッチで良い。扶桑から送られてきた加藤翼少尉だ」
そう言って加藤は丁寧な敬礼をした。
「こ、こちらこそ! スオムス空軍所属のエリナ・アルキオ中佐です!」
加藤は階級を聞いて驚いた。ここまで丁寧に接する人物が中佐とは少し信じられなかったのだ。しかし、肩に付いている階級章と日本で記憶してきたスオムスの階級を照らし合わせて確かに彼女が中佐であることを再認識する。
「こ、これは失礼いたしました!」
敬礼をして非礼をわびる。
しかし、彼女は嫌々と手を振りながら言った。
「いえ、勘違いされること離れてますので! お気になさらず」
どうやらよくあることのようだ。彼女は町の方を指しながら言った。
「さあ、行きましょう。基地まではそれほど遠くはありません」
加藤はエリナの案内するままに進んだ。
街を通りながら真っ先に思ったことはスオムスが他の国とははっきりと違う点だ。
「ここは他の国よりも活気に満ちていますね。国民はあまりネウロイを不安に思っていないように感じます」
「ああ。確かにそうかもしれません。ここの国民は他の国と同じ雰囲気を持つことが嫌いらしくて。他の国では負けるかもと落ち込んでばかりなので、スオムス国民は皆、負けるものかと逆に元気になっていますよ」
「面白い国民性ですね」
「ええ。そのおかげか、軍隊の士気も高くて助かります」
スオムスは初戦でかなりネウロイの攻撃を受けてはいるが、撃退に成功した数少ない国だ。その勝利の原動力となったのはこれかもしれない。
「まもなく基地が見えてきますよ」
街の郊外にさしかかったときに彼女は言った。
見れば平地の奥に大きな門らしきものが見える。
「基地に着いたらすぐに基地司令の方に案内しますので、ご挨拶の方をよろしくお願い致します」
「分かりました」
加藤はそう言って基地の滑走路を見渡した。首都の郊外に設置されていることから考えて、首都防衛を中心担うのであろう。その大任を担うだけあって、施設は立派だ。備え付けられたハンガーは大きいもので防空設備も遠目ではあるがカールスラント製の88ミリ砲であることが見てとれる。
彼は基地の施設をつぶさに観察しながら中へと入っていった。
基地内はその立派さに見合うだけの人員が待機しており、誰もが忙しそうに歩き回っている。
「こちらになります」
司令の部屋は階段を上った二階の中央付近にあった。
「扶桑皇国陸軍、加藤翼少尉! 中に入ります!」
「入りなさい」
思ったより低い声が聞こえ、ドアを開けた彼は司令の姿を見て驚いた。中で椅子に座っていたのは初老の男だったのだ。
「君が扶桑から派遣されてきた航空兵か?」
「はい!」
「ふむ。勘違いしていたら失礼だが、見た限り男性と思われるが、女性では無いのかい?」
「はっ! 私は男であります!」
「ほっほっほ。これは珍しい。男のウィッチとは、長生きするものだな」
彼は白くなり始めている髪をなでた。別に男であることにそれほど驚いてはいない。
「まあ、ここは欧州戦線の中では比較的平和な方だが、一様人類の最前線だ。油断だけはしないように頼むよ」
「はっ!」
加藤は敬礼と共に答えた。
「そういえば自己紹介を忘れていたね。私はアードロフ・ハッキネン少将だ。よろしく頼むよ」
アードロフは微笑みながら、加藤に言った。
「はっ! よろしくお願い致します。それでは失礼致します!」
そう言って加藤はその部屋から静かに出て行った。
「エリナ」
アードロフはほほえみを消して静かに名前を呼んだ。彼女は何でしょうと聞き返す。
「あの男、今まで相当辛い思いをしてきたようだ。おそらくは人間を信用していない」
「え!」
エリナは驚いて彼が出て行ったドアを見つめ直す。
「彼には何も言うな。ただ、彼とは普通に接しなさい。そして信頼されるように努めるのだ」
「は、はい」
「彼の実力は高いと思われる。この基地には彼の力が必要だ」
そう言ってアードルフは、静かに手元の書類に目を落とした。そこには新型ネウロイの観測がされたことに関する報告が書かれていた。