キョウは、狂ったように高笑いをしていた。
テンションは高くなったり低くなったりと忙しく、精神が安定していないことは明白だ。
彼は、自分がAL4ひいてはFFを除名されたことで人生を狂わされたという。
そして、その原因が全国大会で自分を負かした櫂トシキだと。
確かに、彼の除名後の生活はとても辛いものだったようだ。キョウはロアと同い年で、AL4という最強チームから突然除名されたことへのマイナス感情をうまく処理しきれないのも無理はなかった。
感情のままに行動していても、ここまで意志を貫けるのは尊敬に値する……かもしれない。
リベンジとして、キョウは先鋒戦で櫂と戦いたいようだった。
しかし、チーム・Q4の先鋒は先導アイチ。
「ははははっ。櫂トシキは逃げたか。で、一番弱い奴を送り込んできたと……。
まあ、正しい判断ではあるなぁ。見ろよ、これがレンと双璧といわれた櫂トシキの本性だぜ」
アイチは見た目通り気弱で、櫂が注目を集めることもあって特別目立ってもいない。
元チームAL4の実力者であるキョウからすれば、馬鹿にするのは当然なのだろう。背後の仲間へ呼びかけながら、Q4を煽る。
仲間も「情けねえ」「その程度なんだよ」などと勝手なことを言って、キョウと共に笑う。
「あなたは負けますよ」
そこに静かに落とされた声。
紛れもなく先導アイチの声だったが、いつもとはどことなく雰囲気が違う。
どこか冷たさ、いや、畏怖を感じさせるような気配。まだその片鱗が現れたにすぎないが、櫂とロアは敏感にそれを感じ取った。
「なんだと?」
睨むキョウの前で、アイチは自身のデッキを広げて“若年のペガサスナイト”を見せる。
「このカードを使って、僕はあなたに勝つ」
はったりなどではない。
アイチには、確信があるよつだった。
勝利だけではなく、そのキーカードさえも示す。まるで、
「ちょ、何言ってるんですか、お義兄さん!」
カムイが思わず、といったふうに声をあげる。
ミサキも、状況の理解が追いつかずに呆然とアイチを見ていた。
観客席でも、いつもと違う様子のアイチに心配の声があがる。
「アイチ……」
アイチの妹、エミは不安げに階下のアイチを見やった。
「見世物としては、面白かったぜ。だがカードはちゃんと確認した方がいいなぁ。
“若年のペガサスナイト”……グレード1のカードで、どうやってオレ様に勝つつもりだ」
キョウの指摘はもっともだった。
キーカードとして示すのは、普通グレード3だ。アイチが「分身」と称する“ブラスター・ブレード”でも納得はできたかもしれない。
だが“若年のペガサスナイト”のパワーは6000。ソウルにカードが置かれるたびにパワーが3000ずつ上昇していく能力は、上手く使えば勝負の決め手になることもあるだろうが……勝負前に勝利宣言できるほどのスキルではない。
「グレードなんて関係ありません。このカードであなたに勝つ。それはすでに決定されています」
キョウのもっともな指摘にすら、欠片の動揺もなく言葉を重ねるアイチに、キョウはなぜかレンの影を感じた。
「どういう、こと……」
観客席でも、キョウと同じように感じた者がいた。
ロアは周囲とはまた別の意味で混乱していた。
テレビで放映されているヴァンガードの全国大会。そこで見た、雀ヶ森レンを想起させる立ち振る舞い。
導き出される結論は──、いや、焦ってはいけない。見極めなくては。
「大口を叩いたことを後悔させてやる」
そんな言葉を発しながら、キョウは少し震えていた。
アイチと重なったレンの幻。
先導アイチは弱いファイターだ、と言い聞かせてもその震えは止まらない。
まさか、本能的な怯えなのか……?
それでも、ファイトは始まる。
「「スタンドアップ・ヴァンガード!」」
ファイト中のアイチはいつも通り……とはいかなかった。ファイトの展開は普段のアイチと同じだが、妙に落ち着いている。
「それで終わりか?“若年のペガサスナイト”はどうした。あれで勝負を決めるんだろ」
アイチのターンエンド宣言を受け、キョウはさっそくアイチを煽る。
いつものアイチなら、どうしていただろうか。
少なくとも、今のアイチは動揺してペースを崩すどころか、変わらず自分のペースを保つことでキョウの精神を乱している。
「無駄口を叩いている暇があったら、ファイトを進めてください」
口調こそ丁寧だが、やはり違和感しかない。
アイチの次のターン、“若年のペガサスナイト”が登場した。
予告したカードに注目が集まるも、“ブラスター・ブレード”のスペリオルライドで18000のパワーを発揮したのみ。
キョウのダメージは2枚目。勝負の終わりには程遠い。
さらに、キョウの攻撃で“若年のペガサスナイト”は退場させられてしまった。
予告失敗。
誰もがそう思った──アイチ以外は。
アイチのターンが巡ってくるたび、アイチは違う誰かになっていくようだ。
「まさか、まさかそのカードは……」
「ええ、そのまさかですよ」
アイチの見せた不敵な笑みに動揺するキョウは、完全に平常心を失っていた。
「言ったはずです。僕はこのカードであなたに勝つと」
そのときロアには、背中しか見えないはずのアイチの瞳に極彩色の光が宿ったのが見えた気がした。
ロアは、
「さあ、イメージしてください。圧倒的な力の前に敗北する、あなたの姿を」
ちなみに、ロアはPSYクオリアを持っているわけではありません。