クレイの歴史を記す者   作:汐音 アイリ

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アイチ覚醒!




RIDE7 PSYクオリア

異様な空気に包まれた、地区大会決勝・先鋒戦。

 

チーム・アヴェンジャーズの全員が、アイチが「まるでレンのようだ」と、そう感じた。

それは正しい感覚だった。

 

PSY(サイ)クオリア。

カードの声を聞くことができ、声に従ってファイトを展開すればファイトではほぼ無敵。その代償のように、性格は以前とはすっかり変わってしまう。その仕組みも覚醒する要因も未知の、謎に満ちた力。

 

ウルトラレア、櫂トシキ、ロアはその能力を知っていた。

 

 

「では、ファイナルターン!」

 

アイチが、このターンでの勝利を予告する。

「ファイナルターン」宣言に、会場は盛り上がってもいいはずだった。

しかし、それを許さない空気に満ちている。異様としかいえない光景だった。

 

アイチは“若年のペガサスナイト”でキョウに6枚目のダメージを与えた。予告通りの勝利。

それは、スタンドトリガーがなければ成し得なかったこと。

 

ウルトラレアも、確信する。

彼が、探していたPSYクオリアを持つ者なのだと。

 

 

レンの幻に怯えていたキョウは、アイチのファイトですっかり参ってしまっていた。

狂ったように笑い、叫び。

チームメイトも、キョウの異様な姿に戸惑っている。

 

 

そちらには視線もくれず、アイチは控え席に戻ってきた。そして櫂の前に立ち、「勝ったよ、櫂くん……」と儚げに笑った。

直後に頭痛に襲われたのか、倒れかけたアイチを慌てて櫂が支える。

アイチ自身も、自分の状態に戸惑っているようだった。——いつも通りのアイチが、戻ってきていた。

 

 

アイチは医務室に行くことになり、中堅戦ではミサキが戦った。

危なげなくミサキが勝ちを収め、会場は今度こそ大いに沸いた。

 

 

◇◆◇

 

所変わって医務室では、休むアイチの元へ櫂が訪れていた。

ミサキが勝ったことを聞き、アイチは喜びの声をあげる。そして、期待に満ちた声で問いかけた。

 

「櫂くん。僕は強くなったよね」

 

櫂は、答えない。

 

「櫂くんと再会して、ヴァンガードを始めて、これまでいろんなファイトを続けてきた。けど、今日くらい実感したことはなかったんだ。僕は、強いって」

 

櫂は、意を決したように瞳をアイチへ向けた。

 

「いや、先導アイチ。お前は弱くなった」

 

 

アイチの様子を見てから帰ろうと医務室へ向かったロアは、完全に入室するタイミングを逃していた。自動販売機で水を買おうと席を外し、同じように入るタイミングを逃したエミと共に耳をすます。

医務室の壁は厚いものではなく、入り口も開かれているので会話はすべて聞こえていた。

 

「弱くなった」と、櫂はそう言った。

櫂は、何かしらアイチの様子がおかしい原因に心当たりがあるのだろう。

そうでなければ、キョウという実力者相手に圧倒的勝利を収めたアイチを前に、そのような言葉は出てこない。

 

「櫂くん、今、なんて……」

 

アイチは動揺で瞳を揺らす。

 

「お前は弱くなった」

「なんで、あのキョウさんにだって勝ったんだよ。なのに……。

そんなことをいうなら、僕とファイトしてよ。僕がどれだけ強いか、わからせてあげる(・・・・・・・・)から」

 

わからせてあげる。その言い方もまた、アイチらしくない。

日常にまで、PSYクオリアの影響が及んでいるのか。

それとも、ファイトが絡んだことだからか。

 

「どうしたの」

 

アイチはもう動揺していない。

不敵な笑みを浮かべ、瞳に鮮やかな光を灯し、挑発的な言葉で。

 

「もしかして、僕に負けるのが怖いの」

 

エミは息を飲んだ。

あの「怖い」アイチになってしまった……。

 

ロアとエミが緊張している中、会話は進み──亀裂は決定的になる。

 

「アイチ、お前と戦うことはできない。……じゃあな」

 

櫂はアイチの挑戦を受けなかった。アイチの言葉に何の反応も返さずに背を向ける。

アイチは、去っていく後ろ姿を睨むように見ていた。

 

「おい、櫂!」

 

ロアやエミがどうしたものかと戸惑っている間に、ミサキやカムイも医務室にやってきていた。

カムイに呼びかけられて立ち止まった櫂は、「俺はチーム・Q4を抜ける」とだけ言った。カムイの疑問に答えることもなく、そのまま歩みを再開する。

 

櫂は後悔していた。

俺はまた、同じ失敗を繰り返したのか。そんな言葉が頭をよぎる。

 

 

◇◆◇

 

 

会場をあとにする櫂は、自分を追いかける足音を聞いて振り返る。

 

「ロア……」

 

ロアは、櫂が早足だったせいで息があがっていた。

 

「櫂さん。チームを抜けてしまうんですか……?」

「ああ」

 

櫂の返事は素っ気ない。会話自体を拒絶しているようだ。

 

「あ……えっと」

 

櫂の鋭い視線から逃れるように、ロアは目を伏せた。

何かを言わなければならない。だというのに、ロアの思考回路は役割を放棄したようで、何も言葉は浮かばなかった。

沈黙の時間が過ぎていく。

 

櫂は無言でロアに背を向けた。

その背に「あ……」と声が漏れるも、それ以上続かない。

 

櫂に、拒絶された気がした。

 

「何て、言えばよかったのでしょう……。櫂さんが遠く感じます」

 

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