櫂は以前よりも頻繁に、というより毎日、裏ファイトに現れるようになった。三和の話では、カードキャピタルには地区大会以来、一切訪れていないらしい。
そして、アイチもカードキャピタルで姿を見ない、と。
ミサキやカムイはともかく、裏ファイトの存在を知っていて顔なじみになっている三和になら、櫂が裏ファイトに来ていることを言ってもいいだろうか。そう思ったロアだったが、櫂の裏ファイトでの様子を思い出すと、なんとなく口を閉ざしてしまう。
一言で言えば、櫂は荒れていた。
以前は腕試しのような感覚で──もっとも、櫂より強いファイターなど裏ファイトにはいないのだが──ファイトしていたのに、今は裏ファイトのファイターを手当り次第にファイトで蹴散らしている。
完全な八つ当たりだ。
ただ、その激情の奥に深い悲しみと激しい後悔を感じる気がして、ロアは櫂のことをどうしても放っておけなかった。
櫂はあの日、結局何を言うこともできずに口を閉ざしたロアを見てどう思ったのだろうか。失望しただろうか。
ジュンも金歯の銀銅も、みんな櫂にファイトを
自分から動かなくてはいけないと頭ではわかっているのに、いざ行動に移そうとすると、櫂にどう思われているかが気になってしまうのだ。
ロアの目の前では再びファイトが終わり、櫂の対戦相手を務めていた人が思わずといったように膝をつく。
櫂は苛立ちがにじみ出た口調で「次!」と周囲へ呼びかけた。
……そろそろ、みんながファイトを避け始める頃だ。
櫂もこの精神状態であれ、真面目に学校へ行っているようで、ファイトラッシュが始まるのは放課後からになる。初めのうちはみんなファイトを受けるが、ある程度の量を越えると、途端にファイトへ消極的になるのだ。
むしろ、あの櫂の苛立ちを何度もぶつけられても、時間が経てば立ち直っているのは賞賛されるべきだ。だからこそ、櫂はここに通うのかもしれない。
つまり、サンドバッグ扱い……。うん、ちょっとみんなが不憫だ。
ロアは、櫂の元へ向かう人間が途切れたのを察すると、今日裏ファイトに来てからずっと座っていた廃材の山から立ち上がり、ファイトテーブルへ向かう。
櫂の対面につくと、櫂の瞳がじっとロアを見据えた。
その瞳から、今度は目を逸らさない。そう強い意志を持って見返すロアに何を言うでもなく、櫂はファーストヴァンガードを伏せた。
ロアもファーストヴァンガードを伏せようとデッキを取り出し、そして、口を開いた。ファイトが始まれば話す余裕もなくなってしまうだろうから、今、言いたいことを言うつもりだった。
言葉は自然とこぼれ落ちた。頭の中で整理されることもなく、感情のままに紡がれていく言葉はロアの偽りのない本心だ。
「地区大会のあの日、あなたに、どんな言葉なら届くのかわからなくて、私は沈黙するしかなかった」
櫂の目が、ファイトテーブルからロアへと視線を移す。だが、言葉は何もなかった。
勝手な思い込みかもしれない。ロアの罪悪感やら何やらが勝手に見せた幻かもしれないが、櫂の瞳にロアを見定めようとする鋭さがある気がした。
「あの時、私が混乱していたのもあります。けれど、私は何より戸惑ってしまった。最初よりも距離が縮まって、近くに感じていたあなたが遠くに行ってしまったように感じて、壁を感じて、途方に暮れた。
あなたの抱えるものが何なのかはわからないけれど、それが決して軽いものではないとわかってしまって、それに触れてはいけない気がして。どう接していいのかわからなくなってしまった」
櫂はまだ沈黙している。だが、気のせいだろうか。
拒絶されたようにも感じたあの日から昨日までと比べて、その眼差しはほんの少しだけ穏やかな気がした。
「今も、あなたに何て言えばいいのかはわからない。どう接していいものかも、まだ手探り状態です。だから、ファイトで教えてください。ファイトなら言葉にできないことも伝わると、そう思います。
……いいえ、教えてくれなくても構わない。私はファイトを通して、あなたをまた知るだけです!」
勢いのまま、ロアはファーストヴァンガードを伏せた。
言いたいことは言った。あとはファイトで語るしかない。
「お待たせしてしまって、ごめんなさい。はじめましょう。……スタンドアップ・ヴァンガード!」
「スタンドアップ・THE・ヴァンガード!」
ファイトが入ると、ファイトの尺とか、どこまで描写しようかとか悩みます。