天元の花、零の先へ   作:新川翔

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剣豪を終えて作者は思った。

「武蔵ちゃんと旅したい」

(3月29日加筆しました)


プロローグ

「次は◯◯駅〜◯◯駅〜お出口は右側です」

 

目的の駅への到着を知らせるアナウンスを合図に読んでいた本を閉じる。本を小さめの黒いリュックサックを入れて席を立ちポケットからICカードのの入った財布を取り出す。全く、のんびりゆっくり家で過ごせないというのは憂鬱だ。一つため息を溢した。

扉から出てホームに出ると人の流れに沿う様に階段を上がって改札を抜ける。何もする事が無いので適当にふらつこう。コンビニで飲み物だけを買って駅を出た。無意識に気の赴くままに体を進める。人気が少ない場所は選ばず右へ曲がって左に曲がり、更に左に曲がったりと気分の行くままにふらついた。

 

今日は10月16日、()()()になっている俺の誕生日である。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ないはずなのに……。

炎を見ながら消えるっていうのは、なんだか……

イヤな感じ……。

私、自分で思っていたよりも欲張りね。

最後に見る光景は……どうせなら、うん。ーーー

ーーーーーーとびきりの、青空が良かったなぁーーーーーー」

 

 

 

 

 

 

 

先程述べた通り今日は俺の誕生日。

両親や友達はどうやら午後からパーティを行うらしく準備をする為、家から追い出されてしまった。19歳の誕生日にパーティは流石に幼稚すぎるだろうとまた溜息を溢した。幸せが逃げていくばかりである。

痛い事この上ないのだが、俺はどうやら『転生』しているらしい。

先程の『魔術師になっている俺』というのはなんか死んで別の世界の俺になったいう事である。さらに、前世の記憶はほぼ無い。

思い出せるのは死んだ原因みたいなことだけで、ただ俺は漠然と『転生している』という事実が頭の中に記録されているだけだった。

 

無意識に体を任せふらついた結果、辿り着いたのは広い公園。丁度この時期はとても紅葉が綺麗で地面には赤く黄色い紅葉のカーペットが一面に敷かれている。電車の中で読んでいた本の続きが気になったので適当にベンチに座って本を読む。

雲1つない青空、心地よく冷たい風。

平日だからこそ人気が少なく静かで過しやすい。

 

ページをめくる。

 

ページをめくる。

 

ページをめくる。

 

 

そしてまたページをめくろうとしたその時、強い風が吹いて紅葉を空高く舞い上げた。嵐のように舞い上げられた紅葉中一枚がこちらに迫ってくる。わざと当たるのはなんか癪なので落ち葉を手に取った。それにしても、不思議な風である。

風が吹き止んで目の前の視界を潰していた落ち葉をどこかに放り投げた時、

 

 

女性が空から落ちてきた。

 

「は?」

 

親方!空から女の子が!

 

いや、『女の子』というよりは『女性』だし『落ちてきた』というよりは『出現した』感じだ。

とても現代の服装ではない彼女はすぐに目を覚まして何か喚いている。

 

「確かに青空が良いとは言ったけど!」

とか、

「恥ずかしい!」

とか

 

野次馬じみた心持ちで完全に浮いている服装の彼女に駆け寄った。腰に4本の刀を差しており、紅と青の綺麗な着物を着ていた。

もう少し近づいて分かったことは、着物がなんか普通のものと違うことだ。あれ?着物ってそんな太ももとか胸とか見せてのかと疑問に思った。

服装が浮いていると思っていたがまさかこんな浮世離れしているとは。

 

(やばい人だこれ)

と思い直ぐに振り向こうとすると、

 

目があう。

 

3秒間の沈黙の後、彼女は顔を赤らめて手で覆い隠してしまった。

なんだか声を掛けた方が良い状況に追い込まれてしまう。

 

「あの…大丈夫ですか?」

 

「…………」

 

彼女は恥ずかしかったのか顔を手で覆ったまま動かない。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

無言の応酬によって俺は今度こそ帰ろうと思って振り向いた。

 

「いや、待った!ちょっと待ってそこの方!」

 

「どうかこのか弱い私を助けてくれないでしょうか!」

 

気付かれてしまってはしょうがないのでまた彼女の方へ振り向く。

 

「……どうしたんですか?」

 

少し呆れながらも質問する。

 

「えっとね。う、う〜んどこから説明すれば良いのか。あっ、取り敢えず自己紹介から。私は新免武蔵守藤原玄。気軽に武蔵って呼んで」

 

「ふぁい?」

 

思わず度肝を抜かれた。

女?あの宮本武蔵が女?史実では宮本武蔵は男だったはずだが。

 

「俺は深山(みやま)(そう)といいます」

 

偽名かどうか疑わしいが、名乗られたのでこちらも名乗る。

 

「ふ〜ん、じゃあ繰君って呼ぶわね。よろしく!」

 

「あ、え、はい。お願いします」

 

若干あちらのペースに飲まれながら返事をする。

親以外に初めて名前で呼ばれた。繰なんていうへんな名前だし自分にとってそこは恥部なのだ。

そして、彼女を少し観察した結果、あることが疑いがかかった。信じられないが、それは彼女がサーヴァントであるということだ。サーヴァントとは神話や歴史の人物をクラスという型に押し込めて使う最高ランクの使い魔だ。この国のとある地方で行われる聖杯戦争という儀式で用いられる筈の駒。それがその地と遠く離れたここに存在することは不可解だが目の前の物の魔力規模、現代の物とは思えない奇抜な服装から、そう考えた。

 

「え、えっと。取り敢えず場所を移そう。武蔵さん」

 

俺と武蔵さんは場所を俺のアパートへと移す。こんな目立つところじゃ会話どころじゃない。

いつもなら電車で向かうのだが、この目立ちすぎる彼女の服装によって人目を避けながら遠周りをして向かうことになった。

大学と実家との距離が遠く、普段はアパートに住んでいる。今日は誕生日という事で親から呼び出しを食らったのだ。それで行ったら準備するからどっか行っててと突き返された。調子のんな。

このアパートは全部で6階建てで俺はそこの三階に住んでいる。エレベーターを使うと管理人に目撃されてしまうので、裏から非常階段を使って部屋まで移動する。平日の昼なので一切人に見られることはなかった。

俺の部屋は2DKでまず玄関に入るとダイニングキッチンがある。そこから右には風呂、トイレと並んでおり、奥には部屋が二つある、一つは洋室で研究の為の部屋、もう一つは和室で只の寝室である。無論、布団派だ。

 

「どうぞゆっくりしてください」

 

俺はアパートの鍵を開けて部屋に入れる。この武蔵という人は明らかに人じゃない。

ダイニングのテレビ前のソファに誘導する。俺は冷蔵庫から麦茶を出してコップに注ぐと共に、彼女の向かい側に椅子を移動してそこに座った。

 

「どうぞ」

 

「あ、どうも」

 

俺は彼女に麦茶を差し出す。

しかし、ここで俺は重大なことに気づいた。

そう、深山繰はコミュ障、陰キャ、二次オタの三種の神器を携える戦士だった。先程まで無意識に彼女をここへ連れてきてしまっていたが、って、無意識に連れてきたってワードが卑猥だし俺キモい。

どうしよう、会話が思いつかない。

 

「………」

 

「………」

 

また、最初に会った時のような、沈黙が始まった。

その沈黙は海より深く、暗く、とても気まずいものだった、この部屋には二人いるのに一人でいるようなそんな感覚だった。

 

「えっと、ありがとうございます」

 

「あ、いえいえ」

 

なんだよこの空気。

 

「それで…あ、貴方はあの宮本武蔵さんでよろしいんですかね?」

 

「はい、本物の宮本武蔵です。あんまり信用してくれないんですよね。本来は男なんだとか」

 

俺はここである決断をする。

この短い人生の中で手に入れた会話の奥義『後手からの誘い出し(聞き手に回る)』を使うしかないと。

この奥義は相手がおしゃべりな相手の時に使えるもので、その時思った反応を返せば相手にスイッチが入って話してくれる。

 

「成る程、それで、何故こんな所に?」

 

「ええっと……」

 

と、いう風に彼女は会話のスイッチを入れて自分のことについて話してくれた。

彼女は最初、女だから親しい人に認めてもらえなかった。それに我慢できず、家を飛び出した。その頃は結局自分で生活出来なかったので家の前に小屋を作ってしばらく生活したらしい。

その後、独学で剣の道を学んで武者修行の旅に出たそう。で、不思議な穴に入ったら別世界で……

 

「別世界!?」

 

「ええ、私ってどうやらそういう体質らしいの」

 

なんじゃそりゃあ…俺はなんだか嘘っぽい話に耳を傾き続けた。

 

 

 

 

 

「貴方、サーヴァントですよね」

 

しばらく話を聞いて質問した。うん。唐突すぎる。しかし、自分にとってはそれが精一杯だった。

普通のコミュニケーション能力を持つならもう少し雑談を交えたりして本題に入るのだが、残念ながら久し振りに親族以外の女性と話す俺には出来ない。

彼女は突然の関係ない質問に少し戸惑いながら、

 

「え?さーゔぁんと?」

 

彼女は自分の事を解ってないらしい。でもこの魔力規模はやはり完全に人間じゃない。魔術と完全に関わっている。そして、『新免武蔵守藤原玄』と名乗っていてこの服装、生前の話の具体性から明らかにサーヴァントだという確証はついた。彼女は多分本来の宮本武蔵ではないのかもしれない。恐らく剪定事象の者だ。どうして彼女は世界を彷徨い続けているのだろうか。俺にはその疑問に答える情報を持ち合わせてはいなかった。

 

「ん?…あー、さーゔぁんとね。うん、そうなのか!」

 

彼女は俺の言葉に勝手に自分で納得していた。

 

「えっと、大丈夫ですか?」

 

「ええ、質問どうぞ!」

 

自分のことを語れるのが嬉しいのか彼女は笑顔でそう答えた。

その笑顔は秋の紅葉、一面の赤い紅葉、太陽の輝きの様な眩しいものではないけれど、落ち着く綺麗で美しいものだった。

と無意識にそんな事を思ってしまった。自分の気持ち悪さに嫌気がさす。

 

「……マスターとかはいるんですか?」

 

「え?主人の事?いないけど」

 

俺は首を傾げながら「そうですか」と返事をする。どうにも本当ぽいので出来れば契約したいと思い立った。

もし、サーヴァントというトンデモ兵器を手に入れる事が出来れば、この先、何かしら有利になるかもしれない。というより他の家に渡したくない。

俺の家系である深山家は特に治癒の魔術に長けた一族で長く継承され続けた刻印によって呪文一節で様々な傷を癒すことができる。そんな地味な魔術を使うので突出した何かが欲しいのだ。

サーヴァントは人の範疇を超えている存在だ。しかも、彼女が自称する通りの正真正銘の宮本武蔵ならば、正体を明かさない程度にチラつかせることで他の家に対する威嚇にもなる。

彼女は平行世界を彷徨う体質らしく前の世界で死んだはずなのに此処に現れたということらしい。彼女がしてきた旅の話はは興味を引くものばかりだったし、何よりそれを自信たっぷりに語れる彼女とその美しい笑顔がとても好きになってしまった。俺はそんな彼女に憧れてしまった。

それにしても、無意識に第2魔法紛いのものを使っているのかと思うとゾクゾクする。

 

魔法、全部で五つあり。人類の科学、技術では再現不可能な奇跡。例えば、第二魔法は『並行世界の運営』が当たる。他にも色々あるのだが、その正体は判明していない。

そして、それを使う人(一部「人間をやめるぞ!j○j○!」状態な奴はいるが)世界に五人もしくは四人いるとされる。

 

「なんて奴じゃ。久しぶりだな。ミヤマのせがれ」

 

噂をすれば、と俺の後ろに1人の老人が立っている。

 

「どうも。ゼルレッチ爺さん」

 

「え、深山君この爺さんと顔見知り?」

 

「ああ、色々あってね」

 

原因は転生の時俺に付いたと思われる特異体質である。

その名も『手繰る魔眼』

この際、ネーミングセンスについては触れないでほしい。

『自身が取るべき行動の影』を映し出す魔眼。というのが俺の見解で『自身の未来を手繰る』という意味でこの名を付けた。

発動さえしていれば相手からの騙し討ちとかにも対抗できる。未来視に近いこの魔眼だが1時間とか1週間とか1ヶ月とかそれほど先を見れる訳でもない。

 

その俺の魔眼は『手繰る魔眼』は『自身が取るべき行動の影』を映し出す。というのは上述の通りだ。

ではどうやって映し出しているのかというと平行世界からその影を持って来ているらしい。

どういう訳か『転生』という現象により魂が並行世界を移動した俺は世界と世界の架け橋を無意識に認識し、それらを観測し繋げることが出来てしまったらしい。

この魔眼は俺がこうやったら、のイフの中から最善のものを選び出しているとの事。

使う度に俺は少し並行世界の存在を確立させてしまっているらしく、それを察知されて、かの第2魔法の使い手キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグは降臨された。

 

「で、今度の俺は何をしでかしたんですか?」

 

その度に俺はこの爺に怒られる程でもなく注意される程でもないが色々ぐちぐちと愚痴られる。

 

「サーヴァントの召喚だ」

 

「そうですか」

 

だろうと思い少し安心した。ゼルレッチ爺さんは話を続ける。

 

「問題はその過程だ。そのサーヴァントはどうやら世界線を移動するような体質でな。貴様は彼女が移動中に道を捻じ曲げこちらに呼び寄せてしまった。ったくチートじゃろ」

 

あのー、特大ブーメランが刺さってますけど。あなたレベルのチートなんて他にいるんですか?

そもそも、何故、貴方が『チート』なんていう言葉を知っているんですか。

 

「取り敢えず彼女を元の行くべき世界線に移動させてやれ。それではな」

 

と自由気ままな魔法使いは一方的に喋って消えてしまった。

 

並行世界の移動の仕方(やり方)くらい教えてくれたって良いだろうガァ!」

 

投げやりさ、適当さが頭にきてしまい叫んでしまった。ノーヒントで世界線を移動させてやれと指示するのは余りにも無責任すぎるだろう。

横にいた武蔵さんが目を丸くしてびっくりしていた。恐らく、そんな大声を出せる様な人だと思われていなかったのだろう。

全く、いうことだけ言って去られるのは流石に困る。いや、待て老人は普段は耳が遠いがこういう悪口の時だけ…

 

「何か言ったか?」

 

「イエ、ナニモ」

 

地獄耳である。魔法使いは一瞬だけ姿を現してまた消えた。

 

「えっと?つまり移動できるの?」

 

「ワカリマセン」

 

魔法使いでも何でもない俺には何をすればいいのか全く分からない。

 

「大丈夫よ」

 

しかし、俺の残念な回答を彼女は平然と受け入れていた。

 

「大丈夫なの?」

 

「ええ、私はさ目指す所()まで至っちゃったからさもう他にやる事ないんだよね」

 

俺はその言葉に少し物申したくなった。それは違う。まだ知り合ったばかりなのにそれはらしくないと俺の何処かが叫んでいる。

 

「いやその場所がなんなのかは知らないけどその先とかないの?別に1番になった訳じゃないんでしょう」

 

その言葉に武蔵さんはパッと目を輝かせた。

 

「それよ!私実は旅を続けたいんだけど理由が見つからなくてさ!よぉし張り切って世界で1番。いや人類史1番を狙っちゃうか!」

 

ちょっとそれは行き過ぎな気もするが、動機が決まったらしい。そもそも、俺に行き過ぎだとか、そんなことを言う資格はない。

それにしても、並行世界を繋げる事なんてできるのだろうか。

そういえば…ゼルレッチさんがこの魔眼の名前を『手繰る魔眼』と命名するときに「あながち間違えていない」

とか言ってた。

 

そう思って魔眼を発動させ何もないところに指を入れる。

サクっと指が入る感触があった。直感が別の世界に繋がっていると言っている。

 

「よし、武蔵さん行けるぞ!」

 

「え、マジ!」

 

俺は思いっきり空間を引き裂いた。

すると人1人通れるくらいの穴が出現した。

こんなにも簡単に門が開く訳がないのでびっくりする。

恐らく並行世界を移動できる体質の武蔵さんが居るからだろうと勝手に結論ずけた。

 

「お、開いたか。それじゃ、行ってきます。短い間でしたがありがとうございました」

 

「……あぁ。行ってらっしゃい」

 

本当に短かったがありがとう。

そう思って彼女を見送る。

うん。寂しい。

きっと俺はまだ彼女と話がしたいのだろう。自信満々に自由奔放に語れる彼女の話をもっと聞きたいのだろう。

 

「……繰君も行く?」

 

それほどこっちが寂しそうな顔をしていたのか彼女はそう尋ねてきた。

まさかの誘いに俺はついつい

 

「ああ!行こう!」

 

と楽しそうに嬉しそうに答えてしまった。

 

「ちょっと待ってあげるから準備してたら?」

 

「わかった!」

 

19にもなって廊下を走ってしまった。

すぐに工房の中を漁ってバックの中に詰め込む。

脇差くらいの長さの名刀を数本。また、いざという時の非常食。また世界地図だったり救急セットだったり自分の魔力を溜め込んだ魔力回復用の宝石、等等。

40秒も掛からず支度を完了させる。

 

「じゃあ準備はいい?繰君?」

 

「ああ、行こう!」

 

いつのまにか口調もなんだか砕けてきた。

 

と、脳のどこかにヒビが入った。

しかし、それは痛覚を伴わない。缶ジュースを開けた様な快感も感じられる。その缶からモノが噴水の様に溢れてくる。

…これは、俺の前世の感情だ。




魔眼のためだけに転生ってどうなんだ?と思う作者でした。
彼は三度、自身の運命(fate)を否定する。
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