10話
俺は一通り全ての野菜を買って帰宅した。
睡眠薬を調合しながらどんなうどんを作るか考える。
ダシについては変えとなるようなものがある。にしても青野菜が市場に結構あったのは助かった。いや普通あるのか。
で、今目の前にある食材は…
カブ
かぼちゃ
セロリ
人参
玉ねぎ
テーブルビート(火焔菜)
など…
ふむ、カブくらいしか使わなそう。
別にいいや。ついでに天才騎士君のための睡眠薬入りJapanese udonを作ってあげるか。と睡眠薬をササっと完成させた。
カブはサッサッと音を立てている。
「ただいま〜〜」
料理が出来上がった瞬間、つまり丁度いいタイミングで彼女は帰ってきた。
もしかしたら帰ってこないんじゃないかと思っていたので安心する。
「おかえり……って」
彼女はびしょ濡れだった。如何にも滝修行をしてきた後のような雰囲気でぴとぴとと水が彼女の着物から滴る。相当寒かったのかガタガタと震えている。妙にエロい。
「ヘックチョン」
とくしゃみもしてみせる。俺はすぐさまに自身の魔術礼装のコートを持ってきて彼女に被せた。
「何やってんの」
そう言いながら彼女をソファまで誘導し、髪を拭くためのタオルを差し出した。
「滝寒い、滝寒い」
ブツブツと寒そうに呟く彼女は今にも凍え死んでしまいそうでこれが俺の師匠だと思うとなんだか情けない気分になった。
宝石から使い魔を出して大きい犬にして彼女のベッドにする。
「これに寝てな。夕ご飯持ってくるから」
「う〜ん。よろしく〜」
俺はうどんをお盆に乗せて持ってこうとする。
うどんの香りに気付いたのか武蔵ちゃんは飛び起きた。
「うどんか!うどんだな!」
「どんだけうどん好きなんだよ!そうだようどんだよ」
俺は呆れ気味に言う。彼女は早く寄越せと言わんばかりに手を出していたもう寒さは吹っ飛んだのだろうか。
恐る恐るうどんを差し出すと乱暴にしかし、汁をこぼさずにうどんの器を取る。更に箸を差し出すと
「ありがと」
と、うどんを見ながらうどんに目を輝かせながら彼女は言った。
一度、俺の作ったうどんをじっくり眺めて、香りを楽しみ2回ほど頷いた後、ズルズルと音を立てて真剣に食べ始める。
「へ〜すりおろしたカブをつゆに入れたのね」
な…何故わかった?
「やっぱりわかるのか、そういうの」
「まあ伊達や酔狂でうどん好きをやってませんから!」
何故そう上機嫌!?
武蔵ちゃんはニコッと笑ってすぐにうどんをすするのを再開した。こんな飯テロを見ていたら飢え死んでしまうので、俺も同じものを席について食べる。
「武蔵ちゃん。着替えは?」
「あ〜取ってき「断る。自分で取ってこい」
着替えとはあの中世ヨーロッパ風のコスプレのことだろうが、どこにあるかわかるが、取ってきたくない。
というかこの勢いだとここで着替えられかねない。
それは倫理的に危なすぎるのではないのだろうか。ほら。
「え〜」(なんで持ってきてくれないの?の意)
「え〜」(なんで持って来なきゃいけないの?の意)
「え〜」(普通弟子なんだから持って来るでしょ。の意)
「え〜」(そういう問題じゃなくて。異性だけと別にいいのか?の意)
「え〜」(いいでしょ。の意)
「え〜」(うそん。の意)
「え〜」(なんで?の意)
「え〜」(なんて言うか…なんかキモいとか思わないの?の意)
「え〜」(思わないわよ。信頼してるし。の意)
「え!」{なん…だと…。の意(バタンと机に頭をぶつける)}
「え!」{大丈夫!?の意(急いで駆け寄る)}
「えっ」(顔近い。萌え死ぬ。の意)
「えっ」(繰君が死んだ!このひとでなし!の意)
ただ、顔が近すぎて気絶しかけただけで人でなしの扱いを受けるのはどうかと思う。
1時間後
そんな茶番は終わり、今はサン・ジョルジュの前に俺と武蔵ちゃんが居て作戦会議を始めている。
「やっぱ、逃しちゃったらダメなんですね武蔵ちゃん」
「もちろん!徹底的に!」
彼女は拳をグッと握って明らかに殺意ムンムンで宣言した。
「ちょっといいか?なんで僕もいく感じなんだ?」
「「え、行かないの?」」
どうやらサン・ジョルジュ君は何故自分が混ざっているのかわかっていない模様なので状況を説明してあげよう。そう互いに頷く俺と武蔵ちゃん。
「まずは名前だな。俺は深山繰」
「で、私は新免武蔵守藤原晴信。気軽に武蔵ちゃんって呼んで」
「お!噛まずに言えたな武蔵ちゃん!」
「「イェイ!」」
「いや!何君達ハイタッチなんかしているんだよ!僕にとってはさっぱりだよ!」
リハーサル通りにうまくいった。いや、何で俺たちこんな事でリハーサルをしているのだろうか。
サン・ジョルジュ君は体が治ったばかりのはずなのにツッコミを飛ばしてくれた。
というか彼、こういうキャラだったんだ。
「そうだった。すまない」
「ああ、話を戻そう。何故僕は僕を操っていたやつのところまで行かなくちゃならないんだ?」
「したくないの?復讐」
武蔵ちゃんの発言がいちいち物騒なので少し引いてしまう。
「したくないの?復讐」って怖い。武蔵ちゃん怖い!
「復讐ってそんなことをするつもりはない。したいことといえば償い。僕が殺してしまった人たちに対する償いだ」
「ふーん。そう、じゃいいや」
武蔵ちゃんはドライだった。それは自分の価値観を相手に押し付けない為か、それともただ飽きたのか、後者ではないと思っておく。
「……わかった。サン・ジョルジュ。お前は同行しないのは分かった」
たしかに俺も彼の言葉を聞いてあまり深く思うところがあったというのならばそれは嘘となるが、
「だが、話くらいは聞いておけ。お前がもしこの事件の関係者ならば、加害者ならば、被害者ならば、その後知らない。知りたくない。なんてことは言うなよ。当たり前のことだがそれはただ、その出来事から目を背けただけだ。そんな奴には『償う』資格もない」
やっぱ言うんじゃなかった。恥ずかしい。てか何カッコつけて言ってんだよ。
そうして明日の真夜中から俺と武蔵ちゃんで捜索する事となった。
翌朝、天気は曇り。
朝食を済ませて今日は武蔵ちゃんに稽古をつけてもらう事となった。俺はベッドで安静にしている彼の食事と自分達の昼食を作って外に出た。
「はい、師匠命令」
というわけで、この前に稽古した場所より遠い人気のない郊外までおぶって走らされてこの時点でヘトヘトだ。
ん?当たったかって?当たったよチクショー!
もう、こんな事したくはないが、言い出せないので、今後こんな事ないよう願うしかない。
俺の師匠は自らは気付かずに色んなことをしでかしてしまうらしい。ほんと、一連の天然のあざとさは陰キャには効果抜群だから控えてほしいものだ。
結構都市から離れて辺り一面、とは言い難いがある程度広い草原にまでやってくる。
「お疲れ様」
俺が膝をついているところに彼女は俺の頭を軽く撫でる。
「さて、始めましょうか!」
「鬼畜か!」
俺は顔を起こして余りにもの鬼畜さに非難の声を上げる。
しかし、彼女は既に刀を抜いている。もう止まらないことはその目が語っていた。俺は力を振り絞って立ち上がり昼食と魔眼殺しのメガネを安全なところに避難させる。その後アキレス腱を伸ばしたり、帯刀したりと準備を始める。
「今日の課題は…………」
武蔵ちゃんはそんな俺の前で仁王立ちをしている。
ほおには1つ汗が垂れているし、思いついてないだろ。課題。
「……………」
「……………」
武蔵ちゃんは黙ってしまう。彼女の頰に更に汗が伝っている。それで一切表情を崩していないことはたまげたものだ。
「……そう!戦闘の勘を身につけるの!その魔眼って一手先しか読めないんでしょ。私たちレベルになるとそれが3、4手先まで読んでるから」
即興にしてはかなりそれらしいことを彼女は言った。
たしかに俺は魔眼に頼り過ぎで見える一手先に集中し過ぎている。それでは二手目三手目の対応に遅れてしまいいつかはついてこれなくなってしまう。
「なるほど……つまり、」
「そう戦いの中でその勘を身につけましょう。肉体的な筋力的な問題もあるしそれと並行してね」
「了解です」
俺は刀を抜く。しかし一刀のみ。あの珥加理刀ではないがそれを中段正眼で構える。
「へー、二刀じゃないのね」
「ああ俺には二刀扱う力も技量もない」
この前、武蔵ちゃんと戦って思ったことだ。確かに、二刀流は適応力が高く、どんな攻撃にも対応しやすい。
しかし、俺には一手一手考える癖があるのだ。魔眼ではこう写っているからこう動く、自分の影しか見えず他人に影は見えない目なのに、それに頼りきりになってしまう。
一々考えている暇などない。
だから、もう少し、直感で動くべきなのだ。
その為にも考える要素はできるだけ無くしていきたいのだ。
互いに構えながら、少しの剣先の揺れ、足の動きで探りを入れる。
誘われて向かうのは愚策。
誘われていないタイミングでも彼女ならば、対応出来ると分かっている。
なら、そこへの移行期間、誘いから、別の誘いへの移行期間が一番隙となるだろう。
ただし、そこを突くのは武蔵ちゃんも分かっている。しかし、活路はそこしかない。
俺は全身に強化魔術をかけて、その隙を見せた途端、めがけて真っ直ぐ飛んだ。
無駄な小細工などいらない。ただ一直線に飛びかかる。
その勢いのまま初撃で突きを繰り出して、その伸ばした腕で下方へ振り下ろす。
そのまま武蔵ちゃんは下がる。ここで俺の頭は完全に隙ありだ。
彼女から振り下ろされる刀を、防ぐ為に彼女の腕を強化した腕で受け止める。
(よし、受け止められた)
そう、一瞬気がとられてしまった。次の瞬間、とんでもない影が眼中に出現した。
足が…腹に…
この体勢では受けるしかない。
この師匠手加減知らなくね!?
何メートルは飛ばされて、更に野原を転がっていく。
今すぐに早く、息を整えなければならない。すぐに立ち上がって、目を合わせる。
「大丈夫?」
心配するなら、蹴らないで欲しかった。
息を大きく吸ってゆっくり吐く。
勝てる気がしない。そもそも、彼女の刀の間合いに入ったら、吹っ飛ばされるのは理解した。
だって、刀じゃなくて足が飛んでくるし。もう、近寄りたくない。
ならば、攻撃して、彼女が攻撃の前に間合いから離脱する策はどうだろう。無理だ。理想論すぎる。
実戦経験がない俺にはすぐに出来るような芸当ではない。
そこで、俺は覚悟を決めた。治せるから、多少の痛覚はがまんすると。
手繰る魔眼の一手先のナビゲートに従いながら次の一手を読み解く。
捌いて避けて切り結んで。
技も力も凌駕されている相手には手数で勝るしか食らいつく方法はない。
そう考えていた俺は飛んで跳ねてヒットアンドアウェイではなくヒットアンドヒットで戦った。
結局、それは5分も持たなかったそうな。
一番くじの武蔵ちゃんフィギュアの顔……
まあ当てたけど!