天元の花、零の先へ   作:新川翔

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2部春って……


その11序

11話

 

「ハァ…体力…だな……」

 

「うん、そうね」

 

たった5分間の戦闘でとてつもなく疲れた俺は草原の上に仰向けに倒れた。

深山の治癒魔術は傷を修復する術ではあるが、体力そのものをすぐに回復させる術は存在しない。(感覚を騙すのならば可能だが)

体力の回復はきっと魔法による時間の巻き戻しなどによるものだろう。

 

「課題点が時間のかかるものばっかね」

 

「ほんとすいません」

 

「いや、全然オーケーよ。というか繰君ってどこかで剣を教えてもらったりしてたの?」

 

「ん?なに突然」

 

「私の時代だったら当たり前だったから気づくの遅かったけど繰君がいた時代って21世紀よね。その時って別に剣術を必ず習うとかいう時代じゃないでしょ」

 

「ああ。そういう時代だ。でもうちの家は特殊で、護身術としては習わされてる」

 

護身術は宝石から出てくる使い魔と同じく自分の身を守る為のものだ。他にも銃の使い方や柔道など知ってはいる。のだが俺に1番向いているのは剣だったのでそれしか使っていない。

 

「へー、そういう家もあるのね。いやさぁ、何だか君って考えることは凄いのよね」

 

武蔵ちゃんはそう言って俺に手を差し出す。『立て』との事らしい。俺はその手を掴んで引っ張られて立ち上がった。

しかし、考えることは凄いってどういうことだろうか。

 

「それで今回の稽古の講評。体力の問題は言うまでもないわね。でももう一つ大きな欠点があります!それは……」

 

「それは………」

 

さて、今回はセリフを用意出来たようなので心して聞こう。

 

「……………全部!」

 

「ふぁい!?」

 

「あのね、どれが弱点とか目立った所がないの」

 

それはいい所なのでは?

 

「ん〜。何というか全体的に全てが足りないの。切りかた、間合いの詰めかた、下がりかた、等々全部中途半端、それに何か突出したものがないと、それを軸に作戦を考えられないのよね」

 

武蔵ちゃんは容赦なく言葉という棘を刺してくる。前と似たような話ではあったな事を思い出し、自分はまだそれほど成長していないというのを思い知る。だが俺自身も別に1日で何か変わるとは思っていない。

 

「それと、思い切りがないっていうか、心の何処かで怖がっていると思うの。俗に言う心の迷いってやつね。臆病なのも油断しないという面では良いことではあるんだけど、臆病過ぎるのもどうかと思う」

 

「ぐはっ………取り敢えずありがと。武蔵ちゃん」

 

「何度か切るか切られるかの大乱戦を経験すれば自然と無くなるとは思うんだけどね…」

 

武蔵ちゃん、昨夜同様発言が物騒すぎる。

 

「1つすごいと思うのは、直ぐに作戦が思いつくことね。

普通はどうしよう!って慌てちゃうんだけど、君は違う。冷静なのか、それともやっぱり焦っているのか、次の行動について考える前向きさがあると思うの。それじゃあ、今すぐに修正できる所は修正しましょう」

 

そんな訳で夕方にかけてずっと武蔵ちゃんの授業が続いた。

 

 

 

そして、日も沈みかけた頃

 

「そろそろ夜だし、帰るわよ!繰君」

 

「了解」

 

後半の稽古というのも基本的な立ち回りとかの講義の色が強かったのである程度体力が回復した俺は武蔵ちゃんの意見に同意する。急いで昼食を入れていた籠を持って彼女の所へ駆けて行く。

 

「ついでにあの魔術師の捜査もしておこう」

 

「オーケー」

 

二人は泊まっている宿に方向へ歩き出した。

 

長く時計を見ていないのでただ夜であるということしかわからない。俺たちは光る少し欠けた満月と星々に見惚れながら歩いていた。

 

「繰君。なんか変声が聞こえない?」

 

「え?どういうこと?」

 

産業革命時、庶民は悪い労働環境で働いていた。これは学校の授業を受けていたら知っていることであまり世界史の授業を聞いていなかった俺も知っていたことだ。だからこそ、うるさいのは当たり前だと思う。

だが、彼女も人が働いている音を俺が寝ていた2日間聞いていたはずだ。

 

「聞こえない?なんて言うか……悲鳴」

 

「え?悲鳴?」

 

そして耳を強化して澄ましてみる。

すると、微かではあるが俺の鼓膜に届いた。

 

「悲鳴……」

 

走り出した。

この世界で俺たちが起こした騒動。それが抑止力の執行対象にならなかったことからこの世界は抑止力の手から離れたモノだと仮説を立てていた。

もし、もしもそうなのだとしたらこの世界はどうなる。この悲鳴の原因が剪定事象の結末通りなら話は別だが、もしかしたら、勝手にこの世界線でヘマをした俺達のせいで、何かしらのバタフライエフェクトが起きたのではないのかとありもしない妄想で焦りと悔いと悲壮感で体が勝手に動いていた。

 

「待って!白露君!」

 

これから戦闘が予想されるはずなのに無意識に足に強化魔術をかけて走る。

100メートルの世界記録に匹敵するレベルの走った。焦っているからなのか呼吸は安定しない。

日頃の運動不足と2日寝ていたせいですぐに疲れてしまう。すぐに武蔵ちゃんには追いつかれて更に気遣わせるというヘタレぶりを見せた。

到着した時は最早遅く都市はほぼ壊滅状態だった。

 

 

「……」

 

膝をつく。

 

「お「オラァ!!」

 

「何やってんの繰君!行くの?てか行くぞ!迷ってる暇なんてないわよ」

 

膝蹴りしながら言うことではない気がするが、本日2回目の正論である。

ここで判断を迷っていたら99%後悔する。すぐに立ち上がった。そもそも、俺のせいでない可能性もあるのだ。

ならば、あの無意識な焦りはなんなのだろう。

 

目の前には昨夜のサン・ジョルジュ君のような狂人が跋扈している。

これは間違いなくあの人間の限界に挑んだ魔術師の仕業だ。

 

「すまない…本当にすまないな武蔵ちゃん」

 

ゆっくり俺は立ち上がって持ってきている刀を帯刀する。

 

「お安い御用。迷える弟子を導くのが師匠だからね」

 

二人はスタートダッシュの準備をする。足首を回しアキレス腱を伸ばす。

 

「行くぞ!!」

 

「おう!!」

 

そして、武蔵ちゃんの号令で走り出した。

 

「まずは帰宅だ!!」

 

ズコーーーーー

俺の思いもよらない発言で武蔵ちゃんは思いっきりずっこけた。

 

「何故!?」

 

俺は魔眼を発動させながら答える。

 

「今から攻め入るのは魔術師の工房。いわば城だ。厳密というか結構違うがわかりやすく言うとな。城は準備を整えて戦略をしっかり練ってから攻めるものだろう。兵法家なら解るはず」

 

「解るけど。…へー魔術師の工房てそういうものなのか…」

 

解ってくれたか。やっと武蔵ちゃんが納得できるような説明ができたとホッとする。それと同時にわかったことが、

 

「武蔵ちゃん。奴らあまり強くないね」

 

俺はそう言って狂人2、3人の攻撃をかわす。

 

「確かに…」

 

武蔵ちゃんはそう返しながら躊躇なく殺しているが、やはり自身が殺すとなると心が痛む。死体は魔術師同士の抗争の後始末で何度も見たことはある。それでも俺はまだ、人を殺したくない。これはただの我儘であることは分かっているが、ただ危険なだけで、殺しの理由になるとは思えない。

俺は気絶するくらいにフルスイングで峰打ちした。武蔵ちゃんを非難するつもりはない。彼女はそうしなければ生きてゆけない時代に生まれたのだから。

その心の言い訳に

 

「繰君。今はそうで良いかもしれないけどいつかそれは覆るから」

 

武蔵ちゃんは警告した。『そのようにはいかない。いつかは相手を殺さねば自分が生きることはできない時が来る』と。

 

 

 

 

 

「遅かったな。ミスターミヤマ」

 

俺達の泊まっていた宿の前に血の付いた剣を持ったサン・ジョルジュがいた。

どうやら、彼はどうにか九死に一生をえたらしい。

 

「おいおい。殺しちゃって良いわけ?」

 

「これじゃあ、話は別だ。僕みたいな人が増えてしまうんだろう。それでもただ祈るだけでは『償い』にはならない」

 

「そうかなら、よろしくな」

 

俺はすれ違い様にそう言って自身の部屋に戻った。

やっぱり、そうも簡単に人を殺せてしまうのか。

確かに、生きるか殺すかという問いに俺は殺しを選ぶ。だけど、その選択は良かったのか、と葛藤して後悔するに決まっている。

5分後、コートを羽織って珥加理刀を帯刀してさらに宝石の入ったアタッシュケースを持った状態で出てくる。

そんな和洋折衷でなんだかおかしい格好にサン・ジョルジュびっくりしていた。

 

「さて!行こうか」

 

実は焦りが抜けていない俺は冷や汗をかき、周りに悟られないように落ち着かせようとする。

自分からこの団体を率いようとしているのもそれを紛らわす為だ。

 

どうしても落ち着かない。

どうすれば落ち着くのだ?

どうすれば…どうすれば…




夢といえば2017武蔵ちゃん体験クエ。
正月といえば武蔵ちゃん。

というわけで武蔵ちゃんの宝具を重ねたいこの頃。

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