武蔵ちゃんからうどん貰ったし、後はいつも通りやっていこう。
13話
竜騎士は赤から紅となる。ランスは禍々しく変化する。凶悪な牙が露わになる。
それはまさに強靭で狂的でもう虚言ではないかというぐらい『凶悪』な竜だった。
それは深山繰の(仮)死体を丸呑みにして一つ咆哮する。
空間が悲鳴をあげて震え上がる。『竜騎士』此処に真の姿を成した。
意識はある風の魔術師はそれの異常性を探知して全ての罠をこちらに向ける。
吹き荒れる烈風は人を木っ端微塵にするには十分すぎる物だったが、『竜騎士』にとってはとても貧弱なささやかな風だった。鱗は風を受け流し、目は何もないように開けていて、尻尾は余裕を見せるように自然体。そして、ランスは高々と振り上げられ振り下ろされる。
風の魔術師の最期は呆気なかった。
俺と武蔵ちゃんとサン・ジョルジュは来た道を戻り地下から出ると朝日が昇っていた。
「えっと、大丈夫なの?繰君?」
「ああ、死にかけたが大丈夫だ」
あの時、俺は『竜騎士』を完全に開放した。普通ならそこでお陀仏なのだが、そこで超治癒の宝石を使って魔力が完全に喰われる前に回復したのだ。そのせいで、ストックが11に減ってしまったが特段気を落とすことはない。そうしなかったらあの戦いは勝てなかっただろうし、深山家の歴史の中でも殆ど完全開放していないあの『竜騎士』のデータが取れたのだ。
「おい、近衛兵。ここからはお前の仕事だ。混乱している民衆や貴族を上手く落ち着かせろよ」
「わかってはいる。それは当然なんだが………ミスターミヤマ、お前は何者なんだ?相手の目的をズバリと言い当てそのあと伝説の存在まで呼び出して」
「言っただろ。中途半端な魔法使いだl
言ってやったぜ決め台詞!!
うわっ、キッツ。辛くないか。うん、痛い。なんだこの厨二台詞はなんなら本当に言わなきゃ良かったと悔いた。
オタク特有の変な調子乗るムードというものは恐ろしい。
「ハァ?」
「まあ、俺の事は忘れてくれ。……てゆうかマジで誰にも言うな」
「……分かった……約束しよう」
その後、別れの|挨拶(記憶を消す暗示)をしっかりして俺と武蔵ちゃんは魔術協会の人たちに目をつけられる前に宿から自分たちの荷物を持ってロンドンを出た。
「それにしてもあんなこと出来たのね」
取り敢えず街道に沿って人気のない場所目指して進む。
「ん?ああ『竜騎士』のことだな」
「ええ、でもさアレ使えば私を倒せちゃったりするんじゃないの?」
「それが無理そうなんだよな。深山家特製の使い魔達は確かに強力なんだけど魔力の塊だから対魔力に相性悪いんだよね。恐らく武蔵ちゃんレベルの物だと本来の4分の1も力が発揮できないと思う」
「ん?対魔力って私に張られている結界みたいなやつのこと?」
「そうだけど」
「ふーん。あ、お腹すいた」
「話が飛びすぎだよ………。パンで我慢してくれ」
何故彼女には恐らくランクA相当の対魔力が備わっているのだろうか。
その疑問については情報が少なすぎるので一旦頭の隅に置く。俺はバックの中から買い物で衝動買いしてしまったパンを彼女に渡した。
パンは紙袋に俺が入れといたのだ。彼女は「ありがと」と言ってすぐに頬張り始めた。
「でさ、あのお爺さんと戦っている時滅茶苦茶に焦っていたでしょ?」
パンを飲み込んでそう注意する。
「見え見えだったよね……」
「ええ、焦っちゃうのは負けちゃう予兆。それを相手に悟られちゃうと死亡フラグだからこれからは常に落ち着かないと。なんか凄い切り札があったけどそれがなったら死んじゃってたでしょ?」
「ああ、ビクビクしてたな…。じゃあ焦らない工夫とかないの?」
「うーん、工夫ね……。私は焦った瞬間逃げてたから……」
なんてこったうちの師匠汚い。といっても良い策なのかもしれない。焦ったら一旦引いて立て直すのは基本的な作戦である。それが武士の世界、ましてや一騎打ちの世界で『卑怯』と言われたとしても。
「逃げてたって、流石武蔵ちゃんって感じだな」
「ええ、逃げるのも戦法の一つ。勝てば良いのよ勝てば」
「まあ同感だ。で逃げれないときはどうするの?」
「………………よし今から稽古しよう」
回答に困って黙った彼女は……え?
「はじめ!」
「のわ!!」
急に武蔵ちゃんは抜刀して襲い掛かってくる。それを紙一重で避けた俺はバックを投げたまたま帯刀し続けていた珥加理刀を抜いて中断に構える。
「さあ!さあ!さあ!」
彼女は俺のバックを躊躇なく蹴飛ばして攻撃に入る。
「ほら!ほら!ほら!」
俺は手繰る魔眼のおかげでなんとか避けることができたが、どうすればいい?どんな風に攻めても返されるだろうし、と言ってもこちらから攻めなければ攻め立てられてしまう。
「ほら!焦ってる!」
その台詞焦ってる奴に言ったら逆効果だから!
まず落ち着かなくては、でもその為には相手の攻撃を止めなきゃいけないし、でも俺なんぞの攻撃で隙を作れるかどうか、でも奇策を練れればいけるのではないのか、でもそんな作戦を瞬時に練れる訳ないし、だが練れた作戦が通じなかったらどうなるんだ、でも彼女は単純だから引っかかるかもしれない、でも零に達しているならば戦闘経験も豊富だから通じる訳ない、でもでもそうしなきゃ落ち着けない訳で、消去法で作戦を練ることになったがどういう作戦にする、でも………
「そりゃ」
「へぶっ!」
思考で頭が真っ黒になっていると武蔵ちゃんは俺の脇腹を蹴って5メートルくらい飛ばした。
「がはっ」
野原に投げ出されてゴロゴロ転がって気を失いかける。
「ほらはやく落ち着かないと……」
なんだ?落ち着かないと……
「局部切り落としちゃうから!」
まったく、怖すぎる。そんなことは冗談でも言うもんじゃない。と突っ込みたい所だが体がそうさせてくれない。呼吸もままならないまま『立たねば』という一心でゆっくりと立ち上がる。
そして俺は明らかに局部を狙っていない一撃を『避けねば』という一心で捌き『反撃せねば』との一心で思いっきり体当たりをした。
「えっ!?」
武蔵ちゃんは驚きの声をあげると弟子の予想していなかった成長にニヤリと笑う。
(焦りが振り切れてる……どうしたのかな?)
すぐさま反撃を開始する。
作戦など考えなくていい。隙を見つけて斬れば切れる。相手を見て自分を見るだけでいい。無駄な思考は停止させる。
俺はとても無駄のない滑らかな動きで武蔵ちゃんは一瞬正々堂々と一騎打ちしたいと思ったらしい。武蔵ちゃんは絶対正々堂々と戦わないだろうが。
「ちょっと待った。ちょっと待った。稽古中止。どうしたの繰君?」
「いや、どうしたも何も」
「どうしたの?急に覚醒しちゃって」
「え?」
武蔵ちゃんはふむふむと顎に手を手を乗せ俺を見つめて数秒間静止した後一つの答えを出す。
「一つの事に集中して無駄な思考が無くなったって感じかな。迷いが無くなって勢いは中途半端じゃなくなってきたわね」
「うーん。そうか?」
考えてみれば不思議と焦っていなかった事に気づく。解るのはこれはぶっ飛ばされた事によって出来た精神状況だ。と言ってもその状態になる為にいちいちぶっ飛ばされるのも馬鹿な気がする。だが、そういう状態になれる事を知れたは結構な収穫だったか。
俺は蹴飛ばされたバックを回収してコートをパタパタとはたく。
コートも土でしつこく汚れてしまい、そう簡単に落ちそうにない。
「繰君。あれやってみて」
「あれ?」
しばらく歩いた頃、武蔵ちゃんが突然そう言ってきた。
「ほらサクって指入れてグバァって開けるやつ」
「ああ、それか。やってみよう」
俺はそれを世界線を移動する事だと察して魔眼を発動させて空間に指を突っ込む。
サクッ
と空間に指が入る。なぜか今回は扉を開けられるようだ。
何故、前回は出来なくて今回は出来るのか。ただ、その原因を考察するには、判断材料が少なすぎる。
ただ、言えるのは、ちょうど、キリが良いということだけだ。
前回は、取り調べ中、今回は一連の事件の終了後。
「お、行けるみたいだぞ武蔵ちゃん」
「ホント?じゃあ出発しましょう!」
俺は別の世界への扉をこじ開ける。
引き裂いた空間はとても暗い。そこに何の恐れもなく武蔵ちゃんは入ろうとしていた。
普通はこんな先の見えない暗い場所に入るとは思わない。それでも無意識に足は前に出ている。
「ほらほら!繰君も早く!」
彼女の期待に輝いている目を見て、ふと思う。
もし、俺の終わり方があいつが言うように残酷なものだとしたら、俺は心の底から自身の運命を呪うと、
ーーー体は糸人形、
一旦深山繰の設定を出してから2章突入です。
ここまでの感想などございましたらコメントして頂ければ幸いです。
武蔵ちゃんの「局部切り落としちゃうから」は中の人ネタですね。