19話
「「二天一流食事処!」」
初手茶番。
俺はバッグから『何処でもうどんセット』を取り出す。
説明しよう!『何処でもうどんセット』とは定期的にうどんを食べないとイライラする武蔵ちゃんの為に作ら(さ)れた魔術道具!その名の通り何処でもうどんを作れる(ただし手作業)便利なものだ。だだし、重量2キロなので携帯用にしては重い。しかも、俺が持たなければならない。
「さて、繰君。今日の
だからなんだよそのルビは。
「今日は『ぶっかけうどん』を作りたいと思います」
「ほう?」
彼女は決して
「うどんから学べる事は多いのです。伸びとか力強さとか」
つまり、うどんを作って貰って食べたいだけだろう。私欲丸見えである。というか、1人で作らなければならないという事に対する説明になっていないと感じるのは俺だけだろうか。
ロンドンで作って置いてあったうどん生地の原材料である小麦粉と水を『うどんセット』から取り出す。
これを日頃運搬させられいたのだ。いくら筋肉痛を治療できるといっても実際に痛むので嫌なものは嫌だと口答えしようとしたら、
「これも鍛錬」
この一言で封じられてしまった。ほんと便利だな鍛錬って言葉は。
「で、どんな『ぶっかけうどん』なんでしょうか!?」
この時の彼女は本当にズルくていい笑顔をする。
思わずこのままでいいやと思わせてしまうほどに。
「今回はこれを使っていきます」
「山菜ね。…って、何処で取ったのそれ!!」
「何処って、北京の道中だけど」
「え!大丈夫なの!?そんな道草食べちゃっても!?」
「大丈夫。鮭と山菜の炊き込みご飯を作ろうとした時に調べたんだよ。実は俺の時代の袋詰めの山菜はほとんど中国産だ」
「へー、そうなんだ。にしても君の時代くらいの日の本って食べ物については他の国に任せっきりよね。………ん?」
うんちく程度で話を逸らされたことに気づかないとは流石武蔵ちゃんチョロい。無理矢理ではあったので違和感は感じているようだが。
『山菜ぶっかけうどん』の作り方は至極簡単。
まず、いつも通り麺を作る。
「武蔵ちゃん、手伝ってくれるか」
「ええ!勿論!」
この通り彼女は
何というかきっと誘って欲しいのだろう。
最初の方はこちらをずっと眺めているのだが、恐る恐る手伝うように頼むと目をキラキラと光らせ、まるで財宝を見つけた海賊のように飛びつくのだからとんでもなく可愛い。
中力粉に約濃度10%の食塩水を目的の麺の硬さを想定して適量入れながら混ぜていく。全体がしっとりして手に粉がつかないようになったら次は手ごねという作業に入るのだが、ここで武蔵ちゃんに交代して俺は読書でも……ダメですね。はい。
武蔵ちゃんによると容器の中で左手で生地を支えて、右手の掌の付け根の方で生地を起こして内に練り込むように捏ねると良いそう。生地を少し回して、硬さにムラがなくなるまでこれを繰り返す。
武蔵ちゃんからの注意!
ここで結構柔らかいと弾力に欠けるうどんになってしまいます。結構硬くても大丈夫!
ここで30分置いておきます。
「うどんの豆知識!」
「どうしたの武蔵ちゃん!?」
「君に書物を読ませないようにする為にね」
「うっ…………」
突然何を喋り出したのかと思ったら反論できない一撃を食らってしまった。
人を嫌な気持ちにさせてしまうと分かっていてもやはり本を読んでしまうのは陰キャの性。どうしても会話をする事から逃げてしまう。
「まず紹介するうどんは『讃岐うどん』。ええ、そうです数あるうどんの中ではかなり有名なものです。つるりとした口当たりとコシの強さが特徴ね。コシ、モチ感、なめらかさ、のど越し、バランスのとれたうどんで本当に職人の方々は尊敬します」
「そういう人たちから教えを請わかったりしないの?」
「う〜ん。なんていうか私、教わるのが何だか嫌なのよね」
流石、宮本武蔵といえる言動だ。弟子入りなど彼女の場合は3日間も持たなそうだ。
彼女は止まることなくマシンガンの様に『讃岐うどん』、『備中うどん』、『伊勢うどん』など日本全国のうどんについて語り始めた。
だが、それは確実に30分以上かかるので適当なところで話を切った。
30分寝かした生地を取り出すと、生地は寝かす前に比べて、しっとり柔らかくなっている。
次は本捏ねに入る。割れ始める前に止めるために、本捏ねでの手捏ねの繰り返しは50回を目途にして練る。そして本捏ねの仕上げに、折り返しと押し延ばしを小さくして10回程度捏ねて丸い餅状にまとめ均等に延ばして次の延ばしに備えて寝かせておく。
寝かせる時間は約1時間。
この1時間も武蔵ちゃんのうどんトークが続いた。
丁度その時間が過ぎた頃、俺は鍋につゆと水で洗った山菜を入れて煮始めた。武蔵ちゃんはうどん生地を伸ばしてそれを均等に切って別の鍋で茹でる。茹で終わったらザルに移し湯気が出なくなるまで流水をする。最後に皿に乗せてつゆと山菜をかけて完成。
「「いただきます!!」」
暖かい日向の下、2人っきりでうどんをすする。
いい雰囲気だ。感動的だな。だが勘違いだけはするな。
そう、陰キャはなにがあってもそういう事を考えてはいけない。
いい出来栄えのうどんをすすりながら煩悩を頭から追い出すととふとある疑問が思い浮かんだので口にする。
「そういえば、何で弟子の俺に技とか教えてくれないんだ?」
「ん?あー、そういう事ね。急にそんな話題ふらないでよ。別にいいけど、びっくりしたじゃない。
本当に雑談が下手ですいません。だって陰キャだし、しょうがないです。
「まぁね。二天一流って私にとっては型とかじゃなくて考え方の方が重要だから。
ほら、考え方を柔軟にしないと勝つ為の選択肢が狭まるじゃない。でも、何か一本筋が通ってないと成長なんてないし」
「…………」
俺は心の底から感心した。剣豪である彼女の言葉は一般人が言うより凄みと重みがあり、俺の体にジーンと染み込んでいく。
「……………そう、うどんの様に」
この後付けさえなければ説得力あったのに。
「でも、
「あ、そなの?」
うどんのことしか頭にない師匠に少々呆れて適当に返事をした俺は直ぐに後悔することとなる。
「…………話聞いてる?」
「はいぃいぃいぃぃいぃぃいぃぃぃ!!」
殺気を察知した俺は逃げる準備をする小動物の様に背筋を素早く伸ばす。そして、彼女の後ろにとんでもない者を見た。
激しい忿怒の表情。筋肉隆々の体に4本の腕、それぞれの腕には剣が握られている。これは、まさか、
「あ……の、後ろの…………」
「ん?」
俺は彼女の後ろに指を指す……のは失礼な気がするので振り向くように促す。
「あーそう、不動明王様よねー」
『よねー』じゃねー。
この世の悪に対して怒っているとされる不動明王ではないのですか。神霊ではないのですか。
しかも、あのチート神話で有名なインド神話のシヴァを踏みつけたという伝説が残っている強すぎな神霊ではないか。
「このさーゔぁんと?になった時に出てくださる様になったの」
さーゔぁんとって凄い。
仕組みは全く分からないがその形相はあの不動明王そのもの。それを目の当たりにして自然と体が恐怖に震える。
「そんなに怖がらないの。失礼でしょ」
それは解っているのだが、それでも怖いものは怖い。
すると、唐突に不動明王は煙の様に消えた。身体の力がどっと抜けて遅れて冷や汗が背中をつたる。
「それで、私の
その後、俺は抜刀擬きのビームを見せられたのだった。さて、抜刀の定義を見直す必要がある。
不動明王が登場するところはcmでの宝具描写で追加しました。今後も出します。
笠武蔵ちゃん可愛い。