20話
「「ご馳走さまでした」」
揃って手を合わせて号令をかける。
「さて、帰りますか」
立ち上がって『何処でもうどんセット』を仕舞う等、身支度をする。荷物をまとめて重くなったバッグを担いで歩き出す。夕方になる頃には北京に着いていた。夕方にもなると都市は昨日の様な賑わいになっており、人々が跋扈している。
跋扈という言い方もどうかと思いながら辺りを見回すと、いつの間に武蔵ちゃんは時々周りの人に話しかけている。何を言っているのか分からないが何かしらを話して通じているのは本物の旅人らしい。
「繰君!!」
と考えていると後ろからガシッと肩を掴まれる。
「なんか凄いことになっている!!」
駆け足でホテルに戻って武蔵ちゃんの話を聞いた。
ーーー第1次世界対戦
第1次世界大戦で戦場となった欧米各国は勝った側も負けた側も甚大な被害を受けた。そして、もう国同士の総力戦はしたくないという事で国の代表だけの代表戦にて優劣を決める戦争を始めた。被害が少なく得られる利益が多いこの方法は直ぐに世界中に広がって遂には戦争はこんなものになっていたらしい。
そして、今回は新たに発見された資源だらけの島の占有権を決める為に各国が名乗りを上げているらしい。
「で、ロンドンみたく乱入したいと」
「そう!」
「無理だろ」
「そんなキッパリ言わなくても!」
「ロンドンは見世物みたいなところがあるから大丈夫だったけど、今回は戦争だろ。横槍なんて入れたら捕まるでしょ」
「確かにそうよね……はぁ」
いやいや可愛くても無理。
「もしかしたら観戦出来るかもしれないし、それで我慢したら?」
「あぁぁぁ!もう我慢出来るか!」
彼女はベッドの上で駄々をこねる子供の様にジタバタしている。
剣豪らしい威厳が全く感じられない姿だった。以前にも何度かこの感情になったが、もしかしたら俺は剣豪とはこうあるべきだという価値観を勝手に持っていたのかもしれない。それは直す必要がある。
「まぁ落ち着け落ち着け」
俺は彼女をなだめながらアタッシュケースからタイガーアイ『探索者』を取り出す。
この使い魔は偵察の為の使い魔で動植物全般に分裂もできる優れものだ。俺は宝石からハエを十匹程度出す。
「なにそれ気持ち悪い」
「この姿が偵察に適しているからしょうがないでしょ」
窓を開けてそれらを出発させる。今はこの時代について少しでも知っておかなくてはならない。特にあの少年達だ。魔術なしであれほどの力を出せる集団など聞いたことない。
「武蔵ちゃん、この世界の西暦何年かさっき聞いてたか?」
「ええ。えっと、確か1900年丁度よ」
1900年、北京、
ーー嫌な予感がする。俺が真っ先に思い付いたのは『義和団事件(事変)』であだった。世界史は教科書程度の知識しかないが確か義和団が欧米各国の大使館を包囲したとかなんとか。
「武蔵ちゃん、
「そうね……みんな美少年だったなぁ……もう少し若ければなぁ……」
「そうじゃなくて」
うちの師匠の頭の中はお花畑らしい。
「明らかに強すぎるでしょ」
「強い美少年………いい」
もういいや。
俺はバッグの中から筆記用具とペンを出して席に座る。どうせ彼女は弱い美少年も好きだろう。『母性がァ!!』とか言うのが目に見えている。そんなものないくせに。
使い魔達からちょくちょく送られてくる情報を頭の中で整理しながら北京の簡単な都市図を紙に書く。それにしても、昨日見た少年達は何処へ行ったのだろう。何処にも姿は見えない。この使い魔は小さい隙間の中に入れるが密室には侵入できない。だから、もし部屋が密室の場合は中の構造は把握できない。
大体時間で地図が大体完成した。達成感に思わずゆっくり息を吐いて背伸びをする。何処がどんな場所かが分からないという決定的な欠点があるが、この都市がどんな形をしているかでも分かれば収穫だろう。
すると、武蔵ちゃんは俺が何をしているのか気になったのか体を起こしてベッドの上を四足歩行してこちらに来る。
「なにしてたの?何かしてたから話しかけなかったんだけど」
「ああ、この都市の地図を書いてた」
彼女も人が集中しているときは邪魔しないように空気を読めるらしい。
「あげるよ」
「いいの?せっかく作ったのに」
「ああ、大丈夫だ」
「そう、ありがと」
この都市は碁盤の目の様な配置をしていた。北京は北と南に分かれており、そこの境界と周りに城壁が設置されている。均等の間隔で城門が設置されていて、人が活発に行き来している。
俺たちがいるのはこの都市の南側の区域のホテルに宿泊している。南側は沢山の人が密集して出店で盛り上がっている。対して、北側は恐らく各国のお偉いさんが居るのだろうか、兵隊が巡回しており、中央には城があり、そしてその中に屋外闘技場がある。
「成る程、こんな感じか」
(どうだ?)
「ひっ!なにその妖術!?」
念話を試みてみた。今、俺と彼女は『鎧』という俺の使い魔を介して魔術的な繋がりがある。それを利用したものだ。
(そのネックレスを着けて念じればどんなに離れていても会話出来る)
「う、なんか違和感しかないわね。気持ち悪い」
「それじゃあ念話は出来るだけ避けるようにしよう」
「お願いね」
使い魔達に帰る様に指示をする。暇になるので読書でもしようと本を取ってしおりを探す。直ぐにしおりは見つかりいざ続きを読もうと思った矢先だった。
使い魔達があの昨日見かけた少年達の中の1人を発見した。路地裏に消える影をその使い魔に追わせてベッドで寝ている武蔵ちゃんが持つ地図を遠目に眺める。
地図からその場所を把握して追っている使い魔との視覚の共有など繋がりを強くする。暗い路地を進んで行くと行き止まりに黒い扉があり、少年が入った後にするりと潜らせ天井に張り付く様に命令する。
「武蔵ちゃん、美少年達が暗がりで何かしているぞ」
「なんだと!」
彼女は飛び起きて俺の肩を掴んでブンブン揺らす。
「どこ!?今すぐ行くぞ!」
「待った待った」
俺は武蔵ちゃんと潜入させている使い魔とを視覚を共有させる。これも魔術的な繋がりを利用したものだ。
「……………この野郎、期待させあがって」
「怖っ、通訳お願いできますか?」
思わず敬語になってしまう。いや、敬語を使うのが普通なんだけどね!深山クン!って何思ってんだ俺。
「まあ、予想できてたからいいけど……ええとね」
どうやら、明日宣戦布告が行われ、少年達は北部を奇襲して各国の大使館を包囲するつもりらしい。結構時刻は午後9時ピッタリ。
宣戦布告と大使館を包囲とかは義和団事件みたいじゃないですか。
「さて武蔵ちゃん、この事件に乗っかって日本お偉いさん達に認められたら?」
「そう、私もそう思った」
確率は低いが無いわけじゃないと甘い考えを思い込む。
「よし、そうと決まったら明日の為に準備しよう!」
この剣豪、本当に単純だなと思いながらブラックボックスから珥加理刀を取り出してベッドに座っている彼女にお願いする。
「刀の手入れについて教えてくれ」
「オーケー、それじゃあそれ見せて」
俺は武蔵ちゃんに珥加理刀を渡す。ずっと彼女の前で立っているというのも気まずいので彼女の横に座る。
「………………」
「……………?」
すると、彼女は急に動きを止めて黙ってしまう。
俺は何かまずいことをしてしまったのかと焦る始める。手掛かりが無さすぎて困惑が困惑が呼ぶ。
「………………」
「……………?」
もう気になって仕方がないのでこっちから聞いてしまおう。自分の悪い所は例え治らなくても知っておきたい。
「あの「あぁっぁ!離れて!」
「すいませんでした!」
直ぐに綺麗な土下座を決める。怒らせてしまったらまた不動明王を見る事となるので体が動くには早かった。そう、俺は身の危険を感じると自分のプライドをへし折って回避しようとするクズである。
「いや、いやいや。そういう訳じゃないから。別に怒った訳じゃないから。ただ、ね……」
じゃあ、何をしたんだ俺は?
「うん、あっち行け!」
ウゾダドンドコドーン!流石にいきなりそのセリフは辛辣すぎるだろう。
俺は刀の手入れについて何も教えられる事無く本の続きを読むこととなった。