武蔵ちゃんの宝具を見て興奮する。
勢いで書く。←今ここ。
22話
「えっと、…………それでね」
日は上り、朝を知らせる。今の話の話題はうどんについてで『焼きうどんは邪道かそうでないか』という事らしい。いや、焼きうどんは美味しいし料理を邪道なんて定義するのはおかしいと思う。
武蔵ちゃんは今にでも寝てしまいそうなのに頰をペチペチしたり、顔を思いっきり振ったりして、何とか意識を保とうとしている。話を区切るタイミングを見失ったのかと推測する。
「繰君………なん……で………そんなに………起きれる…の?」
「いや、ゲームやってると昼夜逆転している生活をいつの間にか送ってることもあるし、夜遅くまで勉強していた時期もあったし」
「ひどい……生活ね………」
魔術とゲームと勉強の両立はホント難しいのだ。時間が足りなくなって、どうしても睡眠時間を削るという思考に行き着いてしまう。
「…………じゃあ、寝ますか」
そうだ。いくら夜に強くても、朝まで起きているのは辛いし、眠くなる。今の状態ならば、横になればすぐに寝れる自信がある。
「そうそう、寝不足は美容の敵とも言うし………え?」
おかしい。体が動かない。そりゃそうだ。武蔵ちゃんが俺の肩をがっしりと掴んで離さないからである。
「寝よ」
待ってください。その右手の手刀は何ですか。
その瞬間から、俺の記憶は残っていない。
目を覚ますと椅子に座っていた。どうやって寝たのか記憶にない。時計を見ると午後2時を回っている。すごく重い体を起こして朝食兼昼食を考える。…思いつかない。というか、火を使えないので外食するしかない。そんなわけで俺は彼女を起こす羽目になる。
「お〜い。武蔵ちゃん、起きて。飯食いに行くぞ」
俺は武蔵ちゃんの体を揺すってそう呼びかける。
彼女の寝息や寝ぼけた状態などそんなものと遭遇したら太刀打ちできない。きっと彼女の我儘が通されてしまうだろう。だから、今すぐに先手必勝で彼女を起こさなくてはならない。
「うん…どのうどん?」
黙れこのうどん大好き剣豪。
「うどんじゃない。外食だ。流石にここじゃ火は使えないからな」
「は!?」
「え!?」
そんなやり取りの後、北京の都市に繰り出した。
昨日の事件があったからか辺りを兵士達が銃をチラつかせながら巡回している。一般の人々もどこか怯えているようで昨夜よりも空気が張りつめているような気がする。それでも、一見すればお祭り前夜で楽しみを隠し切れない人々の笑顔でいっぱいだった。それでは、何故この世界は剪定事象となってしまったのだろうか。いや、そもそも俺の世界が間違ってるかも……なんだこのデジャヴ。
「えっと、確かに大会自体はは開催するんだよね」
「ええ、まぁこんな事でいちいち中止にしていたら政府が舐められちゃうしね」
「で、大会はいつだったっけ?」
「さっき話したでしょ、変更なし。厳戒態勢の中、明後日に開催されるわよ」
「ごめんごめん忘れてた」
商店街のような一本道を歩いていると、武蔵ちゃんは急に止まりだした。
「繰君、あそこにしましょう」
武蔵ちゃんは如何にも高級そうなレストランを指差す。
「如何にも高そうなんですが」
「いいでしょ。いい匂いするし」
確かに中華料理のいい匂いがする。店は広く、壁には竜の絵があって、中を覗くと客の前でシュウマイか小籠包か蒸籠が開けられており、湯気が立ち込めている。それで思うことがある。
見たら分かる、高いやるやん!
俺の手持ちの札束で足りるかどうか不安になってきた。それでも朝と昼のご飯を抜いてきているので、体が食べ物を欲しがっているのだ。しょうがない、また刀を売るか。
「ああ、そうだな。入ろう」
「よし、注文は私に任せて」
俺達は高級そうな、値段が高すぎて後悔しそうな店に入店した。
店に入るとテーブルに座らされて、メニューが配られた。勿論、中国語でなんて書いてあるかが分からない。
「武蔵ちゃん、これどうやって読むの?」
「あー、それは炒飯っぽいやつかな?」
「お、それじゃあこれにするか」
「う〜ん、じゃあ、私もそれにしようかな。他も適当に選んでいい?」
「いいよ」
俺はもう一度、メニューを見てお金っぽい表記のところと自分の持ってるお札の単位を比べる。やっぱりヤバイ。これは足りるかどうかわからない。
すると、チャイナ服を着たウエイターがお冷やを持ってくる。その時、武蔵ちゃんが注文をしているのだが、彼女が適当に何個頼んでいるのかがわからないので怖すぎて苦笑いしてしまう。
「武蔵ちゃん、料理はどのくらい頼んだの?」
「えっと、炒飯ぽいやつとしゅーまい、小籠包とか有名なヤツは
「ひえっ!」
全部怖い。
「いやいや、流石に足りるでしょう。あれだけの量の札束なんだし」
「もしかしたら、足りません」
事態の深刻さを理解してくれたのか武蔵ちゃんの顔は真っ青に変色した。
「え、どうすんの?」
「大丈夫、大丈夫。タブン」
「ま、まあ、いざとなったらこの鍔を」
「いや、貨幣経済だから無理だと思う」
「かへいけいざい?」
だめだこの剣豪。でも、知ってるはずないか。
俺はもう自棄になってもうどうにでもなれ!と思って美味しいであろう食事を有り難く感謝を込めて逃走経路を確保して頂こうと決心した。後でトイレの場所を知っておく必要がある。
「武蔵ちゃんってうどん以外に好きな食べ物ってある?」
流石に毎日朝昼晩うどん尽くしだと死んでしまう。今まで色々なうどんを試してきたが、そろそろネタ切れだ。ここで聞いておいてメニューに出せる料理を増やしておきたい。
「えっと、美しょ…………団子とかかな〜」
うちの師匠は本当に犯罪を起こしていないだろうか不安になってきた。
俺がいなかったら今以上に抑えが効かないのではないのだろうか。
「和食全般は好きよ」
「洋食とかはどうなんだ?馴染みがくて慣れないとか?」
「まあ、そうなのかもね。そういえば、繰君は鮭料理が好きって聞いたけど嫌いな料理とかあるの?」
「シナモン」
「しなもん?なにそれ?」
「一種の香辛料だ。あれを口に入れると吐き気がする」
「へ〜」
絶対わかっていないような棒読みで彼女は返答した。
その時、ウエイターが2つの炒飯をこちらに持ってきた。湯気と共に香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。お腹が空いているので口の中で唾液が出てきて今すぐ手が出てしまいそうだ。
「「いただきます」」
一斉に2人で号令をかけて頂いた。思った通り美味しい。さっき匂った香りが口の中に広がる。米もパラパラしていて次から次へとレンゲの勢いが止まらない。
ハァ、どうやってこの店を抜け出そうか。
「「うまっ!」」
次にシュウマイや小籠包がテーブルの上の届いた。これまた美味しい。口の中で肉汁で広がっていくら食べてもお腹が空かないくらいだった。
どんどん皿が届けられていく。どれもこれも絶品でお駄賃のことなど忘れてしまいそうなくらい食べてしまった。
「「ご馳走さまでした」」
俺たちはほぼ会話をせず一生懸命に料理を完食した。
「で、繰君。どうやって逃げる?」
「いや、一旦会計してみよう」
俺たちはヒヤヒヤしながらお会計を頼む。
「えっと、このぐらい」
「あ、ああ」
1枚1枚お札を数えていく。
1枚数えるごとに心臓が何回もうねる。手も震え始めて正確に枚数を数えられなくなっている。呼吸も荒くなってきて、ウエイターも『え、まさかお金足りないの?』という冷たすぎる目でこちらを見ている。
「ハァ、ハァ」
静かに数えるのをやめる。手には汗がたまっている。それを一旦ポケットの中の手拭いで拭き取った。
「ど、どうだったの?ま、まさか」
これは恐ろしい。こんな事になるなんて。まだ震えは止まらない。
体はもう逃げる準備を始めていて足に強化魔術が施される。
さて、この手には簡単な北京の地図がある。どうにかしてこの都市から脱出せねばならない。
しかし、そんな心配は水泡となった。ほんと良かった。
「あ、え、と、ぴったりです」
「「よっしゃぁぁぁぁぁ!」」
店にとっては実に迷惑な2人で、後ろには2、3組ほど待っている人たちがいて、どれも冷たい視線を向けていた。