25話
意識は遠く離れた所にいる。
意志は何も出来ずうずくまっている。
もういやだ。ころしたくない。たたかいたくない。
たすけて。たすけて。たすけて。たすけて。
心は声の無い悲鳴をあげる。
もう、こんなモノは嫌だ。こんな人生嫌だ。こんな結果は嫌だ。懲り懲りだ。
意志というコックピットの指示を体は一切受け付けない。そう、あの『はじめてのヒトゴロシ』をした時と同じである。
外壁の外、彼らの本体が進む道に俺の体は仁王立ちをしている。しばらくもせずに、目の前から本体、たったの数人の精鋭が迫ってくる。
無意識に体は戦闘を始めた。
確実に攻撃を避け、確実に攻撃を当てている。
だが、多勢に1人で突っ込める程俺の肉体は強くなかった。
目には見えていても体が反応できない。しかも、攻撃を当てても殆どダメージにならない。これでは、例え無意識に支配されて躊躇が無い状態でも死んでしまう。
そう意志が、心が告げている。その言葉は無意識には、身体には届かない。
そもそも、こうなるのを解っていていたのにも関わらず何故俺は逃げなかったのだと後悔する。
短い間ではあるが、この現象に対して必死に足掻く方法を模索した。まぁ、見つからなかったので無駄だったと言えるだろうが。
ないのならば、しょうがないと言い訳をしている自分にも飽き飽きしてきた。
俺の体はボロボロになっていく。既に数カ所骨折が見られる。内臓も各種破損。
それでも無意識は俺を動かし続けるが、体はついて行けず倒れる。もう、無意識しか残っていない。これでは、死を待つだけだろう。
もうどうでもいい。もうこのまま、………
もう、この世に未練もない。………ない。…ない?
いや、未練はある。そもそも、これは旅の途中だ。これで師匠は悲しむだろうし、彼女は『守れなかった』と自信を完全に失ってしまいそうだ。
ははっ、申し訳ないな。そう思って、意識はもっと遠くへ…
何言ってんだ?
彼女を悲しめるなら、それはダメだ。
そうだ、まだ免許皆伝もしていないじゃないか。
意志を手繰り寄せて、俺の体を勝手に動かしてくれている無意識をシャットアウトする。自暴自棄をこの人生のアンサーだと気取っている自分を殺して、新たな自分にスポットライトに当てる。
どうなったって最後まで俺は
だから、自分の意志でコートのポケットに手を突っ込んで、ガーネットに内蔵される魔術を発動させる。
骨ヒビは修復され、破損された内臓も元通りに回復して、俺の体は完全に治った。
今の彼女はほっとけなくて、心配だ。そうだろう。なら、体は動けるはずだ。
体はいつの間に立ち上がり、実感する。理由は考えなくていい。動機付けは後でいくらでも出来る。
自己嫌悪がなんだってんだ。そんなモノとはずっと戦ってきただろうが、19年間負けてきたのだから今回くらい勝たせて欲しい。
否、勝たせろ!
ボロボロになったコートを破って捨てて、1つ宝石を取り出して珥加理刀の柄の先にある窪みに埋める。すると魔力が回転し、日本刀チェーンソーを構築した。それを八相に構えて睨みを効かせる。
魔眼は解放され、自分の取るべき行動だけでなく、相手の行動も手に取る様に解る。
脳に走った稲妻を必死に堪えて深呼吸をする。息が切れてしっかりと吸う、吐くができないが気休めにはなる。
もう一度自分に言うが、俺の道を拓くのは
恐ろしい速さで敵の拳が迫る。身体の体感よりも数倍早い。それを手で受け止め掴んで、刀で心臓を貫く。
手は悲鳴をあげて、骨の折れる音がした。途方もない痛み、それが手のひらから全身に反響する。
握ることは不可能になったが、この隙に名前も知らない奴の心臓を貫けたのなら問題ない。
しかも、この刀ならば、攻撃が入る事が解った。
step :Examination
診察してみると、やはり、俺の手はボロボロだった。第1から第5までの中手骨が強化された上で粉々に折れており、手根骨ももうダメになっている。
ゆっくり治す暇もないので、治療しながら戦うことにしよう。
彼女と一緒にいたいという心情の発露が『恋慕』でも『憧れ』でもどうでもいい。そうだと疑いようもなく思っているならそれでいい。
ーーーそれが俺の生きる理由だ。
後ろから迫る攻撃をしゃがんで避けるが、すぐに膝蹴りが後頭部を襲ってその場に倒れる。影はしっかり見えていたが、反射神経が反応しきれていない証拠だった。
その隙を逃さない上方からの攻撃を転がって避け、上の奴の脳に向かって刀を刺す。
刀を地面に突き立てながら立ち上がり、四方からの敵を捌く為に一度回転する。彼らの動きは止まって硬直状態となる。
step:repair
先程、折れていた骨を直ったので、ゆっくりと刀に添えた。
チャキ、と刀は音を立てる。傷は治ったが、攻撃を受けた痛みが綺麗さっぱり消える訳ではなく、その痛みに浸っている暇はない。俺は次の影を手繰り寄せた。
次の影は、俺を囲む4人による一斉攻撃だ。
一斉にかかる4人の攻撃を避ける程の技術は俺にはないので1、人の攻撃をわざと受けることにした。攻撃を腹にずらすようにして突っ込む。
敵の拳は腹を貫いて血塗れになって背中から現れる。
血がドクドクと漏れ始めて顔が真っ青になるのを感じる。恨みを込めて俺は腹を貫いた本人の首を掴み、刀を横一文字に走らせ周りの3人の首を斬る。3人の頸動脈は吹き出し、まるで噴水の演出の様に三列に並んだ。
刺さっている腕を切って、破り捨てたコートのポケットに手を突っ込んでガーネットを起動させると、腹の穴を修復する。傷がみるみる塞がる様子を見ている少年たちは余りの規格外さに驚き、その怯えは顔を見るだけで伺える。
「そんな…妖怪を見たような目で見るなよ」
俺は、強がりでニヤリと笑った。無い物がある違和感や感じた痛みで精神は結構滅入っている。
殺人は恐い。当たり前だ。
戦わなくては生き残れない。ならば、俺は戦う。そう自分を正当化しなければやっていけない。
仮に彼らが義和団だとして、彼らにも『列強の国々に屈しない』という正義があるのだろう。
だからなんだ?それでも、俺には『生きる』という正義と『彼女と一緒にいたい』というお前らに比べたら自分勝手な理想がある。それをお前ら側に譲るつもりは一切ない。
俺はもう一度、今までで1番深く深呼吸をして殺し合いを始める。
傷ついては回復し、殺し、骨を折っては回復し、殺し、臓物を壊しては回復し、殺し、相手の残りは6人、残りのガーネットは7個。
彼女が来るまで、俺は此奴らを引き止め、出来れば殺す。
もう一度、気を取り直すように敵を睨むと先ほどの倍の稲妻が走った。一瞬体が呼吸を受け付けなくなり、不協和音が身体中に鳴り響く違和感も感じた。
あのクズめ、とんでもないもの隠しあがって。
それを必死に耐えようと震え立たせると、反応が遅れてしまい顔に蹴りを浴びて数メートル飛ばされた。すぐに起き上がって追撃を避けながら胴を断ち切る。
たかが1人でこの状態ならば、反応できる。
体力はもう限界まできている。俺の治療魔術では傷を修復できても、体力を回復させることは不可能だ。しかし、相手はかなり鍛えているようで俺ほど疲れていない。ここで、自分の運動不足を悔いた。
残りの
それを見越していた俺は既に刀の鍔を口ぐらいの高さに上げていた。
見よう見まねで、おこがましいことは分かっているが、やってみようと思ったのだ。
ーーーいくぞ、唯式・繰糸
0.01秒でもとても長く感じる。自分の取るべき行動はもう定まっていて、相手の行動も把握している。あとはこの一刀を振り下ろすだけだ。
ーーー伊舎那大天象。
振り下ろされた一撃は3人を絶命させた。あとは振り返り2人を倒すだけ………
体が動かない。影も映らない。どうやら、力尽きてしまったらしい。なんで、自分はこんなにも中途半端なんだと悔しいや悲しい、と感じるのを通り越して嘲笑ってしまう。
なんで、渾身の一撃で全員殺そうとしなかったのだろうか。これで力尽きると理解しながら、何故2人残したのだろうか。
俺は色々言葉で自分をカッコつけたにも関わらずカッコ悪い結果になったことをトラウマにして、目を閉じる。
………いつまでたっても攻撃が来ない。いや、走馬灯でも見ているのか、違う。
ならば、もう目を開けるとあの世にいる、ということか。流石に脳を破壊されて死んでいる筈だ。
痛みを感じなくてよかったと目を開ける。
天元の花は俺の前に可憐に咲く。
「よし!間に合った!」
それにしても懐かしいような声が聞こえる。
「よくも、私の弟子をいたぶってくれました。2人とも私好みで美形な少年だけど、あれはあれ、それはそれ、いたぶった分やり返してあげましょう!さぁ、覚悟しなさい!」
ほんと、厨二発言をしていた自分が恥ずかしい。信頼しろよ、自分の師匠を。
「うん、よく頑張りました。後で武蔵特製うどんを食べさせてあげる」
「ありがとう、やっぱ武蔵ちゃんは正真正銘のNo.1だよ」
「もう、そういう世辞は後で言う!」
残酷な描写やr15の境界がイマイチ解らない。
余裕ができ2、3日ごとに更新できるようになりました。
そして、ちょこっとマテリアル
唯式・繰糸 伊舎那大天象
ゆいしき しいと いしゃなだいてんしょう
深山繰のネーミングセンスの無さが滲み出ている。しいとってなんだよ。
真面目な解説をすると、まず自身がどんな動きでもできるような体勢をとってから放つ確実な一手。
まず、魔眼の力で自分の平行世界を全て参照し自身に都合のいい影を結ぶ。
さらに、対象の平行世界を全て参照して自身に都合のいい影を結ぶ。ここに関しては限定的に、瞬間的に自身の起源を手繰り寄せている。
ここで、存在する二つの影を一つの超小規模の固有結界で再現してそれを手繰り寄せる。
この戦いで例えると、自身にとって都合のいい『自身が無傷で攻撃する世界線』と『対象は全員死ぬ世界線』の2つを手繰り寄せ繋げたものをまた手繰り寄せたということになる。
例え前者の世界線で攻撃が通じなくとも、後者の世界線で自分が死のうとも、そこは手繰り寄せていないのでノー問題というもの。
でも、勝てない相手には攻撃できたりする世界線自体が存在しないので相手が自分より強ければ勝てない。