天元の花、零の先へ   作:新川翔

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ソの13

26話

「それはそうと、繰君はゆっくり休んでいなさい」

 

「はい、後は頼みます。師匠」

 

俺は後のことは彼女に任せて力なく倒れた。

もう疲れた。

 

 

 

ーーー宇宙の中に放り投げられた。

目を開けると何処かにいる。すると、小さなから糸が枝分かれしながらこちらに来る。細い糸はどこまでも伸びていく、何本にも別れていく、途方も無い程長いその線はとある地点で全て途切れた。いや、違う。一本だけ残っている。

その一本は他の糸など御構い無しにまた伸びて、別れる。

それもとある地点で一本だけ残して他は全て途切れる。

 

その先に誰かがいる。その誰かは、暗闇で顔が見えない。

それは苦悩に満ちていて、何かに取り憑かれたような雰囲気がした。

 

「誰だ?」

 

自分であるというコトははっきり分かりきっている筈なのに、つい問うてしまった。自分の姿が余りにも惨めなのでそう問うたのだ。

 

「お前がイチバンシッテいるだろう。サッキマデ、オマエに押さえ込まれていたモノだと言ったらワカルカ?」

 

「つまり、お前は俺の無意識か」

 

「そうだが、チガウ。私はお前の無意識であるが、オマエだけの無意識ではない」

 

つまり、無意識の集合体。

俺が知っている中でそれに当てはまるのは1つしかない。魔術師の永遠の天敵にして、人理の守護者の片割れ。

 

「キサマらはアラヤと呼んでいるラシイな」

 

抑止力そのものである。しかし、ここで疑問が浮かんだ。

何故抑止力が俺ごときに、数多で無量大数な有象無象の人類の中で、何故俺に話しかけた。

お前は普通勝手に自覚させず事象をいじって自分の都合のいいように訂正するだけだろう。

 

「抑止力が何の用だ。そもそも、お前はこんな形で力を発揮しないだろう」

 

「コンカイは例外だ」

 

つまり、あの幻の大陸ほどのなにかがあるということか。

 

「キサマハ、私を拒絶シタのだ」

 

成る程、抑止力は人に宿る形で発動されると聞いていたが、俺はどうにかしてそれを撥ね退けたらしい。

仮説はある。これの体と魂が完全に合致していなからだろう。無意識(抑止力)が体を動かしている中、俺の理性は体という檻から放り出されることで、無意識への反撃(乗っ取り返す)のチャンスを得た。

あの、マーリンとやらの仕業だ。奴め、魔眼を弄る以外にやってくれたじゃないか。

もう一つ付け加えるなら、彼女への思いも要因だと思う。彼女の為に立ち上がれた。彼女がいなかったら、チャンスを無駄にしていただろう。

 

「アア、そう。お前のソノキモチは()()ダゾ」

 

「は?」

 

「オカシイ、と思わなかっタのか?フツウ、生きてイル中デ自分勝手デ自由奔放なニンゲンはタクサン見てきただろう。何故、アレらに憧れず、アレに憧れたのか」

 

胸が痛くなる。不快感が全身を掴んで握り締める。吐き気がする。もう全てのモノを吐き出してしまいそうなくらいに。

 

「ソノ心も」

 

やめろ……

 

「ソノ行動も」

 

やめてくれ……

 

マエ(転生前)アト(転生後)も全て」

 

……

 

「私が仕組んだモノだ」

 

……偽物、贋作。イママデ、の全てがまがい物。

どうやら自分で選択しているように見えて俺の人生はただレールの上に乗っていただけらしい。俺という存在は在るべきように作られて、決まった役割をこなして、ただの無意識の歯車だったらしい。

 

彼女への心は偽物だった。

 

「ウソではナイゾ。では、問おう。

なぜ、お前はあの時公園にイッタのだ?

ナゼ、オマエはただノ冒険譚に心惹かれたノカ?

なぜ、お前はアレとタビに出たいとオモッタのか?

ナゼ、オマエ如きが並行世界をイドウできたノカ?

なぜ、お前は生死をサマヨウ竜騎士のカケに乗ったのか?

ナゼ、オマエは……「もういい!!」……理解シタカ」

 

「したよ、いずれも俺はそれを無意識の内に行っていた」

 

「つまり、私に操作されテイたトイウことだ」

 

涙が出てくる。じゃあ、あれはなんなんだ。あの気持ちはなんなんだ。

水が頰を滴る。この悲しさも紛い物か、この悔しさも、苛立ちも、気持ちが死んでいくような感覚も、全て仕組まれたものだったとでもいうのか。

 

俺は、本当は、何をしたいんだ?

ただ、無意識に動かされるための生まれ落ちて、生きてきたのか?

 

「モチロン、その通りだ。ソノ無意識の仕事以外、貴様にはなんの価値もナイ。どんな感情デモ、ただ定型文をクチニサセラレテイルだけダ」

 

クソ、クソが。そんなこと有り得ない。そう信じなければ自我を保テなくなッてしまう。しかし、ソウダと信じられない。確カに、今まデ俺は、無意識に決断してキタ。

それでも、………アァ、酷くなイカ?

 

「ソレデハ、その体、アケワタシテ貰おうカ」

 

テヲ差し伸べラレル。

 

「コトワル」

 

「ホウ、その精神デ、マダソウホザケルか」

 

「なに、ただ俺は捻くれていてサ、プライドの低さには自信があル。その程度の罵倒じゃあ、俺は何にも感じなイ」

 

嘘、無理、死にたい。キエチャイタイクライニ。

 

「イイダロウ、では死ネ。変わりナド幾らデモいる」

 

「いや待っタ、待っタ、ソノ仕事とやらヲやろう。イヤ、やらせてください!」

 

俺の願いに抑止は数秒間を置いた後、答えを出した。

 

「……イイダロウ。利用シテヤル」

 

 

 

目を覚まスト、ベッドの寝ている。

 

「目は覚めた?繰君?」

 

彼女は俺の看病をしてくれたらしい。助けてもらったり、看病してもらったり、本当に感謝の気持ちでいっぱいだが、この気持ちもウソなんだろウ。

 

「ささ、武蔵特製うどんをどうぞ!」

 

「頂きます」

 

俺は手を合わせて、箸を取り、ダシの匂いに包まれて彼女のうどんをすする。

なんだか塩っぽい味がしたような気がする。

 

 

次の日、予定通りに第1次世界対戦は行われた。試合は一般にも公開されて、武蔵ちゃんはその戦いを見てうずうずし、今にも飛び入り参加したがっていて、止めるのがとても大変だった。

 

その大会も終わり、ホテルでチェックアウトし、刀2本分のお金が吹っ飛んだ俺たちは都市を離れて歩いている。

 

「繰君?あの移動するやつはしないの?」

 

「ああ、あれか、もうちょっと都市から離れてからな」

 

「そう、でもちょっとだけ待ってくれる?」

 

「?」

 

「さぁ、出てきて勝負しなさい」

 

武蔵ちゃんは中国語で何やら叫んでいる。

すると、ポツンと立っている木の陰から1人の男が現れた。

彼はあの夜、彼女と視線で殺しあっていた赤いチャイナ服の赤髪の………やばい。ここにいたら必ず巻き込まれる。

周りには誰もいないのは本当に救いだ。と安堵したが、違った。

何故彼らはあの都市の中で戦わなかったのか。

簡単なこと、『周りに迷惑がかかるから』である。

その条件がない今この状況、彼らが戦闘を始めるのは必然と言えるだろう。

逃ろぉ…。

 

「繰君!逃げないの!見学してなさい!」

 

その男は長い槍を持ち出し無造作に構え怖い笑顔を見せる。それに答えるように宮本武蔵も二刀を抜刀し、構えて、これから殺しあうとは思えないくらい清々しい笑顔をしている。

もう、この2人は止まらない。まぁ、矛先が飛んできて死ぬなんていうことは決してないだろうから落ち着こう。

 

それでも、あんまりダァ……。

 

戦いは熾烈を極めた。

どうなってるのか素人の俺ではさっぱりわからない。ただ、凄いとしか思えない程、何かが起こっているとしか認識できない。

その戦いを雑魚視点で眺めている俺は正直言ってつまんない。しかし、万が一ここで本を取り出すと殺されてしまいソウダ。

 

ただ、暇な時間は過ぎて既に月が登っている。それでも刀と槍のぶつかる音は止まずに鳴り続けてまだまだ続くことを知らせていた。

 

それのしても俺の仕事とは何なのだろうか。

 

(オシエヨウ)

 

「はっ!?」

 

思わず声の出して叫んでしまった。この声はあの時の、

 

(お前ノ仕事は剪定事象のシュウセイだ。分岐するハズノない事象の分岐を防ぐたタメにお前ハいるのだ。お前ハ『ロンドンが滅びル世界線』、『戦争がナクナッタ世界線』の分岐スル可能性をケシテキタ。ツギニ向かってモラウのは、ソレラヲ作った元凶ガイル世界線『有リ得ナイ大陸が存在シ続ケル世界線』に向カッテもらい、そこの主である『根源接続者』を討伐シろ)

 

ぶっ飛んだ話だ。無理だろうそんなもの。ただの魔術師に根源接続者を討伐しろト。

だが、抑止力が後ろ盾しているのだろう。ならバ、向かう価値ハ有るノデハないか。

 

(必ず勝つというキボウもない。何故ナラヤツは、事象を幾度も変エテキタからだ)

 

詰み。

 

(デハ、10ニンメよ、頼ンダ)

 

何の声も聞こえなくなると俺は死を覚悟した。

 

 

綺麗に見えた月は大きな雲に隠された。

光も届かず、音だけ響き渡る。

存在論は揺らぎ、アイデンティティを喪失し、生きる理由は蒸発した。

俺という存在は世界に仕組まれたただの機械で、定められた言葉だけを紡いでいくだけのものだった。

そうでないと心のそこから願う中、心の底から絶望する。

俺は無意識にfate(運命)を突きつけられた。




次章、『変遷(剪定)事象、アトランティス』

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