「「ただいま」」
俺達はマンツーマンの稽古が終わった後、宿に戻って来た。
そして、自分の傷を癒しているのだが、治癒魔術は傷は回復できても体力は回復しない。むしろ魔力を使っているので一層疲れる。
「さて、稽古の講評としましょう」
「お願いします」
擦りむけた膝とか肘を治療している俺の目の前にあるソファの上であぐらをかいている。
俺は畏まってその魔術を止めて正座になった。
「まず、その君の魔眼は強い。だから、どんどん使っていきなさい」
「え?使って良いのか?」
「ええ、もちろん。二天一流は勝つためになんでもするっていう流派だから。それに私もそのまがん?ってやつ持ってるし。」
意外だった。こんな物を使うな!と一喝されるかと身構えていたので拍子抜けした。
考えてみれば、宮本武蔵は結構卑怯と称されるような戦法をしていたらしいので納得する。
そして、彼女の話を聞くからに、彼女の魔眼の名は『天眼』。確か1つの事柄を絶対に成就させる一刀を放てるだとか。『時間』と『空間』をねじ伏せ、無限にあるべき未来を「たった1つ」の結果に限定してしまう魔眼。恐ろしい。
彼女は自分の魔眼をざっくりと説明してくれた。しかし、彼女はこの話をあまり理解しておらず、『つまり、すごいらしい』と付け加えている。
「今の君に足りないのは単純に経験と力と技ね。そりゃあいた時代がいた時代だししょうがないんだけど、その分は私がビシバシ鍛えるから覚悟するように。
それと、君の魔眼のことを言っちゃったことは不味かったわね。ほら『手繰る魔眼』だっけ?それって初見殺しじゃん。もしそれ聞いてなかったらもう少し、勝負を有利に展開できていたわ」
「はい」
彼女は緊張せず饒舌に語っている。どこか楽しそうな表情であーだ、こーだ言っている武蔵ちゃんがなんだか微笑ましい。
「それと!」
穏やかな雰囲気だったのだが、彼女は急に大きな声を出した事により、窮屈になった。
緩みかけていた心が引き締まって、鼓動が早くなる。彼女はなんとも剣豪らしい様子になっていた。
「迷うな!!」
「はい!!」
何のことを言っているのかはわかる。つまり、あの時の予想が外れ迷いが生じた時のことだろう。
「迷うと命取りだから!ホント!それで私に負けてきた人を何人も見たし」
おいおい、急に自分語り始めたぞこの剣豪。
「っていう感じ。分ったなら、精進あるのみ!」
「はい!って、そういえば、夕食はどうする?」
「え?」
彼女の自分語りが一区切りついた時、お腹が空いたのでそう尋ねた。もう、講評じゃないので口調は戻す。
どうやら、武蔵ちゃんは何も考えていなかったらしい。
「……俺作ろうか?」
家庭科の成績5段階中の3を舐めないでほしい。しかも、俺は裁縫の方が得意だった。
「……お願いします」
あぐらだった彼女はその時だけ正座だった。
俺たちが泊まった宿にはキッチンや料理道具がある程度揃っており「どうぞ勝手に作ってください」と言う感じだった。
今日買った食材で作るとしたら…
「武蔵ちゃん。晩御飯は何が良い?」
「うどんで!」
聞くんじゃなかった。
俺は
「うん、普通ね」
まあ家庭科の成績3はそんなもんだ。
いや、よく出来た方だと褒めてほしい。
「ごめん。普通で」
そう言い訳しても、なんだかとても罪悪感というかそれに似た何かを感じる。
実力不足を痛感した。せめて、人に美味しいと言わせるくらいの物を作りたいものだ。
「やっぱりうどんが必要なんじゃないかしら」
「なにゆうとんねん」
思わず真顔かつ関西弁で突っ込んでしまった。
こいつはどんだけうどんloveなのか。なぜうどんがそれほど彼女を掻き立てるのか。俺にはわからない。
まぁ、うどんは好きな部類に属しているので分からなくもなくなくない?
が、どちらかというと、蕎麦派だったりする。特に瓦そば。
ドン(武蔵ちゃんが机ドン)
え?どうしたの?武蔵ちゃん?
「ハァ!?繰君こそなに『ゆうとんねん』よ!何?うどん舐めてんの?」
え、そんな怒りますか?
結構本気の目に怒っていたのでもしここで食い下がると嫌な予感がする。
もしものことを思い、勇気を振り絞って口を開いた。
「そっちこそ!まさか武蔵ちゃんは毎日3食全てうどんを食べる「もちろん」
危なかった。本当に危なかった。もしここで俺が『ごめん』なんて口にして引き下がったら、毎日三度うどんを食べることとなっていた。
365日うどんライフが幕を上げかけていた。オンリーうどん…恐ろしい。
俺はこの勇気を勢いにして言葉を返す。
「流石にそりゃねぇ!」
ドン(俺が机ドン)
………まぁ、コミュ障なので一言くらいしか返せないが。
「はぁ?じゃあ、うどんのどこが悪いのよ!?」
「悪くはない、ただ、ずっとうどんなのは精神的にやられる」
「え?でも、うどんって飽きないわよ。たくさん種類あるし」
「いや、武蔵ちゃんにはない経験だろうけど、親がずっとスパゲティーとかチャーハンとかしか出さなかったりすると
「そんなの、分かるかァァァ!!」
俺たちは互いに睨み合ってそっぽを向いてしまう。
「ならどちらが正しいか勝負しましょう」
「いいだろう。受けて立つ」
こうして料理勝負が始まった。
(残った夕ご飯は一緒に美味しく頂きました)
勝負の内容はこう
制限時間内に料理を完成させて美味しかった方が勝ち。至ってシンプルな戦いだ。
食材は深山繰の持参食料セットと今日買った野菜。
いざぁ、尋常ニィ、勝負!
深山サイド
俺はすぐさまオダチェン、
じゃなかった食材を持ってくる。俺が使う素材は鮭。そうあの鮭だ。プーじゃない方の熊が好きな鮭だ。
そういえば、なぜpuーは蜂蜜だけを舐めているのだろうか。確か、ぬいぐるみという設定だからだろうか。
それはそれとして、何を隠そう俺の大好物は鮭だ。
きっと武蔵ちゃんは自分の大好物であるうどんで勝負をしかけてくるだろうから、こちらも大好物でしかける。
作る料理だが、見た限り、今この状況で作れるといったらムニエルだろうか。
えっと、武蔵ちゃん。その小麦粉はどこから出したの?
そんなことは考えず始めよう。
まず鮭の切り身を洗う。存外柔らかいので気をつけよう。
ぬめりを取って水気を取ったら塩、こしょうをまぶして10〜20分間ほどおく。
これほど長く置けば水分も逃げていってサクフワとなってくれる。
この10〜20分間で深山繰秘伝対鮭のムニエル用ソースをカバンから取り出す。
またフライパンの準備もしておこう。フライパンにバターを投下するちょうど鮭に小麦粉をまぶす頃に泡立つぐらいに。
えっと、武蔵ちゃん。さっきからどんどんしないで。
塩、こしょうをまぶしたことによって出てきた水分を拭き取って小麦粉があれ?少なくなってる。まいいや。
小麦粉を必要最小限まぶす。余分な粉などいらぬので、はたき落とす。これで小麦粉が水分を吸うとボテボテになってしまうので注意だ。
すぐに鮭を焼き始める。特に皮がパリッとなるようにゆっくりと弱火で焼こう。
さて、ここでポイントだ。俺は裏返すときにしかこの鮭に触れない。身を崩さないためだ。
魚を返すかタイミングは大体3分の2火が通っ頃だが、そこら辺は勘が重要だ。何回もトライしておこう。ついでに俺はこの目を使うので失敗しない。
…で、俺は誰に話しかけているんだ?
「………」
「………」
「…今ダァ!!」
すぐにひっくり返して30秒ほど焼いたら完成。
えっと、武蔵ちゃん。調理スピード早すぎね?彼女はもううどんを作っていた。
互いに料理したものをテーブルに置き、相手の品を見た目を観察する。湯気がとっても温かく、鰹節の出汁の匂いが鼻腔をつく。
ホント、どこからそんなもの持って来たんだ?
そして、両者が席についた途端、重要なことに気付く。
「「お腹いっぱい」」
無理矢理の腹にものを詰めてかなり苦しい。
吐き気がして今日は寝られなさそうだ。すぐにトイレに駆け込めるように準備しておかなくてはならない。
少し落ち着いた頃、俺は日課を行うことにした。
俺の日課、それはただ宝石に魔力を込めること。備えあれば憂いなし。ということだ。これは傷を治すためのガーネットの宝石だ。今のところストックは12個。今は13個目に突入している。
この宝石の力は制限時間内だが呪文を唱えずにどんな傷をも回復させることにある。
これと『手繰る魔眼』で相手の攻撃を予測して捨て身の攻撃を行える意外と相性のいいものだ。でも、精神がやられそうではあるが。
それと、流石に脳を破壊されれば修復は不可能だし。首チョンパから回復しても多分大きな記憶障害が付きまとうだろう。
つまり、印を結ばずに傷を回復できる某伝説の忍だ。その孫もそうだが。
「何してんの繰君?もう寝るわよ」
「武蔵ちゃんのせいで寝れないんだよ。全く『全部食べなさい!師匠命令!』なんて言わないでよ」
「はいはいごめんなさいね。あと、料理対決の茶番に付き合ってくれてありがと」
「大丈夫。おやすみなさい」
彼女は手を振ってベッドに入る。
ん?待て俺は今武蔵ちゃんの寝間着姿を見忘れたのか?なんてことをしてしまったのかと、悔しくて歯ぎしりした次第だった。
すっかり武蔵ちゃんも寝て俺は一人で暇潰しに本を読んでいる。
わざとろうそく一本の照明だけで本を読むというのも悪くない。しかし、絵が厨二臭い。
その時、ろうそくの炎がふらっと揺れる。部屋を照らす明かりが一瞬で揺れた。
「こんなとこでなにしてるんだ。ミヤマのせがれ」
「プライバシーくらい守ってくださいよ。ゼルレッチ爺さん」
「プライバシー?知るか。それより貴様が世界線を移動することは許可していないはずだ」
その問いに俺は振り向かず答える。
「別にいいでしょう。俺は貴方のものじゃないんですし」
「そうだったな。それより、貴様に仕事を与える。今寝ているあの娘だがまだ居場所に到着できていない。故意的に到着地点がずらされておる。といってもいつかは着くだろうからそれまで貴様が彼女と共に世界線を渡れ」
「分かりました。元よりそのつもりでしたし」
分かってはいた、自分は彼女にとって何でもないただのモブであると、分かっていたが、悲しくなった。
「もし、鮭のムニエルにそんなに詳しかったら、もう少し家庭科の成績は高いんじゃないか?」
と疑問に思う方もいるかもしれません。彼はその調理実習で鮭好きに目覚めました。
しかも、食べ専です。