29話
「いいんですか?歴史改変の様な事をしても」
涙を拭き唐突に思った疑問を問う。
「ん?ああ、問題ない。そもそも本来の歴史なら、お前はもう奴を倒している。
これはお前が抑止力から逃れた事による新たな分岐だ。つまり、剪定事象の訂正という貴様と同じ様な事をしている。それは罪にはならんだろう。そんなことより、デメリットとか、そういう点は聞かんのか?」
「予想は出来ますよ。死ぬとか」
俺は身支度を済ませながらそう言う。そして、自身の矛盾に気づいた。
死ぬと分かっているのに、温もりを取り戻したいとか、おかしくないか。
それでも良かった。
「まぁ、そうなるだろうな。だが、違うかも知れん」
ゼルレッチ爺さんはニヒルに笑いながらこちらを見下す。見下されるのはいい気がしない。
「つまり、どういうことですか?」
「良ければ、失明程度で済むかもしれんということだ」
「……いいですよそんな希望を与えなくても、それで方法は?」
それが重要だ。俺が知っている限り第二魔法は並行世界関連のモノ。起源とか魂に関係するモノではない。
「なに、簡単だ。貴様の場合、『手繰り寄せればいい』」
そうか頷いてっと言ってたとして、理屈は分かっても実際できるとは限らないというかそもそも、こういう儀式的何かは二人じゃなきゃできない気が。
取り敢えず魔眼殺しのメガネを取って目を閉じる。
起源は己の混沌衝動、それを呼び寄せる様な感じで念じて、自分の頭に手を当てる。
「なるほど、確かに混沌だナ」
俺はそう小さく呟いた。
体の内から鎖で繋がれた何かが解き放たれた気がする。
「準備はいいか?早く出立しろ、時間はそう持たないぞ」
第二魔法の使い手は成功した事を察して声をかける。
「はい、分かりました。ゼルレッチ爺さん」
俺は竜騎士ではるか上空まで昇る。その間にガーネットを自動で発動出来る様に調整を施した。刀を帯刀し、拳銃に弾が入っているか確認する。
雲の上に昇って魔力と酸素を手繰り寄せる。高所恐怖症なので下はなにがあっても見ない。
この程度ではあの根源接続者には勝てないだろう。勝ち目といっても1%にも持たないだろう。だからどうした。
己の衝動を解放した俺には関係ない。俺は俺の生きたいように
それが二天一流だ。
「突っ込むか」
城の真上まで来た時に急降下する。
全てをを使い切ってお前を殺す。そして、彼女との旅をもう一度。
数秒で城の天井を破って侵入した。丁度そこは玉座の間らしい。
「ぶっ殺しに来たぞ、師匠は何処だ?」
「そうか、王に向かってその態度、万死に値する」
一方的な言葉の投げ合いで戦いの火蓋は切られた。
アトラスは瞬時に俺の後ろに回る。
俺はそれを避けて刀を抜刀し振り返りながら切る。それを何度か繰り返して一度止まる。
次は5属性の魔術、全てトップクラスのモノが迫ってくる。俺はそれらと同等のモノを手繰り寄せぶつけて相殺、辺りは破壊し尽くされて城は崩れ始める。
「くっ」
俺は竜騎士をまた呼び戻して上空へ逃げる。
アトラスはそれに迫撃としてペガサスを召喚する。その速さに翻弄され、竜騎士は破壊されてしまった。一瞬、拮抗できて上出来だった。
コアのルビーは破壊されていなかったので、それを手繰り寄せてポケットにしまう。
構わずペガサスは俺に突っ込んでくるのでそれを手繰り寄せたオリハルコンで防ぎきる。ここがもしアトランティスならばあるだろうと思い、手繰り寄せてみたが成功した。
瓦礫を手繰り寄せて橋を作って玉座の間まで走って戻る。
「貴様の師匠とはこれのことか?」
その手には玉がある。それには明らかに彼女の魔力が感じられる。アトラスはそれを握って挑発しているようだ。
怒りに身を任せ踏みこもうとしたその時、
ーー身体中にヒビが入った。
「がっ……」
もうガタが来ている。
こんなにも人間の体は脆いのか。
直に殴り倒して奪うのを断念し、手繰り寄せようと試みるが……
「ッ…………」
脳にノイズが入る。
視神経並びに脳が溶けているようだ。
ガーネットは自動で俺の体を癒す。
それでも足りなかった。やはり深山の治療魔術も足りない部分がたくさんある。精神も癒さなければやっていけない。
ガーネットの残り6個
「なにが……目的だ」
余裕を作るためにどうでもいいことを問う。
相手は終始ニヤニヤと余裕を見せているので答えてくれると思った。
「この世界に手出しさせない為だ」
アトラスは急に表情を威厳あるものに変えてそう答えた。空気はガラリと変わって絶対零度にでもなったのかと錯覚するほど、あたりが凍る。
「貴様の魂と眼、それとサーヴァントがいればその繋がりを使い、抑止の輪から好き勝手に戦力を調達し、この世界を続けさせる出来る」
予想外の答えだった。
いや、別に予想もしていなかったのでこの言葉は合っていない。
この王はやはり、最初から狂っていなかったようだ。只、この国を存続させたかっただけらしい。
息を短く吐いて力強く立つ。
まぁ、奴の事情などどうでもいいのだが。
それより、どうやってあれに勝つかだ。
このレベルの消耗じゃあ、勝つことは不可能。いや、どんなに消耗しなくても規模で完全に負けている。
いくら弾切れのしない鉄砲を持っていたところで宇宙戦艦には負ける。
ならば、一か八か自分が放てる最大火力を放つしかない。宇宙戦艦にも勝てる大砲なんてそう簡単に準備出来るものではないが、取り敢えずこの世界に漂う魔力の全てを凝縮する。
「ッ!」
眼球が焼ける。痛みに堪え血の涙を流してでも敵をその眼で捉える。これで決めなければ、もう次はない。
魔力は俺を中心に台風の様に吹き荒れる。奴に小細工は通用しない。只の単純な力のみがこの敵には通用する。
アトラスはこの砲撃の凶悪な攻撃力を察知し、妨害する。
業火に焼かれ、津波に呑まれ、烈風に裂かれ、土砂に押し潰されても、俺のエーテル砲のチャージは邪魔できない。
超高密度な魔力は中心に嵐の様に荒れ狂いってドームを作り、あらゆる攻撃を弾いている。
バチバチと身体中の魔術回路が悲鳴をあげる。
もう少し耐えろ、と躊躇なくガーネットを使用した。
残り5個
あと少し、あと少し、あと少し。
まだ、足りない。あの化け物を屠るにはまだ足りない。
「ガ、ーーーーーーーーーー」
高密度の魔力が集まるにつれて維持が難しくなる。
まだだ。今これを放したら俺がどうなるか分からない。
俺は拳銃に手をかけた。この弾を核として放つ。
魔力を維持、増強しながら震える手で狙いを定める。
息が上手くできない。ならば、止めてしまえばいい。
ゆっくり撃鉄を指で起こす。
「ッ、ーーーーーーーーー」
手の震えが本格的に酷くなってきた。これでは命中しないなんていう残念デッドエンドが待っている。
その時、今更ながら、魔眼が俺の取るべき行動を映し出した。
心の中で笑った。そりゃあいい。
俺はすぐに引き金を引く。
魔力は弾を核として放たれる。
「ハァ!ーーーーー」
それがどんなものだったかなんて覚えていない。
轟音が俺の耳を潰し、辺りはボロボロに朽ち果てている。
さっきまで鋭くしていた触覚も機能を失っている。喋る気力もなく、戦いの焼けた匂い、土の匂い、水の匂いが混ざって嗅覚も潰されている。
ただ、まだやることはある。
「ーーーーー」
視界はもうほとんど見えない。ぼんやりと、何かが写っているだけだ。それでも影は認識できる。
唯識……繰糸、伊舎那大天象
思いっ切り後ろを斬った。
確実な手応えがある。
何も聞こえないが確かに斬った。
奴はきっとプラトン同様並行世界の移動も可能なのだろう。ならば、別世界に逃げて奇襲をかけることも可能。しかし、俺相手に奇襲は効かない。
それにしても、いつまでもガーネットによる回復が始まらない。
自動回復をするように設定しているのだから、もう回復してもおかしくない。
そこで、俺は最悪の状況が頭に浮かんだ。
(まさか、殺せてない)
まさかまだ傷は浅く、奴を殺せずにガーネットを封じられて。さらに、魔力も先程のエーテル砲で使い切ってしまった。
急に魔眼が次の行動を示す。
俺はそれに従うしかない。
「あ、……あー、ーーー」
地面に倒れ小動物のように後ろへ這い蹲る。
奴から逃げなければ。
必死に見えない目を凝らし、聞こえない耳をすませて、混じった匂いをどうにか嗅ぎ分け、感じない感覚を研ぎ澄まし、自分の状況を把握する。
なぜか胸に違和感がある。何かがない。
ああ、心臓か。
それが無いのか。
俺は虚無に放り出された。……気がする。
深山繰(起源覚醒)のステータス
魔力量EX 質E〜A
起源「繰糸」と「手繰る魔眼」によってその世界に存在し、知覚しているものならば、「手繰り寄せて」召喚できる。
魔力も集めることもできるので魔力に底はない。ただ、彼の肉体や魂など手繰り寄せることの出来ないもの、または魔法の域にかかるものは召喚出来ない。
特に目を酷使するので、良くて失明、最悪の場合は視神経から脳へダメージが入って死に至る。また、体は目について行けていない為、ほとんどの可能性で体もダメになる。
さらに、制限時間がすごく短い。