30話
何もない虚無に中、一人放り投げられる。
何としても体勢を立て直さなくてはならない。勝って、彼女との旅の続きを。
感覚は全て機能せず不安と焦りを掻き立て慌てる。
そこに、ぼんやりと目に何かが写った。
顔をはっきり見ることもままならないが、ただ、それは苦悩に満ちていて、負のオーラを辺りに撒き散らすネガティヴな雰囲気がする。なぜか親近感が湧く。
首の後ろに何かを回されている?
頭をポンポンと軽く叩かれると、辺りがよく見えるようになる。聴覚も感覚も取り戻しつつある。
体の傷がすっかり治っていた。
目の前には強い光があって、何かがいる。恐らくさっきの人だろうが、逆光で顔が伺えない。
「いつか気づく。お前の人生は、生きてるだけで楽しいものだ」
誰かの
ーーー別れては伸び
ーーー別れては伸び
伸びて別れる世界の線は、46億年もの永劫の時間で幾千にも幾万にも枝分かれしてきた。
100年に1度、都合の良い1つに絞られるこの線は例え生物が住めなくなっても、惑星としての在り方が変わったとしても、地球という1つの生命が終わるまでは終わる事はないのだった。
ーーー別れては伸び
ーーー別れては伸び
途方のない長さの線。一本の細い線でも、それは地球上のどんな地層よりも時代を物語る。隕石が衝突して出来た1つの数kmしかなかった星は、ぶつかる事でその体積を増やしていく。ある時、ガスを出して大気が作られた。ある時、表面がマグマで溶けた。ある時、雨によって海が出来た。ある時、生命は誕生した。ある時、恐竜が繁栄して消滅した。ある時、猿人からヒトとなり人類史は始まった。
ーーー別れては伸び
ーーー別れては伸び
伸びては別れる線の先の、その先へ着実に未来のある世界だけが、選ばれ伸び、選ばれ伸び、選ばれ伸び。
悠久の時の流れは、ゆっくりながらも、その足取りを止める事ない。たちまち、別れて滅びた線は嫉妬する。常に、今は、ただ、正しい道が続く。その世界たちの亡骸に見向きもせず選ばれた自分が正しいと思い、間違っている
幾千もの、幾億もの世界。戦いで滅びた世界も、進みすぎた世界も、間違い続けた世界も、悲鳴に満ちた世界も、今は火葬され滅びた。
世界は。
線を伸ばし観察して比較してただ選別し、決して世界の利益にならないようなものは選ばない。そして、忘れられるべき線たちが反逆するのは、考えてみれば、当たり前である。
目を覚ますと、俺は瓦礫の上に寝ていた。
「なる………ほど」
胸に違和感はなく、どの感覚もしっかり機能している。
起き上がって、自分の首に緑の勾玉のものとは別に、虹色の宝石のネックレスを握った。
これの使い方は今理解した。
これなら、彼女を取り戻せる。
この気持ちは、贋作ではない。
「ヨォし」
小さく呟く。
たちまち、空間に亀裂が入る。
たちまち、空間に穴が穿たれる。
体には不調が一切ない。起源も覚醒しておらず、いつのまにか寝ている。ガーネットの残りは6個で手元には珥加理刀が握られて、魔眼の痛みは残っていない。
ただ、目の前の根源を見据えている。
空間が崩壊し始めた。
「ーーー」
世界よ、別にいいだろう。結局結果は変わらない。こんなバケモノみたいな王様と対峙する時くらい許してくれ。俺は世界に対して勝手に許可を得ていた。
俺は全てを捨ててでも彼女と旅をする。彼女の旅は俺の全てを質に出しても良いくらい大切な代わりなどないものだ。
彼女と共に歩みたい。それほど、俺は彼女が好きなのだ。
例え、
ならば、その嘘は真実である。
「さて、明日はどんなうどんを食べよう」
彼の頭上からあり得ないものが渦巻く。
アトラスは自分が今まで触れてきたモノから派生されるものが急に出現し、驚いた。
さっきの一瞬の間に、この男に何があったというのだ。しかし、驚きはするが、恐怖には値しない。
先程まで起源程度に呑まれていた者にあんな力を制御出来るだろうか、いいや出来まい。彼は自身の勝利を見てほおを少し歪めた。
虹色のペンダントはその力を溜め込み、俺に合うように調整してくれる。ただ、今回限りで壊れるだろうがしょうがない。ひとまず、この場で使えるのならば、良い。
「奪還だ」
空間が崩壊した。
まるでガラスの様に破片が飛び散って、四方に飛ぶ。
世界は一瞬で真っ暗に覆われる。そこは未来も過去も現在もなく、時間という概念が存在しない何もない世界。
そこに、1つの糸が垂れる。それは別れて伸び、別れ続け1つの大樹になった頃、1つに選定される。それを何度もしてきて。
ーーーある世界線の悲鳴が聞こえる。
何故だ!?この世界はずっと繁栄しているはずだ!
ーーーある世界線の妬みが聞こえる。
あの世界線は成功しているからな。クソっ。
ーーーある世界線の嘆きが聞こえる。
何を間違えたんだ!
彼は、証明された事象全てを閲覧し、自身に繋げる。
そこで、今、この世界の時代を確認した。大体、俺の生きていた時代から一万二千年前だ。
幻は幻らしく消えるがいい。
それにしても、全ての世界線の情報量と密度にこれでは100年で地球が消えるだろうと納得する。それでも、俺はこの限られた時間の中でやることがあると、奮い立った。
今までの歴史の悲しみを、苦しみを、歓喜を、憎しみを知る。
血塗られた戦場。
穏やかな草原。
憎しみ合う人々。
食う者の喜、食われる者の怒。
非道な行為に対する憎しみと、それを当たり前とする思想。
屍の山、逃げ惑う人々の波。
いつまでも燃え続ける炎。
自分の思想を信じ続けた若者、昔に想いを馳せる老人。
戦いを尊ぶ者、戦いを嫌う者。
全ての感情は俺の中で渦巻く。
安心、不安、感謝、驚愕、興奮、好奇心、性的好奇心、冷静、焦燥 、不思議 、幸福、幸運、リラックス、緊張、名誉、責任、尊敬、親近感、憧憬 、欲望 、恐怖、勇気、快感 、後悔、満足、不満、無念、嫌悪、恥、軽蔑、嫉妬、罪悪感、殺意、シャーデンフロイデ、サウダージ、期待、優越感、劣等感、恨、怨み、苦しみ、悲しみ、切なさ、感動、怒り、苦悩、懊悩、煩悶、諦念 、絶望、希望、憎悪、愛憎、愛しさ、空虚。
混沌は俺の中に入り込み、魂ごと俺を飲み込んだ。いつか見た夢を思い出す。それとは比にならないが。
今までこの地球に生息してきた全ての生物の感を彼は見せつけられる。
透明に近い彼の心は影響を受けて虹色に…いや、そんな綺麗なものじゃない。どす黒い色が大半を占めている。人類史は善性より悪性が渦巻いている。
苦しみ悶える事も許されない。彼の背中には今、生きていた現在から過去までの地球という生命の全てが乗っかっている。
かの魔導元帥は悪に義憤し、善を嘲笑う人物だと聞く。こんな量の地球の汚点と美点を見せつけられたらそうなってしまうだろう。
それは勿論、ヒト1つでは耐えきれないものだ。
世界全ての感情に勝てるわけが無い。ならば、そう。逃げてしまおう。
俺は押し寄せる全ての感情を拒絶した。
「そんなの知るか、俺の邪魔をするんじゃない」
という風に突き飛ばしたのだ。
そもそも、そんなもの、死ぬ前にどうにか出来なかったお前が悪い。取り敢えず、お前たちの力を勝手に借りてゆくぞ。
俺は全ての生命に一方的にそう告げる。聞こえるわけがないので返事は返ってこないが、この宣告は必ず批判されるものだろう。だが、俺は別に地球代表でもなんでもないので、そんな大層なことは他の人に任せてほしい。
俺は二天一流の深山繰だ。
糸はプスプスと音を立てて俺の中に入る。
世界は俺に結合し、体に馴染む様に浸透する。
「
暗闇の世界から、元の間違った世界へ戻っていく。
先ほどと変わらない虚ろな月、崩れかけている城、近未来なネオン輝く都市、幻の大陸。
ただし、この世界に戻った時、1つの特異点的な何かが生まれた。
真っ白な何の濁りもない白髪、目は黒の中に映える虹色。
身体中に白い糸が巡っている。
彼は彼の生きていた現在から過去まで、剪定事象を含む全ての事象と完全に繋がった。
擬似的な中途半端な第2法擬きのナニカはここに体現する。
「確かに、人には生存本能がある。
それに従って、とある愛国心の強い王様が自分の国を生き残らせようとした。
それは、正しい行為だ。だが、正義ではない。そもそも、正義は存在しない。全ての価値観を統一出来ない限りはな。
そして、正義でなく、慈善精神で行なっているものはただの自己満足だ。
そんな自分勝手な行為を、ほかの剪定され世界線が黙って見ていられるか。
だから、気に食わないから、俺がお前を倒す」
俺は捻くれた自分の意見を高らかに歌った。
もし、この世界線を他の世界線から見たら恨まれ、罵倒を浴びせられるだろう。何せ本来の定めから自分だけ逃れようとしているのだから。
その世界線達の怒りの感情がまた俺に押し寄せられ、怒りを出してしまった。
「知ったような口を!貴様は何者だ!」
アトラスは若造に自身が命を掛けてきた事に対し、偉そうに批判を言われ、怒り狂って吠える。
自分の国を守って何が悪い!それが王の責務だ!と言うかのように。
自分は正義であると訴える。
しかし、それは違う。
その行為は他の選定された世界線に対する侮辱、人間で言う人権侵害に相当する行為だ。そんな事を世界が許すはずが無い。
「中途半端な魔法使いだ!覚えておけ!」
俺は今の自分に相応しい名乗りをあげ、第2戦の火蓋は切って落とされた。
「
俺は手を振り上げて、数々の世界線から魔力を調達する。
「、」
予想以上にに多く集まるものだ。
体にピリピリと電気が走り、体の魔力を貯めるダムが今にも決壊してしまいそうだ。すぐにそれらを放出し、形作る。数は8つ。
先程放ったエーテル砲と同じ威力の物だ。
アトラスは戦慄する。
この規模は先程のエーテル砲と同等のものだ。それが瞬間的に8門展開されている。これでは力を制御できまいと相手を甘く見る余裕も無い。
その力には、ずっとこの大陸を支配してきた王の全力で対抗しなければならない。
アトラスは覚悟を決め何千年も生きてきたのには相応しい細く猛々しい腕を前に掲げた。
アトラスの周りにそのエーテル砲と同じ数の魔術式が展開される。
それはぶつかり合っていくつかは破裂し、いくつかは何処かへ弾けた。それらは海まで飛んで行くと数秒後には爆発音が耳に届いてくる。
放たれる攻撃はどれも地面を焼くには十分なものばかりだ。
流れ弾が、海に迎えば海面が割れ、空に放たれれば雲を裂き、何処かへ向かえば破壊の音が聞こえる。
「
アトラスを砲門で扇型に囲んで一斉に放つ。それを相手はただの魔術障壁で守り切っているのだから驚くしかない。
いくら、連続で打ち込んでもその分厚い壁は崩れない。
俺はこのまま攻撃を続けなければ殺されてしまうと予感した。
魔眼もこのまま攻撃を続けろと示しているので続行はしているが、これではラチがあかない。
自身の立つ足場を見ると、壊れる寸前までになっている。
俺は相手を地の底へ撃ち落そうと上に飛んで砲撃を始めた。
俺の考えを読んだアトラスはそうはさせまいと、魔術砲を斉射している。
中間点で魔力はぶつかり合い、空襲の様な轟音をあげる。
しかし、その轟音でこの城は崩壊し始めた。例えどんな強固な城であっても最早、砂の城と同義であるほどにまでこの城は先程の砲のぶつかり合いで脆くなってしまったのだ。
城は本格的に崩壊を始めている。
本来の事象から逸れ、繁栄してきた都市の象徴が崩れていく。どれだけ、この都市を見守ってきたのだろうか。
その積み上げてきたブロックに亀裂が走り、ボロボロと、まるで枯れた葉の様に瓦礫が落ちる。
アトラスの足場が崩れ落ちた時、隙が生じた。
俺はそこに全ての意識と手繰り寄せられる魔力を全て叩き込む。
体が、熱い。全身の魔術回路が焼かれている様な錯覚を抑え込んで撃ち続ける。
いく
しかし、その穴の先には誰もいない。その代わり、俺の前に伝説の神殺しが居た。
その容姿、狼。手足は鎖で繋がれこちらを睨み唸っている。
「フェンリルか」
「ああ、再現ではあるが、北欧神話の神殺し。ここまで本気にならなければ、私はこの国を守れないらしい」
その神々と対峙する為にルビーを出した。さらに、地面に置いていたアタッシュケースを手繰り寄せそれらを開く。
『接続口』と『守護者』と『竜騎士』を発動させた。
俺の接続した
俺は投げ捨てた人類史の悪性と善性を槍に封じ込め、莫大なエネルギーを内包し、耐えきれず、禍々しく変形する。
白い神秘で純白な体。翼を大きく広げ、鎧は装甲を厚く、靭くして、完全無欠の防御となる。
対して、神殺しの狼はこの世の事象の渦より、力を受け取り活性化する。
もっと血に飢え、もっと荒々しく強化された。その爪ならば、時空を切り裂くことなだ容易いだろう。
両者は待つことなく衝突した。
竜は狼の咆哮は空気を揺らし、大陸を揺らし、星を震わせる。
竜は槍を突き立て真っ直ぐに飛んでいく、対して狼も迫るものを喰らうために宙をかける。
「
俺は無数の砲台を展開して放つ。アトラスもそれに対抗し同等規模の魔力砲で迎え撃つ。
ちょうど中間点で相殺し合って轟音を鳴らす。
数瞬間には槍と爪はぶつかっていた。それを数度繰り返すと、その大陸の地殻は抉れてマントルが覗いていた。しかし、どうやら死者はいないようだった。なんと、アトラス王は戦っている間にも住民を遠いところへ避難させていたのだ。
俺は狼の上に飛び乗って珥加理刀を抜刀する。
すぐにアトラスの場所まで瞬間移動して斬りかかった。しかし、すんでのところで刀は止まる。
「っ!」
どうやら、空気を壁のように集めて盾としたらしい。俺はすぐにその盾を蹴って一時離脱する。
この盾には俺の刀は通じない。エーテル砲も相殺されてしまう。
俺は額の汗をぬぐって策を考えた。その隙、その一瞬でアトラス王は雷を召喚する。
ただの雷ではない。この魔力の規模はギリシャ神話のゼウスの雷の再現である。
恐らくアトラスはこれで勝負を決めるつもりなのではないのだろうか。
主神の権能をほぼオリジナルにまで再現したものの行使には、体力、気力、魔力の全てを根こそぎ持っていかれる。一瞬で準備が完了したのは俺が擬似的な第2法を確立した時から術式を構築してきたからだろう。
だが、それに迫るものを俺は既に用意してある。
竜騎士の頭まで飛んで納刀し、右手を掲げる。
この槍は俺の生きた現在から過去までの人類の感情が及ぼすエネルギーを凝縮した破壊兵器。
それに俺の手繰り寄せた
槍は禍々しさを無くし、手繰り寄せた物を全て取り込む。
蓄えきらないものが徐々に溢れ出して、もうすでにオーバーヒート。
対して、アトラス王も出力を最大まで高め、威力を増やしている。
互いに最高潮に高まった時、それらは放たれた。
「まだだ」
その勝負は俺の勝ちだった。理由はエネルギーの貯蔵量の差である。
彼の魔力も俺の魔力も無尽蔵ではあるが、規模が違う。
彼は世界一つ分、俺は知り得るすべての世界。差は明白だった。
しかし、あの王がこの程度でやられる筈もないと慎重に、しかして素早く更に大きく穿ったクレーターの最奥地へ下る。
案の定、罠があった。バシュムの毒の再現だろうか。俺はそれを無力な空気に治療して下る。
底に着く。
そこにはあの非常階段の一部があった。あの世への道の様な階段が月の光に照らされて幻想的に見える。
その階段の1番上の段に、アトラスは座っている。ボロボロになったとしても、この王の威厳は一切損なわれていない。
「何が悪かったのだ……」
その王は嘆く様に言った。
自分の行いは正しかったのか?滅び行く自分の世界を残そうとするのは間違いなのか?いいや、その思いは決して間違っていない。当たり前のものだ。
この王はある日、この世界が剪定されてしまうことを知ったのだろう。そこで2つの気持ちが現れた。
『この世界を存続させたい』
『このまま滅びを待つべきだ』
その葛藤により人格が2つに割れた。前者の思想を持つのがアトラス、後者の思想を持つのがプラトンだった。彼らは勝った方が正しいと判断し戦った。結局のところ、アトラスが勝ったのだが。
それはやってはいけない逃げだと思う。
俺は彼女から苦しい時は逃げるべきだと教えて貰った。
それは、正しく間違っている。俺はそう思った。
確かに確実に負ける相手に戦うことなど愚の骨頂である。そんな事をするなら逃げる方が良い判断だと言える。
間違っているとも言える理由はその葛藤に意味がある時だ。例えば、俺の殺しに対する葛藤が良い例としてあげられるだろう。もし、この悩みを解決しなければ、何処かで死んでいた。中途半端に、何も成し遂げることなく彼女を悲しませる事となった。
「貴方は間違っていない。ただ、
俺は威厳の余り畏まってそう返した。
「そうか…では。それほど
返す言葉が見つからない。今の俺は擬似的であってもそれに答える義務のある存在であるはずだ。
なので、この答えが嘘であっても、これが俺の本心でなくとも、この問いに答えなければならない。
「ええ…残念にも。それが一番存続するから、重要なんです」
そんな訳があるか。
それでは終わりの時まで一生懸命に、直向きに生きてきた者達が一切報われない。
「そうか」
アトラスは懐から1つの球を取り出す。
それは俺の師匠の霊核そのものだ。まだ、彼女は生きている。そう俺の『鎧』の繋がりが訴えている。
「我が計画は潰えた。返してやろう」
今すぐにそれを回収したいが、そんな事は出来ない。この王のケジメは俺がつけなければ、そう思えてしまったからだ。
「ありがとうございます。そして、アトランティスの王よ」
してはならない感情が湧く。
『同情』だ。
「何用だ」
「何か、何か、ございませんか?」
そんな感情湧いてはいけない。
彼の感情は理解されないまま終わるべきなんだ。
「ふん、同情などするな。とっとと殺せ」
俺は自分の感情を押し殺して球を受け取り後ろに立つ。
何時間だろうか。
静かな、とても静かな時間が経った。
俺はそれこそ、彼の分まで生きよう。そう再決意した。
世界に抗い、自分の世界を守ろうとした一人の王を俺の脳に焼き記し刻み込む。
俺は剪定される世界の王を否定した。
俺は球を取り出して彼女の肉体を魔力で構成し、手繰り寄せる。
霊核には一切傷は無く。記憶の欠落もなく復活出来そうだ。
数分後には、俺の師匠が、俺の憧れが、俺の……これは恥ずかしい、彼女がスヤスヤと寝息をたてて寝ている。
自然体に座っている俺は力が無くなっていくのを感じた。
俺というイレギュラーは元の人間に戻っていく。
髪は黒く。目も黒く。糸は身体中から抜けていく。
最後まで抜けた後、彼女は目を覚ました。
「ん………、」
彼女は辺りをゆっくり見回して状況を察する。
遥か上から、朝日の光が少し溢れてきた。
彼女は起き上がって俺の頰に手を当て、その手をそのまま頭の上に持ってくる。
「お疲れ様、繰君」
涙が出てきた。今までの自分はこの為に生きてきたという錯覚までするほどに、いや、これが俺の生きてきた意味なのではないのか。
そんな心が勝手に言葉を紡ぎ出す。
「武蔵ちゃん、相談がある」
「何?聞かせて」
「俺なんかが、貴方と一緒に旅をしていいですか?」
「いいに決まってんじゃん」
彼女は即答する。
「弟子は師匠について行くものでしょう」
そんなあたたかさに心が満たされていく。
ああ、やっぱり、俺はこの為に生きてきた。そして、このあたたかさを感じる為にこのまま生きていく。
「ありが………とう」
この歳にもなって泣いてしまった。
暫くして、この穴から這い上がる手段もないので次の世界へ向かうことにする。目の前には次の世界線への扉がある。
「じゃあ、準備はいい?繰君?」
「ああ、行くぞ!」
俺達は旅立った。
1つ墓が残り、朝日に照らされている。
幻想的なあの世への繋がる階段の麓、墓石にはこう刻まれていた。
『世界に抗いし王、ここに眠る』
まだ、続きますよ!
中途半端な魔法使いのステータス+筆者の感想です。
深山繰(スケプティカル セカンド)
魔力量、質ともにEX
彼のいた時代から過去の並行世界を含む全ての世界を手繰り寄せ繋げた状態。
彼の生きていた現代から過去まで至る剪定事象を含む世界線の運営を行える。
何者かに送られた虹色の宝石のネックレスで一度きりの変身を果たした。
世界線一本を彼の魔術回路の様に扱える。現代と過去からも知覚出来たモノを手繰り寄せられる起源覚醒の完全上位互換。
ちなみに『自分の取るべき行動』の影のみは未来から手繰り寄せられる。
第2魔法とは似て非なるもの。運営できるのは彼の生きていた現代から過去までの全ての世界。故に、『中途半端な魔法使い』。
感想
ここまで書けたぁぁ!
完全に最終回っぽいですが、まだまだ彼女と彼の旅の記録は続きます。
まだ、武蔵ちゃんの掘り下げが済んでいません。
それと、諸事情により更新頻度が不規則になってしまいます。申し訳ございません。
きっと、いつかまた2、3日更新になると思います。
尚、2部1章にて、武蔵ちゃんの旅の理由とこの二次創作での旅の理由が違ってしまいましたが、そこは別の彼女として暖かい目で見て頂けると嬉しいです。
この章までの感想や評価などございましたら、してくださると嬉しいです。
これからも、『天元の花、零の先へ』をよろしくお願いします。