天元の花、零の先へ   作:新川翔

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武蔵塚原地獄図
其の一


31話

 

「いざ、いざ、いざ!」

 

静寂な雪の中、草も枯れ、次の春に立派な花を咲かせる為に準備をしている。

そんな夕方、とある小さな庵で一人の女騎士が刀を抜き叫んでいる。その覇気は近く眠っている小動物達を起こしてしまう程にだ。

 

「まぁ、まぁ、お待ちくだされ」

 

その先で一人の白髪、ヒゲを蓄えた老人が冷静に鍋の蓋を持ち説得する。

 

訳を説明しよう。

 

俺、深山繰と俺の師匠である武蔵ちゃんは幻の大陸での騒動を終えた後、次の世界線へ移動をした。その時、虹色のペンダントは虹色のカケラだけを残して崩れてしまった。

そのカケラだけでも大収穫だ。これは中途半端でも第二魔法のカケラだ。それを鍵をして今後の研究に大きな一歩を踏み出せる。というか、一歩どころではなく、とんでもない跳躍だ。

一切構成している物質が分からないがないよりはマシだ。しかし、その虹色の宝石のカケラは光を失い力は使えない状況ではある。

 

話を戻そう。魔法のことで少し興奮してしまった。

移動した時周りに広がっていたのは、森、森、森。

一面真っ白でとても寒い。行く当てもなく2日ほど山の中を彷徨っていると何処からかいい匂いが、彼女は飢えに耐えられず飛んで行って………。

あれ?どうしてこうなった?

 

「繰君?分からない?この人、とんでもなく強い。もしかしたら、下総の佐々木小次郎よりも…」

 

その話に驚く。

彼女から聞いた冒険譚の中の1つである下総での七番勝負、そこで最後に戦った佐々木小次郎が彼女にとって五本の指に入る剣客だったそう。それより、強い。もしかしたら彼女の最強にして最恐で最凶の敵、そして彼女に実の父親である剣豪『新免無二』さんに匹敵するという事だ。

 

彼女は完全に勝負師の目となっている。

それに対して老人は何の怯えもせずただ自然体に鍋の蓋を置く。

『よっこらせ』と立ち上がって振り向き庵の奥の方へ向かう。奥を覗いてみるとどうやら刀が壁に飾ってあるようだ。そこにゆっくり向かって行く。

 

武蔵ちゃんは刀を抜いたまま自然体に庵に入っていく。これから戦う恐らく彼女の中で一番強いかもしれない人物に対して笑みを浮かべている。

が、同時に頰に汗が垂れていた。

彼女はきっと恐れているのだろう。

彼女からの話を聞く限り、直接口にしていないものの、絶対的な強さを誇る父親に畏敬だったり、恐怖だったりを感じていると思ったのだ。それと互角の人と戦う時にはそんな感情が現れてもおかしくない。

 

その老人はその刀……ではなく、その近くにある棚から食器を3つ取り出した。

 

「「え?」」

 

老人はそのまま鍋のある所に戻っておたまで何かを注いでいる。

美味しい匂いが俺達の鼻に届き、減っている腹がそれを欲しがって暴れまわっている。俺はそれを押し込めて顔に出さないようにしているが、彼女は違った。

よだれが垂れていて大変だらしない。剣の腕は兎も角、精神性は只のポンコツなのではないのか?いや、今更だ。

 

彼女は紛れもなく、ポンコツだ。

 

そもそも、サーヴァントは食料を必要としないだろう。

 

「腹が空いているのでしょう。食べてくだされ」

 

雑炊が差し出される。

今のこの空腹状態なら、殆どの食べ物を高級料理と錯覚できるであろう。

目の前には美味しそうな匂いがする質素なZOSUIがある。

 

そこからは速かった。

武蔵ちゃんはとんでもない速さで刀を収め、靴を脱いで、お椀を受け取って、鍋の側に何も無かったように優雅に座っている。

更には俺を催促するような目で見ているのだ。手のひら返しが余りにも早すぎる。

 

「ほら、早く」

 

どうしよう。この剣豪ちょろすぎる。

 

「それでは、有り難く頂きます」

 

俺は有り難く両手で老人から雑炊を貰って彼女の隣に座った。

 

「ふぉっ、ひゃつい、おいひい」

 

武蔵ちゃんは本当にお腹が空いていたのだろう。

熱いのにもかかわらず綺麗に次々へとそれを口に運んでいる。

それに対して、俺は猫舌なのでゆっくりよく噛んで雑炊を頂く。

 

「そういえば、貴方のお名前を伺っていませんでした」

 

俺は思い出したように尋ねる。

 

「ああ、儂の名は……」

 

「塚原卜伝」

 

武蔵ちゃんはいつの間にか食べ終わって正座して完全にシリアスになっている。

 

「かの『剣聖』にこんなところで会える何て思ってもみませんでした。お会いできて光栄です」

 

「『剣聖』とはこれまた大層な、それで、君達の名前は?」

 

「新免武蔵守藤原玄と言います。こちらは弟子の深山繰です」

 

俺は畏まって礼をする。

そういえば、空想の絵で宮本武蔵と塚原卜伝が立ち会う絵があったような気がする。

 

「新免…?ああ、君は新免無二殿の娘さんかな」

 

(クソ親父)を知っているんですか?」

 

「ええ、名前だけですが」

 

新免無二。

先程、少し触れた宮本武蔵の父。十手という武器の兵法家で足利義昭に召さた時、将軍家師範で扶桑第一兵術者の号を持つ吉岡某と試合をし、三回中、二度は無二が勝利したので、日下無双兵法術者の号を賜ったとされている。

それにしても、敬語の中でもちゃんと父親への恨みを忘れない武蔵ちゃんマジ武蔵ちゃん。

「それで、何故こんな所に?」

 

「ええ、私達旅をしていまして、お腹も減り、凍え死にそうな中、美味しそうな匂いに誘われてやって来たのです」

 

さっきまで戦おうとしてただろうが、などと突っ込めない。

まだ雑炊は残っており、湯気を立て香りと一緒に俺を誘っている。まだお腹が空いている俺はお代わりをしようと向かい側のおたまに手を伸ばす。すると武蔵ちゃんは俺の伸ばした腕にお椀を当ててくる。どうやら、自分の師匠のお代わりも用意しろということらしい。

ここで師匠らしさを見せつけたいのか知らないが従うことにする。

 

「そうでしたか、それはご苦労様です。それでは旅でお疲れになられていることでしょう。ささ、お食べください」

 

「では、お言葉に甘えさせて頂きますわ」

 

すると、武蔵ちゃんは先程までの敬語を使った綺麗なをキャラを保ちつつ、それでも「ひゃっつ(あっつ)」と小声で言いながら食べている。

俺も熱い雑炊を有り難くゆっくり噛んで、噛み締めて食べる。

 

温かい雑炊は俺たちの体も心も暖めてくれる。

外はすっかり暗くなっており、ふと外を見ると満月といくつもの星たちが黒い空を綺麗に飾っていた。

鍋を温める火が弱くなると、卜伝は近くにある焚べるための薪を定期的に入れている。

 

「あの」

 

武蔵ちゃんはお腹が一杯になったのかお椀を置いて剣聖に話しかける。

 

「私と剣を交えては頂けないでしょうか。かの新当流の開祖の力をこの手で見てみたいのです。それとも、女だからといって拒めれますか」

 

彼女は目を鋭く光らせ半分願い、半分試すような目で剣聖の様子を観察していた。

その言葉に彼は反応し、ゆっくりとお椀を置く。俺はこの二人が放つプレッシャーの様なものに押され、まだ少し中身が残っているお椀を恐る恐る音を立てないようにゆっくりと置く。

 

「いやいや、滅相も無い。その手合わせ、お受けいたしましょう」

 

ほっと胸を撫で下ろした。

武蔵ちゃんも嬉しかったようで顔から薄く笑みが溢れている。

 

「ただし、その手合わせは数日後ということにしましょう。まず旅の疲れを癒してからです」

 

武蔵ちゃんは少し予想外な条件を出され一瞬硬直したが、別に異をとなえる程のものでもないのですぐに承諾した。

いくらか雑談を交わして、ご飯を食べ終わると、ここに泊まらないかと卜伝さんに言われ、俺たちはそのご厚意にも甘えることにした。

 

 

 

 

夜遅く、武蔵ちゃんも卜伝さんも床に着いた頃、俺はこの小さな庵を照らす弱々しい焚き火を消えないように見張っていた。これは押し付けられたという訳ではなく、ただ自分から進言しただけである。

追加する為の薪の中から太くて長いものをいくつか取って紐で縛り火を灯す。

夕食の頃から気になっていた夜景を見ようと思ったのだ。

 

庵を数歩だけ出て夜空を見上げる。

これまで、1人でゆっくりと星空を見る余裕がなかったので見てみたいと思っていたのだ。北京までの道のりの中で何度か見る機会はあったが、その時とは心情が違う。

自分の中で1つ区切りを入れた。

俺は自分の意思で世界に抗い、偽りを本物に変えた。自分の意思(意志)は強くなったと自信が自分の中から湧き上がる。

そのくらいイキってもいいだろう。今まで個人の中でのコレという自身の存在証明の様なものを持ち合わせていなかった俺には必要なものだ。

俺には受け継がれる魔術刻印はあった。特異体質もあった。だが、自分1人で成し遂げたものが何も無かったのだ。

 

星を見ていると、脳裏にあの風景が浮かび、声が反響する。

真っ暗な空間の中、存続しないと捨てられた世界達、それらの悲鳴。

この問題に対しては俺なんか、いや魔法使いでもどうにか出来そうにないが、この問題について考え、彼ら(捨てられた世界達)を想う事は出来るだろう。

 

なんと思っている自分を気持ち悪いと思い思考を止め、ただ、星を眺める。




「教えろ!二天一流道場!」

注意;台本形式と多少のキャラ崩壊。
ギャグなので許してください。

武蔵ちゃん(以下武)「何これ…弟子1号?」

深山繰(以下深山)「さぁ、俺にもさっぱりだ。ししょー」

熊「はい、このコーナーは作者が多分使わないと判断したり、物語に必要でない雑学みたいな設定を話す『不定期開催あとがきコーナー』となっています」

武&深山「「誰だお前!」」

熊「よくぞ聞いてくれました。我こそは一千年くらい生きてきた謎の幻想種。『Kuma』です。以後、お見知り置きを」

武「なんで熊が喋れるの!?」

熊「そりゃあ、千年単位の幻想種ですから」

武「ふーん」

深山(絶対こいつ分かってない)

熊「早速、お便りが届いています。冬木市柳洞寺の山門、もしくは人理保証機関に在住の『NOUMIN』さんからです」


武蔵殿、下総ではお世話になった。
拙者、名も無き『NOUMIN』でござる。
本来ならば、こちらから向かい質問するのが道理でござるが、雇い主の女狐が反則で召喚したり、施設以外焼却されていたりし、そちらに向かえない為こういう形となったことを深くお詫びしたい。
それでは本題だが、この日の本には武蔵殿含む沢山の剣豪と呼ばれる者がいる。その中で一番頭飛び抜けている存在は一体誰なのか。武蔵殿の意見を伺いたい。

P.S:拙者は決められなかったでござる。さて、このもどかしさはタラスク殿と戦い晴らすとしよう。


武「ええ、下総ではお世話になりました。機会があればまた刃を交え覇を競い合いましょう。
それにしても、一番強い剣豪か……。
剣豪将軍の異名で知られる『足利義輝』様とか、新当流の開祖である『塚原卜伝』殿。柳生十兵衛君もみんな強いし、あの憎っくきクソ親父も強い。
『誰が一番強い』なんて決められません」

熊「だ、そうです。余談ですが、この小説の『塚原卜伝』さんは堺雅人さん主演の時代劇『塚原卜伝』の主人公の塚原卜伝の老後を勝手に想像して書いています。本来、彼はひょうきんな性格だったと聞きます。多少、その点も出していければと思っています。
それではまた近いうちに会いましょう。さようなら」

武「さて、うどん食べに行くか!」
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