天元の花、零の先へ   作:新川翔

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武蔵ちゃん可愛い。
水着来い。水着来い。水着来い。


其の三

33話

 

「あの…貴方は?」

 

俺はその鬼に問いかけた。

 

「ん?ああ、見ての通り鬼だが?」

 

「ええ…」

 

その事実が重すぎて受け止め切れない。

武蔵ちゃんはどうやらどストライクだったらしく呆然としている。いや、武蔵ちゃんってこの年頃の男女全部好みじゃないの?

 

「ひとまずここは危ない。ついて来てくれ。元の地上へ帰そう」

 

「あっはい。って待て」

 

予想はついてきたが、この場所について聞いておきたい。おおよそ、鬼のいる所は鬼ヶ島か地獄だと思うが。

 

「なんだ?」

 

「ここは何処ですか?」

 

「何処って地獄だが」

 

ははっ、なわけねー。ウソだー。

いや、合ってるかもしれない。なぜならば、雰囲気がぽい。

 

それにしても生者という単語が気になった。俺はともかく、武蔵ちゃんはサーヴァントという霊体であるはずだ。それが生体反応されているのはどういうことだろうか。鬼は俺たちに構わずズンズン足を進めてしまっている。

俺は武蔵ちゃんに先に行くように言って卜伝さんの庵に戻ろうと振り返る。しかし、もうそこには庵もなく。ただ、俺のリュックサックなどの旅の道具が置いてあった。余りにも怪しかったがここで調べ始めるとあの自分勝手な鬼に置いてかれそうなので魔術師的な興味を押し殺して駆け足で追いついた。

 

雪の道を30分程歩くとある場所を境に雪がなくなっている。そこを踏み越えると温度が一気に上昇して温度の差で感覚が少しおかしくなった。さっきまで静かで静寂な世界と打って変わり、呻き声がどこからか聞こえる灼熱の世界に変わった。直ぐに上着を脱いでバッグにしまう。

辺りはまだ森で囲まれているが、その木には葉は1つもなく、乾いている。寒かった風は熱風に変わって頬をぬっとりと撫でる。うん、気持ち悪い。しかも、その熱はドンドン暑くなっている。

 

「そういえば、あの化け物は何ですか?」

 

俺は急に歩みを遅めた鬼に質問する。

 

「ああ、貴様が対峙していたアレか。アレは良くないモノの塊だ。死んだ物の嫌なモノが集まって出来た残留思念の塊、普通はあんな大きさにはならないのだがな…」

 

残留思念の塊…最近それに近い物を並行世界レベルで見てきたので納得する。不満とか恨みが固まったらああなるだろう。

 

空は赤く、あたりは燃え、地平線近くに針でできた山が見え、鍋が人を煮る音が聞こえ、もう少し進むと手首を鎖で繋がれた人が鬼に誘導されている。

ああ、これは地獄だ。俺が考えて、教えられた地獄はこんな感じだ。

地獄の人々は生者である俺を見たとしても、嫉妬のような目を向けずにただ、俺を見て罰を受けている。目には一切光が灯っていない。この情景を見ていると絶対に地獄に行きたくないと思うばかりだが俺はもう既に人を殺している。多分、地獄行きだろう。…もう考えるな!

俺はネガティヴシンキングを断ち切って目を上に向ける。

 

「あの子っていじるとどんな反応をするのかな?」

 

「武蔵ちゃん、煩悩抑えろや」

 

「いや〜でもね。あんな堅物みたいな子が『ヒャッ』て言ったらどうする?」

 

「ヤベェ」

 

「でしょ」

 

「でもやめといたほうがいい。死ぬぞ。鬼だし」

 

鬼というものは今まで空想上のものとして捉えていた。

勿論伝承は耳にしている。人里に現れて子供や宝を盗んだりする鬼、地獄で罪人たちを裁き苦しめる鬼。絶対強い。

あの怪物を一撃で飛ばせる辺り、本当に鬼種の力はとんでもなさそうだ。あの金棒だって絶対重いだろう。

灼熱が頬をヒリヒリと焼いている。正直言ってもうそろそろ耐えきれない。一方武蔵ちゃんは旅の日で慣れてしまったようで汗は垂らしながらもそつない顔をしている。

 

いくつもの上り坂がと下り坂を乗り越え、地獄の隣を抜ける。

 

「そういえば、あなたの名前は?」

 

俺は金髪の鬼に名前を問う。鬼はさっと、振り返って冷たい目で淡々と告げる。

 

「獄角」

 

おい待て、獄って地獄の獄か?そんな名前を冠してるなんてこの鬼は地獄の中でもかなりの地位を確立しているのではないのだろうか。

 

半日程歩いた後、高く剣のようにそびえる山に着いた。通路が山の周りを螺旋階段の様に周回している。その頂上にはきっと閻魔大王がきっといるだろう。

 

それで登ってみたのだが、何というか。予想できたが残念というか。やっぱり業務に追われていた。

大柄でおぞましい姿をして、睨みつけられたとしたら震え上がって動けなくなりそうな鋭い目をしているが仕事に追われているとその威厳も数段減る。

でかい図体に似合わない細い筆を器用に使って何かを書き、側にある判子を押して隣の鬼に渡し、新しい書類の束が机に積まれる。何だこのブラック職場は。

そもそも、死人なんていなくなるわけないし、相当の仕事量だろう。

金髪の鬼は一礼して側に寄って耳元で何か言っている。

 

「武蔵ちゃん、絶対大変だよね」

 

「ええ、こんな生活うどんがなくて死にそう」

 

「いや、うどんがあればいいのかよ」

 

「まぁ、目の保養ができますし、私もっと剣の高みへって目標で旅をしてるけど具体的にはよく分かっていないし。いつかは何処かで腰を落ち着かせようかなと思っててね」

 

「……そうか」

 

すると、獄角は振り返ってこちらに向かって来る。俺たちは鬼たちの住居地にある空いている借家を貸してくれるらしい。螺旋階段ならぬ螺旋下り坂を下る。ぐるぐる回ることによって地獄の景色を見渡すことが出来る。業火に炊かれた釜、地平線から見える千の針の山、遠目で良く見えないがアレって皮剥いでないか、と目を逸らしてその記憶を消そうと目を瞑る。

 

俯いたままその借家に到着する。金髪ロリ鬼は自炊は自分でしろと言い残してその場を去った。

 

「武蔵ちゃん、帰りたい」

 

俺は半分くらい気を失いながら言葉を漏らした。

 

「ははっ、確かに私もきが滅入っちゃいそうだったわ。これが地獄か…ここが8つのどこに位置するか分からないけど、悪行は積みたくないわね…」

 

「いや、俺たち人殺してるし…地獄行きなんじゃないの?」

 

「え?確かに人を殺めてるけど、別に地獄行きにはならないでしょ」

 

「え…」

 

俺はバッグを下ろすのを止めて振り向く。こういう時の彼女はネガティヴ思考になるかと思ったがそうではなかった。

 

「これは私の持論なんだけどね。私が殺めているのは極悪非道の者か果たし合いで相手になった人、どちらも理由もなく殺めているわけじゃないし、楽しんで殺めている訳でもない。それって別に罪に問われることじゃないのかなって思うの」

 

ああ、そうだ。彼女はそういう価値観だった。

アレは本能(生きる為)だ。

アレは世界を正す為だ。

俺は自分が犯した殺しの動機を考えて理由なく、楽しんで殺していないと確認する。

が、それは責任転嫁に過ぎないという思いが吹き出た。

またネガティヴシンキングになっている。

また、そう逃げ出すのか?

そうだこの問題は…

 

「お〜い繰君、どうしたの?」

 

武蔵ちゃんは俺の目の前で手を振って俺をこちらに戻す。

 

「なんでもな……くない」

 

そうだ。相談するか…あの滅ぶべき都市で学んだことだ。

 

「ん?どうしたの?まぁ、()がうどんを作りながら聞かせてよ」

 

おい待て!待て待て待て待て待て!

これは武蔵ちゃんが作って俺の相談に乗ってくれるパターンじゃないのか!?

 

「ウソン」

 

「何か文句ある?」

 

何故しょんぼりしている人間にそう強気に出れるのかと考えた。

きっとこれも彼女の育て方気遣いなのだろうか、取り敢えず別の目標を目指させてその重さから一時的に抜けさせる手法。確かに一時的には抜け出せるだろうが……いやその策に乗ってあげよう。自分の師匠を信頼しろ。

 

「ないですよぉう!」

 

無理矢理テンションを上げてバッグから『何処でもうどんセット』を取り出す。

 

「頑張って美味しいうどん作ってね〜」

 

「応!」

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