天元の花、零の先へ   作:新川翔

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黒縄

37話

 

〜武蔵ちゃん視点〜

赤い砂を蹴る足音だけがが今の私の存在を示している。罪を燃やす業火は私の肌を炙りジリジリと肌はいたるところが焦げている。その痛みは私に歩む事を急かし続けて止む気配がない。

 

息が苦しく、肺が少しでも酸素を欲しがって呼吸をする。しかし、その呼吸は喉を焼き更に息を苦しくさせる。

それでも、生きている事を実感する為に『呼吸』というモノは必要だ。私は『歩む』こと『呼吸』することをやめてしまったら自身は死んでしまったと錯覚してしまうだろう。

 

もう、罪人たちの呻き声は慣れた。もう、彼らがどんな罰を受けようとも何も感じない。それでも、いくら見慣れようとも、聞き慣れようとも、私はあんな『罰』を受けたくない。罰を受けることがを享受してしまったら、自分の一番弟子に面目がないと思ったからだ。

 

さて、あれから何ヶ月経っただろうか。もう数えてなどいないが。

 

私は地獄の出口を探して彷徨い続ける亡霊と成り果てた。誰からも認識されず、誰からも認められず、誰も私のことなんて知らない。

私の存在意義はただ、彷徨うこととなっている。

 

私は何をした。私が何をした。

 

疲れなど通り越して棒と成り果てた足の感覚は消え失せ俯く目でのみ観測できる。

今までの旅は出会いがあった。戦いがあった。別れがあった。楽しみがあった。苦労があった。

 

しかし、この(地獄)には何もない。ただ平坦な道を、何も起きない道を、ただ何もなく歩いている。これほどつまらないものがあるのだろうか、

否、存在しない。生きている実感など消滅した。

 

私は時々目線を上げ景色を眺めてすぐ戻す。ある時は罪人達の地獄絵図。ある時は深く暗い森林。ある時は異形の幽霊が跋扈する荒野。

 

どんなに歩いてもこの世界は私を認めない。誰も見向きもしないし、触れることもない。歩むという設定された絡繰がそれの動きを止めずに稼働し続けている。

 

感情はこの環境という紙ヤスリにだんだんと確実に磨り減らされてそのほとんどが亡くなっている。

 

安心、不安、感謝、驚愕、興奮、好奇心、性的好奇心、冷静、焦燥 、不思議 、幸福、幸運、安寧、緊張、名誉、責任、尊敬、親近感、憧憬 、欲望 、恐怖、勇気、快感 、後悔、満足、不満、無念、嫌悪、恥、軽蔑、嫉妬、罪悪感、殺意、期待、優越感、劣等感、恨、怨み、苦しみ、悲しみ、切なさ、感動、怒り、苦悩、懊悩、煩悶、諦念 、絶望、希望、憎悪、愛憎、愛しさ、空虚。

 

それらの人として大切なものについてもこの地の灼熱が燃やし尽くす。いずれ私は植物人間とやらにでも成り果ててこの地で朽ちてしまうのだろうか。

 

ーーーもはやそれもどうでもいい。

 

いや、ダメだ。まだ、終われない。筈だ。私は、まだ。

 

そんなどっちつかずの感情のまま数日歩き続けた。

 

まだ、何も変わらない。そんなことを感じようとした矢先だった。

自身の立つその地が砂利にいわゆる河原に変わっていた。

 

やっと着いたと声を上げようとしたが疲れがそうさせなかった。しかし、この胸は安心で満たされた。薄れていた感情も色彩を帯びてきて思わず笑みが溢れる。

 

(やっと…着いた)

 

ここが三途の川か…

 

 

 

 

 

〜深山繰視点〜

 

 

白い雪をサクサクと踏む音が俺が少しでも進んでいる事を示してくれている。肌を痛みつける冬の風に構っている暇などない。

それにしても、自分はポジティブなったものだと痛感する。今までの俺だったら、途中放棄して悔やみまくって何処か知らない場所で逝ってしまうだろう。

俺は卜伝さんからの頼まれたお使いを終わらせ、それを届けた後すぐに出発した。

目指すは京都。何日間で行けるかは見当がつかないが、大体3日走り続ければ着くのだろうか。

 

呼吸をしっかり確保して一歩一歩踏みしめる。今は彼女のことが心配で胸がいっぱいだったりする。なんだか恥ずかしさを感じながらもそのペースは乱れることはない。

すると、目の前から沢山の人が列をなして歩いて来ているのが見えた。

 

これは見覚えがある。しかし、思いっ切り時代錯誤である。しかし、それっぽいのでここは迂回した方が良さそうだ。そうして、来た道を少し戻る事を決意した。

 

「あれって大名行列ってやつ?」

 

皆さんご存知の参勤交代である。いや、ただ有名な人が移動しているだけなのかもしれないが、ここは東海道。江戸に向かうのならば、この道を通るのもおかしくはない。

 

だと仮定したら、あの卜伝さんは何者なのか。そもそも、俺たちが旅しているのは『何処か間違った世界』なのでなんら問題はないが。

 

いや、問題しかない。

 

江戸時代になっても塚原卜伝が生きているという『間違い』受け入れたことはさておき、そもそもこの世界修正の旅の原因であるアトラスは倒した筈だった。それで何故この旅が続いているのかそれが疑問に残る。

 

が、そんなことより今は師匠のことがとても心配だ。早く彼女の元へ向かわなければならない。多分、彼女の精神では独りぼっちで地獄を過ごし切るのは到底不可能であろう。

 

なんだかんだで彼女は人と関わりあっている。どんな目で見られようともその旅の中で認識されていたに違いない。自分はずっと一人で生きてきたと言い張る捻くれ者ならば話は別だろうが、彼女はそうではない。

他人に依存している。

それは人間の美点であり、汚点である。

共に助け合いそこに芽生える友情はやはり、強固で頑丈で素晴らしいものだ。

しかし、依存していたものがなくなるか壊されるかで人は鬱を感じる。時には自ら死を選ぶものもいるかもしれない。

 

だから、その後者に存在されている彼女は大変に危機的な状況だ。

折角、俺を、俺と一緒に居てもいいと言って認めてくれた人だ。別に、今まで俺に居た人達がそれをしなかったわけではないが、彼女はそれを俺に伝えてくれた。

だからだろうか、俺が彼女を特別視しているのは。

 

そして、自分に喝を入れて足を早めた。

 

 

 

 

〜武蔵ちゃん視点〜

 

(ここが…三途の川か)

 

やっと、かえれる。

その達成感に絡繰が壊れそうだが、懸命に耐えて歩みを耐えさせず、

ゆっくり、その川に足を踏み入れる。

 

川はちゃぷと、静かに音を立る。ひとまずここを超えられれば!

 

どんどん水位は深くなっていく、されど、私はそれにお構い無しに歩く。

水は『死』のように冷たい。しかし、私の胸は『生』で暖かくなってゆく。

 

「やっと…」

 

しかし、そこは何処か川ではない別の場所だった。

 




教えろ!二天一流道場!

「はいどうも、熊です。一人です。だってあの二人あんな状態だし。

それでも言うことはあるので出現します。

この小説内では地獄と現世では時間の進み方が違います。現世での1日が地獄では1、2ヶ月です。

でも、深山繰が地獄から戻された時は地獄で過ごした相応の時間経過がありました。あれは閻魔大王が時間を合わせて送ったということです。この設定はいづれ説明する予定でしたが、説明されるに指摘されたらまずいと思ったのでここで補足としました」

それで…水着武蔵ちゃん来い!
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