天元の花、零の先へ   作:新川翔

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爆死の達人さん誤字報告ありがとうございます。


その3

3話

 

映像が流れる。

線はいくつものに分岐し別れ時に伸び過ぎた線は切られ都合の良いものだけが続いてゆく。

 

聞こえる。

 

「€]£^]€^_,+[+,・{$,]£^€&%]+>\」

 

阿鼻叫喚、悲鳴の数々が脳内で反響する。

とんでもない違和感が身体中を駆け巡って、負のモノが侵食して、

 

「]&“&[※>=<=‘※\[&}+\」

 

狂喜乱舞、歓声の数々が身体中で反響する。

人の欲望は際限なく生まれ、自惚れ、おごり、自尊が脳内を埋め尽くす。

 

「ぁったく」

 

この目(手繰る魔眼)の影響なのか俺は時々こんな夢を見させられる。

どうしようもない漠然とした絶望というものは、これ程、恐ろしいものなのだろうか。

人々から生まれる欲望とその感情は、これ程、人を腐らせてしまうものなのだろうか。

そんな、こんな情景を見せて、何がしたいのだろうか。

 

外を見ると日が登りかけていた。日暮れは夜を照らし始めている。

体を起こすと、背中に痛みが走った。どうやら床で寝てしまっていたらしい。そういえば、右手にガーネットがない。

 

「あ」

 

俺は寝相がとんでもなく悪い。

例えば、朝起きたら上半身裸でさらに、180度回転していることもあるくらいだ。仰向けから俯せではない。南から北である。

これは親から聞いたことだが、一度だけゾンビのように家を徘徊していたことがあるらしい。最早、寝相の範疇ではない。

まぁ、そんな事はそれ以来怒ってないのでこの寝相の悪さは治っていると信じたい。

そんなわけで、別に寝る前に握っていたものを何処かに投げるのは不自然でもなんでもない。ただの普遍的な事象である。

更にその投げたものをなくしてしまうのはよくあることだ。しかし、この代物に関してはそうはいかないので痛みで悲鳴をあげる体に鞭打ち立ち上がる。

10分間の探索により、ソファの下にガーネットを発見した。

 

無事に見つかってホッとしたところでベッドのある部屋に移動した。

武蔵ちゃんは俺よりも早く起きて瞑想している。自然と一体化してるとまでは言わないが、とても幽玄的な出で立ちであった。

すでに、いつもの着物を着用していて、今日の決闘のために精神統一でもしているのだろうか。

彼女は俺がドアを開けた音に気づいて振り返る。

 

「ノックくらいしなさい」

 

「すいません」

 

 

 

 

 

それで、俺達は昨日買った朝食を談笑しながらとって一休み。

 

「よっし。行くわよ繰くん」

 

の筈だった。

 

「え?どこ行くの?」

 

「ちょっと体を動かしにね。なので、付き合っていただきましょう」

 

つまり、ウォーミングアップをしたいらしいのだが、俺なんかに相手が務まるのだろうか。昨日の稽古で自明ではあったが、俺と武蔵ちゃんには雲泥ほどの差があることが証明されている。

彼女が言うのならば、何かしら役に立てることがあるのかもしれないが、不安になってくる。

 

「俺なんかでいいのか?」

 

「ん?別にいいわよ。気にすることないって」

 

彼女は俺の質問に素っ気なく答える。

その口調から、信頼されてホッとした感情と、もしかしたら、どうでもよく思われているかもしれないという不安が胸中で渦巻く。

その複雑な感情はこのネガティヴ思考は直さなくてはならないという新たな感情を芽生えさせた。

そもそも、相手の一言で動じて、真意を汲み取ろうと考察して、そんな風に生きるのは息苦しいだろう。それに何故その思考に行き着くのか自分でも分からない。

 

 

俺達は昨日稽古で来た場所にまた行った、取り敢えず、準備体操を進めている。

朝の動きにくい体をストレッチでほぐしながら俺自身の戦い方について考える。といっても、何も有効そうな手は思いつかない。

昨日は結構手応えがあったのだ。これ以上を求められても、俺には何も思いつかない。そうとなれば…………どうしよう。

え?何も思いつかないんですけど。

しかし、安心しよう。俺の右隣には、かの剣豪と呼ばれる二天一流開祖の宮本武蔵その人がいるのだ。彼女に聞けばきっと何か手がかりを教えてくれる筈だ。

きっと、宮本武蔵らしい斬新な答えが、驚くべき的確な答えが返ってくるのだろうと、思い切って相談した。

 

「え?ぁっ、そうよね…弟子だもの……え〜っと、」

 

おいおい、いやまさか、そんな訳な…いやこりゃあ、あるな。

確かに宮本武蔵って誰かから師事されているイメージが一切ないもんな。基礎的な部分は教わったのだろうが、その後は感覚でその腕を磨いて来たのだろう。

そうでなかったら、その二刀流という特異的な型を作り出せるとは思えない。

 

「う〜ん、じゃあ…あの稽古中に言うから!」

 

逃げるな。

 

 

 

 

 

稽古も終わり休憩時間を十分にとった後、決闘の時刻になった。

試合場は青い布が被せてある柵に仕切られていてとても人だかりができている。区切られてはいるが、貴族のような人達、一般市民の人達、様々な階級が揃っている。

 

「流石の賑わいだね。武蔵ちゃん」

 

「ええ、さって、どんなヨーロッパ一番剣士は誰になるのか。気になるわね」

 

騒めきの中、両者入場する。

方や華奢な体格の美男子。

方やどこにでもいそうな老婆。

 

「え?誰だあの老婆」

 

俺は困惑した。

 

ーーー話によるとデオンの騎士はこの決闘時女装をして闘いに臨んだらしい。

 

噂に聞いた天才騎士は現行の近衛兵らしいのであの華奢な体格をした男だろう。

となるとあの老婆はデオンの騎士となるのだろうがいや、あれは本当に女性なのか?体格が男のそれに見えるのは俺だけではないだろう。

女装趣味のお爺さん……いや、彼女は、女だ。きっと。そう無意識に思った。

勝利の行方をここにいるほとんどの人が天才騎士の勝利であると、確信していただろう。

だが、少なからず一人違う結論に至った者がいる。

 

「恐ろしいわね…あのおばさん」

 

「どういうこと?武蔵ちゃん?」

 

「ありゃ空位に達しっちゃってるんじゃない?相手の近衛兵君もなかなかの腕だけどおそらくあのおばさんの圧勝でしょうね」

 

武蔵ちゃんはそう言って老婆を獲物を見るかのようにニヤリと笑いながら見据えている。

その答えを信じられずその老婆を二度見する。

確かに体格は男らしいけれど、確実に歳が違う。

 

「え?」

 

「どうしたの繰君?」

 

「いや、流石に信じられないんだよ。技術で力に勝る展開は幾度か見たことはあるんだけど」

 

この試合はある意味エキシビションの意味合いを含んでいるのではないのだろうか。

大きな伝説に新たな世代の者が勝つことによって、その新人に大きな信頼を得させることができる。

その世界の引退した伝説的存在と新たな希望のある者を戦わせるというのは、スポーツ番組ではよくある企画だ。

その戦いにはデメリットがほとんど存在しない。伝説が勝ってもその伝説を誇示でき、希望が勝ってもその希望が信用される。

デメリットといえば、伝説が希望に圧倒的差をつけて勝った場合のみ、その希望が疑問視されるということだ。

きっと、この決闘はその意味合いも兼ねているだろう。だからこそ、実力は拮抗もしくは、希望が上回っているだろう。

 

 

しかし、勝負はデオンさんの勝ちで終わった。

仕掛けたサン・ジョルジュという近衛兵はすぐさま一瞬で七度突きを放たれて敗れてしまった。

本当に一瞬であった。瞬きの間に七度も突いたのだ。

 

「それじゃあ、行ってくるか…」

 

彼女は息を大きく吸って鋭く吐く。

 

「頑張れ、武蔵ちゃん」

 

弟子からの小さな激励に「応とも」とも答えて、彼女は人集りを飛んで決闘場に立つ。

 

「そこのご婦人!中々の腕と見た!」

 

「貴方は何者かしら」

 

デオンさんは突然の乱入者に驚かず冷静に対応する。

まるで、彼女の存在をあらかじめ知っていたかの様に見据えている。

 

「えっと、私の名前は新免武蔵守藤原玄。日本人です。貴方の腕の噂を聞いてはるばるやって来ました」

 

「日本はキリストの国と交流を持たないと聞いていましたけど…」

 

「はい、そんなことはどうでもいいのです。そんな事よりほら、皆さんの目を見てください」

 

辺りの人々は突然の乱入者によって混乱し、興奮していた。

この剣士は何者か、どの位強いのか。

 

ただし、たった一人を除いて。

 

(あぁぁぁぁぁぁぁぁ!)

すっかり忘れてしまっていた、何をしているんだ俺は。

鎖国中なのに外国に日本人が居るのはどうかと思う。

これでは、あとでゼルレッチ爺さんに怒られまくるし、抑止力に殺され……?

いや、抑止力というものはそのズレが起こる前に作動するモノだ。それが、起こっていないということはこの事象は本来の歴史に沿っているのだろうか。

いや、そんなはずはない。普通だったら、何かしらの記録が残っているだろう。それとも、俺が知らないだけなのか。

 

と考えていてもも止まらない。

今彼女を引っ張って連れて帰っても彼女が日本人だと名乗ってしまったし最早手遅れだ。

 

(もうどうにでもなれ!)

 

そう心の中で叫んだ。

 

 

 

 

勝負は拮抗している。

一進一退というよりは互いがせめぎ合って押し合っているような感じだ。

早すぎて捉えられない剣戟をいつまでも繰り返す。

 

(武蔵ちゃん。昨日は本気出してなかったな)

 

彼女との大きすぎる差をまた実感しながら、必死に剣戟を目で追う。

ただ早く、速い。突いては払われ、切っては払われの繰り返しである。

西洋の剣の戦いに慣れていないのか武蔵ちゃんが押されていると見受けることはできるがそれは相手も同じ事である。

明らかに武蔵ちゃんの方が手数が多いのに拮抗しているのは不思議だった。

 

キン、ガキン、キキキン!

 

鉄同士が打ち合う音がただ響く決闘場は俺にとっては少し滑稽だった。

俺の決闘場のイメージはローマのコロッセオのような感じだったので。

 

しかし、勝負は急に終焉を迎える事となる。

 

この時のデオンの齢は59。

最早、長時間戦い続ける体力はなかった。

 

「勝負ありました」

 

「ええ、私の負けですね」

 

歓声がどっと巻き起こる。

突然やって来た謎の東洋の剣士にヨーロッパ最強の称号を取られてしまったのだ。

 

「何者だ?」「まさかデオンの騎士が」「日本って確か…」

 

辺りからのざわざわとした声に少し耳を傾けながら武蔵ちゃんに向かって『帰ろう』と仕草をする。

武蔵ちゃんはデオンさんに一礼をしてこちらに向かう。

 

結果、俺たちはかなり遠回りをして変装もしてやっと宿にたどり着いた。

 

「お疲れさん。武蔵ちゃん」

 

部屋に着いたことに安心して雑談に興じる。

 

「ありがとう。繰君。いや〜きつかったわエオンの騎士」

 

「そうだったのか?」

 

「ええ、強いのなんのだってあんなに早く突きを放たれちゃったら避けるのに一苦労よ。今回の勝因はやっぱり年の差よね…。世界にはこんな強い人がまだいるのかって痛感させられたわ。零に至った程度じゃダメなのかぁ」

 

「まぁ、まだまだ先はあるってことだよ武蔵ちゃん」

 

「キリなさすぎ!」

 

「そういうもんでしょ」

 

普通の和やかな談笑に自然と笑みがこぼれる。

のだが、2時間後には俺達は連行されているのだった。ほんと、笑えない。




次のサンタって誰なんでしょうかね…

出来れば武蔵ちゃんで!←(何言ってんだ。もうサンタみたいな服装してるだろ)←(突っ込むのそこかよ)
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