天元の花、零の先へ   作:新川翔

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衆合

38話

 

吹雪が視界を埋め尽くす。凍てつく寒さは肌に痛みを与えて感覚を無くし、吐く息は白い。俺が進むのを妨害したいのか強烈な向かい風が吹く。雪が顔に当たらぬように深く傘を被り直す。

 

一歩一歩進んでいることを踏みしめて、前へ進む。目を強化しても視界は一切晴れない。途方もない暗闇の中で自分の道を手繰り寄せ、寒さに凍らされている自我を必死に保つ。

 

その風にあおられて倒れそうになるも、足を雪に突き刺して踏ん張る。しかし、下半身が耐えきれても上半身は耐えきれなかった。

後頭部を守るため体を回転させて横向きに倒れこむ。

 

雪に半身を埋めながらため息をついた。口の中に雪が入って思わず吐き出す。

ずっと倒れてなんかいられない。すぐに立ち上がって落ちた傘をかぶり直しまた歩き出した。

 

「武蔵ちゃん、大丈夫かな」

 

恥ずかしくも、今この胸にあるのはこの感情が大部分だったりする。

確かにこの道はとても厳しい。それでも、彼女と感じているものとは比べ物にもならない。まだ、この現象は自然現象の範疇だ。彼女の体験しているソレはまさしく空想の産物。彼女の方が辛いのは明らかだ。

確かにその空想に届くまでの『この世の地獄』は存在しているが、きっとこんなもんじゃないだろう。

 

傷ついた肌なら治療すればいい。

地獄がどんな状況なのか、どんな法則なのか、少しだけ滞在していただけではわからないことはたくさんあるはずだ。そして、そんな不確定要素とこの程度の傷など比べ物にならない。

 

夜になると、雪は更に強さを増す。

夜は暗く、雪は白く視界はもっと厳しくなっていく。その時、現れるのが醜い化け物の暗殺者だ。

 

「grrrrrrrr」

 

「やっぱ来るよな」

 

地獄であったアレの様なモノが明らかに敵意を示した声で唸っている。

しかし、恐れる事はない。俺はこれに既に5回遭遇しており弱点をおおよそ把握してきた。

珥加理刀を抜いて目を凝らして自分の未来の影を写し取る。

 

まず、これは弱点とは関係ないがアレは視覚を持っていない。証拠としてアレはどんなに視界が悪くとも俺を見つけ、俺の方向に敵意を示している。

 

俺は襲いかかる爪を陰に従って避ける。それでも視界がほぼ無いのは流石に分が悪く頰に傷を負った。調子に乗るとすぐこうなる。

 

凍える風が傷にを凍らせる。そんなのは後で治療すればいい。俺はアレを後ろから斬り下ろす。

コレにはおそらく、命のストックがある。それはコレが内包している怨霊、怨みの分だけだと推察しているが、そのストックが亡くなって切り替わるまでに全く動かなくなるインターバルが存在し、その間に斬ると切り替わる分のストックを消せる。

なので切り続ければいつかは消滅するのだ。

 

俺は命を切り換える隙も与えず切り続ける。

その度にコレは命の灯火が消える音を上げて、踠いて、死ぬ。

 

「gxgyaaaaaaaaaaa!」

 

「gxgyaaaaaaaaaaa!」

 

「gxgyaaaaaaaaaaa!」

 

罪悪感を覚えながらもその感情を殺して滅茶苦茶に仇を討つかのように斬り殺す。この生き物の想いを潰す作業に少し慣れてきた自分にうんざりしながら音が聞こえなくなるまで切り尽くした。返り血のような黒い粉は俺の新調した絶妙に似合わない服についた後、宙に舞う。

 

夜空を見上げる。星なんて見えるはずもないのに、何か綺麗なものが見たいと思った。

息を思いっ切り吐いて気分を切り替えてまた、歩き出す。

吹雪はまだ激しく俺の体を蝕んでいく。それでも、彼女を助ける為だというのなら御構い無しな自分の精神で無理矢理体を動かし続ける。

 

 

 

 

「着いたか…」

 

俺は4日間歩き続けてやっと京都に着いた。

足は既にパンパンになっていて、勿論筋肉痛もひどい。

しかし、その4日間でこの世界について情報収集ができた。

 

まず、この時代は寛文11年、西暦だと1671年。

どうやらここ最近、日本中が異常気象に悩まされているらしい。俺が経験した吹雪も勿論、奥州では暑さがひどく干ばつが発生しているという噂もある。さらに、夜中に遭遇する様々な姿形をした魑魅魍魎。そして、俺が今到着した京都では疫病が流行っているという。

 

そのため、京都の街には気力が無く道端のゴミのように病気に侵された人々が倒れている。生きる気力を喪った人々の様子は正に地獄だった。空気はどよめいていて只々

死を待っているこの都は崩壊していた。これでは、町の人たちに六道珍皇寺の場所など聞き出せそうにない。それに俺のような一人で旅をしている奴はそこらじゅうを歩いていると強盗に遭遇しそうだ。それに俺の右手には深山家の特性使い魔の10の宝石と超治癒のガーネットが6個。これだけの金品があるのならば狙ってくださいと言っているようなものだ。

 

しかし、人々に場所を聞き出せない以上、自分の足で探すしかない。つまり、この日の内にあの井戸に辿り着く必要がある。

俺は旅の疲れを感じつつもそれを放っておいた。

 

しばらく探索し続けるとなんだか高貴そうな人達が向こう側から歩いてきているの見えた。俺は建物と建物の間に滑り込んで彼らを伺う。その装束などから見て恐らく陰陽師だろうか、道端でゴミのようにボロボロな人たちは彼らを救世主かのように手を合わせて崇めている。俺はもう少し奥へ進んで耳を潜める。

昔、陰陽師は疫病が流行ったり、自然災害が起きた時など不幸なことが起きた時にお祓いをしてその病気の拡大の防止など行うのだ。あの一行の行き先が神社の密集地などであればそこから六道珍皇寺場所を掴めるかもしれない。

 

強化した耳で彼らが仲間同士で囁く言葉を聞く。

 

「〜〜〜はこの先か」

 

「ああ、〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

 

彼らの足音や荷物が揺れる音であまり聞き取ることが出来なかったが、どうやら何処かへ向かっているらしい。ならば、俺もそれについて行くとしよう。

 

 

その先は意外にも六道珍皇寺だった……て、不味くないか?そもそも何故陰陽師が寺に用があるというのか俺は彼らの後ろから様子を伺っている。寺の境内から何人のお坊さんが出てきて何やら言い争いを始めている。

 

「その先に元凶があるのだ!」

 

とかなんとか話している。俺はあの井戸のことを連想した。

コレは時間経過につれて面倒なことになりそうだと思い裏から回って敷地内に入ることにした。

 

中も京都の様子同様、瘴気で満ちていて息苦しい。いや、町の中よりもここの方がその瘴気が濃いと素人の俺でも肌で感じられる。あの陰陽師達が言っていることもあながち間違いではないのかもしれない。

 

境内を走り回ると、悍ましく暑いあの地獄の空気らしきものが流れている所を見つけた。

どうやら、ここが卜伝さんの言っていた井戸らしい。

その空気は熱を帯びていて死の香りが鼻孔をくすぶる。

 

それでも、迷っている暇はない。恐れている暇はない。

今すぐに彼女を助け出す為に、俺は井戸の縁の手をかける。

その時。脳にあの景色がフラッシュバックして体は止まるように言って動かない。

 

ああ、それでも恐れるな。それでも行かなくてはならない。だって俺は彼女の弟子だから。

 

覚悟を決めて井戸の中に飛び込んだ。

 

底に向かう程その香りは強くなっていく。気温は高くなってくばかりなので雪から身を守るための羽織を脱ぎ捨てた。

 

そういえば、着地について何も考えていなかった。

 

「あーーーー」

 

落ちるスピードが速くなるにつれて俺の焦りは大きくなる。取り敢えず体を強化して…どうにかなるものではない。

ところカッコ悪く死ねるかぁ!

と、壁に手をつけようとするがそんな事したら指が取れてしまう。

という心配は無用だった。

 

落ちるスピードは少しづつ遅くなっている。このままいけば無事に着地できそうだ。

 

そうして俺は地獄に戻ってきた。

この熱気、この呻き声、この背中に流れる冷や汗。恐怖からくる震えを武者震いに変えて『鎧』の繋がりから彼女の場所を特定する。

 

「……遠いな」

 

何だあの地獄の果てみたいなデタラメな場所は。これじゃあ徒歩で何ヶ月かかることだろうか。

この疲労困憊、満身創痍の状態でまだ運命というものは俺を働かせるらしい。

しかし、ここまで来て引き返す気などない。

ここまで気持ち悪いほど師匠の…気持ち悪っ!だめだ。考えちゃダメだ。吐き気する。自己嫌悪で死ぬ。

 

ガーネットを取り出して、体を全快させる。ここからが正念場だ。地獄が俺の精神を焦がし尽くして炭カスにするのが先か、俺が彼女を救って戻るというテンプレが先か、多分焦げ死ぬがなァ!そんな事ドォデモイイ!

 

と、壊れかけてきた自分を修復して赤い血の空を眺める。

何処までも染まっている。何処までも絶望が漂っている。俺はアタッシュケースからルビーを取り出す。空から行けば幾分楽になるだろうという算段だ。しかし、この『竜騎士』は魔力消費量が多すぎる。飛んで降りての繰り返しになるだろう。

 

さて、上がったり下がったりの旅であるという予想が立ったので、出発だ。




「以蔵君!もう少し若ければ!」

「静まれ武蔵ちゃん!」

「ヤベェ、これじゃあ(あるかどうか分からない)水着武蔵ちゃんのための石が…」

「「黙れ熊!」」
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