天元の花、零の先へ   作:新川翔

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「ぼくたちは勉強ができない」はいいぞ!(挨拶)
はい、一週間ぶりです。
これから約一週間に一回投稿にしようと思います。


焦熱

41話

 

その後、獄角さんの口添えもあって俺たちは地獄の鬼達と協力してこの異変の収束に計ることになった。まず、閻魔大王から受けた指示は井戸の前で攻めようとしている陰陽師達を止めることだった。

どうやら、今にも進行しそうだった彼らは一度もこの灼熱の大地に足を踏み入れていないらしい。どうしてかと問うたところ、どうやら地獄と現世では時間の流れが異なるようだ。現実での1日は地獄では1、2ヶ月に相当するらしい。

つまり、俺は彼女を地獄に1、2ヶ月も置き去りにしたということだ。

こればかりはどうしようもないが、もっと早く迎えなかった自分を悔やみながら井戸の前に立つ。

心が震えている。どうやら地獄の出入り口が少しトラウマになっているようだ。

それにしても、おかしいことがある。

それは普通に井戸があることだった。俺は地獄に行くために井戸に飛び込んで落ちていったのだ。それが怖くてびびったのに結局は勝手に速度が落ちて無事に着地できたのを覚えている。

しかし、目の前にあるのは普通の井戸。重力逆らってるとかそうい…

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ぐだぐだと考えている俺は背後から無言で武蔵ちゃんに突き落とされるのだった。

 

 

 

 

結局、また地獄同様に現世に降りてきたのだった。

後ろを見ると井戸が佇んでおり、その上には俺たちが出てきた穴の様なものは存在していない。もう、俺は考えるのを諦めた。

 

「で、どうやって陰陽師さん達を止めるつもりなの?」

 

「俺たちは地獄の使者としてここに来たって設定にするつもりだ。ちゃんと閻魔さんからは許可は得てる。この肩書きはかなり痛いけど、地獄っていう罪を裁くための場所からやって来た奴らが嘘をつくことは彼らは考えないでしょ」

 

「へぇ。で、その人達はどこにいるの?」

 

「俺が来た時は表で言い争いになってたからな。多分その辺にいるだろうけど」

 

すると、六道珍皇寺の本殿らしき建物の方から怒号などの人の叫び声が聞こえてくる。どうやら、そこで寺のお坊さんとここに押しかけた陰陽師さん達がそこに集まっているようだ。

 

「武蔵ちゃん、これを」

 

俺は武蔵ちゃんにある道具を渡す。

 

「なにこれ」

 

「なにって、角だけど」

 

それは髪ピンに小さな三角柱の角がついたものだった。

地獄の使者だと名乗っておきながらただの人間の様な容姿であったら怪しまれるに違いない。ならば、鬼の様な容姿になればいい。

流石にボディペイントは恥ずかしいので断念した。というか好きでもないのでしたくない。

ピンはお互いの髪の色に合わせて武蔵ちゃんのものは薄紅色、俺のものは黒色に塗装してある。

 

「こういうのって『こすぷれ』って言うのよね。なんだか恥ずかしいわ」

 

普段からコスプレみたいなことしている人が言えるセリフではない。

いや、彼女の場合はその服装が普通なのでコスプレでもなんでもないのだ。しかも、俺は今防寒のためこの時代の服装に着替えている。

コスプレをしているのは俺の方なのだ。つまり、全くもって人のことが言えない。

こっちが恥ずかしくなった。

 

武蔵ちゃんは何処からか小さい鏡を取り出して慎重にそれをつけている。

それを見ているのもなんだか人を観察しているみたいで罪悪感を覚えたので振り返って適当に角付き髪ピン通称『角ピン』をつけた。

 

「ちょっと待ってて」

 

武蔵ちゃんはその鏡を見ながらじっくりとその角ピンの位置を調整している。

しっくりくると、頷いてその鏡をしまった。

 

「さて、行こっ痛っ!」

 

俺が歩き出そうとしたところを武蔵ちゃんは首の根っこを掴んで阻止した。

凄く痛い。ギリギリと俺の首が悲鳴をあげている。今にも頚椎が粉々にされそうで俺は痛さによって無様にもだいている。

 

「ほらほら、ずれてるわよ。直してあげるから動かないで」

 

「いやっ、その前に手ェ!」

 

「あ、ごめん」

 

痛みに解放されてホッとした。このままでは首がお陀仏になっていたに違いない。

すぐに彼女は俺の頭のピンに手をかける。なんだろうこの構図は。

なんだ武蔵ちゃんは俺の親か?いいや師匠だ。

さらに言うまでもなく、とんでもなく恥ずかしい。本当に対面していなくて良かったと安堵した。もし、そうだったら俺の顔は真っ赤っかになっていたに違いないからだ。そんな顔を彼女に見られてしまったら死んでしまうことは確実である。

少しして彼女の調整が終わって、それの合図として頭を二度、軽く叩かれた。

 

「ありがとう、武蔵ちゃん」

 

俺は踵を返し、揃えてお礼を言おうとする。

その時、俺は『つけ耳の暴力』というものを心の底から思い知らされた。

耳というよりは角だが、そんなことは関係ない。

大切なのはたった一つアクセントを加えることによって如何様にも化かしてしまうということだ。

俺はそれを目の当たりにしてしまった。

 

「どうしたの繰君?急に止まっちゃって」

 

「い、いや、なんでもない…」

 

武蔵ちゃんは俺を心配して目を見てくるが、その蒼く澄んだ目が身体を硬直させる。

それは『つけ角』だけではなく、この『彼女と近い状況』がそうさせているのだろう。

魔術で調べなく(診察せず)とも、心拍数が上がっていることが分かる。

心臓の拍動が身体中に響いて動けない身体を放っておき、まともに活動している口だけを動かす。

 

「っ、近」

 

そういえば、これだけ彼女との距離が近かったことがあっただろうか。

なんだか互いに気を使って互距離を置いていた様な気がする。

ロンドンで一緒に情報を聞いて回った時も、北京に向かう旅路も、幻の大陸でも、そして、此処でも。

だから、いつまで経っても慣れない訳だ。かといって、この近い距離を保とうとは思わない。そんなことでもしたら、精神が持たないからだ。

すぐにオーバーヒートしてしまうだろう。

それにしても、情けない声だった。

 

「あっごめんね」

 

彼女は気づいてすぐにその身を引いてくれた。

しかし、感情も脈動もまだ収まってくれない。本当に俺って童貞である。

 

やがて、声がしている寺の本殿というべき大きな建物の近くに着き、周辺の建物の影からそれを覗く。

そこでお坊さん達と陰陽師の人達が暑い口論を繰り広げていた。

 

「ほら、繰君!行った行った!」

 

どうやら、彼女はこんな面倒ごとを俺にやらせるつもりらしい。

俺は激しい口論の頃合いを見てそれに割り込むような形で登場することになった。

ちょっとしたコスプレか、それともアタッシュケースなど持っている持ち物が特異的だったか、信じてもらえることには成功した。

また、『黒装束の陰陽師』が怪しいという共通の認識を得たので成果は上々といえよう。

 

なんとか騙し切れたと安心し、つけ角を取って井戸から地獄に戻ると、すぐそこに獄角さんが待っていた。

金髪の鬼を見た瞬間に武蔵ちゃんは飛びついた。

その突心を片手で受け止め獄角さんは呆れて一つため息をつくと、口を開いた。

 

「ほら、報告書だ。閻魔大王様にすぐ提出しろ。部屋は貴様らが使っていた場所を使え。あと例の陰陽師の件だが、目撃情報が見回りの鬼達から寄せられている。目を通して調査しておけ」

 

「「はい?」」

 

「その調査も終わり次第報告書を作成すること。ああ、食事に関しては適当なタイミングで食べてくれ。それと、地上の陰陽師や寺の坊主達には貴様らが連絡を取れ。宝石くれ。後は、地獄の調査に必要な地図はお前達の部屋に置いてあるから自由に使え」

 

なんだこのブラック。

半分以上覚えていないんだが。これは多分聞き直したら怒られるパターンだろう。いや、俺が経験していないだけで社会人ではこれくらい普通なのかもしれない。可憐な鬼を見て頰が緩みきっている隣の武蔵ちゃんだが、彼女は護衛役をしたことはあっても、歯車として働いたことはないだろう。一切合切当てになんない。

 

「分かったか?」

 

「「……はい」」

 

結局、俺たちは仕事の内容を半分も把握せずに獄角さんに言われるがまま、同意してしまった。

 

「武蔵ちゃん、どうしよう?」

 

「…まず帰りましょう」

 

なんか面倒臭いから取り敢えず、帰ろう。

そんなノリで俺たちは足を進めた。そんなノリだからこそ、道に迷ってしまう。

此処で文字通り地獄を味わったはずなのに、どうやら完全に油断したらしい。

いや、これはなんか気分的に投げやりになった俺たちの責任ではない。道を教えなかった獄角さんが悪いのだ。そうだ。違いない。

 

「どうするの?武蔵ちゃん?」

 

「私に聞かないでよ!元はと言えば獄角ちゃんのせいでしょ!」

 

「ああ!そうだな!奴のせいだ!」

 

「で、どうするの?繰君?」

 

「俺に聞くなよ……元はと言えば獄角さんのせいだし」

 

なんだこのデジャヴ。

そんな無駄なやり取りを数度繰り返すうちにお互いにこのノリを止めることができなくなってしまう。

なんと呑気なことだろう。地獄で迷子なのにとんでもなくマイペースであった。

 

そのノリに飽きた頃、俺は『探索者』を空に飛ばして帰る方法を思いついた。

見事に目的地を見つけ今はそこに向かっている。

 

「そういえば武蔵ちゃん」

 

「何?」

 

「俺が気絶してた間に何かあった?」

 

そう言えば、なぜ武蔵ちゃんはこの地獄で認識されるようになったのだろうか。いや、それは嬉しいことこの上ないのだが、訳は気になる。なにかがあったとすれば、それは俺が気絶してた時だろう。

 

「う〜ん………怨霊斬った」

 

「あぁ!ありがとう!」

 

「ええ」

 

俺は獄角さんが倒してくれたと思っていたが、本当は武蔵ちゃんのようだった。

俺のお礼を彼女は照れくさそうに答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が地獄に焦がされ力尽きようとしたその時だった。

僅かだが、微かだが、私を呼ぶ声がした。

私はその声に答えた。その声を私は放って置けなかったのだ。

弱々しくて後ろ向き、低いプライドを引っさげている彼は私のことを慕ってくれている。

私の人生というものは決して絶賛してもらえるものとは思えない。

厳しくなったら逃げる。勝つためならなんでもする。

ああ、汚いだろう。

そんな私を心から尊敬してくれた。

なんだかむずがゆかった。だけど、このかゆさは別に嫌いじゃない。というか好きだ。

側で自分を支えてくれる存在はいてくれると嬉しい。だから………。

まぁ、一人前になるまで育ててあげましょう!それが私のこれから旅をする理由!

 

 

 

目を開けると目の前には巨大な怨霊。

背後には愛弟子。

私は気を失ってる彼の持つ業物を手にとって引き抜いた。更に自分の刀を一刀抜いて構える。

 

 

 

南無。天満大、自在天神。

 

 

馬頭観音、憤怒を以て諸悪を断つ。

 

 

この一刀こそ我が空道、我が生涯。

 

 

伊舎那大天象

 

 

 

 

 

地獄とは欲を罰する場所。

故に無欲は認識されない。自身の存在を確立させるほどの存在論()がなければならないのだ。




本作の地獄について
本来なら一日が500日に相当するそうです。流石に武蔵ちゃんが耐えきれないと思い1日が数ヶ月であると変更しました。
あと、変な設定付加してますね。そこは『二次創作』だと大きな目で見ていただければと思います。
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