天元の花、零の先へ   作:新川翔

46 / 49
どうやら、何度見返しても誤字を発見できない呪いを受けているようです。


武蔵塚原試合図その1+夏のおまけその2

44話

「これで、契約完了ってこと?」

 

「ああ、どう?何か変わった?」

 

俺と武蔵ちゃんの間にやっと正式な契約が結ばれた。魔術経路(パス)が繋がっていることを実感しながら、彼女への変化を訪ねる。こちらの変化といえば、魔力が取られてかなりの違和感を感じているということだ。やはり、サーヴァントとの契約は通常の使い魔よりも多く魔力を消費してしまうようで、この規模の消費量だと『竜騎士』の通常運転もままならない。

『守護者』以下の魔力消費量の使い魔で一体のみなら通常通りの使用できるだろう。武蔵ちゃんは屈伸したり、跳ねてみたりと体の調子を確認している。

 

「ええ、なんだか身体が軽いっていうか…」

 

彼女は立ち上がって刀を抜き数度素振りをしてみせた。風を切る音が辺りに響いて彼女は一驚する。どうやら調子が良くなったようだった。それならば一安心だとほっと胸をなでおろす。

 

「どう?それなら勝てそう?」

 

「ええ、この力ならね。それにこれくらいなら、あの憎っくき親父殿に歯向かえそうなきがする」

 

その瞳は明らかに決意の目だった。憎しみ、怒りの色をしており、復讐を誓うとは別の反撃を伺う狼のような目だった。その表情は決して戦いを楽しむ『戦闘狂』のものではない。彼女は何を思っているのか数秒間刀を見つめた後、納刀し、こちらへと笑いかける。

 

「まぁ、一度行った世界行けないからそんなこと出来ないんだけどね」

 

…だから、やめてくれ。そんな笑顔は。

やっぱり貴女にはそんな顔は似合わない。心が締め付けられて窒息死しそうな感覚に見舞われる。心苦しくて、痛くて、嫌になる。俺は彼女が時々見せるこの諦めが嫌いだ。なんだか全てを投げ捨ててしまっているような気がして、自分なんてどうでもいいと言っているような気がして。俺に生きる意味を、存在論を与えてくれた師匠がそんなことを言ってどうする。

 

彼女の瞳の奥にある曇りは晴らせない。彼女は本来の宮本武蔵でない事にひどく自覚的だ。彼女は自身が本来の者でない事に自覚的だ。

だからなのか、どこか自暴自棄になる。自分はいらない者であると、何処かで感じているのだろうか。

彼女のわだかまりは消えぬまま俺たちは借家を出た。

 

 

井戸に入って現世に戻る。もちろん、現世の季節は冬の最中なのでその気温差が寒さを一層に際立たせる。俺達は付け角を取り出して装着し、暖かい服装になってから寺の本殿へ向かった。しかし、俺たちが調査やら稽古をしていた約1日は現世では数時間に相当する。その程度の時間ではあちらも情報の整理が出来てなさそうだし、あまり収穫はなさあおうだった。さらに敵の正体が不明な上、情報が一切ないので、調査のしがいがない。きっと、手探り泥沼捜索が始まるのだろうと想像すると少し気持ちが沈んでしまう。

本殿の前に着くと1人の若いお坊さんが俺たちを待っていた。俺たちが現れたのを見かけるとすぐにこちらに駆け寄って、この短時間で何があったのかを簡潔に話してくれた。

俺たちがここに着く少し前に犯人と思われる人物から律儀にも犯行予告が届いたようだった。その若いお坊さんに案内されて本殿の中に入る。

仏前でお坊さんと陰陽師の人だかりができており、ざわざわと騒いでいる。

案内役の彼が

 

「地獄より使者が到着なさいました!」

 

と大声を出すとその騒めきは静まってそこにいた全員は一斉にこちらを向いた。団体行動のように真顔で本当に一斉にこちらを向くのだから少し不気味さを感じた。その中心で前にここを訪れた時に会ったこの寺の住職の人が手紙を持っていた。武蔵ちゃんと俺は自らその輪に向かって手紙を手に取る。

それは予告状であった。その予告には『京都を怨念で満たす』というなんとも悪役の行いそうな所業とそれを行う時刻が記されていた。さらに手紙の右下に『蘆屋道満』と名を記して。

それが悪質ないたずらであると思えてしまうほどに胡散臭いことはその場にいる誰もが感じていた。しかし、少なからずこの京都でそんな事をできる精神と経済の余裕を持つ人物などいない。街の風景から察せられたが、これは応仁の乱の後くらいの深刻さだ。実際俺たちの周りにいるお坊さん達や陰陽師の人達は痩せ細り生活にとても困ってそうだった。この寺の建物も掃除されていないようで蜘蛛の巣が巣食っていたり、端には埃がたまっている。辛うじてこの本殿は清潔さを保ててはいるが、他の場所は清掃する暇がないのだろう。

しかし、この嘘っぽい予告を無視する訳にはいかない。これが嘘でない可能性だって存在するからだ。現状皆無な黒い陰陽師への手がかりへ繋がる何かがあるかもしれ

い。その根拠として、この予告状が届いた時間は地獄で俺たちがあの怨念の塊から逃げた頃(おそらく直後)である。偶然とは思いにくいので何かしらの繋がりがあるかもしれない。

 

「閻魔様に報告します。貴方達は戦闘の準備をして待っていてください」

 

俺達は地獄に一度戻るという旨を伝えて本殿を後にした。

また、井戸に入って地獄に戻る。現世への滞在時間は1時間にも満たなかった。

なんだか短すぎる滞在に拍子抜けした俺だった。

 

 

また井戸に入り、地獄に到着する。やはり、気温差は酷くすぐに上着と付け角を脱いだ。この井戸は高台に位置しており、辺りを見渡すことができる。ここであの黒い陰陽師と戦った為、まだ俺の血が地面に付着している。武蔵ちゃんはそれを発見し物騒だと呟いた。その血痕は俺たちが借家から来た方向から丁度真逆にあるので発見していなかったようだ。それは俺の血だと告げると武蔵ちゃんは大きな声を出して驚いた。

 

「結構出血してるじゃない!何があったの!?」

 

「黒い陰陽師とここで戦ったんだ。正面から戦ったけど勝ち目なかったから逃げたんだけどね」

 

「大丈夫?それで、どんな敵だったの?」

 

俺は大丈夫である事を答えてその『黒い陰陽師』について一通り説明した。

それを終え借家への帰途へ着こうとすると少し強めの風が吹いた。その風は冷たく凍てついていた。そう、凍てついていたのである。

この灼熱の地は『冷たい』や『凍てつく』という単語には縁もゆかりもない場所だ。俺たちは危機を感じて地獄一帯を見渡す。今は何も確認することはできないが、獄角さんの言っていた地獄と現世の一体化が進んでいるのかもしれない。

俺たちはすぐに閻魔大王の下へ走り出した。

 

地獄の刑罰場に着くと鬼達は慌てて罪人達を何処かへ移動させており、緊迫している雰囲気だった。俺達はもっと急ぐべきと判断して閻魔大王のところへ走って向かうと獄角さんとすれ違う。彼女も多少焦っているようでその冷静な面持ちを崩し、頬に汗が流れていた。

 

「獄角さん!」

 

「ああ、地獄と浮世が融合しつつある。原因は何だ?現世で何があった!?」

 

「犯人らしき人物から予告状が届きました。内容は浮世での一刻後、京都中に怨霊で溢れるというものです」

 

「分かった。貴様達は今すぐ浮世に戻って原因を調査してくれ。私たちはどうにか融合を阻止する策を考える」

 

「分かりました!」

 

俺はUターンする羽目になったようだ。だが、気持ちを沈めている時間はない。

 

 

「繰君、お願いがあるんだけど」

 

走って井戸まで戻りいざ現世に戻ろうとしたその時、武蔵ちゃんは俺に言葉をかける。

 

「ちょっと私に連れ回されてもらっていい?」

 

俺はその言葉に同意した。

現世に戻ると怨霊との戦いへ向けて準備が進められている。しかし、この設備では対抗することはとても難しいだろう。装備はどこか小汚く、表情が暗く、頼り甲斐がない気がした。武蔵ちゃんは俺に先行して京都市街を気ままに歩いている。

 

発せられる言葉はない。彼女はただ、歩いている。雪はザクザクと音を鳴らして静けさを演出する。何を思っているのだろうか。彼女は俺の前を歩いて顔を見せてくれない。

 

「ーーーあのさ」

 

何分歩いた頃だろうか。彼女は急に止まって空を見上げ言葉を放つ。雪は降っていないものの、黒く曇る空はこれから起こり得る厄災を予兆しているようだった。

 

「私って、この先どうなるのかな」

 

それは彼女も分かっているはずだ。先程、彼女は『一度行った世界行けない』と言った。世界線の量は膨大であれど数に限りはある。いつか終わりがきてしまうことは彼女も自覚しているはずだ。それでも、彼女は問うのだろう。どこか自身の存在を捨てきれない彼女がいて、受け入れたはずの結末をどこか否定している彼女がいて。

 

「……何って」

 

言葉が…出ない。俺はどんな言葉をかければいい。この悲しい(哀しい)諦めの顔はどうしても嫌いなはずなのに。何か言わねばならないのに。

 

言葉を探せ。

言葉を手繰り寄せ。

彼女には……

 

「いや、先はないよ」

 

長い思考の果てにやっと、口は開いた。しかし、無意識ではない。決してヤツ(無意識の集合)の作った言葉ではなく、自身で紡いだれっきとした俺の意思の言葉である。俺は(よわい)19にして初めて夢らしい夢を抱いた。

 

「どこにでも連れて行くよ」

 

魔術師本来の目的ではなく、深山繰という1人の欲深い人間の願いだ。

俺はいつか第二法に到達し、彼女彼女の行きたい(生きたい)場所へ連れて行く。

それは彼女の元いた世界だけでなく、全ての事象を対象に。さらに決して彼女を否定しない場所を作る。それが出来れば、全ての世界の否定の先の滅びを回避できる。

彼女の行く末はなんとなく予想できる。彼女は一度行った世界は行けないと言った。つまり、それは世界から追い出され続けた先に、幾千の世界を旅した先に、ただ何も無い虚無へと場所へと放り投げられるのだろう。俺は一度現在と過去の世界線を全て認識したことがある。その時に線と線の間、枝と枝と間の空白も観測しているのだ。

あれは、まさしく虚無そのものだ。全くもって何も無い。限りなく何も無い。果てしなく何も無い。そんな所に彼女を1人にできるだろうか。いいや、出来まい。

だから、俺がどうにかして彼女にどこの世界にも行ける案内人ような者に俺が成れば、あんな場所に行くことはない。

多少考えが痛いのは分かっている。具体性を伴っていないのも分かっている。

それでも、俺はそうまでして彼女と旅がしたいのだ。

もう、自分の家で引きこもって出来るだけ外に出たくないなんて、思っている場合じゃない。俺はずっと彼女と共に居たいだけだ。

 

俺の瞳を彼女はじっと見ていた。

俺の下手な説明では、彼女を困惑させるだけだ。

『俺は、武蔵ちゃんを助けたい』

その想いさえ伝わればそれでいい。

試しているのだろうか。蒼いその瞳が俺の顔を映し出している。彼女は決して俺の言葉を戯言であると笑いとばさない。少しの間、長き静寂の間、俺たちは見つめあった。

 

「ええ……それじゃあ連れて行ってくれる?」

 

彼女は微笑む。それが本心かどうか分からないが、それは俺を奮い立たせるには十分だった。彼女のような美しい笑顔などできはしないが、こちらのできる精一杯の笑顔でそれを返す。

 

「それじゃあ、まずこの世界をどうにかしないとね。さぁ、行きましょうか!」

 

武蔵ちゃんは俺に手を差し出した。俺はその手を掴む。その力強い握りは約束の握手のようでもあった。

そうだ。その方が武蔵ちゃんに合っている。誰かに引っ張られるより誰かを引っ張る方が良いと思うし、俺にとってはその時の彼女はいつもより断然に輝いている。

 

「ああ、行こう!」

 

いつもの綺麗な笑顔で俺の方を向いてくれていた。

踏むたびに雪はサクサクと軽快な音を鳴らす。なんだか、数多の怨霊と戦う前であるはずなのに心は弾んでいた。

互いに手を結んで歩幅を合わせて歩いていく。数秒後、武蔵ちゃんは赤面してその手を離すのだった。

 

 




ーーー番外篇ーーー
夏だ!バカンスだ!サバ☆フェスだ!
ギャグだから大きいことも気にすんな!!…マジで。
〜武蔵ちゃんのルルハワ紀行〜
〜2節 うどん屋の店〜

俺たちは浜辺で遊んだ後、昼食としてうどんを食べにとある日本料理店店に入った。アメリカとは思えない和風な内装で従業員も日本的な制服を着ている。
2人用のテーブル席に案内されてお冷やとメニューを渡される。メニューに目を通しながらお冷やを一口飲んだ。英語表記の下に日本語表記が記されておりとても見やすい。
…それにしても、英語表記が…直訳すぎる。
例えば、この『海鮮丼定食』が『Kaiden-don teishoku』と書かれているのだ。
単純すぎる。まぁ、ほとんどのメニューは写真を見れば大体予想がつくだろうから安心?なのか?
メニューを読み進めていくとある項目が目についた。武蔵ちゃんも「むっ!?」と声を上げて反応していた。
『フードバトル!!君は何杯食せるか!!一定量食べたら無料!!』
と煽り文句が英語と日本語で表記されている。さて、問題はその料理だ。料理はココナッツうどん。そう、武蔵ちゃんの好物であるうどんなのだ。

「繰君!!」

しかも、勝負事である。彼女が食いつかないはずもない。
まぁ、俺は挑戦するつもりは一切ない。それほどうどん好きでもないし、どちらかというと蕎麦派だし。俺はそのページをめくって他のメニューを見る。どうやら、代表的な日本食はほぼ網羅しているようだ。俺は写真を見て美味しそうだと思った瓦そばを食べるとしよう。そういえば、最近はほとんど蕎麦を食べていなかった気がする。この機会を存分に味あわなくては。どうせ、武蔵ちゃんはフードバトルに挑戦するだろうし、もう注文する物は決まっただろう。

ーーーしかし、それは油断であった。

「すいません、フードバトル二人分挑戦お願いします。あと、このお酒二つ」

…え?

店員さんは流暢な日本語で「かしこまりました」と言って厨房に向かってしまった。

「武蔵ちゃん?」

「え?繰君もうお酒飲めるでしょう?」

確かにもう20歳を超えて酒を嗜める年にはなったが、そういう問題じゃない。
俺は突然、死亡宣告を叩きつけられた。
いや、ただ一人でそのフードバトルに挑戦するならばまだ全然大丈夫である。しかし俺の向かいにいるのは勝ちにこだわる大剣豪宮本武蔵その人である。さて、その人が弟子の敗北を認めるだろうか。少なからず上位10名には強引にでもランクインさせるだろう。

「え……あ、はい。オサケノメマス」

しかし、俺はここで勝機を手繰り寄せる。頭に電流がビビッと走った。
確かこういうものは通常の4、5倍以上の値段で売られている。

さぁ!問題です。武蔵ちゃんがそんな金を用意しているでしょうか!

正解はしてないでしょ。絶対。

どうせ鍔でも売ればいいと思っているはずだ。ならば今すぐにでもこの注文を取り消すべきだ。俺はこの島に来た時にある程度のお金を支給されている。正直言ってそれは宿代なので出来る限り消費したくない。

「武蔵ちゃん、お金持ってる?」

「え?お金?もちろん」

持ってたんか…
しばらくすると、先にお酒が到着した。俺は武蔵ちゃんの杯を先に満たして自分の杯を満たす。

「「乾杯!」」

一緒にそれを飲み干して雑談をしながら地獄を待った。

さて、地獄のお出ましだ。その名は『師匠に強引的に食べさせられるうどん地獄 ココナッツver』
戦わなければ、生き残れない!!

俺自身の結果は、まぁそうだろうと納得するものだ。
俺は4杯でギブ。大健闘だ。

そして、師匠の結果は、規格外だった。
彼女は634杯で終了。
なんと語呂を作るくらい余裕だったのだ。

「ココナッツうどんは新しかったわ!ありがとー!」

などと言い、酔いながらダブルピースして記念撮影をしている。
きっと、このメニューはもうなくなるだろう。そう思いながら店を後にした。

〜〜3節 南国の夜 に続く〜〜

あとがき
礼装が落ちない。助けて。
武蔵ちゃんのアクリルキーホルダーが10月に発売されるそうですよ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。