天元の花、零の先へ   作:新川翔

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武蔵ちゃん、運営に愛されすぎ。


武蔵塚原試合図2+夏のおまけ3

45話

 

予告の時間となった。辺りは良くない物で大気汚染され始めていた。息は苦しく、体への酸素の供給を阻んでいる。空は黒く曇り日差しが見えるはずもない。

俺たちはお坊さんや陰陽師の方々とは一緒におらず、どこかの街角で敵を待っていた。そうしているの彼女の意見であった。俺には真意はくめなかったが、恐らく、身軽に動きやすいということだろうと予想する。

俺はアタッシュケースを開いて『探索者』召喚した。それらを様々な形に分裂させ、京都中に散らばせる。敷物を引いて坐禅をしていた武蔵ちゃんは薄く閉じていた目をしっかりと開き、立ち上がる。

『探索者』達が仕入れた情報によると、既に事件は始まっている。今、京都は怨霊達が温泉のように湧き出ている。数は既に百を超え、怨霊と人間の火蓋は切って落とされた。武蔵ちゃんは敷物を綺麗に畳んでちゃっかり俺のアタッシュケースのポケットに忍ばせると、出陣を宣言した。

 

「繰君は私の後ろにいて、確か魔力が足りないんでしょ」

 

「分かったけど、どうしたの?目つき怖いけど」

 

「まぁ、そのさーゔぁんとの契約のせいかなぁ。なんだか、師匠として頑張らなきゃって気持ちが今までより強くなっちゃってね」

 

「オーケー、じゃあ俺は敵の位置とか支援するね」

 

「うん、任せた」

 

俺は歩きながら『探索者』から送られる情報を整理する。

敵の総数は約150。今なお増加中であり、形態は様々。狼を象ったものや蜘蛛を象ったもの、他にも兎や蛇と多種多様だ。それらはやはり怨念の塊で、生きるモノを喰らうことを本能にし、生命さえあれば獰猛に襲いかかる。既に京都の人々に被害は出ている。京都一帯を探索したが、地獄で出会ったあの剣士の姿はなかった。

勿論、俺たちに周りにもそれらは群れを成して現れる。怨みを込めた深紅の目をこちらに向けて、『生』呪うように唸っている。その『生』を奪う為にそれらは一斉に襲いかかる。

 

「その諸悪、断ちましょう」

 

彼女は颯爽とそれらを倒していった。反撃する暇を与えず、踏み出す暇さえ与えず。

これがサーヴァントの本来の強さ。本来の速さ。本来の宮本武蔵。契約する前とは比べ物にならない。

 

「すごいな…武蔵ちゃん」

 

「えへへ、褒めるのは勝ってからね」

 

突如、『探索者』からの連絡が入る。それに答えすぐに視覚を共有した。

最早、廃墟とも言えるこの京都。ここには魑魅魍魎が跋扈しており、奴らの唸り(感情)が京都中に蔓延している。被害者は増えるばかり、敵は増えるばかり、死者が生者を喰らう様は異様である。

その中、ただ普通に立ち笑う者がいた。何がおかしいのか、平然と立ちその口を歪めていた。怨念達もその存在には気づいていない。俺はただそこにいる恐怖というものを味わった。怪奇の中の普遍。心霊写真を見ている様な気分だった。

恐怖の原理とはありきたりの日常、普遍に対する異常に由縁するものである。

勿論、対象に感じる恐怖もあるだろう。消える頭や足、不気味な顔や手。しかし、それらが何故不気味と捉えられるのかはそれらが非現実であるからだ。

この状況でただ棒立ちし笑っているのは明らかに不気味だった。

黒い陰陽師はホラー映画の幽霊の様にただそこいる。

決して迫ってくるものではないがないが、それ故の恐怖がそこにある。

奴は俺を一瞥し何処かへ歩き始める。誘導しているのか、罠である可能性もあるが行くべきだろう。今の奴の有益な情報はこの観測していることしかないのだから。

 

「武蔵ちゃん、黒い陰陽師を発見した」

 

「よし、そこに行きましょう!案内お願い!」

 

俺たちは駆け足で奴の向かう場所に向かった。

向かう道中で『探索者』を奴を追っている一体以外全て回収した。

しばらく走り着いた場所はこの世界では腐敗した神域である伏見稲荷神社だった。

 

しかし、腐敗しようともその神秘性は多少保たれていた。苔が生え、つたに絡まれている千本の鳥居も崩壊はせずに本殿への道を示し立派に立っている。

俺たちは入り口の前で息を飲んだ。この漂う瘴気、生を蝕む毒気。この先にあの剣士がいることは明らかだった。俺の脳裏にあの姿がフラッシュバックする。

珥加理刀を強く握った。この刀は霊に対して絶大な威力を持つ。だが、俺じゃああの剣士には遠く及ばない。あの剣士に対抗できるのは武蔵ちゃんしかいない。なら今の俺にはこの刀は無用の長物だ。

 

「武蔵ちゃん。これ貸すよ」

 

俺は珥加理刀を彼女に差し出した。

 

「え!?こんな業物貰っちゃってていいの!?」

 

「いやいや、あげないよ。一時的に貸すだけ」

 

危ない。彼女に深山家の家宝を借りパクされるところだった。

彼女はその答えに冗談らしく手を合わせる。

 

「え〜、そこをなんとか!」

 

「無理です」

 

彼女が顔を向こう側に向けると何処からか舌打ちをする様な音が聞こえた。

俺たちの周りには人がいないので恐らく気のせいだろう。

 

「まぁ、冗談冗談。うん。私は四本差なんだけど今回は別。その業物借り受けましょう!」

 

はて、何が冗談なのか分からないが、そんな疑問はどっかにやって俺は彼女に珥加理刀を渡した。

 

彼女が珥加理刀を帯刀すると俺たちは同時に歩幅を合わせて歩き出した。

一歩ずつ確実にその歩みを進めていく。鳥居をくぐり抜け少しぬかるんでいる土を力強く踏みながら黒い陰陽師のいる場所へと進んでいく。長く続く鳥居の道は永く放置されたからか遺跡のような雰囲気を帯びていて、敵地なのに武蔵ちゃんと観光しているような心持ちになる。この感情は油断か、それとも彼女といる安堵からか。きっと、後者だろう。

蛇の様に曲がった千本鳥居を超えた後、本殿の前のたどり着いた。瘴気はより一層濃度を増している。

狐の像が大きな門を守り、その先にはあの剣士が刀を持って待ち構えている。『探索者』によれば、あの本殿の中に奴がいる。最後まで追跡していた『探索者』を回収し、タイガーアイをアタッシュケースに戻す。

 

「武蔵ちゃん、任せた」

 

「任されたわ」

 

門の前、そこには地獄で出会ったあの剣士が刀を抜き、辺りに嫌なものをドライアイスの蒸気の様に漂わせている。これ以上近づけば殺すと、センサーを辺りに散りばめている。悪いモノに犯されながらも、接近して判明したことはそれが『塚原卜伝』だったものということだ。

予想はしていたが、最悪のケースであった。様子を見るに完全に自我は失われているようで、何もせずにじっと門番をしている。

しかし、宮本武蔵はそんなのお構い無しに歩き続ける。俺は門へと至る小階段の麓でその足を止め戦いを見て彼女を支援する準備を始める。

ここでは自身の強化以外に無駄な魔力は削がない。俺の持ち得るリソースの殆どを彼女にかける。戦う必要のない自身に強化魔術をかける理由は黒い陰陽師が持つ見えない式神に魔眼で対応するためだ。もし、影が見えても瞬発力不足で避けられなかったら恥ずかしいことこの上ない。

さて、彼女をどう支援するか。まずは彼女の持っている俺の『鎧』だ。

 

宮本武蔵は堂々と二刀を抜き小階段を一段踏む。

その右手には珥加理刀があり、目の前の霊を切り刻もうと躍起になっているかのようにその刀身を鈍く光らせている。

 

もう一段踏んだ。彼女の具足が変化する。

地と風を足に纏わせた。地のように靭く。風のように疾く。

 

もう一段踏んだ。彼女の小手が変化する。

火と水を手腕に纏わせた。火のように熱く。水のように流麗に。

 

もう一段踏んだ。彼女の胴が変化する。

空を纏わせた。彼女から聞いた旅路という絵巻物を見て得たものを不肖俺が再現する。何もかも削ぎ落とした否定の先。今の彼女は無二を超えた零となる。

彼女の経験とそれを基にした思想から彼女の『空』を再現した。

 

もう一段踏んだ。彼女に赤い羽織が纏われる。

紅葉の刺繍を入れ、彼女を包み込む。本来の事象など関係ない。

彼女は新免武蔵藤原守玄信だ。

これが、完成した彼女を覆う俺特製の彼女の為の特殊礼装。

 

階段を登りきる。

それでも、まだ彼女は悠々とのらりくらりと歩き続ける。

侵された塚原卜伝の間合いの手前で彼女は止まった。

 

「こんな状況での立ち会いになってしまうのは残念です。卜伝殿には一度、泊めてくれた恩もあります。この恩は忘れません。だから、魔道に堕ちたその身、せめて私の剣で葬いましょう。我が性は新免、名は武蔵。魔剣破り、承る!」

 

名乗りを上げ、彼女が間合いに入った。

 

瞬間、神速が振るわれた。

振り上げて振り下ろす。その作業を瞬きもせぬ間にやってしまったのだ。恐ろしいなんてもんじゃない。確かに刀を上げて下ろすという作業ではあるが、人間ができる速度にも限度はあるだろう。今の速度はそれを超越していた。

刀の衝突する音が響き渡る。その振動は俺の骨も振るわせるほどだった。

彼女は神速を神速で受け止めていた。

 

しん、と硬直状態になる。どちらも一歩も動かずただ止まっていた。

俺はその姿を階段の麓から観察していてあることに気づく。

彼女の体が震えているのだ。よく見れば、彼女の四肢が微動していることが分かる。しかし、これは怯えなどからくるものではないと彼女との繋がりから感じた。

あれは、ただの武者震いだ。

 

宮本武蔵が反撃を仕掛ける。その剣を払い飛ばし、神速で虎のように襲いかかった。

剣戟は俺の目ではほとんど追えない。彼らの立ち会いは既に化け物を超える範疇に届きかけているのだと思い知った。俺はただ、彼女を信じて見守るしかない。

しばらく見ていると、ほとんど追えないその目でも戦い方が分かってくる。

塚原卜伝の剣は基本を極めたような剣のようだ。

侵食されても歪むことのないその深く腰を落とした姿勢。いつでもどんな行動ができるような体勢が整っている。例え神速の打ち合いの中でもそれを一切崩すことなく、なんのブレもなく急所である小手、頸動脈、喉、上帯通し(簡単に言うと腹巻にあたる場所)を確実に狙っている。

恐らく、速度に関しては彼女より上である。彼女の動きに合わせ常に先手を打ち続けている。

対して宮本武蔵の剣は千変万化、全てに応じる剣だ。

速度で先手を取られようともそれを誤魔化し、完全に対応している。

今まで彼女と剣を交えて基本には則っていないように思えた。しかし、それは基本の型の無駄な部分を削ぎ落とした結果だ。

どんな技にも危険が伴う。突破口のない技など存在しない。

面を打つ直前は胴に、胴を打つ直前は面に、隙が生じる。

小手は例外で直前の隙は少ないが打った直後に面に隙が生じる。

だから、彼女は既存の型を削ぎ落とすことで最短の軌道による型を編み出したのだ。

無駄を削いだ結果生まれた女武蔵だけの型。これが彼女の二天一流。

それを駆使し、彼女はたった一つの冴えた一撃を伺う。

 

刀は銀色に反射し閃光を放つ。それらがぶつかる音はまるでショパンの激しく速いピアノ演奏のようだった。

素人の俺では聞き分けられない剣戟の音の連鎖。一瞬の内に行われる幾つもの剣の交差。

それを行う剣豪(演奏者)とそれにただ圧倒される(観客)

勝負の優劣は彼女から流れてくる感情から察することしかできない。

しかし、その感情は平坦なものだった。焦りも奢りも自信もない。これが無空の境地というものだろうか。斬り合いに一切の感情の抑揚がないのだ。

ただ斬り、ただ防ぎ、ただ倒す。

二刀の旋律は、その音色を途絶えさせることなく響き渡る。

この演奏はいつまでも終わらないように見えた。

 

(繰君!)

 

戦いに見惚れていたその時、武蔵ちゃんから念話で声をかけられた。

 

(武蔵ちゃん、どうしたの!?)

 

俺は驚きながらそれに反応する。

 

(卜伝殿の弱点を見つけて!これじゃあ、倒せない!)

 

どうやら、本当に拮抗状態のようだ。その剣舞は更に勢いを増している気がする。

急に鼓動が早まる。この身が緊張で熱さを帯びる。剣聖の弱点を見つけるなどという芸当が俺に出来るのだろうか。この超然的な敵に対して何かを見出すことが俺に出来るのだろうか。

 

(君の分析力は目を見張るものがあるし、大丈夫!)

 

そうだ。そんなことを考える暇はない。実際に戦ってもいないのに弱気になっている俺は何者だ。そう心に鞭打った。

彼女が俺を信じて何かを求めているならば、おれは弟子として彼女の期待に応えるだけなのだから。

 

すぐに目を凝らし、黒く染まった剣聖を観察した。黒い粒子を身に纏う剣聖をどうにかその目で捉える。その動きの細部を観察し、針の先もないような弱点を求めて、立ち会いの刹那を切り取って、相手の行動パターンを読み取ろうと試みる。

鋼の演奏はまだ、終わらない。それを終わらせるピリオドを俺が手繰り寄せるのだ。




ーーー番外篇ーーー
夏だ!バカンスだ!サバ☆フェスだ!
ギャグだから大きいことも気にすんな!!…マジで。
〜武蔵ちゃんのルルハワ紀行〜
宿屋(ホテル)にて〜

俺はフードバトルでトンデモな記録を残し、更に酔い潰れた武蔵ちゃんをおんぶして彼女が泊まっているというホテルに向かっていた。
流石ルルハワ、特異的とはいえリゾートなので夜になってもで道中に人影が映らないことはない。沢山の現地の人やサーヴァントとぽい人達とすれ違う。彼女の持ち物にあったガイドブックを手に俯きながらホテルの向かっていると前から声がした。

「そこの旅の者」

「なんでしょうか?」

俺はその目を上げて声の主を見た。身の丈より長い刀を持つ和風のサーヴァントだ。そして、目の前にいる彼も武蔵ちゃんと互角の剣の腕を持っていると分かった。

「いやはや、珍しいものを見てしまったので、つい声をかけてしまった。まさかその武蔵殿が弟子を取っていようとは」

花鳥風月という言葉が似合う出で立ちだった。その美形な顔についてある口を少し緩め俺の存在について意外がっていた。
そして、この伊達男は武蔵ちゃんが本来の者でないことも知っているようだ。『その武蔵殿』というのもそういうことだろう。

「意外でしたか?彼女が弟子を取るのは」

「ああ、かるであでは弟子は取らない主義だと申していたからな。何故そうなったのかは聞かないが、ふむ、いい弟子を得たようで何よりだ」

「え…あ、ありがとうございます」

なんだか訳も分からなく褒められた。

「それではここで。剣の腕までは引き継げなかったようだが、そこは重要ではない」

なに?俺って剣の腕をいちいちディスられなきゃいけないの?
そう思いながらその剣士に別れを言った。確かに俺は未だ彼女の足にも及ばない。
きっと俺が一生を費やしたとしても追いつくことはないだろう。
だが、そこは重要じゃない。
二天一流の本質はその思想にあると俺は思う。
別に剣の腕がないとかそんなことの言い訳じゃない。決して。

その後、すぐに彼女の泊まっているホテルに到着した。
カウンターでメガネをかけた好青年に話を通して、彼女の部屋に向かった。話をしたのも、何故か不審者だと間違えられたからだ。確かに酔っ払った女性をおんぶして運ぶ男性は怪しい。それは分かっていたものの、少し肩を落としてしまった。
途中、破廉恥な格好をした金髪の騎士に睨まれたような気がしたが、それを見てぬフリをしてエレベーターに入る。それにしても、いかにも豪華なホテルだ。彼女の手持ちで宿泊費は足りてるのだろうか。
彼女の持っていた鍵に記されている番号を当てにして部屋を見つけて解錠する。
鍵についてある直方体にキーホルダーをくぼみに刺すと、電灯が灯された。
後ろでガチャンと音がしたので、振り向いて、扉が閉まったことを確認して、靴を脱ぎ、部屋の奥に足を進める。大きなキングサイズのベットが一つ、大型テレビが一つ、小型冷蔵庫も一つ、などと、生活に必要なものは備えてある。ベットに彼女を寝かせて、窓際にある椅子に座って夜のビーチを一望した。

こう、ゆっくりするのもいつぶりだろうか。長らく仕事であちこちの世界線を回っていて立ち止まる暇などなかったように思える。

「ん……繰、君?」

しばらくすると、彼女が目を覚まして俺の名を呼ぶ。

「起きた?早くシャワー浴びて着替えて寝たら?」

俺は彼女の方へ向き、休憩を催促する。

「それは、後でいいわ」

彼女はゆっくりとその身体を起こした。のそのそと四つん這いでベットの端まで歩き、靴を脱いで俺の向かい側にある椅子に腰かけた。

「それよりも、君の話を聞かせて。前は私が話したでしょ。だから今度は君の番」

ーーーああ、そうだ。
今度は俺が語る番だ。何、この夜を潰せるほどには話のネタは有る。
寝落ちするまで、俺がしてきた旅を彼女に語るとしよう。
と、痛い発言をする俺なのだった。






コンコン、窓をと音がする。もう、太陽は顔を出しており、朝を迎えていることを示唆している。
そちらへ向くと悪魔のような笑顔をした紫髪の女性がベランダの柵に乗ってこちらに手招きしていた。
結局俺は関わらない方がいいと思い、二度寝するのだった。


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