天元の花、零の先へ   作:新川翔

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武蔵ちゃんがルルハワで食べたというココナッツうどんを作ってみました。
ツイッターにて画像を載せています。


武蔵塚原試合図決着

46話

 

実際問題、俺が剣聖の弱点を見出せる訳がなかった。

剣に関して全てが上である彼の綻びを見つけられる訳がない。

 

俺の眼前ではまだ剣戟という鋼の演奏が行われている。

今思いつくその演奏を止める方法は三つある。

一つ目は、奥にいるであろう陰陽師を倒して止め方を聞き出すことだ。

これは不可能だ。契約前の万全な状態で、更にガーネットのゾンビ戦法を用いても戦わずに逃げを選択した俺に勝てるはずのない相手だ。

 

二つ目は、あの怨念を削ぎ落とすことだ。

しかし、肝心の方法が思いつかない。この俺が割り込んで除霊するなんてことは出来ない。そもそも、除霊が出来ない。

陰陽師の人達を呼ぶのはどうだろうか。恐らく呼びに行く為に一人になったところで殺されてしまうだろう。彼女と共に撤退する作戦もあるが、この拮抗状態で背中を見せてしまったら彼女が死ぬ可能性だってある。

 

三つ目は、彼女を俺のサポートで卜伝さん以上に押し上げることだ。一番現実的といえる作戦だろう。

しかし、俺は彼女にこれ以上のサポートを行えるだろうか。

割ける余剰魔力は使い魔一体を使う程しか無い。しかし、それ程の魔力で彼女をサポートする方法が一つある。

 

(武蔵ちゃん!)

 

(何!?)

 

念話で武蔵ちゃんに話しかける。

彼女は戦っている最中だ簡潔にやる事を説明する。

 

(俺が合図したら、一度だけ『どんな動きでも出来る体勢』になって!)

 

(それで勝てるのね!)

 

彼女の言葉に疑問符は無かった。

彼女の信頼に報いる為にも、この作戦を成功させる。

 

(もちろん!)

 

俺はアタッシュケースを取り出した。

手に取るのは光り輝くダイアモンド。これは俺の持つ深山家の家宝の中でも最高位のものだ。

深山家の目指すものは『回復』、つまりは『回帰』による根源の到達。ガーネットを始めとする独自の治療魔術もこの『回帰』の研究の副産物に過ぎない。根源とは全ての始まりの場所、本来の姿とされている。ならば、()()()()()()いつかそこに至ることができる。

その研究の果てに成功した事例の一つがこの『ダイアモンド』だ。これを使うことによって人間の本来の姿、つまりは肉体のリミッターを解除した状態へと覚醒することができる。この宝石はリミッター解除装置でただ、魔力を流せば、量に応じて、その力を発揮する。

リミッター解除の完成度はロンドンのあの魔術師に少し劣るだろう。だから、あの時少し嫉妬してしまった。だが、それはかえって好都合だったりする。もしあのレベルのリミッターの解除を行えばほとんどの可能性で戻ってこれなくなる。ロンドンでのサン・ジョルジュの復活は奇跡に近かった。それも、きっと抑止の後押しがあったからだろう。

 

それはさておき、すぐに俺は武蔵ちゃんと視覚を共有した。彼女の景色が俺の網膜に伝わってくる。やはり、壮絶なものだ。これが剣を極めた者達の戦いであると怖れてしまう。だが、それに恐れをなしている暇はない。この間にも壮絶な駆け引きが行われているのだ。

自身の目を閉じて視覚を彼女のものだけにし、まるで目に映るものが自身の物であるかのように身体に錯覚させる。そして、俺は深山家の研究の成果をもう一つ使用する。

それは『完璧な感覚の共有』である。

深山家にて一代のみ行われて、打ち切られた実験がある。

題は魂の融合。

根源に至るために一緒になって元に戻ろう。という狂った思想から始まったものだ。

当時の当主が一族の反対を押し切って行ったもので勿論、失敗した。更にそんな大き過ぎることが出来るはずもなく、一時的な感覚の完全共有だけに終わり、禁忌となって封印された。それを使用する。こちらも、魔力消費量は少ない。

その時の深山家の当主は天才故の狂人だったと聞く。彼が残した(呪文)は極限にまで効率化され、低燃費なものとなっていた。

 

繋がりから感覚を出来るだけ彼女に寄り添わせ、目を騙し、精神を彼女と限りなく同化ことで、一時的な魔眼の共有を行い自身(彼女)の影を手繰り寄せることができる。

だが、遅い。

俺の反射神経では、影を観測して伝えるまでの時間で、彼らは数度の斬り合いを行なっているだろう。だから、ダイアモンドを使って身体能力のリミッターを解き、その過程を極限まで早めることで、ようやく彼女の助けとなる。

そして、その援護ができるのはほんの少しの間だ。

というのも、リミッターを解除した『観測する』という作業とそれを『伝える』という作業で使われる視神経と脳のダメージは激しいものだ。運が悪かったらガーネットでも修復は不可となる。加えて、あの北京で行った技を武蔵ちゃんの身体を介して行うつもりだ。その為、代償は倍増する。死ぬわけではないが、この後、戦闘は出来なくなるくらいには疲労が溜まるはずだ。

 

さらに、この『感覚共有の魔術』が深山の禁忌たらしめる点はそのリスクにある。

たった少しの使用でも感覚が合体してしまうのだ。どんな相手でも、合体して一生戻れなくなるのは嫌だろう。

時間の限度は1分程度、その瞬間に勝負を決める機会は一度しか訪れない。

だからこそ、チャンスは一度。この一発を確実に決める。

 

俺は心の内で禁忌の唱える。

 

(ーーーall together (全てを一つに))

 

(ーーーFollowing everything are the same(辿れば同じ))

 

(ーーーI have the key (我はその鍵を持つ者))

 

(ーーーI will show that way (我はその道を示す者))

 

(ーーーTo the world to aim (目指すべき世界へ))

 

(ーーーBeyond unconsciousness and resist (無意識を超え、抗う))

 

(ーーーAnd It leads to one end of a vortex (そして、渦の一端へと至らん))

 

詠唱を終えると感覚の共有が始まった。

 

視覚、痛覚、触覚、共有完了。

運動覚、振動覚、自覚完了。

平衡感覚、固有感覚、意識完了。

 

ダイアモンドを握りしめた。彼女に作戦の開始を合図する。

 

(武蔵ちゃん、今だ!)

 

金剛石が起動し、身体の枷を壊して人間の本来の姿へ至った。

解放による優越感や超越感を押さえつけ、影を手繰り寄せる為に目を細める。

 

彼女もそれに応えるように仕切り直した。瞬時に数歩分の間合いだけ離れ、構え直す。その動作は0.1秒にも満たないものだった。

 

そして、時がと止まる。

 

ーーー演奏の間に訪れた静寂は、無であった。

鋼の打ち合った音の余韻だけが空間に響いて、他は不動となっている。

 

互いにほんの一瞬だけ、動かない。

互いに全ての動きが出来る姿勢で、ほんの一瞬、刹那にも満たない間、固まった。

その目が、気迫が、次の互いの最大の攻撃をもって、相手を殺すと、宣言している。

 

彼女とある程度、感情を共有しているから、彼女のモノが流れてきた。

 

(決めるわよ(決めるぞ)繰君!(師匠!))

 

声に応えて全ての分岐先を観測する。

武蔵ちゃんが切る世界線、そして、こちらが死なない世界線。

その二つの都合のいい世界線を手繰り寄せて、繋いで、その影を彼女に伝える。

 

(ーーーー!)

 

視神経が焼ける痛みに奥歯を噛み締める。バチバチと走る稲妻を耐えて、どうにか死なない世界線は発見できた。

しかし、彼女が切る世界線が見つからない。

幾万の線の中を探して、一向に後者の線が見当たらない。

卜伝さんが放つであろう『一の太刀』はそれほどにまで強靭な技だった。

前提条件が間違っていたのだ。

そもそも、この技を破れる可能性がなかったのかもしれない。

眼が熱でショートしそうだった。水晶体にヒビが入った錯覚までした。

もう、時間がない。冷や汗をかいた瞬間だった。

 

ーーー『南無、天満大自在天神』

 

忿怒の神が髪を逆立て、その顔を怒に歪めて顕現する。

彼女の言葉は彼女の中で反響して、その振動が、未来を横一閃に断ち切った。

バッサリと、たった一本の糸を残して。

無限にあるべき未来から、あらゆる可能性を排除して、たった一つの結果に限定し、俺にその一本の線を手繰り寄させた。それを手にとって、都合のいい線を繋ぎ合わせ、一つの結果を創り出す。

 

ーーー『不動倶利伽羅、小天象』

 

歪まれた形相がその場の全てを押さえつける。

身体を潰すほどの剣気を放ち、怨念の動きを完全に静止させた。

物が動く音も、木の葉のさざめきも、空気の流れさえも圧迫した。

悪を滅ぼすその忿怒に情など存在しない。

それでも、剣聖は止まらない。

その誰もが知らぬ究極の奥義(一の太刀)を放つ動作を続けている。

確かに、怨念ならば、確実に恐れひれ伏し、ただその粛清を待つだけだっただろう。侵されているとはいえ、目の前にいるのは、かの剣聖『塚原卜伝』である。

この一撃は相手の命を絶つまで終わらない。

 

ーーー『ゆくぞ、剣豪奥義』

 

心の内で呟いた。

『抜刀』ではなく、『奥義』。

剣の道を極めた力、世界を選別する力。

その2つを合わせた『対万象奥義』

一番都合のいい未来を定め、強制的に雌雄を決する神業。

眼は虹色に輝き、選ばれ、繋げられた一つの未来を見据えた。

 

剣聖の一撃は躱された。

かの一撃は普通の一撃であった。次元屈折現象による不可避でもなく、未来の選定による不可避でもない。ただ、普通に強靭な技だ。

他に代わるもののない『究極的なタイミング』『音を越す疾さ』『一太刀で万物を斬る冴と力』を備えたただの一振り。

動作は基本の基本のものだったが、それらを包む要素が余りにも超然過ぎた。

 

それを彼女は躱してみせる。右手に持つ刀(珥加理刀)で軌道をずらしたのだ。

だが、その一撃はその刀に秘められた神秘など容易く壊してみせた。

受け止めた所から亀裂が入り、飛んだ刀のカケラが彼女の頰を傷つける。

超然的な攻撃を残った刀身で横に捌いていく。刀は悲鳴をあげながらも最後のあがきで、火花を散らしながら、金属音をあげてまでこの太刀をずらしてみせた。

一瞬であり、悠久であったせめぎ合いに勝利した時、この立ち会いの軍配が上がった。

その珥加理刀だったものを剣聖の心臓に突き立てる。

かすかに残る厚い神秘が怨念達を駆逐して、抹消していく。

すぐに彼女は左手の刀を両手に持ち、上段を取った。これでトドメだと言わんばかりに大胆に構えたのだ。

心の臓から漏れる血潮と怨念の消失により、剣聖は自我を覚える。そして、自分の有り様から状況を察した。地に滴る赤い液体から、自身の敗北を知るのだった。

そして、少し頰を緩めこう呟く。

 

「参った」

 

剣聖は敗北を口にした。

互いに認め合った強者が立ち会い雌雄を決したその時に行われる礼法か。

それとも、己の腕の低さを認め、来たる運命を受け止める宣言か。

また、その両方か。

 

ダイアモンドの効果も切れまた身体にリミッターがかけられる。

感覚を共有する術式も機能を停止して、本来の肉体の感覚へと戻された。

そして、ぼんやりと映るのは一人の人間の死であった。

 

ーーー『大光明、大天象』

 

彼女は一刀両断する。

残された真っ二つな筈の死体は何故か残酷さはなく、どこか儚いような気もした。

 

「剣聖、塚原卜伝。討ち取ったり」

 

風は吹き始めた。木の葉はさざめき始めた。しかし、金属音の余韻だけはその場に残っていた。

本来の事象で語られた夢物語は、本来とは違う有り得ない世界で実現した。

 

勝者、宮本武蔵。

 

「繰君…」

 

武蔵ちゃんはその手にある珥加理刀を見て言った。

あれだけ『家宝』と言って大切にしていたのだ。責任を感じているのだろうか。

 

「全然、大丈夫。行こう」

 

だが、問題はない。夢の試合舞台に使われてこの刀も本望だろう。

そう思って重要文化財をぶっ壊した事については考えることをやめた。俺はダイアモンドをしまい。小階段を一段ずつ慎重に登って、折れた珥加理刀を手に持つ。武蔵ちゃんの『鎧』は外され、元のネックレスに戻っていった。

目を細めながら、珥加理刀を鞘に収める。

 

「本当に大丈夫?」

 

「うん。壊しちゃったのはなんとか隠し通すよ」

 

「そうじゃなくて、君の身体のこと」

 

「そっちね…うん。大丈夫じゃない」

 

確かに疲労困憊で今にも倒れてしまいそうだ。しかし、体力の回復は俺の治療魔術では行えないので、ここは我慢する必要があった。

 

「直せないの?」

 

「体力は回復できないからね」

 

「肩貸そうか?」

 

「……お願いします」

 

直接戦った訳でもないのにこちらの方が余裕がないのは、なんだか悔しかった。

そして、俺たちは足を揃えて門をくぐる。待ち構える陰陽師に邂逅するために。




なんだか、深山家の先祖がダイヤモンドを作った理由が人類補完計画っぽい。
というわけで、作者はここに『最近の創作物の大半はこじつければ何かのパクリだって言える説』を提唱します。
それと、詠唱にbe the one 一瞬入れようとした自分が怖い。


ちょいマテリアル
『大日不動・倶利伽羅天象』
今回武蔵ちゃんが深山繰のサポートにより使った『対万象奥義』
都合のいい世界線の都合のいい部分を手繰り寄せて繋げて運命を定める奥義。
深山繰の繰糸・伊舎那大天象は事象の観測に多少時間がかかる為、時間切れで攻撃されてしまうという欠点を帯びているが、この奥義は都合のいいもの以外を天眼によって切ってしまうので、一々確認するよりも効率がいいのでそこで生ずるインターバルも存在しない。

それと、毎週木曜投稿やめます。理由は単純な時間不足です。申し訳ございません。
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