5話
「大量殺人事件…」
「うん、君が寝ていた2日間で13人。酷い有様だったそう」
武蔵ちゃんが言うに俺が寝ていた間に大量殺人事件が起きたらしい。
「待った!俺って2日間も寝てたの!?」
「そう、ただ息はあったからいつか起きるとは思っていたけど」
それにしても起きた直後にするはずの話を今ここでしているのは場違いな気がした。
2日間も寝ていたからなのか体が重い。だが余りにも重すぎないか?体がほとんど動かずベッドから起きれないなんて。
いや、あのマーリンが言うからには俺の体とその魂はおさらばしていたらしいのだから、こんな状態にはなるだろう。
それなのに口だけは元気な俺は話題を切り替えて大量殺人事件について武蔵ちゃんから聞き出す。
「酷い有様ってどんな感じ?」
「一方的な殺戮って感じね。体が蜂の巣みたいになっていたりしているらしいわよ。……ほんっと頭にくる」
「どうした?」
武蔵ちゃんが鬼のような形相をしていたので聞いてみる。
「この際だから言っておきます。私は大抵のことに優しいですが、許せないものが三つあります。
一つ目、『一方的な虐殺』
二つ目、『お腹が空いてる時にメシを奪われる』
三つ目、『人の矜持、信念を自分の娯楽のために踏みにじる行為』
わかった?」
この際だから口には出しませんが武蔵ちゃんってそれほど優しくないよね。丁寧さと横暴さをかけたような人だよね、と突っ込んではいけない。
「お、おう。でさ、犯人とかはどうなの?」
そう聞くと武蔵ちゃんは「む。話題を強引に変えたわね」と言った後、
「はっきりと分かってないけど目星はついたみたい。2日前エオンの騎士さんと決闘したあの子、サン・ジョルジュ君が急に行方不明になっちゃったらしいから」
ふーん、と相槌を打ちながら体が動く範囲で時計を探す。
どうやら時計は俺の後ろにあるらしく時刻を確認させてくれなかった。だが、太陽の光が一切差し込んでいないところを見るに今は夜のようだ。その他の事件の情報を武蔵ちゃんから聞いていると慣れてきたのか体は動かせるようになってきていてようやく今、起き上がることができた。
そこにノックの音が
「失礼します」
先程の甲冑を着込んだ騎士とデオンさんが入ってくる。
彼らはとてもピリピリとした雰囲気だったのでこちらも緊張してくる。エオンさんは見た目は大変年を召されているにも関わらず、誰の助けもなく堂々と立っている。
歴戦の老兵の様だった。
「ミヤマ殿。もう大丈夫なのですか?」
「ええまだ動きにくいですがいずれ回復します」
「それは良かった」
デオンちゃんくん(老)は椅子を俺の近くにある椅子に座ってそう言う。
「ならば「日本のことですか?」
流石にわかってきたので食い気味に言ってみた。にしてもしつこすぎではないのだろうか。日本ってそれほど重要視されていたのか?
ただ不平等条約結んでがっぽがっぽ儲けたいのか?それしかないか。
「それを話すには貴方だけになって貰う必要がありますデオンさん」
そういうと了承して甲冑姿の部下を部屋から出してくれた。
さて、嘘つきまくるぞ。
「私は日本からの海外を偵察するために送られているスパイのような者です。日の本は現在、清と
武蔵ちゃんが「ふぉえ?」と目を丸くして驚いている。そりゃ突然トンデモナイ嘘をつき始めたのだ。
この驚いている様子も、極秘情報を口にしているから驚いているということにすればいい。
「なるほど、それではあなた方に人質としての価値はないと」
「ええ、秘密の機関ですから、ただ『日本から抜け出した罪人』としか見られません」
デオンさんは眉一つ動かさず応答する。そのため信頼しているのかしていないのか全くわからない。
というかもうその嘘は看破されているかもしれない。
恐らく、デオンさんにとっては判断材料が少なすぎるのだろう。だからこそ、お前は〇〇だ!と決めつけることも出来ない。
この2人というカードを日本に使うことによって、どんな反応を示すのかを、この者たちはどんな立ち位置なのかを、信頼しない程度に探りを入れているのだろう。
「では、貴方たちのキング、将軍でしたっけ?その人にこの件を相談してください」
「分かりました。そうします」
そして、なんとかデオンさんから信頼を得たのか?いや、単に保留しているだけだろう。
俺は世界の情勢と将軍にフランスとの貿易についての進言という条件で解放してもらった。
「いやぁ〜びっくりしたわ繰君」
「そう?」
解放され帰途に着く俺たちは点々と立つランプの光と月の光に照らされていた。もう時刻は真夜中中の真夜中。重労働を課せられている人々の活動の音も聞こえない。夜空には元いた現代より沢山の星が光っていてロマンチックだった。
コツコツ、カツカツ、と微妙に合わない歩幅がただ響く。
「だって理路整然にあんな嘘を並べるんだもの。意外だわ」
「うん、前『詐欺師の才能があるんじゃないか?』って褒められた事がある」
「…それ、多分褒められてない」
こんな平和な雑談の中、邪魔が視界に入ってきた。
それは黒い塊に見えた。
クモがはいつくように屋根を渡り、バッタが跳ねるように次の屋根に移る。その影、その黒い塊から伺えるものは人殺しの狂気だった。
そして、その姿はあの敗北した新世代サン・ジョルジュだった。
「武蔵ちゃん!あれって!」
「ええ!この殺人事件の犯人と見て間違いないでしょう!」
あの塊目がけて走り出す。俺は全身に強化魔術を施してなんとか武蔵ちゃんと並走しているのだが彼女は本気で走っているようではなく
ジグザグに曲がったり時にまっすぐ進んだり、そうして約5分ほど走ったら黒い塊は止まって下を見下ろす。見下ろしている場所はどうやら路地裏のような場所だ。
数秒後その塊は獲物を定め飛びかかる。
「ひっ」
まるで鷹の狩。
響く悲鳴。
しかしその急降下は一つの刀の投擲によって防がれた。
「ちっ外したか」
武蔵ちゃんはそのまま跳躍して被害者の女性と狂人の間に入る。
「繰君この人をどこか安全な場所へ」
「了解」
俺はその女性をとりあえずデオンさんの所まで届けることにした。
「ここ最近の殺人事件の犯人って貴方かしら?」
「…………………あ………t………d」
「ん〜何言ってるかわかんない。けどその返り血、なんで着替えないのかわからないけど確かな証拠ね」
「g……!!」
狂人はいきなり予備動作なく一直線に武蔵ちゃんに迫る。
「む」
蜂のひと刺しと形容できるようなレイピアの突きを武蔵ちゃんはさっと体を捌いてかわす。
「なかなか早いわね。これなら一方的な戦いにはならなそう」
そう武蔵ちゃんは言って目の前の敵に高揚し笑みを浮かべゆっくり抜刀する。
一方、狂人は蛇のように這い蹲って様子を見ている。
「いざ尋常に!「ga!!」
また蜂のひと刺しが迫る。
今度はスピードも速い。一直線に迫るそれはライフルのように真っ直ぐ獲物を射る。
「最後まで言わせなさい」
この瞬間、武蔵ちゃんは剣豪、宮本武蔵となる。
この狂人のスピードは人の域を超えるものだったが宮本武蔵はそれの上に至っていた。こちらもまた予備動作なく動き軽く刀でその銃弾となった人を弾き上に蹴飛ばして見せた。
狂人はそのまま壁にへばりつき、壁の間を何度か飛び交いまた宮本武蔵に迫る。
前より速度の上がったそれをも彼女は華麗に捌く。
「そんなものかしら」
そう言って薄っすら笑みを浮かべたまま挑発する。
突きの速度は上がってゆく。それでも華麗に優雅にまるで舞うように捌いてゆく。
だが、慢心は命取り。この狂人は彼女の予想を凌駕する。
突きが急に止まったと思うとその狂人は四足歩行から二足歩行となる。
互いの距離は10メートル弱。
「…………」
(急に何?あれじゃあ完全に別人じゃない)
狂人だったソレはただ静かに
場の空気が凍る。
狂人だったソレの目は
まるで何かが吹き飛んだようなナニカガ外れたようなそん印象を受けながら宮本武蔵は目の色を変える。
彼女の剣気に全く押されること無くソレは何気ないただの一歩で目前までに跳躍した。
「!」
宮本武蔵は一瞬で捌きつつ驚愕する。それだけではソレの勢いは止まらない。2撃、3撃、4撃、続けて脳、心臓、右肺、と突きを仕掛ける。
危ないところで彼女は避けつつ距離を取る。と同時に一気に距離を詰める。
そして、跳躍して体を捻り二刀、相手の脳天めがけて切り込む。
ソレの後ろに下がって避けるを見た彼女はコンマ1秒の迷いもなく迫撃する。四肢を中心として狙った剣戟は躱されてしまったが相手の体勢を崩すことに成功した。
「切り返せるか!」
この隙を逃すまいと神速の技が振るわれる。
しかし、手応えはなかった。
「はぁ?どうなってんのよ」
明らかに人間じゃない動きだった。ソレは宮本武蔵の剣戟を体勢が崩れた状態で紙一重だが避けてみせた。
ソレは助走なしで屋根の上に飛ぶ。その間に宮本武蔵は自身の投げた刀を拾ってソレを見上げた。
「……………」
ソレは屋根の上で月明かりに照らされながらこちらを見ている。その光で目の前の者の正体が行方不明になった天才騎士だと確認できた。
そして、宮本武蔵は構え直す。彼女の目は光り出して次の斬撃を確固たるものにしていた。
ーーー今、未来を一つに収束させる
前話で前書きとは反対なことを言っていましたがそれはこの小説のキャラの話。
実際は武蔵ちゃんとイチャイチャしたいのです。一緒にセパラに行きたい。