八雲紫が幻想郷一武道会の開催を宣言してから、30日が過ぎた。そして今日は、ついに訪れたその開催日である!
出場者たちはひとまず博麗神社へと招集された。ざっと見ても参加者は100人はいるだろうか。人間の武道家や霊能力者、毛むくじゃらの妖怪や見たこともない姿の怪人まで出揃っている。
「よくぞ集まった、勇ましき戦士たちよ!」
集った参加者たちがざわざわとどよめき始める。見上げると、いつの間にか神社の屋根の上に何者かが立っているではないか。
八雲紫の式神である従者、八雲藍だ。背後には金色の毛並みの9本の尾が揺れており、両腕を互いの袖の中に仕舞っている。そして参加者たちを見下ろし、言葉をかける。
「あらかじめ断っておく、本選に参加できるのはお前たちの中からたった8名だけだ。今から選抜試合を、紫様が作った特別な武舞台で執り行う」
すると、参加者たちの視界、聴覚、全てが一瞬だけ何も感じなくなった。闇の中にいるような感覚だけが微かに襲い、気が付けば、さっきまでとは明らかに違うどこかの空間へと移動させられていた。皆が驚いた声を出し、再びざわめいた。
「集ってくれてどうもありがとう。私が主催者の八雲紫よ。今から選抜試合を行うわ」
紫がパチンと指を鳴らすと、参加者たちの足元に白いコンクリートのようなものでできた巨大な武舞台が出現する。広さは一辺だけで200メートルほどはあるだろうか。
「この舞台の上で、全員が一斉に戦ってもらうわ。ルールは簡単、ここからどんどんと他の参加者を落としていけばいいだけ。最終的に残り8人になった時点で終了、その8人が本選に出場できる。あらかじめ断っておくけれど、殺しは禁止。あとあと面倒だからね。それと、もちろん飛行もね」
「よお、霊夢」
隅っこでしゃがみながら話を聞いていた霊夢に、カカロットが話しかけた。
「あら、カカロット。久しぶりじゃない」
「頼むから落とされるなよ、お前とは決勝という舞台で勝ちたいからな」
「おいおい、俺を忘れてもらっては困るぞカカロット」
と、後ろから声を掛けられる。振り向くと、そこに居たのは豊聡耳神子の弟子、豹牙天龍だった。天龍はかつては己の力に慢心した邪な拳法家であったが、カカロットとの試合で負けてからは心を入れ替え、神子のもとで真面目に鍛え直してきた。
「天龍か。前よりは強くなったようだな」
「当たり前だ、神子様に一から鍛え直してもらった俺の力、決勝で見せてやるからな」
「ああ、俺も前より強くなったんだ、負けはしない」
「では説明は以上。舞台から落ちた者は失格、殺しと飛行は禁止、最終的に残った8人が本選出場、と。では試合は10分後に始めるわ、それまでウォーミングアップでもどうぞ」
説明を終えた紫が、後ろへ下がった。
「お疲れ様です、紫様」
「ええ…。それにしても、あそこにいる霊夢。前も思ったけれど、この一年でかなり強くなったみたいね」
「そのようですが…まだまだ私にも及ばないと思われます」
「いいえ、違うわ。あの状態で普通なのよ、本気を出されたら…私なんて軽く捻りつぶされるかもね」
藍は目を丸くして、遠くで座っている霊夢を見た。
「はははは、退きな退きな!」
その時、大きな笑い声が聞こえた。群衆たちが慌てて道を開け、その声の主たちが姿を現す。
大きな酒瓶とひょうたんを片手に酒を飲みながら、わざと他の参加者たちの間を練り歩いている。1人は額から紅い一本角を生やした女性で、もう一人は体こそ小さな少女のようではあるが、頭から二本の大きな角を生やしている。
「そうだ、鬼のお通りだぞ!」
「げっ、アイツらは…!」
カカロットがその姿を見た途端、思わず身構えながらジリジリと後ろへ下がった。
「ん?何か強い気配が集まってると感じたら…霊夢、それと…カカ坊じゃないか」
「やっぱりアンタらも来てたのね。勇儀、萃香」
そう、地底に住む鬼の星熊勇儀と伊吹萃香だった。
カカロットをカカ坊と呼び、馬鹿にしたような口調で話しかける。
「うぐぐ…」
「久しぶりだなー、お前が泣きべそかいて飛び出したとき以来か?」
「というかなんでこんな所にいるのよ?まさかカカ坊も出場するってんじゃないだろうねぇ?」
「い、一応参加するんだ…」
「ジョーダンきついなぁ、お前は全然弱っちいって何度も忠告してやったろ?ちっとは強くなったみたいだけど、やめときなよ」
勇儀はカカロットの頭をポンポンと叩きながら笑った。カカロットはただ俯きながら言われるがままにしていた。
「そこの人間も出るのか?ははっ、楽しみにしてるよ」
二人は最後にそう言うと、また酒を飲みながらどこかへと消えてしまった。
「あれが鬼か…態度の悪い奴らめ」
と天龍が呟いた。
「だ、ダメだ…地底でいつも馬鹿にされてた…アイツらすごく強いんだぜ、俺もう試合降りようかな…」
一気に弱気になってしまったカカロット。
それを見かねたのか、霊夢がこっそりとカカロットの耳元で呟いた。
「…大丈夫よ、今のアンタならアイツらだってめじゃないわ」
「…そ、そうか?」
「お久しぶりですね、二人とも」
「あ、聖!」
二人の元へ現れた聖がそう話しかけた。霊夢とカカロットは、聖と実に30日ぶりの再会だ。
「他の皆はやっぱり観戦か?」
「ええ、寺の者は私以外全員。それと、妹紅さんと紅魔館の方々も見えましたよ」
「こんにちわ。俺は豊聡耳神子様の弟子、豹牙天龍といいます」
天龍は両手を合わせ、聖にそう言った。
「あら、こうして言葉を交わすのは初めてですね。お互い頑張りましょう」
「ではこれより選抜試合を開始します」
その時、紫の声が聞こえた。参加者たちは武舞台の上で構える。
本選に参加し、景品であるドラゴンボールを得られる権利を与えられるのはこの中からたった8人のみ…。それを決める戦いが、今始める。
「…はじめ!」
戦いの開始の合図が鳴った。その瞬間、各々が飛び出し、近くに居る者に戦いをしかける。そこらかしこで打撃の音と叫び声が轟く。
「…ウオオオオオオオオオオ!!!」
「うわっ!」
突然会場全体に響き渡った大声と、とんでもない威力の衝撃波。それにより、人間の武道家や有象無象の妖怪たちは一気に吹き飛ばされ、場外へと落ちていく。さらに波のように襲う衝撃が、次々と参加者を吹っ飛ばしていく。
しかし、いくらかの実力者たちは踏ん張るようにして踏みとどまり、この衝撃波を放った主を探す。
すると…居た。
「オオオオオオオオオオ!!!」
星熊勇儀と、伊吹萃香だった。自身の妖力を爆発音のような大きすぎる声に乗せることで、絶大な威力の衝撃波を生成していたのだ。人知を超えた能力…その肺活量から繰り出される暴風の嵐は止む気配が無い。
「ぎぎぎぎ…!なんてヤツらだ…」
現時点では、カカロット、霊夢、聖、天龍、美鈴とその他数名しか残っていない。皆、今ので落とされてしまったのだ。
時間にしてたった数分の間だけの選抜試合。その大声が止んだ頃には、本選に出ることができる8人はもう決められていた。
「…決まったようね」
「凄まじいな…アイツらが全部落としてしまったぞ」
「ええ…これは厳しいですね」
天龍や聖は得意げな顔で笑っている鬼たちを見てそう言った。
「…いや、違う」
しかし、カカロットはそう呟いた。違う、確かに最初の一波で雑魚共は一掃された…しかし、それ以降の達人たちを落としたのはもう勇儀たちではないという事。それには霊夢も同じく気付いていた。
カカロットは残った8名の中にいる、白いマントを羽織った人物を横目で見た。斜めに切り揃えた前髪で片目が隠れており、髪は白く目つきは鋭い…身長や体つきは男性の様に見えるが、顔の雰囲気や気の性質からして女性のようだ。
そう、第一波で落ちなかった強者たちは、すぐに体勢を立て直し戦いへ赴こうとした。しかし、この人物が目にもとまらぬスピードで次々とその強者たちを蹴落として行ったのを、カカロットと霊夢だけが見ていたのだ。
「アイツ、とんでもない気を感じるわ…」
「はい、そこまで。8名が決まったわね。脱落者は自動的に博麗神社に送られてるわ。えーと…」
紫は残った者たちの名前の確認を始める。
「よし、トーナメントを決めましょうか」
8名は、紫の用意したクジを引いてトーナメントを決める。そして、順番は以下のように決まった。
「一回戦第一試合、カカロットvs紅美鈴!第二試合、博麗霊夢vs伊吹萃香!第三試合、星熊勇儀vs豹牙天龍!第四試合、聖白蓮vsウスター!」
「やったぜ、勝ち抜けば霊夢と戦える」
「だけどアンタの相手は美鈴でしょ、勝てるのかしら」
「ああ、この前の試合では負けたが、俺はもう負けはしないぞ」
「それはどうですかね?」
と、美鈴が近寄ってきてそう言った。
「私は今度も全力で行かせていただきますよ」
「望むところだ」
「貴方が私の対戦相手ですか?お互い頑張りましょうね」
一方、聖は自らの対戦相手である「ウスター」という名前の人物にそう話しかけた。その雰囲気と物腰からして、かなりの使い手であることはすぐに見抜けた。
しかし、ウスターはじっと聖を睨んだまま、口を開こうともしない。
「堅実な方なのですね」
聖はそう微笑みながら言うと、その場を去った。
「さて、8名の皆さんには人間の里に設けられた本選用の特殊武舞台へ移動していただきますわ」
紫がそう言うと、再び出場者たちの視界が揺らいだ。気が付くと、彼らは再び青空の下に立っていた。
ここは選抜試合で使ったような白い武舞台の上で、周りには観客席が設けられており、そこには人間や妖怪など様々な者たちが座っていた。そして、出場者たちが現れた途端、ワーッと歓声が響いた。
「始める前に、私から今一度ルールの説明を致しますわ。この武舞台は私の特殊な術式が掛けられており、この上では飛ぶことができなくなっているわ。さらに試合中の相手の殺害は禁止。相手を気絶させるか参ったと言わせるか、場外に落とせば勝ち。そして見事優勝した者には…」
紫は右手に何やらオレンジ色をした半透明のボールを掲げた。ボールの中には青い星型のマークが四つ入っており、それは何処の角度から見ても同じに見える。
「我ら幻想郷に伝わる最大の秘宝、『ドラゴンボール』を贈呈するわ!」
「あれが、何でも願いを叶えるというドラゴンボール…」
カカロットが息を呑んだ。美しいボールだ。手のひらサイズしかない玉ころが、何かとてつもなく神聖なエネルギーを放っている。
…今ここに、秘宝ドラゴンボールを賭けた熾烈な戦いが、幕を開けようとしているのだった…!
何故幻想郷にドラゴンボールがあるのかというと…それは読んでいけばわかるはずです!