もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第12話 「始まる波乱の武道会!」

さて、選抜試合を終え、いよいよ第一回戦が始まろうとしていた。出場が決まった8名の選手は控室に入り、自分の番を待っている。

ここは人間の里の広間に設けられた会場で、白い正方形の武舞台を囲うように客席が用意されている。ここは特殊な術が働いており、白い舞台の上では飛ぶことができず、戦いによって絶対に壊れることが無い。

 

「さあ、皆さまお待たせいたしました」

 

すると、突然影のように何者かが舞台上に現れた。黒い道士風の衣装に、後ろでしばった黒髪、そして顔は貼られた御札のような物で隠れてしまっている。

 

「わたくし、この大会の実況・解説・審判の為に作り出された式神でございます。わたくしが戦況を随時アナウンスし盛り上げていきますよう努めますので、よろしくお願いします」

 

式神はくるりと回ると、選手の入場口へ手を差し出す。

 

「さぁ、第一試合を行います。出場者は舞台へどうぞ!」

 

すると、入場口から出場者が出て来る。

 

「今大会での最年少!一体どんな戦いを魅せてくれるのか…カカロット選手ッ!」

 

カカロットは飛び跳ね、空中でクルクルと回転し、見事舞台上へ着地をする。そしてぐるりと観客席を見渡した。無数の人間の中に、妹紅や世話になった寺の仲間が見えた。

 

「対するは、あの紅魔館の門番がまさかの出張!その真の実力を今ここに解禁!紅美鈴選手ッ!」

 

美鈴はしずかに舞台上へ上がると、両手を合わせて挨拶をする。

 

「頑張りなさいよ美鈴ー!」

 

観客席の最前列を陣取ったレミリアがそう声をかけた。

 

「ではいきますよ…いざ、試合開始!!」

 

試合スタートを意味する銅鑼の音が会場に響いた。

 

「さぁ、あれから少しは強くなりましたか?」

 

構えを取りながら、美鈴がそうカカロットへ向けて言う。

 

「ああ、もちろんだ。今度は負けやしねぇさ」

 

「それは楽しみですね」

 

今回は美鈴が先に仕掛けた。突きを繰り出し、カカロットを吹き飛ばしにかかる。が、それを両手で押さえ込むようにして受けると、パンチを放つ。美鈴も更にそれを押さえ込むが、同時に向かってきていた鋭い蹴りを足に受けてしまう。

バランスを崩しそうになるも、咄嗟に後ろへ下がって整える。

 

「まだまだ!」

 

今度はカカロットが飛び出す。美鈴のガードを抜け、その頬にパンチを食らわす。さらに一撃、二撃と攻撃を当ててゆく。しかし、美鈴もそれを受け流すと、腕を大きく鞭のように振り回して殴打する攻撃に出る。カカロットの体勢を崩させ、そしてその胸に両手をあてると、衝撃を与えると同時に気を放ち、大きく後ろへ吹っ飛ばした。

 

「わととと…」

 

カカロットは後ろで回転しながら受け身を取り、立ち上がった。

たった1分と少しの攻防に、観客席は一気に沸き上がる。

 

「確かに、少しは変わられたようですが…まだまだ遅いですね。無駄があり過ぎます」

 

「そうか?」

 

「本気でかかってきなさい!」

 

「…なぁ、審判、ちょっとタンマしていいか?」

 

「へ?まあ少しなら…」

 

タンマを宣言したカカロット。すると、灰色の道着の上着を脱ぎ、それを投げるように地面に置いた。すると…

 

ドズン

 

まるで重たい鉄球を落としたときのような音と衝撃が起こった。続いて外したリストバンドと靴も脱ぎ、同じように地面に置く。もう一度、重たい音が響いた。

 

「よし、ふー…軽くなったぜ」

 

ズボンと上半身のインナーだけになったカカロットは、その場で思い切りジャンプした。そのジャンプはぐんぐんと空へ上がり、ついには人間の里を一望できる高さまで飛んでしまった。

地面に降りると、パンチを出したりしてみる。

 

「ど、どういう事なんでしょう…。カカロット選手、少し失礼しますよ…」

 

審判は地面に置かれたカカロットの上着や靴を持ち上げようとした。

 

「むっ!むぐぐぐぐ…!どうなっているのでしょうか、重たいです!とてもじゃないですが、持ち上げることが精いっぱいです!!もしかして、今まではこの重りをいっぱいつけた状態で戦っていたというのでしょうか!」

 

会場がざわめく。

 

「その通りだ。修行のためだからな…そして、今俺はその重りを外した。この意味が分かるな?」

 

「確かに…。だがそこまで劇的な変化が生まれたわけではない…私を上回ることは有りえないハズ!」

 

美鈴はそうタカをくくると、再びカカロットに向かって飛びかかった。カカロットは向かい来る美鈴の拳を片手で掴んだ。美鈴が引き離そうとするが、それは一向に動かす事すらできない。

 

「そして、俺の一か月の修行の成果…見せてやろう!」

 

拳を受け止めた腕に、白いオーラが纏われる。そのオーラは徐々に全身へ広がり、紫色へ変色すると同時に更に大きく膨れ上がった。そのすさまじい膨大な気はカカロット自身すら紫色に発光して見えてしまうほどだ。

長い時を生き、長い時を戦いながら過ごしてきた美鈴さえも、その異質すぎる気の広がり方と雰囲気を見て戦慄を覚えた。戦ってきた中で一番だった達人でさえも当てはまらない、異形の型…!

 

 

「まさか…『滅越拳』…!」

 

控室から戦いを見ていた霊夢がそう言った。

 

「滅越拳…?何なんだそれは」

 

一緒に居た天龍がそう疑問を口にした。

 

「カカロット…この一か月間であの奥義を…」

 

 

時は1年近く前、カカロットと霊夢がまだ聖のもとで修業を受けていたころにさかのぼる。

 

「貴方たちに是非伝授したかった、私発案の二つの奥義があります。そのうちの一つ、その名も…『滅越拳』…!」

 

「めつえつけん…?」

 

聖の言葉を聞いて首をかしげる二人。聖は砂利の上で立ち上がると、姿勢を低く構えた。そして気合を込めるような動作を取り、声を上げる。

 

「はぁぁぁあああ…!!」

 

すると、その全身を紫色のオーラが覆った。辺りに立ち込めた砂煙が渦を巻いている。その不思議な変化に、霊夢とカカロットは言葉を失った。

 

「ふぅ…これが、私が魔界に封じられていた1000年の間に編み出した奥義…。己の限界を滅し、超える拳で『滅越拳(めつえつけん)』と名付けています。半ば魔法で全身に気を集中させているのです。上手く使えれば体に負荷をかけずに、力・守り・速さどれをとっても元の何倍にも増大させることが可能です」

 

そして、ふっと紫色のオーラが消える。

この技は強制的に『気の集中』効果を全身で行い、『気の開放』状態にさせる技である。つまり、この滅越拳を必要としなくなったとき、それは『気の開放』の極意をマスターした時だ。

 

 

「私は習得できなかったのに!」

 

霊夢がイライラと頭を掻く。そこへ同様に戦いを観ていた聖が声をかけた。

 

「仕方ありません。霊夢はあの霊力を解放した状態からは、滅越拳による更なる強化は難しいのかもしれません」

 

 

 

さて、カカロットと美鈴の戦いに戻ろう。その不思議な気迫に押された美鈴だったが、すぐに闘争心を取り戻す。

 

「でしたらこっちも全力で行きますよ。むん…!」

 

美鈴は両手の間に気を溜め、エネルギーの光弾を作り出す。それを腰にまで持って行き、さらに大きくしていく。前に紅魔館でカカロットと戦った際、彼を打ち負かしたあの技だ。

 

「『華光玉』!!」

 

七色に光り輝くエネルギー波が、真っすぐにカカロットを狙う。もちろん、当たればただでは済まないはずだ。

しかし、カカロットはそれを避けようともせず、ただその場に立ち尽くしているだけだった。そして、そのエネルギー波はカカロットの全身を包み込んだ。

 

「なっ…!」

 

だが美鈴は明らかに命中したはずの技の手ごたえが無い事に気付き、目を凝らした。すると、カカロットの姿は揺らいでおり、エネルギー波は透けるようにして、当たっては居なかったのである。

 

「残像!?」

 

美鈴はあたりを見渡す。

 

「どこだ?」

 

「後ろだーっ!」

 

その声がした。美鈴が後ろを向く間もなく、その背中に強烈な飛び蹴りが命中した。美鈴は目を見開き、衝撃に驚く。

そのまま美鈴の体は前のめりになりながら吹き飛び、成す術もなく場外へ叩き落とされた。

 

「あー、美鈴負けちゃった…」

 

「場外です!よってこの勝負、カカロット選手の勝ちー!!」

 

「いいぞー少年!」

 

見事美鈴を場外へ落とし、一回戦を勝ち抜いたカカロット。

 

 

「やった!カカロットが勝った!」

 

「へぇ、カカ坊のヤツやるじゃないか」

 

控室でもホッとした声と驚きの声が聞こえる。

しかし、ウスターという謎の選手だけは、部屋の隅に置いてあるイスに座りながら目を瞑り、眠っているのだった。

 

「いやぁ~、負けました。これは私も本腰を入れて修行をしなくてはなりませんね」

 

美鈴が、一緒に控室に戻って来たカカロットにそう言った。

 

「お前の教えも、あったからだ」

 

と、不愛想に返す。美鈴はふっと息をつくと、椅子に腰かけた。

 

 

 

「さぁ、続いて第二試合を行いたいと思います!選手の方は入場してください!」

 

数分経って、審判がそうマイクに向かって喋った。入場口から、第二回戦の選手である霊夢と萃香が姿を現した。

さっきの試合よりも大きな歓声が上がった。それもそうだろう、あの有名な博麗の巫女と鬼との戦いが生で、しかもこんな近くで見られるのだから。

 

「くそ、何でアイツのほうが盛り上がるんだ…!」

 

カカロットは気に入ら無さそうに壁の角を握り、ひびを入れる。

 

「知る人ぞ知る、博麗神社の素敵な巫女が武器と弾幕を捨てての参戦だ!?博麗霊夢選手ッ!!対するは人が畏れる強き者、古来からの強者!伊吹萃香選手ッ!」

 

「おう霊夢…何やら強くなったらしいじゃないか。その実力、見せてもらおうか」

 

「上等よ。私が弾幕以外でも強いってところ、見せてあげるわ」

 

「では、試合を始めてください!」

 

試合が開始された瞬間、萃香は酒の入った瓢箪を投げ捨てると拳を振りかざした。

 

「うわっと」

 

霊夢はそれを見切り、軽くかわして見せた。

 

「ははは、流石だな」

 

萃香はそう言うと、さらにパンチの連打を放つ。霊夢は後ろへ飛びながら避け続ける。萃香の攻撃はさすがは鬼というべきか、とんでもない重さが食らうまでもなく伝わってきて、当たればただでは済まない事は明白だった。だから霊夢は萃香の攻撃を受けたりするのではなく、全て避ける作戦に出たのだ。

 

「これならどうかね!?」

 

大きく息を吸い込む萃香。両手を天にかかげると、何という事だろうか、萃香の体がどんどんと巨大化していくではないか。ついにはかつての大猿に変身したカカロットと同じくらいに大きさにまで巨大に変化してしまう。

 

「どうだ!これならそう簡単に避けれまい!」

 

萃香は口の端から炎をくすぶらせると、巨大な火柱を吐き出した。霊夢は素早く武舞台上を移動しながらそれを躱す。

 

「そぉれ!」

 

丁度霊夢が自分の下あたりに来たタイミングで、その大きな足を振り上げた。そして一気に、霊夢を踏みつける。あまりに強力な一撃だったが、霊夢は間一髪、それを頭上で押さえた。

 

「ぐぬぬぬ…!」

 

しかし、巨大化した萃香の一撃はパワーもスピードも上がっており、流石の霊夢でも耐え切れず、その足の下敷きになってしまった。舞台上にドズンという鈍い音が響いた。

 

「おおーっと!霊夢選手、巨大化した萃香選手の脚に潰されてしまいました!!」

 

「ふふふ…」

 

勝ち誇った笑みを浮かべる萃香。

だが…

 

「お…おお…?」

 

足に異変を感じる萃香。すると、足が徐々に持ち上がり、踏みつぶされたはずの霊夢が姿を現していた!

先ほどまで身に着けていたはずの袖と靴、巫女服の上着が足元に脱ぎ捨てられている。

 

「まさか、霊夢もさっきのカカ坊のように重りをつけていたというのか…!」

 

「そうよ、アイツにできて私にできない事はないわ!」

 

霊夢は一気に霊力を解放すると、踏ん張るようにして萃香の足を引っ張る。

その戦いのエネルギーを感じ取って、控室で眠っていたウスターのまぶたが、ピクリと動いた…。

 

「ぐお…うおおお…!!」

 

何と、霊夢は萃香の巨体を1人で持ち上げてしまった。足を掴んだまま萃香を引きずり、ゆっくりと勢いを付けて振り回していく。

 

「いよいしょおお!!」

 

そしてその巨体を投げ飛ばすと、萃香は成す術もなく場外へ倒れ込んでしまう。

 

「いてて…」

 

「す、素晴らしい!!博麗霊夢選手の勝利ですっ!!!」

 

ワアアアアアァァァァァァ…

 

鬼すら打ち破った霊夢の戦いに、観客席からは絶賛の嵐が起こる。

萃香は元の大きさに戻り、起き上がる。

 

「いやぁ、負けた負けた。相当強くなったみたいだ。前のままだったら簡単に踏みつぶせたのになぁ」

 

「だから言ったでしょ」

 

「素晴らしい戦いを魅せてくれた両選手が退場していきます!拍手でお送りください!」

 

 

さて、無事第一回戦を突破したカカロットと霊夢。次の試合は、豹牙天龍対星熊勇儀!

いったい、これからどんな戦いが起ころうというのだろうか…!

 

 

 

☆キャラクター戦闘力紹介☆

参考

一般成人男性 5

一般成人女性 4

子供(10歳) 2

ミスター・サタン 6.66

一般的に超人と呼ばれるレベル 7~8以上

大妖怪クラス 80以上

ピッコロ大魔王 260

 

 

紅美鈴 120~240(通常~気で攻防力増/華光玉)

カカロット 90~125(重りで戦闘力制限~重りを外し、通常最大)→250(滅越拳)

 

始まった第一回戦第一試合。カカロット16歳。美鈴は変わらずだが、カカロットは大幅なパワーアップを遂げて帰って来た。最初は重りをつけることで戦闘力をセーブしており、その時は美鈴に「前と変わっていない」と評された。その通り、その状態は以前と同じ90にまで落ち込んでいた。

しかし、重りを外しその本来の力を解放したカカロットの戦闘力は125。かつての師である妹紅は優に超え、美鈴をわずかに上回る。しかし、カカロットには更なる技があった。聖白蓮が魔界での1000年間で編み出した、「滅越拳」だ。強制的に気の開放状態を引き出す奥義。原作で言う界王拳に酷似しているが、こちらはその原理は魔法に近いものであるため使用による反動などは無い。これを特に意識せず常に発動していられる(リスクは無いとはいえ、当然使い過ぎれば疲れたりもする)ようになれば、それはもう気の開放を習得したといえるらしい。

 

 

博麗霊夢 50~75(重りで戦闘力制限~平常時)→375(霊力開放)

伊吹萃香 148(通常)→207~370(巨身術)

 

続く第二試合。霊夢17歳。霊夢もまたカカロットと同じく、自分に重りを課して戦闘力を下げると同時にトレーニングを行っていた。一度は萃香に踏みつけられるも、重りを外しさらに本気を出すことで現時点で最強の375もの戦闘力を引き出し、萃香を場外まで投げ飛ばした。

さて、萃香の戦闘力だが、仲間の勇儀に比べれば劣りそうだ(能力や妖術などは戦闘力に含まれない)。まず巨大化した状態の倍率を、通常時から1.4倍~2.5倍までの力を自在に引き出せるものと設定し、2.5倍時の最大戦闘力を霊夢にやや及ばない370とする。そこから倍率で逆算すると、通常時で148、巨大化して207~370となる。(小数点以下は省略)

 


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