もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第145話 「貴方に今、できること」

午前11時30分。

カカロットたちは幻想郷に現れたフリーザ軍と戦い続けていた。カカロットにとってはフリーザ軍の兵士など足元にも及ばなかったが、その数はさすがに息を切らしてしまうほど多かった。

そしてその頃、いよいよフリーザとコルド大王の乗るもう一隻の宇宙船が地球間近へと迫っているのだった。

 

「あれが地球だよ、パパ…」

 

「ほう…美しい星だ。これは高く売れそうだな」

 

 

 

「この気は…フリーザか…!!」

 

カカロットは兵士のひとりを殴って吹っ飛ばしながらそう言った。

 

「改めて感じるととてつもない化け物みたいな気だな…」

 

まだまだ遠くに居る筈なのに、身を刺すように流れてくるフリーザの強大な気を感じてカカロットは身震いした。しかし、それは恐怖から来るものだけではなかった…自分の修行の成果をはやく試してみたいという好奇心からくる武者震いでもあった。

そして向かってくる兵士たちの大群は、いよいよ終わりが見えてきた。他の場所で同じく兵士たちと戦っている美鈴や天龍、そしてザーボンも同様に今頃兵士たちを倒し終えてくるころだろう。

 

 

 

 

 

その頃、人間の里から少し離れた林の中。

 

「オーウイェア~~!!ようやく地球人発見♪ひとりで見つけたオレかっけぇ♪」

 

妙なリズムに乗った歌交じりの台詞がこだまする。それを発するのはフリーザ軍の戦闘服を着用したひとりの兵士だった。

彼の名はチューン。軍の中ではエリート戦士の位を持っている。その目線の先には林の中では、木陰で身を寄せ合っている十数名の子供たち…そしてそれを庇うように両手を広げて立ちふさがるのは、あの上白沢慧音である。

 

「何だお前は…!私と生徒たちをどうするつもりだ…!」

 

「別に簡単な事だぜ~?オレは命令通りに行動するだけ、この幻想郷とかいう場所に住む全ての人間を殺すだけ♪」

 

慧音は汗をかきながら後ずさった。

 

(くっ…こんなことになるならいつも通り寺子屋で授業をしていればよかった…!)

 

運が悪かったとしか言いようが無かった。今日はたまたま、課外学習としてはずれの林での自然を学びに生徒たちとここまで足を運んでいたのだ。

 

「せ、先生…!」

 

後ろの子供が心配そうに慧音に声をかける。

 

「大丈夫だ…先生が何とかする…!」

 

とは言ったものの、この男から発せられる気配はとんでもない。慧音の体を芯から震え上がらせ、その足を石のように硬直させるには十分すぎた。

 

「まぁいいぜぇ!どちらにせよフリーザ様が来ればお前ら全員あの世行き♪今殺したって結果は同じ!!」

 

チューンは右腕にエネルギーを込め、その腕を上にあげようと構えた。この林ごと慧音と子供たちを一緒くたに消し飛ばすつもりのようだ。

慧音もチューンが何をしようとしているのか理解できた。もうダメだと思い、目を瞑る。

 

「…あァン、誰だおめぇ…」

 

だが、チューンのその声が聞こえ、攻撃は来なかった。慧音が恐る恐る目を開けると、チューンの背後にまた見知らぬ人物が立っていた。

緑色の長い髪の毛をひとつに結んでおさげにし、額や首にアクセサリーを付けた背の高い優男だ。

 

「ははははは!!誰かと思えばフリーザ様の側近でいらしたザーボンさんじゃねぇっスか!てっきり死んだと噂してたのに、こんなところで生きてらっしゃったんスねぇ!」

 

「ふっ、音痴なリズム感の無い歌詞が聞こえてきたのでな…耳障りなので止めに来ただけだ」

 

「何ですって?アンタ、こんな弱い奴ばっかの星にいてずいぶんレベルが下がっちまったんじゃねぇスか?オレのスカウターで計ってみたらアンタの戦闘力はたった8000しかありませんぜ!これじゃあ戦闘力1万7000のオレにゃ勝てねっスねぇ!!」

 

「チューン、私はこの場所でいいことを教えてもらったんだ」

 

「へぇ、そりゃ一体なんです?」

 

「戦闘力のコントロールさ」

 

ザーボンがそう言った次の瞬間、彼の全身から気が溢れ出た。それと同時にチューンの覗いたスカウターの数値がみるみる跳ね上がり、1万を超えた。

 

「え…!?な、なんで戦闘力が一気に増えるんだ?1万をこえて…2万5000!?」

 

「あのベジータも地球で戦闘力を変化させる方法を覚えたと言っていたな…もっとも、私の方がずっと上手く操れるがな」

 

「クッソ~、舐めやがって!!」

 

チューンは飛び上がり、その腕から強力な衝撃波を放った。強烈な突風を吹かしながらザーボンへと向かい、その突風に晒されて慧音たちが顔を背けた。

 

「キサマの音楽は私の心に響かない。何故ならお前の歌もまた…ただのメトロノームに過ぎないからな」

 

ザーボンは衝撃波を蹴って弾き飛ばし、一瞬でチューンの目の前に跳躍するともう片足による蹴りでその肉体を縦真っ二つに切り裂いた。

 

「オウ、ノ~~~~!!!」

 

そのままチューンの体は爆発を起こし、粉々に四散して消え去った。

慧音はただその光景を見つめていた。そして、感嘆した。強大な力も、さらなる力によって簡単に駆逐される。慧音には自分や子供たちを救ったザーボンが、絶対的な存在として目に映った。

 

「…怪我はないか?」

 

「は…はい…」

 

「急いで里へ戻るがいい。とりあえず幻想郷南部の兵士共は全て蹴散らしたが、いつ第2軍がやって来るか分からない」

 

「じょ、状況がよくわからないのですが…」

 

「ふん、では教えてやる、一度しか言わないからよく聞いておけ。貴様たちから見て宇宙人であるフリーザという奴が軍隊を連れて地球へ攻め込んできた。そして奴らはまず最初にこの幻想郷に目を付けた。この地に住まう全ての者を殺そうとし、師団を放ったがその第1軍は私たちが蹴散らした。だがもうすぐ第2軍が来るはずだ、安全な場所へ向かうといい」

 

「私は上白沢慧音…里で寺子屋の教師をやっている者です、ぜひお礼を言わせてください!」

 

「…いや、いい。それよりも、ここから近い永遠亭という建物ならば安全だ」

 

「あ…永遠亭なら行き方わかりますけど…」

 

「ならはやく行こう。私が護衛する」

 

ザーボンに助けられた慧音と生徒の子供たちはひとまず永遠亭へと身を隠すのだった。

 

 

 

 

午前11時42分 幻想郷南部 魔法の森付近

 

「はあああッ!!」

 

天龍は襲い来る兵士の一団を気功波でまとめて吹っ飛ばし、それでも向かってくる敵を蹴り飛ばして撃破する。

そして、目の前に立っている最後のひとりである兵士を睨みつけた。

 

「あとはお前ひとりだな…見たところコイツらのリーダーか?」

 

「ご名答!」

 

その兵士は手に持ったコインを弾いて上へ投げ、また掴んだ。そして木に寄りかかり、被っていた帽子をずらしてするどい目を覗かせた。

 

「私の名はカノジ。コルド大王さまの側近にして…いや、今はフリーザ軍最強の”ギャンブラー”さ」

 

「ギャンブラー…?」

 

「ああそうさ…おっと!」

 

カノジと名乗った兵士がそう言いかけたところで天龍はカノジに殴りかかる。カノジは寸前でそれを躱し、身軽なステップで背後に回った。

 

「まあ話を聞けって!私もギャンブラーだからそれなりの戦いの流儀ってもんがあるんだ。ずばり、この私と”賭け事”で勝負だ!」

 

「賭け事だと?」

 

「私と賭けをして戦うのさ。どうだ、スリルがあって面白いだろう?」

 

「ふん、バカバカしい!何が賭けだ、決着を付けさせてもらおう!」

 

天龍はそう言うと突きの連打を放とうと構える。だがカノジはにやりと笑うとまたしてもステップで距離を取る。

 

「そうはいかんなぁ…オイ、持ってきな」

 

カノジがそう言うと、どこからか現れたもうひとりの兵士がそばに降り立った。そして、天龍はその兵士が抱えていたものを見てギョッとした。

 

「神子様…!!」

 

そう、兵士は手足を縛りあげ拘束した神子を連れていたのだ。

 

「豹牙天龍…お前の事はソルベを通じて調べ尽くしてあるんだ。この女はお前の師匠なんだろう?」

 

「人質にする気かキサマ!神子様を離せ!」

 

「人質?オイオイ、そんなんじゃないって…ギャンブルには”賭け金”が必要だろ?」

 

天龍はギリリと歯をかみしめた。

 

「天龍、私の事はよいから逃げなさい!」

 

神子がそう叫んだ。が、兵士は神子の口を手でふさぎ、もう片方の手で肩を強く握りしめた。神子は痛みに顔をしかめる。

 

「私はプロだ、嘘もイカサマもしない。さてルールを設けようか…。私が勝つたびにこの神子という女の指を一本ずつ折っていく!そして折れる指が無くなった時、私はお前をなぶり殺す!というのでいこうか」

 

「な…!」

 

「命を取らないだけありがたく思いな。だがもしお前が私に逆らったりルールを破れば、即行この女を練り殺すぜ」

 

「ゲスめ…」

 

「さ、やるのかやらないのかどっちだ?ま、やるしかないと思うがね」

 

「…わかった、やろう」

 

「オーケー!んじゃそっちの要求は何だ?師匠を返して~ってか?」

 

「いや、俺が勝ったら…キサマの顔を一発殴らせてくれ」

 

「くっくっく、一発だけでいいのかい?」

 

こうしてカノジと天龍の賭け勝負が始まった。

 

「一発目はコイントスだ。やり方くらい知ってるだろ?コインを投げて裏か表かを当てるんだ」

 

「お前が投げてくれ、俺にはできないからな」

 

「いいよ、それ」

 

カノジはコインを指ではじく。

 

「裏だ」

 

「表」

 

カノジが裏、天龍が表を宣言する。

コインは回転しながら宙を舞い、ふたりは目を凝らしてそれを見つめる。そしてカノジの手の甲と手の平に間で挟み込むようにコインをキャッチし、恐る恐る結果を見る。

 

「裏」

 

コインは裏を見せていた。天龍の顔に汗が浮かび上がる。

 

「まずは私の勝ちだ。やれ」

 

「待て、やめ…!!」

 

ペキン

 

天龍がそう言いかけたのも空しく、カノジに付いていた兵士が神子の左手の人差し指をへし折った。

 

「うっ…」

 

神子が一瞬だけ苦痛の声を漏らした。天龍は顔を真っ青にするのと同時に怒り、その兵士に殴りかかろうとする。

が、咄嗟に兵士が神子の喉元に手を添えると、天龍はそれ以上前には行かなかった。

 

「これで分かってもらえたかな…大事な師匠の指が惜しければ神様にでも祈る事だな。さて、2回目の勝負はルーレットだ」

 

カノジはポケットから小さな手のひらサイズのルーレットを取り出した。盤には白と黒の線が交互に入っている。

 

「この針を回して、止まったところが白か黒どっちか当てるのさ。簡単だろ?お前が回していいぜ」

 

(クソッ…これ以上神子様を巻き込むわけにはいかん…!)

 

「私は黒」

 

「白だ」

 

カノジは黒、天龍は白を選ぶ。天龍はルーレットの針を勢い良く回した。

針はシャーと音を立てて回転し、だんだんゆっくりになっていく。そしてその場の4人が見守る中、ルーレットの針が止まった。

 

「結果は黒だ」

 

ペキン

 

また1本、神子の指が折られた。

 

「さぁ、まだまだ勝負の種類と指はたくさんある!まだまだ楽しもうじゃないか」

 

その後も何回か賭け勝負を続けたが、天龍は一度も勝てることが無いまま負け続けた。そのたびに人質の神子の指は折られ、今やすでに右手の人差し指と親指しか残っていなかった。しかし、ここまで来ても、耐えがたい激痛が何度も襲い掛かっているはずなのに、神子は鋼の意志でもって天龍は必ずこの状況を打開できると信じていた。

逆に心が乱れ切っているのは天龍のほうだった。神子の指が折れるたびに焦りが募っていく。

 

「ここまで私は無敗だ!あはははは、つくづく運が無いんだな豹牙天龍!!えぇ!?」

 

天龍はガクリと膝をついた。

 

「だがこっちの持ち勝負は全部使い果たしてしまったな…おい天龍クン、今までのゲームの中で再チャレンジしたいものはあるかい?」

 

「天…龍…そいつの言うことに耳を貸す必要は…ない…」

 

「あん?なんか言ったか、女」

 

神子は震える声で天龍に声をかけた。

 

「道教の格言にこんなものがある…『白雁は白くなるために水浴びする必要はない。あなたも自分自身でいること以外に何もする必要はない』」

 

それを聞いた天龍は下を向いたまま目を見開いた。

 

「つまり…私が言いたいのは…上手くできないことに無理に付き合う必要はない…自分のできることをしなさい…!貴方に今、できることは何ですか?」

 

「何言ってんだ、コイツ…」

 

(俺に…できること…?)

 

天龍は脳裏に豹牙流拳法の道場、そしてそこで自分に武術を学ぶ弟や他の弟子たちの顔を思い浮かべた。

 

「…なんだ、簡単なことさ…。なぁカノジ、ゲームが尽きたなら俺がお前の知らない勝負を教えてやってもいいぞ」

 

「…ほう、どんなだい?」

 

「さっき使ったサイコロがふたつあるだろ?それを使うんだ」

 

「ふん、それはさっきやっただろう、どちらが目の合計が多いか当てる…」

 

「いいやそうじゃない。『丁半』と呼ばれるものさ…知らないか?偶数を丁、奇数を半と呼んで、目の合計がそのどっちかを当てるんだ」

 

(初耳だがそんなことか…私のとほとんど変わらないじゃないか。自分が提案した賭け勝負なら有利になれるとでも思っているようだが甘いな…私の全ての賭け道具には超精巧な”イカサマの仕掛け”があるのさ!それはこっちの意志で自在に操作できる…)

 

「いいだろう、やってくれ。で、万が一にもないことだがもしお前が勝ったら…?」

 

「やはり、1発殴らせてくれ」

 

天龍はカノジが用意したマグカップの中にサイコロを入れ、中で振った。神子やカノジが集中してその様子を見ている。そしてカップを勢いよく地面に置いた。

 

「俺は丁にする」

 

「なら私は半だな」

 

(ようし、このカップの中のサイコロの向きを変えて…)

 

「さぁカップを退けたまえ!」

 

─そうですね、神子様…いつでもこの俺に出来ることは、自分で編み出した…

 

ドゴォ

 

─この「豹牙流拳法」のみ!!!

 

天龍は拳を腰の横へ構え、カップの下を覗き込もうと顔を前に出したカノジの顔面目がけてそれを渾身のパワーで放った。

拳は鈍い音を立ててカノジの顔面へめり込み、後頭部から気の衝撃が突き抜けると同時に大量の血が噴き出す。

 

「お…おま…何を…ルール違反だぞ…!!」

 

「ふん、人質を取って自分が得意なものの勝負に引き込む貴様に言われたくはない!スカウターやメディカルマシンを作れる技術があるんだろ、イカサマが自在にできたって不思議じゃない。それに俺に運が無いだと?大きなお世話だ、俺は自分の力だけで豹牙流拳法を編み出し、自分ですべて学んだ!自分の力で何とかしようとする…そんな大事なこともギャンブルは忘れさせてしまうのだ」

 

「そ、そんな…一発~~~~!!!!」

 

天龍の戦闘力ではどうせ一撃で自分を倒すことはできない…そう高を括っていたカノジの頭部は潰れ、もはや本人にはどうすることもできなかった。やがてカノジは後ろに倒れ込み、二度と起き上がることは無かった。

 




からくりサーカスのバス・ナッシュ戦、ギャンブラー・ジョーンズ戦のパロディです。
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