もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第148話 「また、ピアノを弾いてね」

正午12時15分

 

霊夢が永遠亭を出た後。寺子屋の子供たちを連れた上白沢慧音とザーボンが永遠亭に到着した。

 

「貴方は…慧音?なんでここまで…」

 

「ちょっと色々あって…そこのザーボンさんに助けてもらったんだ」

 

「とりあえず奥の部屋に行ってなさいな」

 

慧音たちとザーボンは奥にある広間に移動した。ここはもしも大量の患者が訪れた時の待合室も兼ねており、子供用の暇つぶしの本や楽器などが置かれている。

ザーボンは入り口の前でじっと立ってまま。

 

「うう…」

 

その時、子供たちと合流した、寺子屋の生徒でもある史奈は急に頭痛を感じ、その場でうずくまった。

 

「史奈ちゃん、大丈夫?」

 

それについてきたシロナが心配そうに声をかける。

その様子を見ていたザーボンは、今度は他の大勢の子供たちに目を向けた。よほど先ほど出会ったフリーザ軍兵士のチューンが恐ろしかったのか、不安そうな顔で、目に涙を浮かべて震えている子供もいる。

 

「なぁ、どうしよう永琳…子供たちが怖がってる。どうにかして気をまぎらわせることはできないだろうか?遊び道具に向かう余裕もないようだし…」

 

見かねた慧音がそっと横にいた永琳に耳打ちした。

 

「そうね…精神安定剤でも与えてみる?」

 

「バカ、薬など使わせんぞ!」

 

その会話を聞いていたザーボンは、部屋の隅にあるものを発見するとそこへ向かっておもむろに歩き出した。

 

ポロロン…

 

その時、この部屋に何かの音色が響いた。子供らは顔を上げ、その音がどこから聞こえてくるのか探し始める。

その出どころは、部屋の隅に置いてある大きなグランドピアノから発せられているようだった。これは昔に永琳が輝夜の暇つぶしにと手に入れたものだが、結局何回か触ったきりでここに放置されているものだ。

子供たちや慧音の目線は、そのピアノで何かの曲を演奏するザーボンに向けられた。ザーボンは目線に気付くと演奏を止める。

 

「こんなものでよければ」

 

「あ、ああ…もちろん続けてくれ…!」

 

慧音にそう言われたザーボンは、続けて演奏をおこなう。ザーボンは昔の記憶を頼りに、故郷の惑星に伝わる曲を弾き続ける。子供らはその様子に目が釘付けになり、慧音と永琳も思わず聞き入ってしまう。別の部屋で仕事をしていた、輝夜と鈴仙もひょっこりと顔をのぞかせた。

ザーボンは一通り演奏を終わらせると、一息つこうとした。その瞬間、ザーボンへ向けて盛大な拍手が送られた。驚いたザーボンは思わず立ち上がり、いつの間にかピアノの前に集まっていた子供たちの顔を見渡した。

子供らは皆笑顔で歓声と拍手と送っている。それを見たザーボンは、今まで感じた事のない感覚と感情に心を奪われ、呆然と立ち尽くしていた。

 

ドガァン

 

「うわぁあっ!」

 

だがそれを、突然の爆発音と地面の揺れが破った。子供たちはもう一度顔をこわばらせ、床にしがみ付いた。

ザーボンは接近する敵の気配を感じ取り、立ち上がると戦いに向かうために部屋を出ようとする。が、それを呼び止める声が聞こえて、振り返った。

 

「ねぇ、ザーボン…」

 

「…何だ」

 

子供たちだった。人間の子供たち数名が、恥ずかしそうにもじもじしながらザーボンに話しかけてきたのだ。

 

「お願いがあるの。また、ピアノを弾いてね…」

 

 

 

 

 

「おっ、ひとり出てきやがった!」

 

ついに迷いの竹林の中を進み、永遠亭までたどり着いた兵士たちは、その門の前に仁王立ちしたザーボンを見てそう声を上げた。

 

「ありゃザーボンだ!こんなところで地球人の味方をしようってのかよ!?」

 

兵士たちは一斉にザーボンへ飛びかかる。しかし、ザーボンはカッと目を見開くと蹴りの一撃で兵士たちを薙ぎ払い、腕を振るって衝撃波を発生させ全員まとめて吹っ飛ばした。

 

「ゲ、ゲェ…つ、強い…!」

 

「流石だな、ザーボン」

 

その時、竹林の中を歩いてくる影が。

 

「オレはマンダリ。たかがフリーザの側近であったお前に勝つ見込みなどないが、このオレとやるかね?」

 

マンダリはザーボンと向かい合った。

 

「ああ、もちろんだ。これから、ここで演奏会があるのでな…」

 

「オレはコルド大王とフリーザおよびカーボネド四天王の命令でここへ来た。だがお前には命令する者もいまやいない…ただ死にゆくなど愚かな事だと思わんかね?」

 

「愚か、か…それは私も思う」

 

「ふん、お前の戦闘力は2万5000…このオレには敵わない。それでもお前は立ち向かうという、不思議な事だ」

 

「音楽カセットやCDは容量が大きく曲が入っているほど良いという訳ではない、中のミュージックが肝心だろう?」

 

「おかしなことをいう野郎だ!」

 

マンダリとザーボンは同時に飛びかかり、その拳をぶつけ合った。互いの気がはじけ飛び、周囲の地面がへこんで竹林がバサバサと突風で揺れる。

ふたりのパワーは互角かのように見えたが、マンダリはにやりと笑って更なるパワーを込めると、ザーボンはいとも簡単に弾き飛ばされ、背中から地面に倒れ込んだ。

 

「ぐああっ!!」

 

「どうした?もうお前の戦闘力数値がぶれだしたぞ」

 

「…まだまださ」

 

ザーボンは口から血を流しながらもすぐに起き上がり、もう一度マンダリに挑みかかる。ザーボンの放った拳をマンダリは手で受け、マンダリの攻撃をザーボンは腕でガードして受け止める。両者は激しい攻防戦を繰り広げるが、その末に勝ったのはマンダリだった。

ザーボンは素早く後ろへ飛び、片腕を前に向けてそこにエネルギーを集中させる。

 

「喰らえ…!」

 

「遅い!」

 

だが、マンダリは頭から垂れるドレッドヘアー…いや、そのように見えるだけの頭部の肉体的部位を鋭くして伸ばし、無数にザーボンの体を切り裂いた!

 

「が…ふ…!!」

 

ザーボンは吹っ飛ばされ、竹林の中の地面の水溜まりの中に滑り込んだ。ザーボンは泥だらけのままうずくまり、起き上がろうともがいている。マンダリはそこへ近づき、ザーボンを掴んでこちらへ引き寄せようとするが、自分も泥に汚れることを嫌い、手をひっこめた。

 

「立ちたまえ、ザーボン。お前にはもっと深い絶望を与えてから殺してやることにするよ。実はな…このオレもお前と同じ、変身することで戦闘力を増す種族なんだ」

 

その瞬間、ザーボンは急に起き上がると刃状のエネルギー弾を無数に放ってマンダリに攻撃を仕掛ける。しかしマンダリはすぐにそれを見切り、ドレッドヘアーで叩き落とした。

 

「馬鹿め」

 

そして静かにそう呟くと、もう一度尖らせたドレッドヘアーで無数に切り裂いた。

その時、永遠亭の門の後ろから慧音が顔を出した。

 

「ザーボン、しれっとひとりで戦いに行ったようだが大丈夫だろうか…」

 

そう言いながらあたりを見渡す。すると、吹っ飛ばされてきたザーボンが門の横の塀に当たって倒れ込み、がれきの下敷きになった。

 

「な、なんだ!?」

 

「もうプライドも体もボロボロだろう?ギブアップすれば楽に殺してやるぞ?」

 

そこへマンダリがゆっくりと歩み寄り、そう言い放った。マンダリが言った通り、その身体には深刻なダメージが蓄積され、血と泥が混じった液体で汚れていた。

もはや満身創痍であるはずだが、それでもよろよろと起き上がったザーボンがゆっくりと顔を上げると、その口には先刻にカカロットから貰ったタバコが咥えられていた。

 

「ふー…」

 

それに火をつけ、ゆっくりと吸い込んで煙を吐き出す。

 

「タバコ、だと…?馬鹿な、自らの体調の低下を招く行為だ、美しくない!」

 

「ザーボン!」

 

慧音が横から心配そうに声をかける。振り返ってその顔を見たザーボンは、同時に慧音の後ろにたくさんの子供たちが笑顔で立っている幻を見た。

 

「…ふっ、飽きたのさ…ギブアップする事にも、美しさにこだわる事にもな」

 

「何を言っているのだザーボン、意味が分からない!」

 

「マンダリ、お前は前までの私にそっくりだよ…」

 

変身型の宇宙人であるという点、自分が汚れるのを嫌ってツメが甘いところ、美しさや完璧さにこだわる性格。

 

「ふん、オレとお前がそっくりだと?だからどうした?」

 

「でも、違うところも…ある!」

 

ザーボンはもう一度慧音の顔を見ると、嬉しそうに笑顔を浮かべながら言った。

 

「私は、子供たちに『また、ピアノを弾いてね』って言われたんだ!」

 

「なんだと?何を言っている?」

 

「私は盛大な拍手と共に、笑顔で言われたんだ、『またピアノを弾いてね』って」

 

「おかしくなったんだな、ザーボン!!」

 

マンダリはそう言うと全身に力を込め、そのパワーを解き放った。肉体が筋肉質に膨れ上がり、その皮膚はごつごつした爬虫類のよう…顔も昆虫を思わせるような顔に変わり、変身前の姿と比べればお世辞にも綺麗とは言えず、醜いと言えるような姿だった。

 

「もういい、醜い姿への変身と引き換えに得られる超パワーでお前を葬ってやる!その後は中の地球人を皆殺しだ!!」

 

「あの子供たちはピアノをまた弾いてねって、私に…こんな、こんな私にだぞ!!」

 

その瞬間、ザーボンも負けじと同様に変身を遂げた。醜い両生類の様な姿と引き換えに戦闘力をアップさせたのだ。

マンダリは平べったい額から特大のエネルギー光線を発射する。ザーボンもそれを止めようと、右腕から丸いエネルギー弾を撃ち出した。

 

『お前は何もできない王子だな、ザーボン!!』

 

(違う!私に言ってくれたんだ、たったひとつの好きな事を、また弾いてねって言ってくれたんだ!私は何もできないわけじゃない!)

 

「『ポシブルキャノン』!!」

 

ふたつのパワーがぶつかり合い、押し合う。

 

ガガガガ…

 

「む…!何故オレの『ドレッドヘッドスパーク』が押されている…?まさか、コイツのパワーはもうそんなに残っていないはずだ!」

 

しかし、目に見えてマンダリの攻撃がザーボンのポシブルキャノンに削られていたのだ。マンダリは信じられないと言ったように汗を流した。それも当然だ、先ほどスカウターを使って戦闘力を計測した際には、ザーボンの数値は明らかに自分を下回っていたのだ。変身したことを考慮しても、それはこちらも同じ条件だ…覆ることはありえない。

 

ピピピピ…

 

「ヤツの戦闘力数値が上がっている…!有りえない、これでは俺の数値よりも…!!」

 

「貴様は言われたことが無いだろう、だが私は言われたぞ!あの子供たちは言ってくれたんだ!」

 

ザーボンは放ったポシブルキャノンに直接両手を触れ、渾身のパワーで押した。するとマンダリのドレッドヘッドスパークは消滅し、マンダリのがら空きの体が投げ出された。

 

「チ、チクショオ~~~~!!!」

 

「また、ピアノを弾いてねって…」

 

マンダリが最後の抵抗として差し向けた鋭いドレッドヘアーは何本かがザーボンの体に深く突き刺さった。しかし、同じく同時にポシブルキャノンを真正面から受けたマンダリの肉体は衝撃でバラバラに砕け散り、その場に転がっていった。

 

わあああああああ…

パチパチパチパチパチパチ…

 

「マンダリ、お前には聞こえまい、この宇宙最高の…音楽が…!」

 

ザーボンはマンダリに勝利した。が、その代償は大きい…。

 

「あ…ザーボン!!」

 

ザーボンは変身を解除し、元の姿に戻る。しかし、次の瞬間にふらりとよろめいたのを見て慧音が慌てて駆け出す。ザーボンが倒れ込み、ギリギリ背中を抱きとめることができた。

 

「終わった…これであの子供たちは救われた」

 

「ああ…ありがとう…!待っててくれ、今永琳を呼んできて手当を…」

 

「いや、いいよ慧音」

 

ザーボンは慧音の名を口に出した。そして自分の体に刺さったまま砕けたマンダリのドレッドヘアーの棘を引き抜いた。その様子を見た慧音は思わず、何も言えなかった。

 

「ひとりで歩いて行けるさ…なにせ、私はピアノを弾いてねって言われたんだからな…」

 

ひとりで上半身を持ち上げ、何とか座り込む。

 

「そうだな…言われていたな、子供たちに…」

 

「ふふふ…良い拍手だったよな。慧音は…何か楽器ができるのか…?」

 

「私は、笛が少し…」

 

慧音はそう言いながらザーボンの顔の血をふき取った。

 

「笛か、それはいい…今度はふたりでやろうか…。あの時は少し調子に乗って…アレンジを賑やかにし過ぎたな…次は譜面通りにいこうか…」

 

そのまま立ち上がろうとするザーボンだが、その身体はガクリと崩れ落ち、言うことを聞かない。

 

「あれ…?どうしたんだ…眠くなってきたぞ…。だめだ…ここで眠る訳にはいかない…私にも、せっかく…やりたいことが見つかったのに…」

 

「そうだ…お前は、起きていなきゃな…」

 

ザーボンは再び慧音の腕に倒れ込んだ。そして、両手を上にあげ、まるでピアノを鍵盤がそこにあるかのように指を動かした。

 

「さぁ、次は…あの子たちに何を弾いてやろう…」

 

最後にそう言い残すと、ザーボンはそのままの姿勢で永遠にこと切れた。今までの彼に足りなかったもの…それをもう一度、満足させてやりたい。そんな果たされない夢を抱いて…。

 

「悔しそうな顔で…逝きおって…」

 

 

 

 




からくりサーカスのジョージの退場劇が一番好きです

来年も、「もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら」、よろしくお願いします。あと少しで完結ですので最後まで応援よろしくお願いします!
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