もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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あけましておめでとうございます。


第149話 「笑ってるじゃないですか」

正午12時05分 霧の湖及び紅魔館 門前

 

「リ、リクーム…!!」

 

美鈴は目の前に現れたリクームを見て戦慄した。ナメック星で、自分や天龍…そしてベジータを完膚なきまでに実力で叩きのめした強力な戦士…。その恐ろしさはよく覚えている。しかも、これから戦うとなれば、自分はかなり疲弊した状態…万全な状態ならばどうなるか分からないが、今から戦闘するとなれば勝ち目はないに等しい。

 

「ふん…」

 

次の瞬間、リクームは腕を前方へ向けて掲げると、そこから数発の衝撃波を放った。

 

「うわっ!」

 

衝撃波はあえて美鈴はぶつからず、門やその横の塀、後ろに聳える紅魔館の塔に当たり、その場所を破壊した。突風で瓦礫が吹っ飛ばされ、美鈴のすぐ近くに降り注いだ。

 

「この場所にいる邪魔者を始末しろって命令でここへ来たわけだが、まさかナメック星で一度戦ったお前だったとはな」

 

「へぇ…覚えててくださったんですか…」

 

「ま、誰か、などどうでもいいこった。さァ行け!見逃してやる!」

 

しかし、その時、リクームはそう言うと同時に後ろを親指でクイッと指した。

 

「…へ?」

 

全く予想していなかった言葉を聞いて、美鈴の頭の思考は遅れた。

 

「聞こえなかったのか?見逃してやるって言ってんだぜ」

 

「…なぜです?私を始末するために来たんでしょう?」

 

美鈴がもっともな質問を返した。

 

「ただの気まぐれってやつだよ、別にお前を可哀想に思ったとかそういうのじゃねぇ、お前如きを殺さずともここはお終いだ。それに、今はお前の相手して余計な体力使ってる暇はねぇからよ…」

 

リクームの意味深な返答を聞いて少し疑問を抱いた美鈴だが、その心はホッとしていた。そして、同時にその足は勝手に前へ進んでいた。

しかし、それは決してリクームに戦いを挑むためではない。その横を通り、この場所から離れるためだった。

 

「…では、お言葉に甘えて…」

 

美鈴はそのままリクームの真横を歩いていく。すれ違いざま、ただ前を見つめるリクームの横顔を見た。どうやら、本当に自分を逃がしてくれるらしい。

 

(こりゃラッキーね…とっとと違う場所で体力を戻して…)

 

10~15メートルほど離れると、美鈴はもう一度、リクームが本当に何もしてこないか確認するために後ろを振り返った。

しかしその時、リクームは全く動いていなかったのは確かだが、もうひとつ目に入ったものがあった。それを見た瞬間、美鈴は踵を地面に食い込ませて立ち止まった。

その目に入ったものとは、先ほどリクームに破壊された紅魔館の門であった。

 

(私は何を…疲れて判断がどうかしていたのか?)

 

自分は紅魔館の門番だ。つまりそれは紅魔館を守る存在。だから自分はいつも通り紅魔館の門前に立ち、敵を迎え撃っていた。だが、その門を破壊したあのリクームを見逃してこの場を明け渡すなど…それは門番失格ではないか!?

…確かにあのリクームは強い…今の状態では逃げるのが得策だろう。しかし、あのリクームと戦う事よりも、この場で逃げる事の方が恐ろしい。

 

「それに…お嬢様に大目玉だ」

 

美鈴はそっとリクームの背後に歩み寄って行き、言った。

 

「すいませんね…せっかくのお目こぼしですが、やっぱりやりあってもらえます?」

 

「…馬鹿め、この俺の気まぐれタイムはもう終了した!歯向かう馬鹿を殺すのになんのためらいもないぞ!!」

 

振り返ったリクームは、同時に美鈴に向かって裏拳を放った。ゴウッと風が吹き抜けるほどの威力の一撃を、本人の言う通り何のためらいもなく瞬時に放ったことに驚くが、美鈴は余裕でそれを躱す。

続いて、美鈴はそのまま地面を蹴ってリクームに飛びかかり、拳を振りかぶる。腕を顔の前に置いてガードしようとするリクームだが、美鈴はサッと彼のサイドへ向かい、そこから回し蹴りを繰り出した。それはリクームの首に当たるが、ガンと短い音を立てるだけに終わった。

 

「効かないぜお嬢ちゃん」

 

「な…!」

 

慌てて後ろへ飛ぶ美鈴だが、リクームはにやりと笑うと渾身のパワーで地面を殴りつけた。衝撃で周囲が激しく揺れる。

すると、地盤中に潜んでいた巨大な岩柱が飛び出し、美鈴の腹に激突した。

 

「ガ…ハ…!!」

 

「アターック!!」

 

リクームは美鈴が態勢を立て直す前にダッシュして接近し、その頭を鷲掴みにすると、先ほど地面から飛び出した岩柱に向けて振り回して叩きつけた。岩柱は粉々に崩れ、美鈴の頭から血が流れる。

 

「もう終わりかよ?自分から飛び込んできといてカッコ悪いな~」

 

美鈴は倒れ込み、岩に寄りかかる。

 

「ダ、ダメか…やはり、今の私ではリクームには…」

 

勝てない。リクームの有り余るパワーをまんべんなく使った戦法には手も足も出なかった。

 

「不甲斐ない…」

 

美鈴は天を仰ぎ、呟いた。それは今の自分に対してもそうだが、過去の自分へにも向けられた台詞だった。

約300年前、世界を恐怖に陥れたピッコロ大魔王に歯が立たなかった自分。そして再開したピッコロ大魔王を倒すと意気込んでいたのに、そのピッコロをフリーザに殺されるのをどうしようもなかった自分。

 

「そろそろ殺しちゃうけど、いいか?」

 

リクームはそう言いながら美鈴に指先を向ける。そこへ透明な揺らめく気が溜まっていき、球体になっていく。

あと数秒後にはあれが放たれるだろう。そう考えた美鈴の脳裏には、何故かかつての自分に拳法を教えてくれた師匠である武泰斗、そして道場の仲間であった亀と鶴の顔が浮かんだ。

 

(師匠…それに、亀と鶴は今どうしてるだろうか…いや、流石にもう亡くなってるか…)

 

あの頃、己が何者なのかもわからずに人を襲いながら彷徨っていた自分を拳法の道へ引き入れてくれた武泰斗。

それは走馬灯というものだったのか…その時、美鈴は武泰斗との修行中の記憶を呼び起こした。

 

 

 

「これが我が拳法における究極の型、その名も『起勢呼吸法(きせいこきゅうほう)』だ」

 

道場の庭で、座る幼い美鈴の前で武泰斗は手本を見せている。

武泰斗はテンポが一定ではない不思議な呼吸を行うと、その身体に白い靄の様なオーラが発生し始めた。

 

「ふう…。『起勢呼吸法』はその名の通り、独自の無拍子のリズムで呼吸を行う。この呼吸法を極めれば、攻撃を繰り出せば繰り出す程、気力が湧き上がるようになる。まあ私もまともにできる訳ではないが…」

 

美鈴は武泰斗のマネをして起勢呼吸法をやろうとする。しかし、ただ息を吐いているだけで何の効果も見られない。

 

「ほっほっほ…できないのは当然じゃ。だが、お主が私よりもはるか高みへと達した時、思い出したようにやってみるがいい…ひょんなことからできるようになるかも知れんからな。たとえ…そうだな、お前が強敵との激戦で疲れ果て、今にも地に伏せようとしている状況でも、力になってくれるはずだ」

 

 

 

「トドメを刺してやるぜ!『リクームメガトンパンチ』!!」

 

リクームは右腕をグルグルと回転させてパワーを溜めると一気に振りかぶり、その拳を放とうと構えた。

座ったままうつむいていた美鈴だが、リクームのパンチが放たれると素早く寝そべるようにして地面に倒れ込み、それを回避した。

 

「ムッ!?」

 

そのまま前転して立ち上がり、両手を上にあげて小刻みに息を吐く。

 

「ホッ、ハッ、フッ…」

 

──武泰斗流拳法究極気功術・起勢呼吸法!

 

「…何だか分からんが、ただのまぐれで避けれたってことを忘れんなよな!続いては…『リクームグランドプレス』!!」

 

リクームはジャンプし、分厚い筋肉が蓄えられた胸ごと体を下に向けて降下する。もちろん、もろに喰らえばプレス…文字通りペシャンコだろう。

しかし、美鈴は先ほどの弱った様子とは打って変わって動き、前へ突き出した拳の位置を全く変えることなく、体だけを円を描くようにスライドさせてリクームのボディプレスを躱した。

リクームは地面に激突し、そこを中心にクレーターが形成される。しかし、リクームはすぐに起き上がり次なる攻撃を放つ。

だがまたも美鈴は先ほどの様な独特な円を描く動きで次々と繰り出されるパンチや蹴りを避け続ける。それでも美鈴は前に出した拳を一ミリも動かさず、リクームを翻弄する。

 

──武泰斗流拳法・泥歩(でいほ)

 

「ちぇえい、ちょこまかと…!」

 

リクームは苛立ちながら美鈴を捕まえようと両腕を伸ばす。さぁ足を振り上げて歩こうとした瞬間、今度はぴったりと前にくっついてきた美鈴の両足が自分の両足を外側から添えて固定しており、足さばきが封じられていた。

 

──武泰斗流拳法・梱歩(こんぽ)

 

しかし、美鈴が接近したことはリクームのパンチの射程内に入ってしまったという事。リクームはすかさず美鈴に殴りかかった。

美鈴は変わらず無拍子呼吸法を行いながら、それに臆することなく両手を攻撃の前にかかげた。その手を上に向けたままクルンと回転させ、そのままリクームの攻撃を受け流した。

 

──武泰斗流拳法・化勁(かけい)

 

「な…!」

 

あまりにあっけなく自分のパワーが逸らされたので面食らったリクーム。その隙を逃さず、今度は美鈴が仕掛ける。

 

(ここからは私の技で…!)

 

両腕を2度振り回し、血流を集めて腕を硬化させ、それにより威力を増した手刀を繰り出した。それはリクームの額に命中し、リクームは強い衝撃を受け目を見開きながら後ずさった。

 

──烏龍盤打(うりゅうばんだ)

 

「いってぇ、今のは油断しちまった!」

 

(よし…今まですっかり忘れていたけど、あの呼吸法、今ならできた!武泰斗様が言っていた通り、動けば動くほど気力が回復してくる…)

 

しかし、美鈴の攻撃に怯んだリクームだが、すぐに持ち前のタフネスを発揮しすぐに反撃に向かってくる。リクームは両腕を広げ、美鈴に掴みかかる。

だが美鈴は無拍子呼吸法を維持したまま、迫るリクームを待った。いや、待っているのは美鈴の上半身だけであった。リクームが腕を振るって自分を捕まえようとする直前、下半身だけを先に敵の横側へ移動させ、ギリギリのタイミングで上体も移動させて躱す。それはリクームには突然相手が視界から消えたように見えたのだ。

 

──擺歩(はいほ)

 

「おろろろ…!」

 

リクームは攻撃を空ぶったことで前にバランスを崩し、千鳥足になる。美鈴はその隙を見逃さず、素早くかがんで足をのばし、リクームに足払いを仕掛けた。案の定、横に倒れ込もうとするリクーム。

さらに、美鈴はリクームが倒れることによりその頭部が落ちてくるであろう位置に膝を差し出し、その上に片腕を構える。そしてその片腕をもう片方の手で支える。

 

──撃襠捶(げきとうすい)

 

そのまま構えた拳を振り下ろし、リクームの側頭部に命中させた。勢いで下へ下がるリクームの頭は、さらに美鈴があらかじめ差し出していた膝と拳に挟まれるようにして激突する。鈍い音が響き渡り、まるで波紋の様な衝撃が周りに起こったかのように見えた。

 

「が…お…!!」

 

リクームは悶絶し、地面を転がると両手で頭を押さえながら起き上がる。目は怒りと痛みで血走り、鼻血が流れている。

 

「もう許さんぞ!!さっき逃げておけば良かったと後悔させてやるぜィ!!『リクームファイティング…』!!」

 

全身に炎の様なオーラを溜め、それをジェットのように噴出させ一気に美鈴へ迫るリクーム。しかし、美鈴は冷静だった。極限にまでに集中し、圧縮した時の中で、ただ冷静に次なる手を行っていた。

美鈴は両手を合わせ、拳を腰の横へ引く。そこで呼吸法によって練り上げた気を最大限に集中させ、放つ構えを取った。一見スキの多いこの動きであるが、自分が武術の道に入ってから、ほぼ毎日欠かさず何千何万と繰り返してきたこの動作はあまりに洗練され過ぎており、誰一人として反応することはできないのである。

 

(武泰斗さん…今も見ていますか?美鈴はここまでできるようになりました。貴方と出会った時のように、もうひとりではありません…)

 

この戦いで繰り出してきた全ての技は、全てどこかで見ているかもしれない武泰斗へ向けてのものであった。自分はこれほど強くなれたと。

確かに、今の自分が働いている紅魔館のレミリアたちも大事だ。だがそれと同じくらいに、自分の成長を見てもらいたい人がいる。

 

「『アターック』!!」

 

リクーム渾身の必殺技による拳が、美鈴の顔面に命中した。

 

──発勁(はっけい)

 

しかし、美鈴はそれでも怯まずに腕を前に突き出して渾身の突きを放った。それはリクームの胸に命中し、拳に乗せた勁が背中を突き抜けていく。さらに、美鈴はもう一撃、さらにもう一撃をリクームの両脇腹へぶつけた。

 

──兇叉(きょうさ)

 

「ぐ…か…かか…!!」

 

貫通力の高い発勁を3か所に打ち込み、そのラインを体内で一点に重ねることによって集中点の破壊力を増大させる。これにはリクームもたまらず、ガクガクと震えながら後ろへ後ずさる。

 

「貴方が悪いんですよ…あの時、ナメック星で…私の首なんて折るから…」

 

美鈴はぼそりと呟いた。

 

「か…かか…か…!」

 

「でも、許してもらえたようでよかったです…」

 

「カカカカカカカカ!!」

 

「だって、そんなに笑ってるじゃないですか」

 

 

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