幻想郷で一番強い奴を決める大会、幻想郷一武道会。その二回戦第二試合で、カカロットと霊夢はついに因縁の戦いを繰り広げるのだった。
聖に教えられた滅越拳をさらに発展させたフルパワー滅越拳と、霊夢の本気がぶつかり合う。そして、手に汗握るような戦いの末に、カカロットが勝利を決めたのであった。
「…次はお前がこうなるのだ…ククク、ハーッハッハッハ!ドラゴンボールは俺の物も同然だ!!」
ウスターの不気味な目線が、次の決勝戦の相手であるカカロットへ向けられるのだった。
狂気混じりの笑い声が会場中に響き渡り、主催者であり「スキマ」から戦いの行く末を見ていた紫でさえも、その顔を恐怖で引きつらせた。
「勇儀!」
萃香が控室から飛び出し、放心したように唖然としている勇儀に駆け寄った。
「しっかりしな!」
しかし、萃香が呼びかけても勇儀は返事すらせず、ただ口を開けたままブツブツと何かをつぶやいているだけだった。
萃香はそんな勇儀を担ぐと、控室へと運んでゆく。その様子を見ていたカカロットは、静かに拳を握りしめた。あれだけ強大だった勇儀が、以前の面影もなくショックで放心してしまっている。
「許さん!」
そう言いながらカカロットが舞台上へ上がろうとする、それに気づいたウスターがにやりと笑った。
瞬間、審判の声が聞こえた。
「えー、次の決勝戦ですが、その前に10分間の休憩時間を取りたいと思います!試合は10分後に再開いたします!」
「…ふん、負けるまでの時間が少し伸びたな」
ウスターはそう呟くと、カカロットの横を通って控室まで戻っていった。
すると霊夢が後ろにやってきて言った。
「カカロット、あんなのに勝てるの?」
らしくない台詞だった。
「ああ、分からん。だが…俺は腹が減った!!」
「へ?」
「腹と背がくっつきそうだ、なぁ飯は無いのか?」
それを聞いていた審判が近寄ってきて言った。
「用意はできますけど…試合前ですし時間が10分しかありませんので半端な食事になってしまうと思いますが…」
「別にいい。10分もあれば充分だ」
「ガツガツ…もぐもぐ…」
次々と出される料理をどんどん平らげていくカカロット。その底無しにも見える食欲を前に、審判や料理人が驚いている。
「これもう一個持ってきてくれ」
「はいはい~!」
更に持ってきてもらった料理を食べる。それに呆気に取らてていた審判だが、ふと部屋の時計を見る。
「あ、いけません、そろそろお時間ですが…」
もう一度カカロットの方を見た時には、あれだけ出したはずの料理はもう皿だけになっていた。
カカロットは口の周りを拭くと、入場口に向かおうとする。
「ちょっとカカロット。アンタ折角私に勝ったんだから、優勝しないとダメなんだからね」
「…ああ、気が向いたらな」
「さて、お時間と成りました!ただいまより、幻想郷一武道会決勝戦を始めたいと思います!」
おおおおおおお…
観客席から歓声が響いた。控室からは霊夢や美鈴、そして萃香と、ようやく目を覚ました天龍と聖が揃っていた。そして、その建物の屋根の上からは紫と藍が固唾を呑んで戦いを見ようとしていた。
観客席には、かつての師であった妹紅や、命蓮寺の仲間。さらには神子や布都や屠自古、豹牙流の昇龍たち、紅魔館からはレミリア達も注目している。あれだけ強大な力を見せつけたウスターを、カカロットが倒せるのだろうか…。
「では入場していただきます!カカロット選手!」
カカロットはゆっくりと舞台に上がる。
「対するは、ウスター選手!どうぞ!」
ウスターはジャンプすると一跳びでカカロットの前にまで移動する。体格も背丈もはるかにウスターの方が上で、カカロットを見下している。
「これで優勝すれば、賞品のドラゴンボールが手に入ります。どう使うも本人の自由です。では、見合って…」
次の瞬間、銅鑼の音が響いた。
「はじめ!!!」
「でやあーッ!!」
バキッ
「むぐ…!?」
霊夢たちは息を呑んだ。戦いが開始された瞬間、飛び出したカカロットのパンチがウスターの顔面を捉えていたのだ。
そのカカロットの体には既に紫色のオーラが纏われており、髪が逆立っている。フルパワー滅越拳を早くも使用しているのだ。後ろへよろめくウスターの足にローキックを繰り出し、前のめりになったところで腹へ肘鉄を食らわした。
カカロットは急いで後ろへ飛び、ウスターはよろよろと後ろへ下がる。
「…す、すごい!カカロット選手の先制攻撃です!!」
「ウラァ!!」
だが態勢を整えたウスターは、カカロットに殴りかかる。が、カカロットはそれを見切っているかのように片腕だけでガードすると、顎を殴り上げた。
ウスターは後ろへ倒れ込み、観客席から歓声が上がった。
「バカな…あのウスターを…何て奴だ」
萃香がそう呟いた。
「ダウンです!ワン、ツー、スリー…」
すぐにカウントを始める審判だが、ウスターはすぐに起き上がった。
「…フフフ、この俺に背を地に付けさせるのはそう容易い事ではないぞ」
「うるせぇ!お前は俺がぶっ倒す!」
「このウスター様をぶっ倒すだと?フン、身の程知らずが」
ウスターはそう言うと、手を開いてカカロットの前にかかげた。
「とくと見せてやろう。俺のすさまじさをな」
一瞬だけ、敵の眼が光ったような気がした。直後に感じ取った、炎のように揺らめく気。
次の瞬間、ウスターは気迫と同時に熱気のような衝撃を全身から放った。
「うおお、あっつ…!」
カカロットの髪が風でなびいている。
だが、この程度では…。カカロットはそう思うと、発せられる熱気の衝撃の中を逆らうようにゆっくりと進み、ウスターへと向かって行った。
「さて…そろそろ始めるか」
ウスターは一瞬で飛び出した。そして、カカロットに接近し、その腹に蹴りを食らわす。垂直に打ち上げられたカカロットを追うように、ウスターも飛んだ。
「でやあああ!!」
そして追い越すと、カカロットが飛んでくるであろう位置で拳を構え、それを振り下ろした。逆方向に下に向けて吹っ飛ばされるカカロット。地面に激突し、煙が舞う。
ウスターは無事に着地し、腕を組んだ。
「ふふふふ…」
倒れているカカロットの胸ぐらを掴み、持ち上げる。ウスターは心の中で少しだけ感心していた。今の一撃を喰らって生きていたとは…それに一時とはいえ、自分を倒したこと…ただの人間でも妖怪でもないようだ。
「降参をするならば今のうちだぞ」
「だ、誰が…」
「そうか」
そう言ったカカロットの顔面を殴り、拳を押し付ける。グリグリと手を回しながら拳をさらにめり込ませ、いたぶった。
拳を退けると、カカロットの顔は赤く腫れて鼻血が流れていた。
「どうした?何も言えんのか?」
ガブッ
「!?」
その時、カカロットがウスターの指に噛みついた。突然の痛みに驚くウスター。
「この野郎…!」
腕を振り回し、噛みついたカカロットを振りほどこうとするが、一向に口を離そうとする様子が無い。頭に血を上らせたウスターは、カカロットを舞台上へ叩きつけた。さらにその上に肘鉄を食らわす。
流石のカカロットも口を離してしまう。ウスターはすぐに後ろへ飛び、自分の指を見る。指からは血が流れてしまっていた。
「くっ、ガキが…やってくれたな…!」
起き上がろうとするカカロットだが、その身体を覆っていた紫色のオーラが消え、滅越拳が解けてしまう。
「トドメだ!」
ウスターは口の中にエネルギーを溜め、それを撃ち放った。聖を完全にノックアウトした、魔口砲だ。しかし、カカロットはそれに気づくと、前転して避ける。
「まだ逃げる力が残っていたか。だがまだだ」
もう一度魔口砲を放つウスター。舞台上を移動しながら避けるカカロットに向けて何発も放ち、執拗に追い回す。
「ふはははは。なかなか面白いぞ」
息を切らすカカロットの方へ高速で移動するウスター。その胸を殴り、吹き飛ばした。
だがカカロットも受け身を取り、地面を蹴って突撃する。…が、ウスターもそれをジャンプでかわす。カカロットもそれを追うように飛び跳ねるが、ウスターはその脳天へ両手を合わせた拳を叩きつける。
「ウラァ!」
一足先に舞台上へ戻り、落ちて来るカカロットを蹴り飛ばす。
観客席と控室は騒然となった。明らかな力の差があることは、一般の人間が見ても明らかであった。
「ぐ…」
しかし、カカロットは尚も立ち上がろうとしていた。
「ほう、まだ戦う気なのか」
「当たり前だ…お前は…許さんぞ…!聖との試合で、既に聖は気を失っていた…そこへお前はさらに強烈な追い打ちを仕掛けた…。勇儀との戦いだってそうだ…お前は遊び半分で弄っていたな…勇儀は嫌いだったけど、赤ん坊だった俺を拾って育ててくれた恩がある…」
「だからどうした!所詮は弱かったのだ、だから負けたのだ!この世界は強い者こそ全てなのだ!!」
「弱かったから、負けるか…なるほど。でもな、教えてやるぜ…。強いやつより強くなろうとしてるやつの方が、ずっと凄いってことをな…!」
カカロットは立ち上がると、再びフルパワー滅越拳を発動させ、ウスターへ向けて駆け出す。
その瞬間、敵の眼が怪しく光った。すると、細い光線のようなビームが放たれる。それが地面を焦がしながらカカロットへ向かい、その足を焼いた。
「ぐっ…!」
しかし、カカロットは止まらなかった。
「な…!」
それを見て驚きの表情を浮かべるウスター。
その目の前で、カカロットは手を地面に付き、逆立ちをするような姿勢を取る。そして、怪我をしてない方の片足でケリを繰り出した。
「『快晴飛翔連脚』!!」
足に炎のような燃える気が纏わり、素早く連続で繰り出される蹴り。
「あれは、私が教えていた…!」
戦いを見ていた藤原妹紅は、自分がカカロットに稽古をつけていた時の事を思い出した。自分が教えようとしていた技だ。しかも、自分が使うものよりもはるかにスピードも、回数も底上げされている。
だがウスターはそれを見切ると、全て腕ではじき返した。
「『豹牙旋風脚』!!」
しかし、さらにカカロットは足を軸にして高速回転をする。そして飛び跳ね、回転の威力を乗せた飛び蹴りを放った。
「あれは俺の…!」
同じく戦いを見ていた天龍がそう叫んだ。
「くっ…!」
物凄い勢いで向かい来るその飛び蹴りを、両腕をクロスさせて受けるウスター。が、流石に応えたのか、後ろへ少しだけ吹き飛んだ。
「はぁぁぁあああ!!」
カカロットは両手を胸の前で合わせ、それを腰まで移動させる。すると、その手の中に七色に輝く光弾が生成される。光弾はさらに大きく膨れ上がり、眩い光を放つ。
戦いを見ていた美鈴は、あれが自分の必殺技であると気付いた。
「『華光玉』!!」
やがて、その七色の光弾を放った。光弾は柱のようなエネルギー波に変わり、ウスターを飲み込もうとする洪水の如く真っすぐに迫った。
「ぐ…うおおお…!!」
それを受け止めるウスター。が、踏ん張ったはずの足がどんどん後ろへずり下がっている。腕に血管が浮き出て筋肉が倍ほどに膨張するほどに力を込め、ようやく華光玉のエネルギー波を逸らした。
「はぁ…はぁ…。…!?」
怒涛の連続攻撃を前に、息を切らすウスター。が、すぐにその顔は恐怖と焦りに変わった。間髪入れずに、カカロットが拳を振り上げてこちらへ迫っていたのだ。
「『気功突き』!!!」
カカロットの拳を中心に純白に輝くオーラが纏われていく。そして、その気を込めた腕でウスターに向かって渾身の突きを放った。その時の気迫こそ、ウスターが恐怖を感じた原因であった。まるで、手が付けられない巨大な猛獣を前にしているような…それも、大きな猿のような…!!
「甘いわ!!」
それを両手で挟み込むようにガードしようとするウスター。しかし、その突きのスピードはそれをすり抜け、ウスターの体に迫った。
ドゴォ
次の瞬間、爆発のような音と、物凄い突風があたりを襲った…。
~次回予告~
よっす、私は霊夢よ。本気と本気でぶつかり合うカカロットとウスター…どちらも譲らない戦いを繰り広げる中、カカロットが禁断の技を使うらしいわ!
次回、「決着!優勝は誰の手に!?」、絶対見なさいよね!