妹紅の生まれ変わりのような存在である史奈は、自分の中に眠る妹紅の意識と能力と融合した結果、髪や瞳の色が妹紅と同じに変化し、その全身から激しい炎を渦のように吹きだしている。
(史奈、油断するなよ、敵は全然応えてない)
「わっ、妹紅ちゃん!?」
史奈は頭の中にこだまする、妹紅の声を聴いて驚いた。
(ちゃんはやめな、ちゃんは。今のお前さんは私と同じ妖術を使えるようになったが、それがアイツに効く保証はないからな)
「うん、分かってる。でも、今の私は不死身なんでしょ?だったら勝機はあるかも」
(いいや、完全に不死身になったわけではない。お前さんの妖術をかなり強くした代わりに、不死身の能力はグレードダウンして、今はただ死ににくいってだけだ)
一方、史奈の突撃により吹っ飛ばされたダイザーはむくりと起き上がった。その時、ふと手でぶつかられた胸に手を当てると、妙な違和感を覚えた。そこへ目を向けると、なんと胸に本当に小さなものではあるが、明らかな傷がついていたのだ。
「…馬鹿な…オレの体に傷が…」
ダイザーは史奈を睨みつけると立ち上がる。
「次のオレ様の相手はお前って訳か。だがこれくらいでいい気になるなよガキ…かかってこいよ」
「…うん」
史奈は全身に炎を纏い、前方へ飛ぶとダイザーの膝を蹴り、その勢いで上へ飛んで顔をもう片足で蹴りつけた。さらに一拍の間を置いて蹴られた箇所が爆発を起こし、ダイザーは炎に包まれる。
史奈はその爆風に乗ってダイザーの頭上へ飛び、強烈な踵落としを喰らわせる。
「どうだ…!?」
しかし、炎が収まると、そこにいたダイザーは全くの無傷だった。
「その程度じゃオレにまともなダメージは入らんぜ」
史奈はもう一度前へ踏み出し、ダイザーへ爆発を伴う打撃攻撃を浴びせ続ける。
(史奈、コイツは攻撃を避けるのは恐ろしく下手…いや、あえて受けてるのかもな)
「うん、そうみたいだね…!」
ダイザーは何者の攻撃も効かない故に敵の攻撃を避けたり、急所に当たるのを防ぐ必要がなかった。なので自然と敵の攻撃をノーガードで受ける戦い方になったのだろう。
(そこを突け!コイツはどんな攻撃でもとりあえず喰らうぞ)
史奈は両掌に炎を作り出し、それをさらに膨れ上がらせてダイザーに浴びせた。炎に包まれるダイザーだが、その直後に太い尻尾が飛び出し、史奈の腹に命中した。
「ぐふ…!」
「オレだってそれぐらいの炎はいつでも体内に溜まってるんだぜ、効くかよ!」
地面に手を突き、腹を押さえてうずくまる史奈。
(大丈夫か?)
しかし、心の中で妹紅にそう問いかけられると立ち上がり、もう一度ダイザーへ向き直る。
「当たり前…よ!」
「今度はオレの炎で燃えちまいなァ!!」
大きく開けた口から特大の火炎を吐きだした。それは一瞬で広がり、史奈に襲い掛かる。
だが、史奈も負けじと全身から炎を噴いて対抗する。
「…む!」
すると、ダイザーの吐く炎が、史奈の発する炎に明らかに押されていた。史奈の炎は激しくまぶしいほどに燃え続け、自身の身体もその熱の影響で白熱している。
「チッ、炎じゃお前の方が強いようだな…」
ダイザーの炎は完全にかき消され、史奈の放つ炎が直撃した。しかし、いくらその身体に炎を当てようとも、決してダイザーは余裕の笑みを崩さなかった。
「ぬるいぬるい!いくら炎が強かろうとも、オレはマグマの海に覆われる惑星で育ったんだぜェ!!だから…」
次の瞬間、炎の中を自分の身体で突き進んできたダイザーの頭突きが史奈を突き飛ばす。ダイザーは地面に腕を突っ込み、強力な気を込めた。すると、史奈が飛ばされた先に巨大な岩石が突き出し、それに激突してしまう。
「ぐ…あ…!」
史奈は岩石にめり込む。そこへダイザーがドスドスと音を立てながら走って近づき、腕を振るった打撃を喰らわせた。その一撃は史奈を吹っ飛ばすと同時に、背後の岩石を粉々に破壊した。
その時、史奈の中の妹紅は、先ほど炎を浴びせたダイザーの胸が少し熱によって赤みを帯びているのに気が付いた。だが、すぐに色は消えて元に戻ってしまう。
(そうか…)
「ハァ…ハァ…どうしたの…?」
史奈は息を切らし、口から血を流しながらそう言った。さっきや今の攻撃で、この小さな子供の身体がへし折れるほどのダメージを受けていたが、妹紅の力が呼び覚まされたことによる回復能力が働き、傷を元に戻すパキパキという音が聞こえる。
(いや、もしかして、と思ってな…)
「どういうこと、妹紅ちゃん」
(いいか、ヤツにとびっきり高温の火をぶつけてみな)
「…分かったわ、やってみる」
「何をひとりで喋ってやがる…ガキが、とうとうおかしくなったか?」
ダイザーはこちらに近寄りながらそう言った。そして腕を振りかぶり、史奈へ叩きつける。
だが、史奈は咄嗟にその攻撃を両手で受け止めていた。しかもその手には妖術の札が握られており、それをダイザーの両腕へはりつけた。
「な、何…!?」
2枚の札は互いに引き寄せ合い、ダイザーの両腕を前で固定した。
それを見ると、史奈は額と両手足の先に渦の様な火炎を発生させる。そしてその火炎は中心に向かって伸びて繋がり、「大」の字となってさらに強くなる。
「『ダイモンジ』!!」
放った大の字の炎はさらに温度を高め、黄色い炎となってダイザーに命中した。炎に包まれるダイザーの身体が熱され、徐々に赤熱していく。それを見た妹紅は確信した。
「あったかいぜ、これくらいの火ィ!」
だがダイザーはそれを弾き飛ばし、グッと腕を伸ばして史奈の顔を掴み、地面に叩きつけた。そのまま史奈を地面にこすりつけながら走り出し、最後に投げ飛ばして永遠亭にぶつけた。
永遠亭がガラガラと崩れ、その瓦礫の上にダイザーが降り立つ。
「ハッハッハッハッハ!!ガキのくせにこのダイザー様に歯向かうからだ!」
ダイザーは少しジャンプすると、重量が9トンにも達する肉体で思い切り瓦礫を踏みつけて潰してしまう。
「史奈…!」
倒れながら見ていた永琳と慧音が悔しそうにつぶやいて顔を逸らす。
「…おかしい…よねぇ…妹紅ちゃん」
その時だった。小さな声が聞こえると、ダイザーの身体が下の瓦礫に押されて浮かび始めた。
「な、なんだ…まさか、あのガキか!」
「どうしてこの人は、ガキが、ガキのくせに、って子供を弱いものって思って見下してるんだろう…。いつだって大人になろうと必死に日々を生きてる、子供の血の方が熱いのに!!」
ダイザーの足元から特大の火柱が飛び出し、彼は空中へ打ち上げられた。竹林よりも高くとばされると、同じく爆炎の勢いによって飛んできた史奈と目が合った。史奈はダイザーの顔に足を置いて足場代わりにすると、背後へまわりその首にしがみ付いた。
「ふん、何をしようというのだ、お前が…」
(よおし、史奈…そのままさっきよりももっとすごい炎でコイツを熱し続けてやれ!)
「うん!」
史奈の背中から炎でできた巨大な鳥の翼が伸び、羽ばたくとさらに空高く飛び上がってゆく。それと同時に史奈の全身から発せられる炎は白く輝き、周囲に蜃気楼を作り出していた。
それに密着する形で晒されるダイザーの体表はあまりの熱によって赤熱、さらには白熱し、その温度は摂氏4000℃を越えていた。
「馬鹿め、それほどの温度ならば焼き殺せるとでも思ったのだろうが、まだまだそんなものでは足りないぞ!!」
「焼き殺す?それは違うよ、ダイザー」
次の瞬間、ダイザーを掴んだ火の鳥は急降下を初め、グングンと地面に迫っていく。
「ならばこのまま勢いで地面へ叩きつける気か?それも無駄だ、俺の体は如何な衝撃でも砕けんぞ」
「…今、あなたの身体はどうなってると思う?」
史奈はそう言うと、降下する方向を変えた。その向かう先は、平原の中にポツンとある大きな湖だった。そのほとりには壊れかけの洋館が見える。
「湖…?ならば溺死でもさせるつもりか!」
そして、ついに史奈の火の鳥はダイザーごと湖の中へ飛び込んだ。水しぶきが津波のように発生し、ジュワッという音と共に大量の水が蒸発して濃い蒸気となって立ち込める。
一方その水中では、史奈は湖底の岩を掴みつつ両足でダイザーの首を絞めつけて固定して離さない。
(オレは溶岩の中で何時間も潜ってられるんだ…それに、泳ぎだってコイツより上手い!)
ダイザーはそう思いながら体を高速回転させて史奈を引きはがし、逆に史奈を掴んで上へあがらせない。
バキ…バキ…
その時だった。音を通しにくい水の中でも、よく聞こえるほどの音で何かが割れていた。ダイザーは最初、岩か何かでも砕いたのかと思ったが、どうやらその音は自分のすぐそばから聞こえていた。
(…なんだこれはァア~~~!!?)
その時、ダイザーは気付いた。自分の鉄壁の皮膚が、今までどんな攻撃にものともしなかった自慢の頑丈な甲殻がひび割れて粉々になっている!
「金属やガラスは熱膨張したものを急激に冷やすと、増えた体積が一気に元に戻るのでその差に耐えられずひびが入る。この間先生に教えてもらった事が役に立ったわ。でも、これも思いついたのは妹紅ちゃんよ」
今史奈とダイザーが飛び込んだこの湖は”霧の湖”。年がら年中冷たい事で有名で、冬場は常に凍り付いているのはもちろん夏場でも水温はマイナスに限りなく近い。摂氏数千度にも熱されたダイザーの硬い体も、この湖に冷やされれば温度差による体積の変化に耐えきれず、砕け散る…。
バキイイイン…
「バ、ババババ…!!」
体験した事のない現象に混乱し、泳いで水上へ上がろうとするダイザーだが、身体を動かすたびにボロボロの甲殻が剥がれていってしまう。
史奈は両手から衝撃波を放ち、それは水流となってダイザーを押し上げていく。そしてその巨体は水上の空中高くに放り出された。史奈もそれを追って水から飛び出し、ダイザーよりも高く飛ぶ。
「最後は妹紅ちゃんのこの技で…!」
(ああ、やってやれ史奈!)
空中で体を丸めて回転させて勢いをつけ、急降下しながらダイザー目がけて渾身の飛び蹴りを放った。炎を纏う隕石のような蹴りはダイザーの腹に命中した。
ひび割れて砕けかけの甲殻の内部、体の芯にダイレクトに届く激烈な衝撃を受けてダイザーは声にならない悲鳴と今までしたこともない顔をしながら吹っ飛ばされていき、地面の上にクレーターを作りながらぶつかった。
「よし…!」
史奈が少し降下して様子を確認すると、ダイザーは呑んだ水を口から吐きながら白目を向き、ぴくぴくと痙攣しながら気絶していた。
「これに懲りたら、二度と悪いことも悪い人の言いなりになることもしないでね」
どうやらこのお話がランキングに乗ったらしいです。たまに異様に閲覧数が跳ね上がったりする理由はこれだったんですね…