10月24日 午後1時30分
「な、なんだなんだ!?」
湖で何か凄い事が起こったのを感じて、紅魔館付近でスカッシュを倒し終えたばかりの美鈴たちが駆けつけてきた。すると湖のほとりの地面の上に、全身にひびが入った状態のダイザーが倒れており驚いた。
「コイツは…あのスカッシュと同じカーボネド四天王のダイザーだ」
バータがダイザーを見てそう言った。依姫はどこからか何かロープのような紐を取り出し、それを一瞬でダイザーの全身へ巻きつけた。
「この”フェムトファイバーの紐”であれば、あのスカッシュ同様に目が覚めても身動きなどできないハズ」
史奈はその様子を見ると、彼女らに気付かれないように空を飛んでその場を立ち去った。戻った先は、輝夜や永琳、そして慧音たちの待つ永遠亭である。
…このように、幻想郷を舞台にして数々の激闘が繰り広げられた。中には己の護りたいものの為に命を燃やし、または譲れないものの為に信じる道を進んだ者もいた。それらの奮闘の甲斐あって、襲来したフリーザ軍は残った戦力を把握し、次なる一手を決めるためにしばらく沈黙に入るのだった。
そして、フリーザ軍が地球および幻想郷に襲来した午前9時14分から、実に1日が過ぎ、もう6時間もすれば2日が経過しようという時間が経っていた。
10月26日 午前7時 地球 ツルマイツブリ山
フリーザは氷の山に挟まれた谷の間を高速で飛行していた。谷を抜けた開けた場所を目指して飛んでいるのだ。
しかしその時、すぐ横の巨大な氷が砕け、一発のエネルギー波が飛んできた。フリーザは間一髪でそれを躱すが、その一撃は反対側の氷山にぶつかり、それを破壊した。結果、この谷の道を氷が塞いでしまい、フリーザは元来た道を戻るかさらに上空へ上がるかの2択の行動を迫られた。
「チッ…」
仕方なく空へ上がろうと飛行する高度を上げた瞬間、どこからか飛び出してきた影が狙っていたかのようにフリーザへ飛びかかった。
フリーザは咄嗟に両腕をかざし、その影の放ったパンチを受け止めた。
「へっへっへ…!」
そう、その影の正体はカカロットだった。おなじみの灰色の道着はところどころ少し破れてはいるが、2日間近くに及ぶ戦いをしていたわりには大したダメージを受けた様子はない。カカロットはすぐに素早く飛びながら移動し、氷の壁の向こうに隠れた。フリーザもすかさずその壁を攻撃して破壊するが、すでにカカロットの姿はそこには無かった。
「生意気なサイヤ人め…!」
カカロットはこのように気を消しながらのヒットアンドアウェイの長期戦をフリーザにしかけていた。ナメック星の戦いから今回の戦いが始まった日まで、カカロットは修行を積むと同時にイメージトレーニングや脳内シミュレーションを繰り返した。その中で最もフリーザに対して有効だと感じたのがこの戦法だった。
まず、フリーザはカカロットのように対象の気を感じることができず、あくまで視力でものを見ている。なので障害物が多く、光が当たればそれが乱反射し視界が悪くなる、この永久凍土のツルマイツブリ山を戦場に選んだのだ。
確かにカカロットのその考えは的を得ており、フリーザに対してやや有利であったが、いまいち攻めきれずにいた。その理由としては主にふたつ…ひとつ目はいまだフリーザの戦闘力の底が知れないからである。もしも、カカロットが今ここで持てる力を全てを出しフリーザを叩きのめさんと襲い掛かれば、勝てる可能性はある。だがこちらが全力を出してもそれがフリーザの全力に届かなかった場合、もう後がなくなってしまう。
ふたつ目は、これはカカロットにとっては無自覚な事であるが、サイヤ人の本能がこの戦いを楽しんでいるためである。そして、この状況を楽しんでいるのはカカロットだけではなかった。
フリーザもまた…。
「なぁ、そろそろ真面目に戦おうよ、ナメック星の時みたいにさ」
フリーザはどこかに隠れて様子を伺っているカカロットに聞こえるように大声で言った。
「これまで君のもちかけた勝負に文句言わず付き合ってやってたけどさ、あと6時間もすれば2日になる。どうだい、そろそろボクと一緒にまともな勝負をしないかい?」
しかし、カカロットは姿を現さない。
「ちなみに、なんでボクが君の勝負に乗ってやったのか、一応教えてあげよう。それは一瞬で君を殺したんじゃボクの気がちっともおさまらないからさ。だからじっくり殺そうって思ったんだ。でもこの長い戦いでボクの気は晴れつつある…だから最後に思い切りやって勝ちたいんだ」
「へぇ、テメェにもそんな事が言えるんだな」
その時、フリーザのすぐ後ろに立っていたカカロットが腕を組んでそう言った。驚いたフリーザが飛びのきながら振り返った。
「…いたんだ」
「さっきからな」
お互いに向き合い、その間を冷たい風が流れていく。次の瞬間、フリーザがカッと目を見開くと今吹いていった冷たい風が逆流していく。まるで周囲の冷気全てがフリーザに収束しているようだった。カカロットはフリーザの気が大きく膨れ上がったのを感じ取る。
「今の君ならこれでじゅうぶんさ」
「…やってみろよ」
フリーザは一気に飛び出した。肘を付き出し、反応できなかったカカロットの顎に当てる。
カカロットは口から血を流しながら仰け反り、後ろへ倒れ込もうとする。が、寸前で踏ん張って体勢を元に戻す。
「くっ…!」
続いて放たれた、足払いに近いローキック。カカロットはバランスを崩して転んでしまい、地面に手を突いた瞬間に伸びてきたフリーザの長い尻尾が首に巻き付いた。
そしてそれを自分へ引き寄せ、カカロットに腹へ鋭いパンチをめり込ませた。
「ぐふ…!」
フリーザはすぐに尻尾を解いてカカロットの前へ立つ。カカロットは腹を押さえてうずくまり、苦しみに悶えている。が、次の瞬間には反撃の拳を撃った。
しかし、それを容易に読んだフリーザは垂直に飛び跳ねて回避する。すかさずそれを追い、全身にオーラを纏いながら突撃を仕掛けるカカロット。
…だが、フリーザは振り返ることもなく後ろへ回し蹴りを繰り出し、それをカカロットの顔面へ命中させた。吹っ飛ばされるカカロットは氷の上を滑り、途中で前転してしゃがみ込んだ。
「ハァ…ハァ…!」
「やってみろって言ったのはそっちだよね?」
「ああ…そうだな…!」
(ヤバいな…10倍の界王拳じゃ歯が立たねぇ…!)
「絶望している暇はないよ!」
フリーザはもう一度勢いよく飛び出し、カカロットの顔面を殴る。吹っ飛ぶカカロットを追いかけていくが、それに気付いたカカロットが素早く飛んでその場から離れる。
しかし、それに対してフリーザは動きを止め、カカロットを睨みつける。そして腕を振り上げると、それを払って気を放出した。
ズバッ!
カカロットは間一髪でそれを躱す。恐る恐る目を開けると、目の前の氷の大地が真っ二つに斬り裂かれていた。それも、地平線の彼方まで…。
「なんて技だ…!」
「いざとなればこんな星いつでも破壊できるんだ…かつて惑星ベジータを破壊したのもボクなんだよ?」
カカロットはフリーザの出方を警戒しながら考えた。
(こうなったら界王拳を20倍に高めるか…!?10倍までは完全にものに出来たが20倍はまだ完全じゃねぇ…!それにアイツが全然パワーを残しているとするとどうしようもない…だが!)
「やらなきゃ勝てねぇ!!うおおおお…!!」
カカロットの全身から赤いオーラが噴き出す。驚くフリーザに対して飛びかかり、その顔面にパンチを喰らわせた。反撃に出るフリーザだが、カカロットはそれを避けつつ両手の間にエネルギーを溜め始める。
続くフリーザもエネルギー弾を放つが、カカロットは走りながらどんどん攻撃の準備をすすめていく。そして両手に溜めた虹色の光弾をいったん腰の横へ引き、直後に前に突き出して一気に解き放った。
「『超華光玉』!!」
20倍に高めた界王拳を発動した状態から放たれる巨大な虹色のエネルギー波が捻じれながらフリーザに襲い掛かる。フリーザは攻撃を片手で受け止めようとして腕を出す。しかし、華光玉が直撃すると片手では抑えきることができず、思わず両手を差し出してしまう。
「う…ぐぐぐ…!こんなもの…!!」
だがフリーザの指の隙間から華光玉のエネルギーが突き抜け、だんだんとフリーザを包み込んでいく。
「ま、まずいッ!」
フリーザは慌てて身をひるがえし、華光玉の軌道上から脱出した。華光玉は後ろの氷山に激突し、それを跡形もなく消し去った。それを振り向きながらフリーザはあれを避けられてよかったと思った。もしあのまままともに喰らっていればただではすまないダメージを受けただろう。
「おのれ…!」
フリーザは拳を握りしめた。対してカカロットはにやりと笑いながらフリーザの顔を見つめ、次なる攻撃の手を構えた。全身に纏った赤いオーラが流星のように尾を引き、カカロットは跳躍する。
現在の時刻は午前9時。フリーザ軍が襲来してから、すでに丸2日が経過しようとしていた。