正午12時14分 神の神殿 精神と時の部屋入り口前
「あと1分で、制限時間の48時間が経つ」
ミスター・ポポは神の神殿内部の奥にある精神と時の部屋の入り口前に立っていた。その扉の横には48時間の砂時計が置いてあり、それはもう少しで砂が全部落ちようとしていた。
今、この部屋の中には霊夢とブルマがふたりで入っており、もしも制限時間を過ぎても部屋を出てこなかった場合、内側からの出口は消え、永遠に出られなくなってしまう。
「…お、出てきたか」
だが、残る時間10秒ほどと言ったところで霊夢とブルマが扉を開け、部屋から出てきた。部屋に入る前よりも髪が長く伸びっぱなしという点を除けば、見た目にほとんど変化はない。が、ふたりとも以前とは全く違うようにも感じられるほど洗練された気を纏っていた。
「ええ…ポポさん、ありがとう」
「遠くに大きな気がいくつもあるわね…恐らくそこがカカロットくんやフリーザが戦っている場所…」
霊夢とブルマは各々で戦いに備えて気を整えようとする。がその時、感じた事が無い強い気がこの神殿に現れたのに気付いた。霊夢はハッと顔を上げる。
「ブルマさん、感じた?」
「もちろん…行ってみましょう」
「その必要はないぞお嬢さん方」
冷静な男の声がすぐ後ろから聞こえた。振り返ると、そこに立っていたのはあのカーボネド四天王最後の一人、リーダーのカーボネド本人であった。
「アンタは?」
「私はコルド大王の指揮下にある、カーボネドという者。お前たちは…この2日間私が斬り続けてきた達人や妖共とは全く違う強さを持つことを期待する」
カーボネドは二日前に幻想郷で出撃してから、目につく妖怪に勝負を挑み、自慢の剣術でそれを斬り殺し続けてきた。そして外の世界にも出没し、名のある剣の達人たちとも勝負を続けてきた。
「悪いけどあなたに構ってる余裕はないのよ、私がやるわ」
それに対し、ブルマが拳の骨を鳴らしながら彼の前に立ちはだかる。…が、霊夢がさらにその前へ割り込んだ。
「いいえブルマさん…ここは私にやらせてちょうだい」
「どちらが相手でもよろしいぞ」
カーボネドは余裕あり気に待ち構えている。
「…まあ、いいけど…」
ブルマは一歩退き、カーボネドの相手を霊夢に譲った。その後ろの方ではミスター・ポポも緊張した面持ちで戦いを見守ろうとしている。
「いざ尋常に…ゆくぞッ!!」
腰に下げた帯刀を抜き、一気に居合い斬りを仕掛ける。その太刀筋は流れ星よりも素早く、はたから見ればカーボネドが瞬間的に移動したように見えるかもしれない。
しかし、霊夢が精神と時の部屋で鍛え上げた動体視力は全盛期のものより何十…いや、何百倍にも高まっており、その一閃を躱すのは容易だった。
「ほぅお…やるな…」
霊夢は一閃が届くよりも素早くカーボネドの懐に潜り込んで足を踏みつけてこれ以上前に出るのを封じ、手首を掴んで攻撃を受け止めた。
カーボネドと霊夢はギリギリと力を込め合う。
「強い娘よ…お前ならば、私の長年の疑問に答えられるかもしれんな…」
「ぎ、疑問…?」
「私は200年前、ニッポンにて生まれた侍だった…だがな、世論や流行りに流されながら生きる大衆を見ていて、物心ついたころからある疑問を抱くようになった。”人間は何故、群れるのか?”」
「人間は何故、群れるのか…ですって?」
「そうだ。家族という単位で、友人で、グループで、集落で、そして国で…。人間が最も進化した生き物だというなら、なぜひとりで暮らさないのか…。確かに、肉食動物は群れで狩りをし魚は身を守るため集団で行動する…だがもはや狩の必要もなく天敵さえいない人間が、何故なおも群れたがるのか、私にはわからない…少なくとも私にはその必要はなかった。その疑問の答えが出せぬ私は、ある時に宇宙へ進出した。もしも他の惑星に存在する人間に会えたなら、その疑問が解決できると思ったからだ。しかし、何十年宇宙を旅しても答えは出ない。では自分も集団の一部になってみればどうだろうと考え、コルド大王軍へ所属した…が、それも今思えば無駄だった…」
カーボネドは力を強め、少しずつ霊夢を押し始める。
「どうだ!?貴様は答えが出せるか?長年のこの疑問に!」
しかし、苦しそうな表情を見せていた霊夢だが、急にスッと冷静になり、口を開いた。
「そーんなの、簡単じゃない?」
「な…なに?」
「そんなもののために200年間も悩み続けてたなんて、アンタ馬鹿だわ」
「どういうことだ?では答えを言ってみよ!!」
「あなたのその服は、あなたが作ったの?」
「は…?」
「あなたが地球まで乗って来た宇宙船があなたが作ったの?」
「いや…この服は買ったもので、戦闘服は支給された…宇宙船は当然、軍の技術班が作ったものだ」
「なら、あなたは答えをもう知ってるはずよ」
霊夢はそう言うと、足を振り上げカーボネドの顎へ蹴りを命中させた。カーボネドは後ろへ下がって膝をつき、霊夢も距離を取って構えた。
「私がもう答えを知っているだと?言っている意味がわからぬわ!」
カーボネドは刀を握り直し、もう一度霊夢に斬りかかった。霊夢はそれを躱し、続いて連続で放たれる斬撃を次々と避けていく。
「ならわかるように言ってあげるわ!私のこの服の作り方は私とは別の人が考えたもの、普段作って食べるご飯も先人が編み出したものを真似てるにすぎないわ。人にはできる事とできない事、得意な事と不得意な事がある…それを補って組み合わさる”輪”を描くために人は集まるのよ。できないことをやってもらって、できることをやってあげる…それがかみ合った時、人の輪は綺麗な丸になる…」
霊夢はカーボネドの足を蹴り、バランスを崩した。
「な、なるほど…人は互いにできないことをやってもらうために、大勢で群れる…それが社会となる、ということか。私の疑問に答えてくれたこと、感謝する。しかしだ!いくら人間同士が手を組んだとしても、誰もこの私には勝てなかったぞ!」
しかし、刀を杖代わりにして立ち上がると、再び攻撃を仕掛ける。
「人と人が助け合ってできたその丸は、まるで地球のよう…その地球から抜け出したアナタに、私は絶対に負けないわ!」
霊夢は自分の周囲に七色に光る光弾を浮かばせる。警戒したカーボネドは動きを止め、恐らく次の瞬間には放たれるであろうそれを斬り伏せるために構えを取った。
「そしてこれも人間の輪のひとつ!何代にもわたって存在してきた博麗の巫女が作り上げてきた技よ!」
霊夢は周囲に浮かぶ光弾を一斉に放ち、カーボネドを攻撃する。
「ふん!その程度、全て斬ってやるわ!」
襲い掛かる光弾を見事に全て斬って相殺してみせるカーボネド。してやったりと言ったようにニヤリと笑うが、霊夢に目を向けた瞬間、思わず目を見開いた。霊夢は腰の横へ手を回し、そこへ青色の気を溜めていた。
「さらにこれはブルマさんから習った技…彼女の師匠だった人が作ったのよ」
「な…なにィ…!?」
霊夢が腕を伸ばし、その気を放つ寸前、霊夢の背後に数々の人間の姿が浮かび上がったのを、カーボネドは見た。
それを見たのは、ブルマとポポも同じだった。かめはめ波を放つ霊夢の横に輪のように並んで立つ、これまでにかめはめ波を習得してきた達人たちの姿を。
「『かめはめ波』!!」
次の瞬間、青い柱のような気功波が撃ち出された。それはグングンと伸びつつカーボネドに迫る。
「ぐ…!ど、どうしようもできん…!ぐああああああああッ!!」
それを刀で押さえ込もうとするが、霊夢のかめはめ波はいとも簡単にそれごとカーボネドを呑みこんだ。刀は粉々に砕け、かめはめ波は神殿の壁を突き破って破壊しつつ、遠くからでも筋がはっきりとわかるほどであった。
「な、なんて無茶を…!」
かめはめ波が過ぎ去った後、パラパラと落ちてくる大理石の破片から頭を守りながらブルマがそう言った。霊夢は構えを解き、ふうっと息をついた。
「わ…私はまだ死んではおらん…ぞ…」
しかし、聞こえてきたカーボネドの声を聴いた霊夢は慌てて後ろを振り返った。ボロボロになったものの、まだ動けるカーボネドは、腕の中に仕込んでいた刃を手の平から突き出させ、ポポを斬ろうと狙っていた。
「誰か一人でも殺してやる!」
「危ない!」
霊夢はそれを見ると咄嗟に駆け出し、霊力で作ったガラス片のような刃を突風と共に射出した。カーボネドの繰り出す斬撃がポポを真っ二つにしようかと迫った瞬間、その無数の刃はカーボネドの全身に深く突き刺さった。
──…その時、カーボネドの脳裏には、遠い昔の子供のころの記憶が蘇っていた。
『炭九朗も見てないでこっち来て混ざったらどうじゃ』
『いや…わしはいい。わしは誇り高き武士の生まれじゃぞ、お前らんような浅ましい百姓のガキとは違うんじゃ』
(そうか…そうだったのか…)
カーボネドは走馬灯を見た後、そう思いながら目をつぶった。そして全身の傷口から激しく血を流しながら、神殿の床の上に倒れ込んだ。
「私は…皆の輪に入りたかったのだな」
ゆっくりと歩いてきた霊夢は、眉をひそめた悲しそうな顔で言った。
「入ればよかったのに…」
「ふふ…今度は、君のいる輪の中に…入りたいな…」
カーボネドはその言葉を最期に、静かに息を引き取った。
「…霊夢さん、行きましょうか」
「ええ…」
霊夢とブルマは飛び立ち、神殿を後にする。
「向こうの方にとんでもない気がある…きっとそこで戦ってるんだわ!待っててカカロット!今行くから!!」
霊夢は焦っていた。誰のものかは分からないが、ふたつあったサイヤ人の気のうちのひとつが急激に小さくなったからだ。
ちなみにですが、パラガスがフリーザに殺されてブロリーが覚醒するという流れは映画「ブロリー」が公開される1年以上前から考えてました