もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第169話 「貴方に地獄は生ぬるい」

「たった今、お前は私がさらなる力を発動させる条件を満たしたんだ。それと同時に、お前の敗北が決定した」

 

「何だと…!?」

 

霊夢はそう宣言すると、周りの空気を確かめるように両手を少し広げ、顔をかすかに上へ向けた。すると体を覆っていた赤と青のオーラが、今度は逆に体内へと吸収され、さらに凝縮される。

フリーザから見れば、まるで周囲の漂う熱が筋となって霊夢に集約していくように見えた。

 

「これは一体…?」

 

フリーザはその光景を見て、そう呟いた。

霊夢に取り込まれた霊力は、霊夢本人の姿を変えてしまう。まばらに逆立っていた髪はオレンジ交じりの赤へと変わり、炎のように揺らめきだす。閉じていた目はカッと見開くと、その瞳も真紅に染まっていた。

その直後、太陽の光のような、うねる様な赤いオーラが解き放たれた。

 

「さぁ…第2ラウンドを始めましょう」

 

 

”夢想天生”。霊夢だけが生まれ持って備えていたこの能力を、かの霧雨魔理沙は名前を付けてゲームの一部にすることで制限を付け、弱体化させた。そして、魔理沙は言った。

 

『夢想天生を発動した霊夢は明らかに興奮し、性格が途端に粗暴で荒々しくなる。本来は敵の攻撃の無効化を主とする防性の状態なのに、霊夢本人は興奮して好戦的になる。いわゆる矛盾をはらんでるってわけだ。それが弱点。もっとも、さらに夢想天生を極められるようになればそれも消えると踏んでいるが、あの様子じゃまだまだ先の事だろうな』

 

霊夢は精神と時の部屋での修行でその弱点を克服しようとした。短時間でエネルギーを消耗してしまうのを改善できるように…気が荒くならないように冷静さを保てるように…。

そうした血のにじむような努力の末に完成したのが、いわば夢想天生を超越した夢想天生…”超夢想天生”なのだ。

 

 

「ふん、ただ赤くなっただけだ!いずれにせよこのフリーザ様に地球人如きが勝てるはずがない!!」

 

フリーザは高速で乱れるように左右へ高速移動しながら霊夢へ迫る。どこから攻撃を仕掛けるのか分からなくし錯乱させるのが目的だ。そして、フリーザは渾身のパンチを打ちこんだ。

しかし、霊夢は微動だにしなかった。手ごたえ無く、フリーザのパンチが空を斬る。フリーザには見えていた…自分のパンチが、文字通り幻を攻撃をしたかのように霊夢をすり抜けていたのを。信じられないといった表情を見せるフリーザだが、今のは霊夢が残像を残すほどのスピードで攻撃をよけただけだと思い込み、笑う。

 

「…フッ、その程度で驚かんわ!死ねい!」

 

フリーザは足を地面に突っ込み、そのまま前蹴りを繰り出した。抉れた地面の中から鋭いカッターのような青い気が噴き出し、それは真っすぐに霊夢へと迫る。

霊夢は目を見開くと、体を覆う赤いオーラが風のように前へ伸び、そのカッターを吹き飛ばすように打ち砕いた。

 

「な…なに!?」

 

もう一度攻撃を放とうとするフリーザだが、突如としてその全身がまるで金縛りにあったかのように動かなくなった。なんと、霊夢の赤いオーラがフリーザに絡みついており、それが身動きを封じていたのだ。

 

「この能力が使える条件は、私もしくは私の大事な者に対して相手が殺意を明らかにした時。いわばこの能力は敵意を持った者に対してしか使う事が出来ないの」

 

「く…う…!」

 

フリーザが何とか動こうともがいて見せるが、霊夢の赤いオーラは振りほどけない。

 

「いい、フリーザ…私たちは、この地球で…いや、幻想郷で平和に暮らしていた。まあ、色々あったけどね…」

 

言いながら、霊夢の脳裏に今までの戦いが思い出されていった。

初めてカカロットと出会った時の彼との戦い。幻想郷一武道会での再戦、そして強力な魔界の戦士ウスターのこと。そして幻想郷の事を顧みずにドラゴンボールで願いを叶えようとする、ガーリックとその息子ガジュニア。

自分たちの勝手な都合で地球そのものを滅ぼそうとした、月夜見王率いる月の客。幻想郷を拠点に世界を支配しようとたくらんだドクターウィロー。

 

「私たちは、今まで闘ってきた強敵たちをほとんど殺してきた。でも、それじゃいけないと思ったのよ…幻想郷は全てを受け入れる。敵の事も許してやり、なんだかんだ言って楽しく過ごせる仲間に加えなければ、その殺しの連鎖はいつまでも続いてしまう。だからもう一度、あなたに尋ねるわ。フリーザ、もう悪い事は一切やめて、私たちと幻想郷で暮らさない?」

 

そう聞かれたフリーザは、しばらく黙ってから低く笑った。

 

「…ふ、ふふふ…馬鹿にされたものだな…このフリーザ様にそのような夢追い事を言おうとは…片腹痛いわッ!!」

 

その時、今までビクともしなかった金縛りが急にフリーザのパワーで押され始めた。霊夢はこのままではまずいと思い距離を取ろうとするが、その瞬間に金縛りを破ったフリーザが飛び出し、素早い拳を放った。しかし、その拳も先ほどと同様に霊夢をすり抜けてその背後へ飛び出し、何も手ごたえがない。

続けて放たれるフリーザの連撃すらも透き通らせ、細めた目でじっとフリーザを見つめながら呟いた。

 

「そう…残念だわ」

 

その直後、霊夢はスーッとスライドするように移動し、フリーザの真横を通り過ぎた。振り返ったフリーザが反撃を仕掛けようと飛びかかるが、霊夢はその方向を見ずに、指を鳴らした。するとフリーザの胸が拳の形に凹み、殴られた衝撃が一瞬にして数十回分も浴びせられた。

 

「ごほ…!」

 

フリーザは口から血を吐きながら吹っ飛んでいく。

霊夢はフリーザの認識を越えた速度で彼の背後へ移動し、その両肩に手を置いた。その瞬間、世界が変わった。

 

 

「あれ!?霊夢とフリーザは何処へ消えた?」

 

遠くから戦いを見ていたブロリーとブルマは、突然何事もなかったかのように姿を消した2人を探した。

 

 

フリーザの見る景色の色が反転したように変化し、急に静かになった。フリーザは困惑し、動きを止めて辺りを見渡した。その時、足元の地面が無くなったような気がして、慌てて空へ飛び上がった。

 

「なんだ…何が起こった?」

 

「ここは私の世界…貴方は今、この世の誰からも認識されなくなった。物体に触れることもできない…誰にも声が届かない…貴方はこの世とは違う異次元の世界へと閉じ込められてしまったというわけ」

 

「何を言っている!そんな事が有りえるか!」

 

フリーザはそう言いながら霊夢へと殴りかかった。しかし、今度は霊夢は避けようともしなかった。何故ならこの攻撃は当たらないと確信していたからだ。

超スピードで避けたとか、そう言うことではない…今度は正真正銘、フリーザの攻撃が霊夢を透き通ってしまい当たらなかった。

 

「何っ!いったいさっきからどうなってやがるんだ!」

 

フリーザは続けて連続攻撃を繰り出し、指先からビームを撃った。しかし、パンチや蹴りも、そのビームですらも霊夢をすり抜け、何処までも遠くへと伸びていき、消えた。

 

「…そんな…」

 

呆気にとられたフリーザだが、今度は遠くにいるブルマとブロリーに向き直り、同じように2本のビームを放った。だが、やはりその2本のビームもふたりをすり抜け、消えてしまった。

 

「だから言ったでしょ、貴方は今別次元にいる。貴方の声や身体、気功波の類までも、現世へ干渉することができない。貴方はこの世界で一生を終えるの。誰にも相手にしてもらえずね」

 

「なんだと…!?」

 

「貴方に地獄は生ぬるい…この場所で、死ぬまで悔やみなさい…己のしてきた事を…」

 

「ま…待てッ!!」

 

フリーザが止めようとするのも空しく、霊夢はゆっくりと、泡のようにその姿を消した。その後、フリーザは周囲に無茶苦茶にエネルギー波を乱射しまくるが、そのすべてが周りの山にも地面にもあたることなく、虚しく消えていった…。

 

「お…オレ様をここから出せ…ここから出せえええええッ!!」

 

 

 

「わっ!」

 

ブルマとブロリーは突然目の前に現れた霊夢を見て驚いた。

 

「やあ」

 

「やあ、じゃないわよ!フリーザはどうなったの?」

 

「私が異次元の空間に閉じ込めた…ヤツはそこで己がしてきたことを悔いながら一生を過ごすでしょうね」

 

「なんだかよくわからないが、やったんだな!?これでフリーザを倒したって事になるんだな!?」

 

「ま、そーなるわね」

 

ブロリーは全身の力が抜けたように座り込み、安堵のため息をついた。ブルマも気を探って確かめるが、フリーザらしき気は微塵も感じられない。

 

「よ、よかった…これで親父やカカロット…いや、死んでいった仲間たちも安らかに眠ることができるだろうな」

 

「ええ…これで全て終わった…さ、帰りましょうか…」

 

口ではそう言いながらも、霊夢は引き絞った弓のように緊張していた。神経がピリピリして、何だか胸騒ぎを感じるのはきっと疲れているせいだろう。

 

(でも変ね…私の姿が元に戻らない…敵を倒せば自動で元に戻るはずなんだけど)

 

そう一縷の疑問を抱える霊夢。だが、そんな無粋な事は今は言うべきではない。ここにいるブルマとブロリーはフリーザをやっつけた事を喜んでいる。そこに水を差すべきではない。そう、ふたりとも喜んで…

 

「あ…ああ…!」

 

しかし、ブルマだけは顔を向こうへ向け、震えていた。遅れてブロリーが気が付き、もう一段階遅れて霊夢が気付く。

 

「フリーザだ───ッ!!」

 

今までブロリーたちが寄りかかっていた岩山の上に、フリーザが片膝をついてこちらを見下ろしていた。その目は怒りに燃えながらも、顔は邪悪な笑みで歪んでいた。体から立ち昇るオーラは、心なしか以前よりもさらに凶悪になったように感じる。

 

ズギャ…

 

そのつかの間、フリーザが撃ち出した光線が、霊夢の額を貫いた。

 

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