もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第179話 「スカー」

「おかしいな…この人形が何のために造られたのか、ましてや名前すらも全く分からない…!おかしい…道具であれば、僕が見るだけで名前と用途を理解できるはずなのに…」

 

霖之助は香霖堂の自室の机に寝かせた例の破損した人形を調べていた。彼は自分で言った通り、「道具の名前と用途が判る程度の能力」を持つ。しかし、通常、人形とは道具であるという先入観をもとに能力を使い名前と用途を判明させようとしたが、不思議なことにそれができないでいた。

 

「理由として考えられることは、この人形を造った者はこの人形を『道具』としてではなく、何か別の意味と役割を持たせようとして作成したのではないだろうか?」

 

その場合として、最も多い例が「生き物」だ。生物は「誰かが何か目的を持って作った」ものではないため、霖之助の能力で詳細を判明させることはできない。

 

「しかし…この人形は当然だが生き物ではない!等身大の女性型で体の全てが木材と無機物で造られているし、有機的パーツはひとつもない!体には無数の傷があるが、妙だ…だがこれは実に面白いぞ…!…ん?」

 

ふと、霖之助は横たわる人形の黒い目の穴の中に赤い光が見え、それがこちらを憎らし気に睨んでいるような気がした。が、確認すると人形の目に光など無く、元の真っ暗な穴があるだけだ。

 

「…気のせいか…。でももしもこの人形が自分で動くからくり人形だとした場合、頭の中がどうなっているのか気になるな…少し顔を剥がして見てみるか」

 

霖之助が人形の顔に自分の顔を近づけ、外皮の接合部がないかと探したその時、目が合った。もちろん、この人形の黒い目の中に現れた赤い光と、だ。

 

「な、なに…!?」

 

次の瞬間、人形が”左手で持った左腕”で霖之助の首をがっちりと掴み、締め上げた。

 

「き…君は…何者なんだ…?」

 

「…ワタシは…自分が何者かさえわからない…だが、たったひとつだけ、頭の歯車の隙間にこびりついた言葉がある。『スカー』ヨ」

 

人形はそう言いながら起き上がる。すると額にパリパリと静電気が発生したかと思うと電気はもっと大きくなり、人形の腕を伝って霖之助に流れる。

 

「うわあああああああ!?」

 

霖之助は気を失い、その場に倒れ込んだ。

 

「弱かった…まだまだ、闘わなけれバ…このワタシが何なのか、確かめて学習するためにネ…」

 

 

 

 

その頃、魔理沙は自宅で読書に耽っていた。シロナを預かるまではもっぱら魔法の研究くらいしか打ちこむ余裕も興味もなかったのだが、シロナが来てからは魔法とは距離を置き、穏やかな生活を送っている。

 

コンコンコン…

 

とその時、玄関のドアを叩く音が聞こえた。

 

「お…シロナか?いや、まだ時間が速いな…ただの客かな?」

 

魔理沙は玄関まで歩いていき、のぞき穴から外を確認する。すると、ドアの前に立っていたのは霖之助だった。

 

「なんだ香霖か…例の人形について何かあったのか?」

 

ドアを開けて霖之助を迎え入れようとする魔理沙であった、ノブを掴んだ瞬間にハッと思い立つ。果たして、本当にドアの向こうにいる人物は霖之助なのだろうか?

 

「…香霖は自分から人の家なんて訪ねて来ない…それがたとえ私でもな。お前は何者だ!?」

 

「くっくっく…やっぱリかからねぇカ…」

 

そうキリキリと歯車が軋むような音と共に女の声が聞こえた。次の瞬間、のぞき穴の向こうの霖之助が倒れると、ドアを突き破って何者かの腕が伸びてきた。

 

「こ、これは…!」

 

魔理沙はこれには見覚えがあった。これは昨日見た、あの人形が手にしていた何かの左腕だ。

 

「くっ…!」

 

左腕は魔理沙の服の胸ぐらを掴み、ドアごと破壊しながら彼女を家の外へと引きずり出した。体力と力が衰え始めていた魔理沙は石畳の上を転がされ、震えながら起き上がろうとする。

 

「お、お前は香霖堂の人形か…まさか本当に自分で動く人形だったとは驚きだ…」

 

人形は黒い目の中の赤い光でじっと魔理沙を見据え、歯車が軋むような音を鳴らしながら歩み寄った。形はおおよそ人と似ているのに、その無機質な表情と動きが不気味な恐怖を掻き立てる。

 

「ワタシは自分の強さが知りたイ…学習するんダ。ワタシがこの世界でどういう存在なのカ…またどれほど強いのカ…お前を『停止』させることで探ってやるのヨ」

 

魔理沙は玄関の前でうつぶせで倒れたままの霖之助に目をやった。すると霖之助は苦しそうにうめき、手をかすかに動かした。

 

(よかった…死んじゃいない…なら!)

 

服の中のポケットにしまっていたミニ八卦炉を取り出そうとする。だが、果たして今の自分に魔法で戦う力はあるだろうか?という疑問がよぎった。

魔理沙は霊夢がいなくなってシロナを引き取って一緒に暮らすようになってから、今まで行っていた魔法の研究や実験をやらなくなっていた。自分が霊夢の代わりに、今度は私が親にならなければならないという自覚を持ったからで、それは子を持った母親がタバコや酒など体に負担がかかることをやめるようなものと似ていた。

当然、作り出した魔力を燃料として注ぎ込まなければ威力を発揮しないミニ八卦炉も、ここ数年まともに使用したことはない。

 

(イチかバチか…!)

 

すばやく服の中から八卦炉を取り出し、構える。そして昔の感覚を頼りにそこから炎のような魔力の光を放とうとした。結果、出たのは細長い炎だった。

炎はスカーに当たるとその体にボッと燃え移った。

 

「なんだこれハ…熱い…!」

 

「へへっ、思ったよりちょびっとばかしショボかったが木でできたお前の体に火は効くようだな…!」

 

「ぐううッ…!だが、これで理解できた…これが熱いという感覚かヨ!だがしかしヨォ…どっちが強いと思うネ?お前のその熱さと…ワタシの…」

 

スカーは体に炎がついたまま、左手で掴んだ左腕を天へ掲げた。スカーの額にパリパリと静電気が纏われ、次の瞬間に左腕の指先から落雷のような電撃が放たれた。

 

「カミナリがサァ~!!」

 

「ぎゃあッ…!!」

 

魔理沙はなんとかその落雷を転がるようにして避けるが、その衝撃に吹っ飛ばされ、家の壁に頭から激突した。ぶつけたところから血が流れ、地面にぽたぽたと垂れる。

 

「で、電気を自在に操るのか…」

 

「ワタシのカミナリの威力で炎は消せたヨ。これで学習した…少なくともアタシは!森近霖之助、そして霧雨魔理沙!お前らふたりよりは確実に上の存在ということダヨ!!」

 

スカーは声高らかにそう宣言した。

このスカーという自動で動く人形…どうやら自分の立ち位置を目覚めてからの短時間で学んでいるようだった。自分がこの世界のヒエラルキーのどこに存在しているのかを知ろうとしているのだ。そして今、スカーは霖之助と魔理沙に勝利することで、確実に自分の存在はこのふたりよりも上位だと確信した。

魔理沙は思った。このままスカーを放っておけば、誰彼構わず勝負を仕掛け、この幻想郷に争いの火種を巻き散らすだろう。たとえば普通の一般人が目を付けられれば、人間の里は混乱するに違いない。

 

「くそ…もっと若いころだったら戦えたのに…体力も筋力も衰えた今ではもうもたない…ぜ…」

 

スカーは魔理沙を見下ろし、ニヤリと笑った。

 

「魔理沙…?」

 

その時だった。ガサリと草を踏む音が聞こえ、そちらに顔を向けると、今日の修行を終えたシロナはこちらを見て唖然としていた。

 

「シ、シロナ…!来るんじゃない…ここから急いで離れるんだア──ッ!!」

 

「へーえ…アイツとも戦って、ワタシの立ち位置をより詳しく調べてみるとするかネ…」

 

スカーはゆらりと体の向きを変え、シロナに向き直った。

 

「霖之助さんのところに居た…人形…?まさか…」

 

シロナは家の玄関の前で倒れている霖之助と、スカーの足元に倒れる魔理沙を見た。そして、いよいよスカーは体中からパリパリと静電気を発しながらシロナに近づいていく。

 

「何をしているんだシロナ、ここから離れろォ!!」

 

魔理沙はそう必死に叫ぶが、シロナは恐怖で足が震えており、そこから動けない様子だった。

いや、違う。シロナの足の震えは恐怖心からくるものではない!怒りだ、怒りから起こる震えだった!

 

「よくも…魔理沙と霖之助さんを…!」

 

シロナがそう言う間にもスカーは目の前にまで近づいており、手に持った左腕を剣のように降り上げていた。

 

「くらってみなヨ!!」

 

繰り出される攻撃。

しかし、シロナはその腕による一撃を片腕で押さえ込んだ。同時に発せられていた電流にひるむことなくそれを弾き飛ばし、スカーを睨みつける。

 

「…効かない…?だったら、これはどうヨ?」

 

スカーの腰のあたりの外装がパカッと開いて内部が露わになり、詰まっていた木製の歯車が飛び出して高速回転を始める。スカーの上半身がコマのように回転し、かつ飛び出した歯車もまるで回転するノコギリの歯のようにシロナをめちゃめちゃに切り刻もうと襲い掛かって来た。

 

「シロナァ──!!」

 

魔理沙の叫び声が響く。しかし、シロナは狼狽えなかった。顔を上げると、その目は獣のように黄色く変色しており、普段は腰に巻かれているサイヤ人の血を引いている証である尻尾が解かれて激しく揺れて動いている。

5年前、幻想郷から姿を消した龍神は戦いによって破壊されたツルマイツブリ山を元に戻すと同時に、月夜見王に破壊されたままであった月ですらも復元していた。今日は満月ではないが、まるでシロナが大猿にでも変化したかのような荒々しい気に満ちていたのだ。

 

「ウラァ!!」

 

シロナの放った拳が、回転するスカーの歯車を砕いた。

 

「な、なにィ!?」

 

回転が緩んだスカーの全身に、キレたシロナが繰り出す怒涛の拳によるラッシュが何発も叩きこまれる!

 

「ウラウラウラウラウラウラァ!!」

 

「ぐぎゃばアァ────ッ!?」

 

顔面、胴体、腕、全身に次々と喰らわせられるパンチ。そして最後の一撃、大きく振りかぶって力を溜めた拳が顔面にめり込むと、スカーははるか後方へ吹っ飛ばされた。スカーの口から油が漏れ出し、落下すると地面を転がっていく。スカーは石にぶつかると勢いよく跳ね、そのまま家の壁に激突した。

 

「このパンチの痛みも知っておくがいい…そして二度とくらわないようにしておいて…」

 

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