もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第180話 「奇妙な関係」

顔面、胴体、腕、全身に次々と喰らわせられるパンチ。そして最後の一撃、大きく振りかぶって力を溜めた拳が顔面にめり込むと、スカーははるか後方へ吹っ飛ばされた。スカーの口から油が漏れ出し、落下すると地面を転がっていく。スカーは石にぶつかると勢いよく跳ね、そのまま家の壁に激突した。

 

「このパンチの痛みも知っておくがいい…そして二度とくらわないようにしておいて…」

 

(バカな…なんだこの子供のキレた時の爆発力は…!?このワタシはこの子供よりも…下位の存在だというのか…!?)

 

そう、シロナは無自覚の内に満月に関係なく、体を変化させることなく大猿と同等のパワーを引き出す術に目覚めていたのだ。それは、かのブロリーの怒り状態と全く同じ能力である!

シロナはスカーの動きが止まったことを確認すると、ゆっくりと歩いて近寄っていく。

 

「これでわかった?今度また同じように、学習と称して人を傷つけ、命を何とも思っていないような行為をしたら、お前を完全に破壊する…いいな?」

 

「イ…イノチって何だ…?動けるってことかヨ…?」

 

「…それがわかるまで、お前を監視する。お前がみんなにとって害のない存在であると判断できたら自由にどこへでも行くがいい」

 

スカーは起き上がろうともがくが、やがて倒れ込み、カクカクと痙攣したまま動かなくなった。だが、完全に機能を失い停止したわけではない。

 

(ワタシを監視するだっテ…?バカな子供め…お前を監視するのはこのワタシのほうヨ!いつかお前を停止させて、その右腕を私の腕として使ってやるヨ…!)

 

シロナは気を失っている霖之助の上半身を抱き上げて声をかける。

 

「霖之助さん、大丈夫?」

 

「あ、ああ…何とか」

 

霖之助は目を覚まし、そう答えた。魔理沙も頭を打ってしまったので、家の中から薬と包帯を持ってきて手当てをするシロナ。スカーは倒れたままその様子をしばらく横目で見ていたが…

 

(く…だが、流石に意識が…薄れてきたナ…。またワタシはあの暗闇の時間を味わうのか…?)

 

とその時、自分の体がふわっと持ち上げられた。上を見ると、シロナの顔が見える。どうやら自分はこの子供に抱きかかえられているようだ。

 

「霖之助さん、私も手伝うからこの人形を治してあげてくれないかな?」

 

その言葉を聞いたのを最後に、スカーはひとたび眠りについた。

 

 

 

数時間後…

 

「シロナくん、この板をえんぴつで描いてある通りに切断して歯車を作ってくれないか?」

 

「は、はい!」

 

シロナは霖之助に言われた通りに糸ノコギリで木板を削り切っていく。霖之助と魔理沙は、シロナが破壊したスカーの内部の歯車や、配線や砕けた表面の外皮などを取り替えたり修復したりする。

 

「そうしたら、裏の倉庫にいつだったかに拾ったテレビがあるから、それを持ってきてくれ。千切れたコードをそれで代用しよう」

 

魔理沙が切り取ったコードを霖之助が繋ぎ、元あったように繋いでいく。

 

「それにしても、改めて凄いと思うな…このスカーという人形を造った者は一体どんな天才だったんだ?頭部には高性能な人工知能がダウンロードされているであろうディスク…胴体の中身は木の歯車や電子部品、配線などで人間の内臓機能に限りなく近い機構を完成させている…それでありながら、全身の筋肉の役割を持つゴム製の繊維の中には発電板が組み込まれていて…なるほど、これで電気を生み出し、かつゴム繊維で自身への感電を無効化しているのか…!」

 

「おい香霖、手が止まってるぜ」

 

「おっとすまない…」

 

魔理沙にそう指摘された霖之助は我に返る。

 

「だが、この根元から引き千切られて無くなっていた右腕は僕らの技術じゃ修復は不可能だな…せめて、飛び出ている部品やコードを中に仕舞ってカバーをかぶせるくらいはしておいてやろう」

 

 

 

 

 

翌日。

シロナはいつものように八雲紫と共に森の中へおもむき、そこで博麗の巫女の修行を開始していた。

 

「準備は良いかしら?」

 

「はい…」

 

紫は空中に出現させたスキマの上に腰かけながらシロナにそう問いかけた。すると、手に巻き付いていた蛇に式神の符を取りつけ、その蛇を地面に投げる。

蛇は一瞬で煙と共に巨大化し、人間の様な両腕を備えた怪物へと変化する。

 

「では始めなさい。今回は貴方が危険な目に遭っても止めるつもりはないから、本気でがんばりなさいな。何故なら、”貴方が弱いと、みんな大勢死ぬから”」

 

「分かりました」

 

冷酷に放たれた言葉を聞いても、シロナは真剣な顔で蛇の妖怪を睨んでいる。その様子を紫のさらに後ろで見ていた藍はこころなしかシロナに関心を抱いていた。

 

(あの言葉を言われても動揺ひとつ見せないとは…。あの霊夢でさえ、紫様にああ言われて焦りを見せていたというのに…)

 

シロナはしっかりとした足取りで、かつ目は真っすぐに蛇を見つめながら、様子を伺うように周囲を歩き始める。蛇もそれを目で追いながら警戒していたが、シロナがふと立ち止まった瞬間、大口を開けて飛びかかった。

しかし、シロナはそれを完全に見切っており、後ろへ素早く飛びのいて攻撃をかわした。蛇は何もないところに噛みつき、森の奥へ向かって滑っていくが両腕で地面を掴み、方向を変えてもう一度シロナの方へ向いた。

 

(シロナの動きがこの間とまるで違う…!わざと隙を見せて攻撃を誘導した…!)

 

紫はここ数日でかなり向上したシロナの戦闘能力に驚きを見せた。

蛇はもう一度口を開けての突進を仕掛け、シロナに噛みつこうと襲い掛かる。だが、シロナは向かってくる蛇に対して、正面に立ったまま動こうとしない。

 

「バカな…何をするつもりなの?」

 

紫はそれを見ながら、そう呟いた。今のシロナが行える手段とすれば、霊力を纏わせた針を突き刺すか、ギリギリまで引きつけて避けるかだが…

 

「ウラァ!!」

 

いや…シロナは向かってくる蛇の鼻面に、正面から思い切り放った拳を叩きつけたのだ。蛇は攻撃を喰らった箇所から煙を出しながら吹っ飛ぶが、なんとか態勢を整える。

だが、シロナは既にその時に追撃に出ており、再び蛇の眼前に迫っていた。シロナは蛇にパンチを食らわせ、もう一度後ろへ仰け反ったところをさらに攻撃する。

 

(私はあんな格闘戦は教えていない…。なるほど…霊夢とカカロットの血か…)

 

しかし、蛇もやられっぱなしではない。仮にも八雲紫から式神の才能を見抜かれ、その力を与えられたのだ。今のその実力は主人にも匹敵するほどだ。

蛇は長い腕を振るい、シロナをがっしりと掴み上げた。

 

「!?」

 

自分の両腕ごと掴まれたシロナは身動きが取れない。蛇は大口を開けて、今にもシロナを頭から齧ろうとしている。

紫はそれを見ても蛇を止めようとはしない。場の緊張感を際立てるかのように空に雲が立ち込める。

 

…その瞬間だった。

 

バリバリ… ドォン!

 

「…なに!」

 

空から一筋の雷が落ちた。落雷は蛇に直撃し、苦痛の雄叫びを響かせる。

電流によって蛇の手が開いていき、シロナは解放された。すかさず、シロナは地面を蹴って跳躍し、感電している蛇の頭部へ蹴りを喰らわせた。

 

「ウラアアアアア!!」

 

「ぐ…ギャビ…!!」

 

蛇はドサッとその場に倒れ込むと、元の大きさの蛇に戻る。

 

「い、今の雷は…?」

 

シロナは不思議そうにあたりを見渡す。

だが、紫だけは全てに気が付いているようで、上を見上げながら息をついた。

 

(なるほど…あの両親の格闘センスだけでなく、あんな仲間まで…。面白いわ、このシロナという子…)

 

 

 

 

「ふん、お前に『恩』とかいうものなんて…感じてないんだからナ…」

 

森の上空で、左手で掴んだ左腕にパリパリと電撃の余韻を残させ、寝そべる様な姿勢で浮遊していたスカー。右腕の千切れてボロボロだった面は綺麗に整えられ、ほとんど目立たないように修復されていた。

 

ともかく、シロナが博麗の巫女として…いや、ひとりの戦士として更なる高みへのぼることができたのには間違いないだろう。そしてそのきっかけは、スカーという人形との出会いも含まれているのかもしれない…

 

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