もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第181話 「紅魔館に遊びに行こう」

幻想郷、霧の湖のほとりに位置する赤い館、紅魔館。人間の里や、数ある幻想郷内の建造物と比較してもその洋風な外観は珍しい。

館は十メートル以上もある高いレンガ積みの塀に囲われていて、敷地内に入るには中央にある門をくぐるほかない。

 

「私は、外の世界を旅します。私の幼いころから今までに世界がどう変わったのか、見てみたいのです」

 

そう言って門番がどこか旅へ出たのが3年も前のこと。館の主も止めはせず、なんだかんだ門番不在のまま3年間もやってこれている。しかし、その主は後に言った…「今日は門番が不在な事を初めて後悔した」、と…。

 

 

紅魔館は門を通り、左右を花壇で挟まれた庭の道を通って重い扉を開けることでようやく中に入れる。すると広大なエントランスが出迎えてくれる。そこを中心に外観通りの通路や部屋が当てられている訳だが、今回はそこには行かずに地下へと通じる階段を降りよう。

すると現れるのは、明らかに外から見た館よりも広い図書室だ。ちなみに、その天井も今降りてきた階段よりも高く、この図書室が空間を広げる術のような何かで拡大されているためによるものだ。

その一角、図書室の主であるパチュリー・ノーレッジは明かりをともした机に向かい、隣に座る少女…シロナと何かを話していた。

 

「…そういうわけだから、原子の結合の仕方が違うだけで全く別の性質になるの。あなたが今使っている鉛筆の芯も、私が持ってるこのダイヤモンドも同じ炭素原子で構成されているのに全く強度も違うでしょ?」

 

「な、なるほど…」

 

シロナはパチュリーに教えられたことをノートに書き記していく。パチュリーはちらりと時計を見ると立ち上がり、紅茶をいれる。

 

「今日はここまでにしておきましょうか」

 

「はい!」

 

シロナはいくら人間の味方である博麗の巫女になったとはいえ、その種族や幻想郷内での立ち位置の扱いはどちらかといえば妖怪側である。寺子屋にも通う事ができないので、魔理沙に連れられてここにやってきて以降、このようにパチュリーに様々な教養や知識を教えてもらっているのである。

 

「ねえシロナ?」

 

「ん?何ですか?」

 

「シロナはこんな辛気臭いところで勉強しててもいい?もし何だったら、上の階のちゃんと日当りのいい部屋でメイド長あたりにでも教わった方がいいかしら?」

 

「そんなことないですよ。だって、パチュリーさんは物知りで凄いと思うし、パチュリーさんに勉強教えてもらうの好きですもん!」

 

「~~~~~~ッ!ああ~もうシロナちゃんはかわいいわね!いっそ私の子供にならない?」

 

パチュリーは思わずシロナを思いきり抱きしめて頭を撫でまくる。その様子を偶然見かけた、パチュリーに仕えて図書室の管理を任されている小悪魔たちが「またやってるわ…」というような呆れた表情で立ち去っていく。

 

…しかし、そんな光景もすぐに終わろうとしていることに、ふたりは気付く由もなかった。

 

 

ちょうど同時刻、紅魔館の門を一匹の何かがくぐった。それはたった数ミリ程度の蜘蛛の姿をしていて、庭の整備をしていたメイド妖精たちの目を簡単にかいくぐった。

そして、蜘蛛はひとりの妖精の足をよじ登る。振り払われるも糸を駆使してなんとか首の後ろまで来ると妖精も再び何かがくっついていることに気付き、首を手で払う。

 

「どうかした?」

 

「いや…首のあたりに虫が…」

 

だが蜘蛛は諦めない。尻から伸ばした糸で何とか空中にぶら下がり、もう一度首の後ろに貼りつくと、そのまますばやく後ろ髪の中へもぐりこむ。

 

「うっ…」

 

その妖精は小さい声を出すと、突然立ち上がって歩き出し、急いだ様子で館の中へと入っていく。

 

「あいつどうしたんだ?」

 

「さぁ?トイレじゃないですかね?」

 

それは、主のレミリアやその従者の十六夜咲夜が不在の時に起こった。

妖精は真っすぐに館の中を歩き、片っ端から部屋のドアを開けていく。中を見渡し、まるで何かを探すように練り歩くと、また別の部屋へ。

 

「いない…やはり、調べていた通り…地下図書室か…」

 

 

 

「ちょっと御花摘みに行ってくるわね」

 

「はい!」

 

パチュリーはそう言うと席を立ち、トイレがある方へ歩いていった。シロナは淹れてもらった紅茶を飲みながら一冊の本を読んでいた。すると、たった少しの間を置いてパチュリーが戻ってきたではないか。

なんか早いな、と思いつつも触れないでおこうとしたシロナだったが、パチュリーが自分の背後を通りかかろうとした瞬間、何か不吉な気配を感じて振り返った。

 

「え!?」

 

すると、パチュリーが腕を上げ今にも叩き下ろしそうとしていた。シロナは咄嗟に椅子から飛び出して逃げると、腕は振り下ろされ、机を殴った。

 

「パ、パチュリーさん?」

 

パチュリーは突然シロナに攻撃を仕掛けたかと思えば、今度はシロナが置いた紅茶のカップを手に取り、それを一瞬で飲み干した。さらに、机に置いてあった茶菓子を素手で鷲掴みにするとおもむろにそれを紙ごとガツガツと貪るように食べ始める。

 

「どうしたの…!お腹減ってたの?」

 

口に頬張ったものをごくんと呑み込むと、今度は白目を剥いてシロナを睨みつける。そして獣のように唸り声を上げると、今度はシロナに襲い掛かった。

 

「わっ!」

 

シロナはのしかかってくるパチュリー対し、体を横へ移動させてかわす。

しかし次の瞬間、別の方向から別の何者かに攻撃され、腕を上げてガードする。そちらの方に顔を向けると、なんと紅魔館の妖精や図書室の小悪魔たち10人ほどがシロナに対して攻撃を構えていた。

 

「え…!」

 

次々と襲い掛かる妖精たちの蹴りや弾幕による攻撃を避けると同時に距離を取っていく。

 

(一体どういうこと…?みんなこんな乱暴な性格じゃなかったのに…)

 

シロナは体を動かしながら、敵たちの体をよく観察した。すると、なんと妖精や小悪魔たちの背中から、煌めく細い蜘蛛の糸の様なものが伸びているのに気が付いた。そしてその糸はどうやら一か所から伸びており…

 

(まさか!この糸は…パチュリーさんの手から伸びている!?)

 

そうと分かれば咄嗟に敵たちの間を縫うように通り抜け、その奥にいるパチュリーに接近した。そして上着の内側から長い針を取り出し、それをナイフのように駆使して糸を全て切断する。

すると糸に繋がれていた妖精と小悪魔たちは、まるで文字通り糸が切れた操り人形のようにその場に倒れ込んだまま動かなくなった。パチュリーはそれを見ると獣の様な顔をにやりと歪ませて笑った。

 

「はははは…流石だな、博麗霊夢の娘…よ…」

 

「だ、誰?」

 

驚いたシロナは思わずそう問いかける。

 

「それに、お母さんの事を知ってるのね」

 

「当たり前だ。このオレの名は『ヒダル丸』!お前の母親、博麗霊夢によって20年もの間封印されていたのだ。今日は霊夢の娘であるキサマをやっつけることで復讐を成し遂げにきたのだ!」

 

「そ、そうなんだ…でも、どうしてパチュリーさんの体を乗っ取ったの?」

 

「ふん、オレ本体はとても小さいんでな…誰かに憑りつくことで真価を発揮する。そしてさらに、一度憑りついた者はオレが肉体から離れても糸を通すことで再び操ることができる!」

 

「…そんな事は聞いていないよ」

 

「あ?」

 

その時、シロナはヒダル丸の喋り終わった後に冷酷に言葉を返した。それを聞いたヒダル丸は、ムッとしたように表情を変えてシロナに近寄る。

 

「何か言ったか?クズが…、知ってんだぜ?テメェが歴代の巫女の中でも平均以下の実力だって事をな。対してオレはあの霊夢を越える力を身に付けて帰って来た…そんなテメェがオレに勝てる道理なんぞねぇんだよ!!」

 

「お前が小さいだとか憑りつくことでどうなるかなど聞いちゃあいないのよ。私が聞いてるのは、なんでお母さんへの恨みを娘である私に対して晴らすために、パチュリーさんや館のみんなを利用したのかってことだよ!」

 

「うるっせええええ!オレの20年分の恨み、喰らってみるがいい!!」

 

ヒダル丸は両腕を振り上げ、それを叩き下ろした。シロナは咄嗟に後ろへ下がって避けると、床が拳によってバキバキと壊されたのが見えた。

 

「どりゃああああ!!」

 

完全に激昂したヒダル丸は雄叫びを上げ、乗っ取ったパチュリーの肉体を好き勝手に動かしてシロナを攻撃する。母親であるあの霊夢を越える力を身に付けた、という言葉はあながち嘘ではなく、確かにその一撃一撃は喰らえばただではすまないだろう。

だが、逆にシロナは怒りを感じてはいるが、パチュリーの肉体を操るヒダル丸に対していまいち攻撃が仕掛けられずにいた。

 

「ははははは、分かるぜ、お前はこの魔法使いが大事だから攻めきれないんだろ?だからオレはわざわざコイツの体に寄生したんだぜ!」

 

「くっ…!」

 

それは図星だった。確かに、自分に勉強を教えてくれたり仲良くしていたパチュリーの体を傷つけることはできない。対してヒダル丸は問答無用の猛攻を繰り出し、そのうちの一発のパンチがシロナの顔面に命中した。

 

「ぎゃはははは!!ざまぇねぇぜ、このままなぶり殺してやる!」

 

吹っ飛ばされて本棚に激突し、上から大量の書物が覆いかぶさった状態になったシロナは逃げようともがいている。ヒダル丸が笑いながら追撃を放とうとした瞬間…

 

ガキン!

 

「な、何だァ…?」

 

「お前は甘いんだヨ、シロナ…」

 

なんと、数日前にシロナが倒した謎の機械人形、スカーが突然何の前触れもなく出現し、ヒダル丸の突きを左腕で受け止めていた。

 

「スカー…!どうしてスカーが…?」

 

「…知れた事だヨ…ワタシはずっとここでお前を見てたんだゼ?今の今まで全く気が付かなかったみたいだがナ…」

 

「ギイイ、なんだテメェは!そのガキはオレが殺すんだぜ、オラ退かねぇと…!」

 

「何してくれるんだヨ?」

 

スカーはそう言うと腕から電撃を放ち、ヒダル丸を軽く吹っ飛ばした。

 

「さっきから見てれば、このパチュリーとかいうヤツを傷つけたくないから…コイツを殴れないだっテ?本当に甘いナ…。だけど、ワタシなら…できるんだぜ?」

 

スカーは不敵ににやりと笑いながら、よろよろと後ろに下がりながら感電したショックで痺れているパチュリーに指先を向けた。

 

「ま、まさか…や、やめて…!」

 

「嫌だね」

 

そして、シロナの制止をもわざと振り切ってスカーは左手に持った左腕を槍のように突き、その先端、つまり指先をパチュリーの腹へめり込ませた。手首の辺りまで深く入り込み、パチュリーの胃が押されてその中身が押し出される。

 

「ウ…グエエッ!!」

 

「今ダ!」

 

その場で嘔吐するパチュリー。その中には黒っぽい蜘蛛のような小さな生物が混じっており、空中でじたばたしながら飛んでいく。シロナはそれを見逃さず、後ろへ下がったスカーに代わって前に出ると、その小さな蜘蛛に対して拳の一撃を叩きこんだ。

 

「ウラッ!」

 

「ピギ──ッ!!」

 

蜘蛛の体が砕け、体液が噴き出す。そして地面にポトリと落ちると、その場でピクピクと痙攣し始める。

それと同時に体内からヒダル丸が追い出されたパチュリーはその場に倒れ込んだ。シロナから安堵のため息が漏れる。

 

「ありがとうスカー…」

 

振り返りながらそうお礼を言うシロナだが、既にスカーの姿は何処にも無かった。不思議に思うシロナだが、まだ何かが動く気配に気が付き、周囲をよく見て絶句した。

 

「そんな…!」

 

先ほど糸を切って操りから解放されたはずの小悪魔や妖精たちが再び立ち上がって動き始めている。たった今解放されたばかりのパチュリーも同様だった。

シロナは苦虫を噛み潰したような表情をした。まだ死に切っていないヒダル神はもう一度身体から糸を伸ばし、一度憑りついた彼女らを再び操ろうとしていたのだ。

 

「くっ…なんてやつなの…!」

 

小さな蜘蛛の姿のヒダル神は今度こそ殺してやるとでも言いたげに不吉なオーラを発しながら勝ち誇った様子でこちらを見上げていた。さすがに今度ばかりはヤバいと思ったシロナも狼狽える。

 

「ただいま、パチュリー!お土産を持って来たわよ!」

 

プチッ

 

「あ」

 

しかし、その時だった。とつぜん図書室の入り口のドアを開けて入ってきたレミリアが速足で歩いてきた瞬間、その靴の踵でヒダル丸をプチッと踏みつぶしてしまったのだ。

 

「え?え?私今、何か踏んだ!?」

 

レミリアは慌てて自分の靴の裏を除き、へばりついていた虫の死骸を剥がした。

最期は呆気なかった。ヒダル丸が息絶えると、操られていた妖精メイドや小悪魔、そしてパチュリーが解放されて自我を取り戻し、起き上がり始める。

 

「何かあったのですか?」

 

数秒遅れてやって来た咲夜がキョトンとして様子でそう言った。シロナは説明しようとするが、一瞬の出来事に呆気に取られていて言葉が出て来ず、思わず

 

「いや、大したことは無かったです…」

 

と呟くしかなかった。

 

「あれ?私、確かトイレに行こうとしてたんじゃなかったかしら?そ、そうだわ…な、何かお腹がものすごく痛いわ…!」

 

ヒダル丸に操られてお菓子を紙ごと食べたせいで腹痛に見舞われたパチュリーが再びトイレに向かった時、咲夜は蜘蛛の死骸をティッシュにくるんでゴミ箱に捨てた。

 

 

「ふん、他の奴に殺されてたまるかヨ…シロナ、お前を殺すのはこのワタシなんだかラ…これからもお前を監視し続けるヨ」

 

天井に届くほど高い本棚の上に寝そべるスカーは、下にいるシロナを見ながらそう呟くのだった。




今回登場したヒダル丸、元ネタの妖怪は「ヒダル神」といって人に憑りついて腹を空かせる妖怪です。早く何か食べないと飢餓感で死んでしまうらしいです。
パチュリーが紅茶とお菓子を喰ったシーンで「なんで?」と思った方、そういうわけです。
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