「魔法の森の調査…?」
わざわざ魔理沙の家にいたシロナを訪ねてきた少女は、博麗の巫女である彼女に仕事の依頼を出してきた。その内容とは、この間魔法の森の奥へ行った仲間が2か月たっても戻って来ないので、森の中へ入って調べてほしいという事だった。
「そうです」
その少女は”グリーンオパール”という名前の妖精だった。シロナよりも一回りも小さい背丈と体格に白いワンピースと青いベストを纏い、髪は明るい黄緑色、背中には2枚の半透明な翼のようなものがくっついている。
「実は、私の友達の妖精が5人ほど、魔法の森へ遊びに行ったきり帰って来ないんです。なので私も一緒に同行しますので捜索をお願いしたく…」
「そういうことだったらもちろんいいよ、私に任せて!」
その話を横で聞いていた魔理沙は、オパールと話しているシロナに横から口を挟む。
「魔法の森は気を付けろよ、今この家がある辺りまでは比較的普通の人間でも立ち入っても危険は少ないが、奥へ行くにつれて危険が多くなる。特にキノコの類が群生している場所には十分に気を付けろよ、胞子に触れるだけで幻覚作用を引き起こすものが多いからな」
「大丈夫、わかってるって!キノコが群生してる場所は避けて通るようにするからさ、魔理沙は心配しないで待っててよ」
「それに、今はあそこにどこからやって来たのか知らないが、恐ろしいドラゴンが住み着いてるって噂だぞ」
シロナとオパールの二人は早速家を出て魔法の森の奥へ向かって出発した。その様子を見送った魔理沙は心配そうなため息をつくと、窓から身を乗り出して屋根の上の方を向いた。
「おーい、そこにいるんだろ?スカー」
すると、まるで最初からそこに居たかのように突然スカーが姿を現し、ゆっくりと浮かびながら降りてきた。
「なんでぇ、気付いてたのかヨ…」
「どうせ今回もシロナに内緒でついていくんだろ?」
「当たり前だヨ…他の奴に殺されちゃ、ワタシの楽しみが無くなっちまうからナ…」
「ふふふっ、まあもしもの時は頼むぞ」
「何を馬鹿なコト言ってんだヨ、シロナが死体で帰って来ても知らないからな」
魔法の森の奥地へと向かう獣道を通っているシロナとオパール。一応、依頼主であり多少は森の奥地についても経験のあるオパールが先導し、慎重に進んで行く。頭上から、木々の緑の隙間を縫った日の光が地面に金色の模様を描いている。湿った土と腐食した葉の匂いが鼻を突いた。
しばらく進むと、オパールは突然速足になった。シロナもそれに追いつこうとついていくが、どうも様子がおかしい。
「ちょ、ちょっと…オパールちゃんどうしたの?」
オパールは何も言わずに振り向くと、笑顔で道の向こう側を指差した。するとシロナの耳にも、水の流れる音が聞こえてきた。近くに小川がある。
ふたりはひらけた場所に出た。そこには今来た道と突き当たるように小川が流れていて、歩いてきた道もその小川に沿って続いている。
「なんかいい匂いがしない?」
とシロナが言うと、オパールはくんくんと匂いを嗅ぐ仕草を見せ、もっと小川の下流の方を指さした。ふたりはさらに奥へと道を歩いていくと、周りにシダ植物が多くなり、その向こう側にはまるで絵本の世界に出てくるような美しい泉が現れていた。
「わぁ…すごい…」
オパールも両手を合わせてその光景に声を漏らした。
「オパールちゃん、ちょっとここで休憩しよっか?」
「はい!」
泉の水はとても澄んでいて綺麗だった。飲んでみると、これまた余計な味はせず、キンキンに冷えていて美味かった。
シロナはほとりに座り込むと、ふと下を見た。自分が座った場所は白く丸い石が綺麗に並べられていて、汚れ一つない。だがその綺麗さが逆にシロナの心に暗い違和感を与えた。水辺の石にしては大きさや形が揃い過ぎているような気もするし、まるで誰かがここへ集めてきて並べたように規則正しい。でも、一体誰が何の為に?
「あ!」
オパールの声にシロナは反射的に身構えた。オパールは頭上を指差している。シロナも上を見ると、そこにはまさにおとぎ話のような光景が広がっていた。
泉の奥から伸びる木の枝がこちらにまで広がって来ていて、そこから数え切れないほどのピンク色の桃のような果実が垂れさがっていたのだ。
「待って、何があるか…」
シロナの咄嗟の注意も聞かずに、オパールは果物を一つ手に取り、思いっきりかじりついた。甘い汁が水面にしたたり落ちて波紋が広がり、甘い香りが漂い始める。
「う!何これ、苦い…」
最初は口の中に甘さが広がったオパールだが、その後にやってきた何とも形容しがたい苦さと渋さにそれを上書きされてしまった。
「なるほどね…」
それを見たシロナは理解した。オパールと同じように実をもぎ取ると、彼女とは違ってしっかりと綺麗に皮をむく。そして、筋の見える金色の果肉にかじりつく。
オパールもなるほどと思い、シロナに倣って皮をむいてからその部分を食べる。そうするとさっきのような苦みや渋みも全く感じられず、桃のような触感だがそれよりもうんと甘い味が口いっぱいに広がった。
「おいしいね」
「うん、とってもおいしいわ!」
ふたりは降ってわいたような幸運を味わった。桃のような実の皮と種が山のように積もっていく。
…それからかなりの時間が過ぎた。気がつけばもう太陽が西の空へ傾いている。
シロナは朝から昼まで歩いてきた足を休めようと、半分水に浸かりながら浅い水面にしゃがみ込んだ。シロナはうとうとと目を閉じ、魔理沙や仲間の顔を思い浮かべた。
(森の中にこんな素敵な場所があったなんて…ちゃんとした道を作ってみんなが来られるようにしたらどうだろう…それか、この種を持ち帰って里の畑でも栽培できるかどうかやってみるのもいいかもしれない…)
その時、シロナの頬に何か冷たいものが当たった。だが、何かがおかしい…。そうだ、自分は座っていたはずなのに、どうして水面に寝そべっているんだ?
だが、シロナを満たしている得も言えぬ幸福感は、それすら取り合う気力を奪っていた。
(背中に当たる丸い石が気持ちいい…。きっとこれは、誰かが置いたに違いない。ここへ訪れた者がゆっくりと休めるように、誰かが気をきかせて置いてくれたんだ。そう、誰かが…)
そう思いながら横を見ると、シロナと同じようにオパールも水面で寝そべっていた。目を閉じ、静かな寝息を立てて眠っている。それを見たシロナは安心し、自分もひと眠りしようかと目を閉じた。
…それから、数分ほど目を閉じていただろうか。丁度眠りに堕ちようかという頃、シロナの心に暗い影が射したような気がして、目を開けた。
「わっ!!」
その時、シロナは声を出してしまった。何故なら、泉の岸の辺りに立つ生き物がじっとこちらを見ていたからだ。それは大きな鷺のような鳥であった。
シロナは慌てて声を殺し、気付いていないふりをする。その鳥は全長が3メートル以上もあるように見え、白い体毛とオレンジ色をしたクチバシと足を持っていた。特にクチバシは下に向かってかぎ状に湾曲していて、先端は剣のように鋭い。青い無機質な目でシロナを見つめながら、足をゆっくり慎重に動かして音もたてずに歩いてくる。
(そういえば、オパールちゃんがいない…?)
ふと気付いたが、横で眠っていたオパールの姿がどこにも見えない。まさか、既にこの鳥の化け物に…?
そう思っている間にも、鳥はシロナに歩み寄る。するどいクチバシの先を向け、今にもその胸を貫こうと首を構えている。
「くっ!」
シロナは重い体を動かして必死で水底を探り、敷いてあった丸い石を持ち上げた。ボコンと音が鳴り、引き上げると力いっぱいそれを鳥に向かって投げつけた。
ゴン
「…?」
それは鳥の肩のあたりに当たるが、鳥は動きを止めて首をかしげるだけで特にダメージは受けていない。
鳥は目をまんまるにして、まるでシロナの事が信じられないというようなそぶりを見せた。
(よし、もう一個投げてそのうちに逃げよう…)
シロナは再び水底に手を突っ込み、石を引き抜いた。しかしその時、その石を見てギョッとした。
それは丸い石などではなく、人間の頭蓋骨だった。笑ったような顎に泥が詰まっている。この泉の底にきれいに並べてあった石は全て骨だったのだ。
そこでシロナは理解した。この泉はこの鳥の狩場なのだ。綺麗な水と甘い木の実に誘われてやってきた人間や他の動物を食べているのだ。鳥は獲物が休んでいるところに音もなく近づいてきて、そのくちばしでトドメをさす。あの鳥が一羽しかいないのか、群れがいるのかはわからないが、とにかく鳥は獲物を食べる。そしてその残された骨は長い年月をかけて綺麗に洗われ、また鳥が暇つぶしに並べていく。
(…って、そんなことがわかったからなんだっていうのよ!今は逃げなくちゃ…)
その時だった。近くから物凄い音と共に突風が吹き、あたりが突然暗くなった。空を見上げた鳥は金切り声で鳴き、慌てた様子で急いで茂みの中へ戻っていく。シロナも腕で顔を守りながら、何事かと思って上を見ると、そこには驚くべき光景があった。
すぐ頭上で、翼を持つ巨大な物体がその場で飛びながら止まっていた。
「まさか、ドラゴン…!?」
それは、大きなドラゴンだった。上から射す日の光の所為でよく見えないが、それは確かにドラゴンに間違いない。パチュリーの図書館で見た本に書いてあった、西洋という場所に伝わるような風貌のドラゴン…。
(これが魔理沙が言っていた恐ろしいドラゴン…!?)
ドラゴンは更に羽ばたくと空に高く舞い上がり、豪風を残して南の方角へと去っていく。その時、空から降ってきた何かがシロナに顔に落ちた。
「こ、これは…!?」
それは、ずたずたに引き裂かれ、血の付いたグリーンオパールの上着であった…。
【現在公開可能な情報】
シロナが霊夢とカカロットの形見である道着と巫女服を着るのは、何かの試験や大きな異変の解決に赴くときのみである。いわゆる勝負服。
普段は紫から貰ったオリジナルの巫女服を着ている。