もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第188話 「物念世界 其の弐」

博麗神社の縁日で、魔理沙に日本人形を買ってもらったシロナ。夜中に手入れをしていると、謎の光が発生しシロナはスカーと共に日本人形たちが暮らす世界へと連れて来られてしまう。

人形がシロナをここへ連れてきた理由は、3階の部屋に幽閉されている危険な人形を退治してもらうためだった。

 

「でね…実はここから先が、私がシロナちゃんをここへ連れてきた理由なんだけど…あの危険な人形を退治してほしいの」

 

「うん、いいよ。何とかしてみる」

 

シロナはケロッとした様子で快く承諾した。人形は頼みをあっさり聞いてもらえたため少々驚いていた。

 

「ほんとに?嬉しい…」

 

シロナと人形はさっそく階段を登り、3階へと向かった。急な階段を上り終えると、そこは1階と2階のような広間があるのではなく、ただの一本の廊下があった。右側には鎖で封鎖された襖があり、奥にも何やら部屋があるようだが、その前の床が大きく崩れて穴があいており先には進めない。

 

「ジャンプすればいけるかな…」

 

「そっちにはまだ行っちゃダメ。右の部屋に危険な人形がいるわ」

 

鎖で固く閉ざされた襖だが、内側から開けられたような小さな穴があり、そこから中が見えそうだ。シロナはそこへ目を当て、中を覗き込んだ。

すると、部屋の内側から、何者かがシロナと同じく穴からこちら側を覗き込んでいた。真っ赤に充血した眼がシロナを見つめ、笑ったように釣りあがった。

 

「うわっ!」

 

「シロナちゃん、危ない!」

 

その瞬間、襖が内側から破られ、鎖が千切れてはじける。そして部屋の中からは人間と同じくらいの大きさもある日本人形が飛び出してきた。その人形の目は真っ赤で、耳元まで裂けた口を釣り上げて笑っている。

人形はシロナにゆっくりと歩み寄り、両腕を上げながら飛びかかった。

 

「ギシャアアアア!!」

 

だが、シロナはその動きを見切ったように、腰を低くし、両足を開いて構える。そして向かってくる人形に対し、渾身の拳の連打を浴びせた。

 

「ウラウラウラウラウラウラァ!!」

 

バキッ…

 

攻撃を受けた人形は後ろへ転び、その拍子に拳によってひび割れた頭部がはずれ、ゴロゴロと転がる。それきり、大きな人形はピクリとも動かなくなった。

 

「あら…もうやっつけた?」

 

思ったよりも呆気なく倒れた人形を見て、シロナは構えを解いた。

 

「すごいわシロナちゃん。人形の誰もが手に負えなかったアイツを倒すなんて。きっと、この奥にいる人傀様もシロナちゃんの事気に入るわ、もしかしたら人傀様に…」

 

「その人傀様って誰なの?」

 

「この館で一番偉くて特別な人形よ。この先の部屋にいるんだけど、廊下が壊れてるせいで会いに行けないのよ。人形は小さいから。廊下を直そうにもアイツがいたからうかつにここへ来れなかったし…」

 

「でも私なら、ジャンプすれば向こう側へ行けそうね。掴まって」

 

シロナは日本人形を抱き上げると、床の穴を飛び越えて反対側に着地した。

 

「ね?」

 

「凄いわね、シロナちゃん。それじゃあ人傀様に会いましょう」

 

ふたりが部屋に入ると、目の前に超巨大な日本人形の顔が佇んでいた。いや、ここは高台のようになっていて、部屋の一番下に立っている巨大な人形と丁度顔を合わせられるようになっているのだ。

 

「すごい大きな人形…」

 

「これが人傀様よ。今は眠っているけど、私たちのような日本人形を束ねる神様のような存在」

 

「さっき襲ってきた人形もでかかったけど、あれは何?」

 

「あれは新しい人傀様になる予定だった失敗作。この人傀様も時間が残されてないから新しい人傀様が必要なの」

 

「新しい人傀様って?」

 

「私はシロナちゃんがいいなァ」

 

「えっ?」

 

人形から放たれた言葉に、シロナは驚くと同時に背筋がスーッと冷たくなるのを感じた。

 

「縁日で見た時から決めてたの、この子ならいけるって。厄介者のアイツを退治したシロナちゃんをみんな認めてくれるよ」

 

「…最初からそれが目的で私をここに連れてきたのね」

 

「ごめんなさい。でもこれも、私たちが唯一自由に暮らせるこの世界のためなの」

 

「でも、嫌だよ…私は人形になんてならないよ」

 

「どうして?」

 

日本人形は気が付くとシロナのすぐ足元まで来ており、シロナの服の裾をまるで人形とは思えない万力のような力で掴んで離さない。

 

「はなしてっ!!」

 

シロナは服が破けるのも構わず強引に日本人形を引き離すと、慌てて部屋を飛び出した。

 

「もう、一体何なのここは…!」

 

そう言いながら廊下の穴を飛び越え、このまま階段を降りて逃げようとする。だがその時、何者かがシロナの足を掴んだ。シロナはバランスを崩してこの場で転んでしまう。

 

「ひっ!」

 

先ほど頭が外れて動かなくなったはずの人形の胴体だけが動き、シロナの体にのしかかって来た。そしてシロナの首を掴み、ギリギリと締め上げる。

 

「こ…この…ッ!」

 

しかし、シロナは思いっきり人形の胴体を蹴り飛ばした。胴体は廊下の穴の中へ落ちていき、何かが砕ける音を残してこの場から消えた。

シロナは再び屋敷から出るために走り出す。

 

 

 

その頃、ある一室に閉じ込められてしまったスカーと、その時には既に捕まっていた壊れかけの人形妖怪メディスン。スカーは余裕あり気にくつろいでいたが、その時突然戸が開け放たれた。

 

「さぁ来なさい。ようやく厄介者が消えて人傀様に会えるようになったわ」

 

「人傀様もアイツの所為でしばらく食事がとれていないからさぞお腹を空かせていることでしょうね」

 

入って来たのは、さっきスカーをここへ連れてきた二人組の日本人形だった。ふたりは抵抗しないスカーを拘束し、動けないメディスンを担ぐと人傀様がいるという部屋まで連れていく。

 

「図体だけデカくて、さっさと歩きなさいよ」

 

ひとりの人形が、ぽけーっと周囲を見物しながら歩くスカーの背中を蹴った。だが、するとスカーは突然怒った顔で振り返り、その人形を左手で掴み上げた。

 

「図に乗るんじゃねぇヨ、チビ…ワタシはお前らが怖いから従ってんじゃねぇんだぜ、ただオマエらが言う人傀様とやらに一発食らわせたいかラ言う事聞いてんダ…オマエなんて今すぐにでも木っ端に変えられるって事を忘れんなヨ」

 

そう言い放つと、スカーは手を放し再び歩き出した。解放された人形は変形した胴体を気にしながら立ち上がり、もう二度とスカーを煽ることはしなかった。

やがて彼女らは一度屋敷の外に出て、裏側を通って人傀様の部屋へと通された。

 

「ほー、これは随分とデカいナ…」

 

スカーは目の前で圧倒的な存在感を放つ、高さ10メートルもあろうかという巨大な人形を見上げた。真上には3階の廊下から来れる高台が見える。そして、床には一面にバラバラに千切られて破壊された人形の頭や手などの破片が転がっている。

 

「人傀様は人形に宿る魂を食べて生き長らえるのよ…貴方たち2体は人傀様にとって格好の食べ物でしょうね」

 

そう言うと、二体の人形は部屋から出ていく。そこにはスカーとメディスン、そして人傀様だけが残された。

今まで目を閉じたまま全く動かなかった人傀様は突然目を覚まし、顔をスカーたちの方へ向けた。そしてバカッと口を開けると、そこから猛烈な勢いでスカーたちを吸い込もうとする。

 

「うお、なんだこりゃ、吸い込まれる…!」

 

周囲の人形の破片が宙を舞って人傀様の口に吸い込まれる。スカーは左手に持つ左腕を床に突き刺し、何とか踏ん張っているが手足の自由が利かないメディスンは早速浮かび上がっていく。

 

「うわああああ!」

 

だが、スカーは刺した左腕から手を放し、自ら宙へ舞い上がると、吸い込まれるメディスンを抱えて止めた。

 

「本当につまらねぇ…。なァ、メディスン…ここからはワタシに任せておきナ」

 

スカーはメディスンを抱きかかえたまま人傀様に吸い込まれ、その口の中に入り込んでしまう。人傀様は口を閉じるが、その数秒後、モゴモゴと口を動かし、直後に口内から稲妻のような電気を吐き出した。

 

「とんだ期待はずれだヨ。オマエも、この屋敷も人形共も…全部な」

 

スカーはメディスンと共に人傀様の体内から脱出し、床に着地する。

人傀様は全身からバチバチと電気を流し、プスプスと黒い煙を吐きながらその場で崩れ落ち、ズズズ…と大きな音を立てながら壁に寄りかかるようにして動かなくなった。

 

「す、すごいのね…」

 

メディスンはスカーに対してそう呟いた。

 

「ふん、ワタシを凄いと思うカ?…だがな、ずっと前から感じるんだ…ワタシのこの体には、何か大事な部品が一個だけ足りないような気がするんダ。それが何なのか分かった時、ワタシは何かに成れるような気がしてヨ…」

 

スカーは自分の胸をぎゅっと掴んだ。

 

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