もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第189話 「物念世界 其の参」

一方、屋敷から脱出するために走っているシロナ。どこか適当な部屋を見つけて、そこの窓から外へ出ようと考えていた。2階に降り、廊下を歩いている普通の日本人形たちを無視し、窓のある部屋を探す。

 

ドカァン!

 

「え!?」

 

しかし、その時…何か大きくて丸いものが突然転がってきて壁に激突し、シロナの行く手を塞いだ。それはこちらに向き直り、狂気を含んだ笑い顔をシロナへ向けた。

それは、あの危険な日本人形の外された頭部だった。あの人形は胴体が切り離されて破壊されても頭だけを巨大化させてここまで転がってやって来たのだ。床を這う長い黒髪が墨汁の染みのように周囲に広がっている。

 

「まだ動けるなんて…」

 

「何事?」

 

「どうかしたのか?」

 

周りの部屋から何も知らない日本人形たちが大きな音がしたので様子を見に廊下に出てくる。それを見た人形の頭部はそちらへ真っ赤な目をギロリと向けると、牙だらけの大口を開けて襲い掛かった。既にその口の中にはバラバラになった人形たちの残骸が詰まっていた。ここまでくる道中で既に他の人形を何体も食べ砕いてきていたのだ。

この邪悪な人形は、元は次の人傀様になる予定であった。そして人傀様は他の人形を魂ごと喰らう事で存在し続ける…その性質が中途半端に現れているのだ。

 

「きゃああああ!」

 

悲鳴を上げる人形。

 

ガキン

 

だが、シロナがとっさに頭部と日本人形の間に入り、攻撃をはじき返した。頭部は後ろへ後ずさり、再びシロナを睨みつける。

 

「人傀様とやらも、それに従うあなたたちも嫌いなのに…私の目の前で誰かがやられるとこは見たくないのよ!」

 

「キャケケケケケケ!!」

 

頭部は耳を裂くような金切り声で笑うと、なんと下部から細長い紫色の触手のような脚を無数に生やし、立ち上がった。それと同時に、シロナが味わった事のないような並々ならぬ邪気を放ち始める。そして、生やした足をムカデのように素早く操ってシロナに突撃する。

 

「なんの!」

 

突進を受け止めると、それを再びはじき返す。頭部はシロナから距離を取りつつも、その触手のような脚を岩のように硬化させながら伸ばし、槍のようにシロナを貫かんと差し向けた。だがシロナも負けじとパンチの連打でその触手を砕いていく。

 

「シロナちゃん…!」

 

と、そこでシロナを追いかけてきたあの茶髪の日本人形がこの場にやって来た。シロナと巨大な頭部が戦っている様子を呆然と眺めている。

 

「キャキャキャキャ!!」

 

頭部は笑いながらシロナに対して触手の攻撃を放ち続ける。武器を持たないままこの世界へ飛ばされてしまったシロナは素手によるパンチでそれを防ぎ続ける。だが、一瞬のリズムが崩れた隙をついて、尖った触手の一撃がシロナの足に突き刺さった。

 

「いたっ…!」

 

そのままシロナをグイッと引き寄せ、地面に叩きつける。そして倒れたシロナにのしかかると、長い黒髪を操ってその細い首に巻きつけ、強い力で締め上げる。

 

「ぐ…かは…!」

 

首に血が滲み、息が出来なくなる。だが、シロナはやっとのことでかすれた声を絞り出し、叫んだ。

 

「た、助けて…スカー!!」

 

 

 

 

ピク…

 

「フ…やっと呼びやがったか」

 

その時、スカーの聴覚の機能は敏感にシロナの声を察知する。それを認識したスカーはニヤリと笑うと、メディスンを背負って全身に雷を纏う。

そしてその威力を利用して一気に跳躍すると、ロケットか何かかと見まがうほどのスピードで次々と壁をぶち破り、シロナの元へとたどり着く。

 

「あーあ、退屈だっタ…」

 

そして手に持った左腕を、シロナを襲っている巨大な頭部に思い切り投げ飛ばした。腕のするどい指先はシロナの首を絞めていた髪の毛を切断し、頭部の頬に突き刺さった。

解放されたシロナが急いでその場から離れた瞬間、刺さった腕から流れる電撃が頭部を襲った。

 

「ぎえええ~~~~!!」

 

人形は苦しみの叫び声を上げながら電気に焼かれる。

 

「スカー、来てくれたんだね!」

 

「ああ、だが勘違いするなよナ、お前がこんなヤツに殺されたんじゃつまらないからってだけの理由だヨ!」

 

しかし、人形の頭部は全身から邪気の波動を放ち、電気を強引に消し去る。全体が黒く焼け焦げているが、その目はさらに深い憎悪を込めており、悪鬼のような表情でシロナとスカーに襲い掛かる。

スカーは背負っていたメディスンを投げ捨てるように安全な場所へ置くと、迫る頭部に向かって額から電撃を放つ。

 

「おいシロナ、こいつは強いゼ…気をぬくなヨ!」

 

「わかってる!」

 

電撃を喰らいながらも触手と髪の毛を駆使して攻撃を仕掛け、ふたりはそれに対抗して連撃を繰り出す。スカーは胴体から現れた歯車を剥き出し、それを高速回転させて迎え撃つ。

戦いを見ていた茶髪の日本人形は呆気に取られていた。シロナもスカーも、単独で戦っていれば絶対にあの邪悪な人形には敵わないはずだ。しかし…

 

(あのシロナという子供…そして、スカーという謎の人形!)

 

頭部の触手がスカーに巻き付くが、シロナの放った蹴りがそれをまとめて切断する。触手を全て斬られた人形は地面を転がり、髪の毛でバランスを保つ。

 

「余計な事するなヨ!」

 

「私には大ピンチに見えたけど?」

 

茶髪の人形は悪態をつきながらも噛み合うシロナとスカーのコンビネーションを見て思う。

 

(パートナー…守るべきもの…強大な敵!これらすべてが揃った時、あのふたりは…)

 

「うおおおおおお!!」

 

その時、シロナとスカーが同時に放った攻撃が、巨大な頭部の顔面のど真ん中を破壊する。頭部は真っ赤な目を見開きながら絶叫し、真っ二つに割れてしまうと、それきり動かなくなった。その内部は空洞であったが、そこに詰まっていた邪気が周囲に流れ出し、やがて薄くなって消える。

 

「すごいわ…」

 

日本人形は見事敵を倒した二人を見て、素直にそう呟いた。

 

「スカー…あの子供、シロナって言うの?」

 

メディスンは、左腕を回収したスカーにそう尋ねた。

 

「ああ、いけ好かないガキだがナ…」

 

「強いのね…それに、どこかで感じた覚えのある雰囲気…」

 

「ワタシも詳しくは知らんがヨ、あいつの親は博麗の巫女とかっていうヤツだったらしいヨ」

 

「博麗の巫女…なるほどね、道理で…」

 

何かに納得したようにシロナの後ろ姿を見つめるメディスン。全てが終わったかに見えた…

 

「ゲゲ、グゲゲゲゲゲ…」

 

が、その時。破壊されたはずの邪悪な人形の頭部は尚も表情を変えて笑い続けていた。

 

「アイツ…まだ生きてやがるのかヨ…!」

 

スカーがトドメを刺そうと構えるが、横から茶髪の日本人形が割って入る。

 

「まずいわ、アイツは自爆するつもりなのよ。ここで攻撃したら、すぐにでも爆発してしまうわ」

 

「何ですって…それは本当?人形さん…」

 

シロナがそう尋ねると、日本人形は頷いた。

 

「もうダメよ、間に合わないわ。みんな、コイツの自爆に巻き込まれて死ぬ。そしてコイツのパワーだったら、この人形の世界ごと消えてしまう」

 

日本人形は全てを諦めた顔で目を瞑りながら言った。今まで自分たち日本人形やこの屋敷を支えてきた人傀様の命も尽きる。頼みの綱であったシロナにも、次の人傀様になるお願いを断られてしまった。人間に見捨てられた哀れな人形たちが唯一、楽園として暮らせるこの世界も終わる…。

 

「人形さん、私は人傀様になるっていうお願いは聞けないけれど、もちろん力にはなりたい。そこでこうしましょう…私たちがここにいる人形たちをみんな助ける。そうしたら、私たちを幻想郷へ帰して?」

 

「…そんな事…できるの…?」

 

「もちろん!ねぇスカー?」

 

 

 

 

「クソッタレェェェ!なんでワタシがこんなことしなけりゃいけないんだヨ~~~!!」

 

スカーは屋敷中を電磁力による反発を利用したスピードで駆けまわり、逃げ遅れた人形たちを回収してまわっていた。人形は無機質ゆえに気配を感じ取ることは難しいが、同じ日本人形である茶髪の彼女がいれば、位置の特定は容易い。

 

「この子で最後よ」

 

「よし、オッケー!」

 

スカーは最後の一体を回収してわきに抱えると、今度は全速力で窓へ向かっていく。しかし、爆発までの時間はすでに10秒を切っていた。

 

「間に合エ~~~!!」

 

残る5秒、スカーは窓を破って飛び出し、屋敷の前を流れる川を飛び越え、外で待機していたシロナやメディスン、自力で避難した多数の人形たちの目の前に着地した。

 

「待って、中でまだ動いてる人形がいる…!」

 

「ああ!?もう間に合わないヨ!」

 

「これは…まさか…」

 

 

一方、屋敷の中で自爆寸前の邪悪な人形の頭部は、ゆっくりと近づいてくる巨大な影を見つめ、最後の抵抗として金切り声を上げていた。目の前の壁が崩れ、その向こうには巨大な人形の頭部が聳えていた。

人傀様は自力でここまで移動してきていた。そして、もはや身動きの取れない邪悪な人形の頭部を手で掴み、それを口に放り込むと、呑み込んで体内へ押し込む。

その瞬間、タイムリミットは終了した。

 

 

ドォン!!

 

「うわあっ!」

 

外に居たシロナや他の人形たちが、爆発の衝撃で転んでしまう。地面が揺れ、屋敷が内側から崩れていく。…しかし、それだけだった。爆発の炎も全く上がらず、その衝撃もすぐに止み、屋敷も半壊したのみだった。

 

「何があったの…?」

 

「人傀様が…助けてくれたのよ」

 

それは、何代も代替わりしながら神と崇められ、ただ部屋に佇むだけであった人傀様が、最後に人形たちを守ろうとしたのか、それとも人形の魂を喰らう本能が邪悪な人形に吸い寄せられたのか…それは定かではない…。

 

 

 

「ね、人形さん…もう人間をこの世界に攫うのはやめて、自分たちでもっとよく暮らしていこうよ」

 

「人間は信用できない。すぐに私たちを捨てるから」

 

その言葉を聞いて、何か頭に引っかかる事でもあるのか、スカーが口を開いた。

 

「おい日本人形ヨ…人間もお前らモ、対して変わらないと思うがナ」

 

「何ですって?」

 

「人間は食べ物を燃料として動く機械と同じなのサ。つまり、人間も人形も道具みたいなものだ…いさかいがありゃ油刺したり、へこんだら情けをかけたリ…。ワタシだって、しばらく人間どもを観察してきてるガ、見る目は変わって来た…と思う。だからお前らもヨ、もう少し人間をよく見てみたらどうヨ?」

 

「…へぇ、スカーったら良い事言うじゃーん」

 

シロナがそう言ってからかう。

 

「う、うるせエ!上手く言えねぇが、同じく人に作られた人の形をしたモンとして、言わせてもらっただけダ…」

 

「確かに、そうかもしれない。人形は作られたらそれきり…でも、人間は成長して変わっていく。人間と人形も同じだというなら、私たちだって変われるのかもしれない。でも、シロナちゃん…今回の事は…ごめんなさい」

 

日本人形がそう言ったのを最後に、シロナ、スカー、そしてメディスンの3名は無事に幻想郷へと帰還した。だが、シロナは決して忘れないだろう。道具や物という存在は、我々が思っている以上に人間や所有者の事を見ているのである、と。人に対して強い念を持った道具は、自分の世界を持つのだと。

だからこそ、綺麗に整えられた日本人形が、シロナの部屋の机の上に飾られているのだろう。

 

 

 

 

 

【現在公開可能な情報】

 

人形の屋敷の3階に捕らわれていた邪悪な人形は、シロナと同じく次の人傀様になるために日本人形によってこの世界へ連れ去られた人間の成れの果てである。

 

【挿絵表示】

 

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