もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第191話 「冥き宙にて灯火掲げん」

守矢神社に住まう神々のエネルギーを長年にわたって吸い続け成長した巨大な卵から孵化した謎の怪物・羽黒蜻蛉。しかし、生まれたばかりゆえに邪悪さを一切持たないこの生物を相手に、シロナはいまいち攻め切ることができなかった。

 

「仕方ないか…!」

 

シロナはそう言いながら、地上の羽黒蜻蛉へ向かって飛び降りながら拳を振り上げる。それを迎え撃つために再び口を開いて熱波を吐き出そうとする羽黒蜻蛉。

 

バリッ ドォン!!

 

「おぎゃあああ…!!」

 

その時、突然空から降って来た雷が羽黒蜻蛉に命中した。電撃を受けて硬直する羽黒蜻蛉。

シロナが上を見ると、そこには額から微量な電気をほとばしらせるスカーの姿があった。

 

「スカー!来てたの!?」

 

「今回はおとなしく見ててやろうと思ってたがヨ…オマエのチンタラした戦いぶりを見てたラ、だんだんイライラしてきてナ」

 

そのままスカーは羽黒蜻蛉へ接近し、左手に持った左腕を武器にして強烈な殴打を羽黒蜻蛉の顔面に叩きこんだ。羽黒蜻蛉は大きくよろめき、そのまま守矢神社の本殿の壁にぶつかった。剥がれた瓦がガラガラと落ちてくる。

 

「こうやってただぶっちめりゃいいだろーガ!!」

 

スカーの放った電撃が再び命中する。羽黒蜻蛉は悲鳴を上げ、苦痛にもがき苦しんでいる。その様子を息を呑んで見ていたシロナだが、何か嫌な予感を感じ取り、スカーに向かって走っていき、ジャンプした。

 

「スカー、離れて!」

 

「うおっ!?」

 

シロナはスカーの身体に抱きつき、そのまま共に地面へ落ち、転がった。

次の瞬間、羽黒蜻蛉は完全に乾ききった4枚の翼を一気に広げた。同時に、その全身からこれまでとは比べ物にならない熱波が放たれ、周辺の木々がバサバサと揺れる。シロナとスカーは吹き飛ばされるも、鳥居に掴まることで辛うじてこの場にとどまっ

ている。

 

「何だってんダ…」

 

羽黒蜻蛉の透明だった体は黒みがかった半透明な色へと変わり、その内部で灯火のように赤く燃える心臓の輝きは増している。

恐らく、生まれたての状態から一歩完全体へと近づいたのだろう。シロナとスカーを完全なる敵とみなし、その全身から溢れる熱気を翼でこちらへ送り込んでくる。

 

「ぐ…!」

 

余りの熱を前に、スカーの動きが鈍る。が、スカーは飛び上がって宙へ避難する。

羽黒蜻蛉はそれを見上げると翼を広げ、それをはためかせる。ヴヴヴという小刻みな羽音がとどろき、空へ舞い上がった。そのままスカーへ接近し、スピードを乗せた頭突きを命中させた。

 

「な、なにィ!?」

 

「スカー!…来なさい、要石!」

 

シロナも要石を呼び出し、それに飛び乗ると羽黒蜻蛉へ近づいていく。そして、その胴体へぶつかり、そのまま拳の連打を叩きこむ。

 

「ウラウラウラウラウラ!」

 

しかし、羽黒蜻蛉は何ともないように身をよじり、シロナを弾き飛ばす。スカーも反撃の落雷を浴びせるが、あまり有効打には成りえていない。

 

「おぎゃああああああ!!」

 

恐らく、魔法の森の奥に棲んでいた黄金のドラゴンにも匹敵するパワーと生命力だ。そして物念世界で戦ったあの人形よりも強いだろう。

咆哮を上げる羽黒蜻蛉はホバリングをする独特な軌道で飛行し、スカーを腕で叩き落とす。スカーは神社の屋根に落下し、そのまま突き破って神社の中にぶつかる。それに気を取られたシロナが振り返ると、既に羽黒蜻蛉は頭上に迫っており、要石ごとその6本の腕に掴まれてしまった。

 

「…何か、私にできることはないかしら…!」

 

戦いを見ながら、早苗は呟いた。

 

(そうだ…私には奇跡を起こすことができる!神奈子様も諏訪子様もいない今、私の力をフルに使わないと成せないけど…それでも久々に使う分、大きな効力が期待できるはず…)

 

「く…は、離せ!」

 

そのまま空高く昇っていき、雲の上を越えはるか上空までたどり着くと、翼の稼働を止めて一気に急降下する。襲い掛かるとてつもないGに耐えながら、シロナはぐんぐん近付いてくる地面を見ていた。

このままなら、シロナは地面に激突して粉々に砕けて死んでしまうだろう。スカーも神社の屋根に埋もれたまま出てくる気配はない。

早苗は両手を合わせ、奇跡を起こすための呪文を小声で詠唱しながら力を溜め始める。なるべく早く発動し、シロナを救うために…!

 

(奇跡よ、起こって…!)

 

次の瞬間。急に羽黒蜻蛉から発せられていた熱気が治まった。地面にぶつかる寸前、羽黒蜻蛉はその場で急停止した。すさまじい突風が辺りを襲う。

 

「そんな…」

 

しかし、早苗は言葉を失った。確かに奇跡は起きた。しかし、その内容は…羽黒蜻蛉を時間を待たずに完全体へとさせてしまっただけだった。

完全体と化した羽黒蜻蛉は熱気の放出をしなくなり、半透明だった体は漆黒に硬化し、透けていた燃えるような心臓も見えなくなっている。音も立てずに静かに羽ばたきながら、羽黒蜻蛉は何故急に完全体への進化が完了したのか困惑していた。

奇跡とは、本来は偶然の頂点である。その結果が良いか悪いかに関わらないのだ。

 

「どうなるの…?」

 

羽黒蜻蛉は空を見上げ、シロナを掴んだまま再び急上昇した。そしてまた雲の上までたどり着くと、その場で急にシロナを手放した。羽黒蜻蛉自身はそのままさらに宙へと昇っていく。

 

「うわあああああああああ!!」

 

要石は落ちていくシロナの先へ回り、その身体を受け止めた。

 

「あ、ありがとう…」

 

シロナは要石に対して礼を言うと、空の果てに消えていく羽黒蜻蛉を見つめる。

真っ暗な宇宙空間へ向けて大気圏を脱出していくその様は、暗闇に灯るひとつの火のようだった。

 

「なーんだ、あの蜻蛉は…ただ空のその先へ行きたかっただけなんだ。生まれて、体が渇いたら宇宙へ飛んでいくのね」

 

自分たちの戦いは不必要なものであったと胸をなでおろす。しかし、不完全体の羽黒蜻蛉が放つ熱気が、もしも人里などで発生したと思うと安心できたものではない。

 

 

地上へ降りたシロナは早苗に羽黒蜻蛉が宇宙へ飛び立っていったことを説明した。

 

「そうだったんですね…神々のエネルギーを吸収した卵から孵ったあの蜻蛉が一体何だったのか、それは今となってはわかりませんが…」

 

早苗は改めてシロナに向き直る。

 

「でも、少なくとも神奈子様は完全に消えてしまったわけではない事がわかりました。あなたが運んできてくれた神奈子様の力は、再びこの神社に宿ります。その…ありがとうございました。あなたがあの分社をいつも気にかけていてくれたから神奈子様はこれまで生きていられたそうです」

 

「ええ!別にいいよ!誰も何も説明してくれなかったけど、なんか邪険にしちゃいけないなって思ってたんだ」

 

幻想郷も変わりつつある。それはこの世に存在している以上仕方のない事だ。河の水は常に流れ、同じところに留まらない。羽黒蜻蛉のようにいずれは何者も何処かへと旅立っていく運命なのかもしれない。

 

 

「おーイ…ワタシを忘れるな…ヨ…」

 

 

 

 

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