もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第192話 「涙、凍りつき」

私は誰──?

この幻想郷中の雪の精を集めて誕生した雪人形…。その悲しみが大寒波と吹雪を巻き起こし、大気をも凍りつかせる雪女の眷属…。

でも、私は人間を慕ってしまった──

 

「よう、そんなところで何してんだ?風邪ひくぜ」

 

前の冬の時…戯れに人の姿をしていた私に、あの者が声をかけた時から私の中で何かが変わった。

 

 

 

 

「うう~~っ、今日はなんでこんなに寒いんだろ…」

 

朝、目が覚めたシロナは冷えた体をさすりながら自分の部屋を出て下の階へと降りていく。そこでは魔理沙が朝食を用意して待っていた。

 

「おはよう、シロナ」

 

「おはよ~…今日は寒いね」

 

魔理沙もさすがの寒さにこたえたのか、毛布を引っ張り出して暖炉にも炎をともしている。

 

「全くだな、いくら10月に入ってこれから涼しくなるとはいえ異常だ…ぜ…」

 

魔理沙がコーヒーを飲みながらふと窓の外を見ると、その向こう側に広がっていた光景に唖然とした。森の先の方角の空だけが分厚い雲に覆われ、そこから下が真っ白に染まっている。

 

「魔理沙…?」

 

シロナも魔理沙の視線を追うと、同じものを見た。

 

「なにあれ…!まさか、雪?」

 

「あれは人間の里の上空だな…流石に異常だ、様子を見に行くか」

 

 

 

シロナと魔理沙が人間の里に入った途端、とてつもない寒風と吹雪が襲った。既に里中は積雪に覆われ、地面はおろか店の看板や建物の屋根すら真っ白だった。

窓を閉め切られた民家の中では突然の寒さに何も対策していなかった人間たちが震えており、必死に火を焚いている。

 

「うううう、さぶっ…!真冬でもこんなに寒くならないわよ…」

 

「あったかい格好してきてよかったな…と言ってもこれじゃあ気休め程度だが…」

 

気温で言えば、-20℃ほどには達しているだろうか。髪の毛の先が凍ってきているのに気付いた。

 

「それに…この吹雪はどうやら妖怪が絡んでいるみたいだな」

 

「魔理沙、どうしてわかるの?」

 

「妖怪の匂いってのがあってな、お前もすぐに分かるようになる…」

 

オオオオオオオオオ…

 

と、魔理沙がそう言ったその時だった。どこからか吹雪の音に混ざって女性の微かな慟哭の声が聞こえてきた。シロナと魔理沙のふたりはその声がする方へ向かうと、時計台となっている建物の屋根の上に、青白く発光している女性の姿を見た。

 

「あれは…雪女か…」

 

「雪女?じゃあこの吹雪はあいつが…」

 

その女性は白い着物に白い髪で、悲しい泣き声を響かせるたびに吹雪を発生させている。

 

「ちょっと雪女さん、こんなに寒くちゃみんな困ってるわ!」

 

「待てシロナ、あれは男のことを想って泣く声だ、何かワケがありそうだな」

 

食って掛かるシロナを魔理沙が諌める。

雪女はふたりに気付くといったん泣くのをやめた。吹雪は弱まったが、それでもまだ雪は降り続く。雪女は屋根の上から地面に舞い降りる。

 

「…」

 

雪女は何か言いたげにこちらを見つめるばかりだ。だが、シロナの背後の先を見た途端、その表情を変えた。今まで冷たい無表情だった顔がポッと赤くなり、その髪が黒くなった。その途端に雪は綺麗にやみ、空が晴れる。

 

「何?どうしたの?」

 

「どうやら人間に化けたらしいな…そしてその理由は…」

 

その時、シロナは後ろからひとりの青年が歩いてきているのに気付いた。

 

「おっ、こんな異常な日に出歩いてる変人は俺だけじゃなかったみたいだな、嬢ちゃんにお姉さん」

 

青年はシロナと魔理沙にそう気さくに声をかけると、すぐそばに人間に化けた雪女が居るのに気付き、そちらへ歩み寄る。

 

「よお、まさかと思って来てみたら、今日みたいな日にもここにいたのか?ユキ…」

 

「ヒロオ…さん…」

 

青年はユキという名前の雪女に話しかけると、彼女は恥ずかしそうな顔で頷いた。

 

「わかった!雪女さんが好きな人ってこの…」

 

「おっと、それ以上はやめとけシロナ」

 

魔理沙が慌ててシロナの口をふさぐ。だがその瞬間、もう一度強烈な吹雪が発生した。だが、ユキは人間に化けているので吹雪を操ることはできない。

 

「ふふふ…でもね、雪女と人間は決して結ばれる事はできないのよ」

 

その時、ユキの背後から別の雪女が現れた。だが、ユキとは違って青っぽい洋服を着ており、その雰囲気は異なっている。

 

「お母さま…」

 

「ユキ…何度も言っているはずよ、寿命ある人間と我ら雪女は相容れることはない…絶対にね」

 

「あなたがユキさんに指示をして吹雪を出しているのね…今すぐにやめなさい!」

 

シロナは雪女にそう叫びかける。

 

「ほほほ、嫌ぁよ!だって私は人間たちを凍えさせて殺すのが目的なんですもの!」

 

「な…なんですって…?」

 

「今まで私一人では人間に仇成すことはできなかった…あの前代の博麗の巫女もいたしね…。だが今ならできる!今の巫女がまだ非力なうちなら、私が生み出したこの雪娘と私とのふたりがかりでならねぇ!」

 

そう言いながら雪女はユキの体に手を触れた。するとユキの髪は白くなり、人間への変化が解けて妖怪へ戻ってしまう。それを見たヒロオは手で吹雪から顔を守りながら、驚いた顔を浮かべた。

 

「ユキ…まさかお前、妖怪だったのかよ…!?」

 

ユキは妖怪であることを暴かれたショックからか、ヒロオと目を合わせようとしない。

 

「さぁユキ、お前もはやく吹雪かせなさい。でないと今すぐにでもお前が慕うあの男を凍え死なせてしまうよ」

 

「お母さま、それだけは…!」

 

「分かったらはやくするのよ」

 

ユキは仕方なく吹雪を発生させ、人間の里はより一層寒さに見舞われる。

 

「お前…本当にユキなのかよ…?こんなことしようとする女じゃなかっただろ…!」

 

「ヒロオさん、危ない!」

 

シロナがそう叫ぶが、雪女はにやりと笑うと腕から氷のつぶてを無数に放ち、それをヒロオに命中させて吹っ飛ばした。ヒロオは建物の壁にぶつかると、頭を打って気を失ってしまう。それを見たシロナは怒り、雪女に飛びかかる。

 

「やいやいあんた!それはあまりにもひどいわよ!娘の好きな人を殺してやろうかですって?それに人と妖怪がうまくいかないなんて、やってみなきゃわかんないでしょ──ッ!」

 

そう言いながら、シロナの蹴りが雪女の頬をかすめる。だが、今攻撃が命中しなかったのは偶然に過ぎない。シロナが今度は絶対に当てる気概で追撃を放つが、その瞬間、より強力な氷の礫がシロナを弾き飛ばした。その氷がシロナの胴体に纏わりつく。ユキが母親を守るためにシロナを攻撃したのだ。

 

「ユキさん…手を出さないで…!あなたは悪い妖怪じゃない…この雪女の言いなりになってるだけ。さもないと貴方をも退治しなくちゃならないわ…!」

 

しかし、既に顔を除く上半身と足が凍り付いてしまったシロナは身動きが取れない。

シロナを見つめるユキを押しやり、雪女がトドメを刺そうと前に出る。

 

「よくやったわユキ…。そして、まだ未熟な博麗の巫女よ…そこで貫かれて死ぬといい」

 

雪女は自分の下の地面から巨大な氷柱を出現させ、その先端をシロナへ向けて発射しようと構える。

だがその時、魔理沙がシロナと氷柱の間に割り込んだ。

 

「お前は直接人に仇なすような妖怪じゃなかったはずだが?レティ・ホワイトロックさんよ」

 

「…まさか、だいぶ見た目が変わったせいで気が付かなかったけど、霧雨魔理沙か!」

 

「ああそうさ。お前が何故そこまで人間を憎むようになったのかは知らんが、このままじゃ人が大勢凍死しちまうんでな…倒させてもらうぞ」

 

魔理沙は上着のポケットの中からミニ八卦炉を取り出し、構えた。そして、そのミニ八卦炉から大きな火炎を吹き出してレティを攻撃した。

 

「ちいい…熱くて近寄れないわ!」

 

「さぁ、観念しろ!いざとなれば周囲丸ごと燃やせる炎でお前を溶かしてやれるんだぞ!」

 

魔理沙は炎を噴き続けてレティを追い詰めるが、レティは気付いていた。確かに、若いころの魔理沙は妖怪退治屋として霊夢に迫る実力を持っていた。だがしかし、魔法の修行や研究をやめ、さらに幾らか年を経た魔理沙には魔力はもうほとんど残されていないと。さらに言えば、先ほどのセリフはハッタリであると見抜くにはそう時間はいらなかった。

 

「ふん、お前は前より衰えた…だが私は吹雪の力で強くなった!この差を前に、足掻いても無駄という事を知れ!」

 

レティは腕を振るい、氷のつぶての混ざった吹雪を魔理沙に浴びせた。それを八卦炉の炎で防ごうとするが、既に魔力は残っておらず、吹雪が直撃してしまう。

 

「うぐ…ちょっとカッコつけようと思ったが、やっぱりダメか…!」

 

魔理沙も足から始まって上半身まで凍り付いて動けなくなってしまう。

 

「あはははは!さて、いよいよあの世へ行くといいわ!」

 

レティの叫び応じて吹雪はより強まり、雪の積もった地面から槍のように鋭く巨大な氷柱が伸び、今にでもシロナと魔理沙に向かって発射されようとしている。

 

「死ね!」

 

そして次の瞬間、氷柱のミサイルがふたりを貫かんと放たれた。

 

バキィィィン…

 

「え…?」

 

が、しかし、突如としてその間に割り込んできた何者かの体に当たった氷柱は刺さることなく、逆に粉々に砕かれて消えてしまう。シロナが上を見上げると、そこには細かく舞う氷の粒に包まれたスカーの姿があった。

 

「スカー!」

 

「ふん、こんなトコで死んじゃあいけねぇヨ…何せ、お前はワタシが殺すんだからな!」

 

「ち、邪魔が入ったか…!ならばお前らはどうでもいい、こうなればユキをたぶらかすその男だけでも死なせてやる!」

 

レティは口から圧縮した吹雪の柱を吐き出した。その一撃は気を失ったままのヒロオに向けて放たれていた。向かってくる吹雪の音を聞いたヒロオは目を覚ますが、すでに間に合いそうもない。

 

「うわあっ!何だってんだよ!?」

 

「お母さま!」

 

しかし、レティとヒロオの間に割って入ったユキも同様に口から吹雪を吐き出して、レティの吹雪と鍔迫り合いを起こす。

 

「ユキ!邪魔をしないでちょうだい!!」

 

「ごめんなさい、ですがいくら母さまといえ、この人だけは…ヒロオさんだけはどうしても…!」

 

「ユキ…!」

 

両者の本気の冷気のぶつかり合いにより、里の低温化はさらに加速した。積もった雪は凍り付いて硬化し、周囲のなにもかもが氷に覆われていく。

 

「クソ、体内で水滴が凍っちまって動けなイ…!もう面倒くせェ、氷なんてイカズチで焼き焦がしてやるヨ!」

 

その冷気を受けたスカーの体内の金属部品にできた水滴が木製パーツにまで染みわたって凍り付くことにより、その身体の自由が利かなくなってしまう。そこで、スカーは額から特大の雷を放つ。

しかし、レティは間一髪で雷を躱す。だが雷は止まらずに伸びていき、最初にユキが屋根に座っていた建物に直撃した。

 

「きゃあっ!!」

 

その時、雷撃を受けた建物は一瞬で大きな炎が燃え上がった。まるで爆発のように広がる炎は周囲の雪を一瞬で蒸発させ、吹きすさぶ熱風がユキを包む。

 

「あははははは!炎と熱は貴方を溶かすわよユキ…だからさっさとそこを退いて、男を殺させなさい!!」

 

レティは先ほどよりも一層強力な吹雪を吐き出し、ヒロオを狙う。だがまたもユキはその間に入り、自分も氷のつぶてを吐き出してぶつかり合う。だがしかし、熱に弱い雪女であるユキの体が徐々に溶け始めている。

 

「いいえ、母さま…このヒロオさんは氷点下に生きる雪女である私に人間の暖かさを教えてくれました…」

 

「ふん、どうせいつかお前を見捨てて逃げる!私の男のようにね!」

 

「私はもう、この人から色々なものをもらっています。もう、何もいりません」

 

諦めたような笑顔でそう言うユキ。だが、それを見たヒロオは何かを決意した表情で走り出し、ユキを後ろから抱きしめた。ヒロオが盾になることで炎の熱気がユキを溶かすのを防いでいる。

 

「死ぬな!ユキ──ッ!!」

 

「ヒロオさん…!」

 

「せっかくお前は自分の道を自分で選んだんじゃねぇか…だが道を選ぶのがゴールじゃねぇ、当然その道を歩いていかなくちゃならねぇ!それは雪女でも人間でも関係ねぇよ!!」

 

しかし、炎に背中を浸しているヒロオの服に火がつき、その身体を焼いていく。

 

「いけない!それではヒロオさんが焼け死んでしまう!」

 

「いいさ…お前と一緒ならな…」

 

「自分で死んでいくなんて、愚かな男だこと!」

 

「だが、よ…それは…俺がユキのことを好きだから…だぜ…」

 

その言葉を聞いたユキは、感じた事のない幸せに満たされると同時に口から吹雪を吐き出すのをやめる。

 

「私を…ずっと、抱きしめていてね…」

 

「ああ、離すもんかよ…」

 

吹雪の代わりに身体の冷気と熱で溶けだした水をヒロオの背中に浴びせた。背中に燃え移っていた炎は消え、ヒロオの火傷が重症化する前に低温化処置が施される。

 

「ああ…あったかいわ…」

 

しかし、それによって全てのエネルギーと冷気を使い果たしてしまったユキは、その全身が瞬く間に解けていってしまう。

 

「ユキ────ッッ!!」

 

ヒロオの腕の中で、ユキは完全に解け出して消滅する。後には、積雪が無くなって露わになった地面の上にただの水溜まりが残されているだけであった…。

 

「ユキ…さん…」

 

炎上する建物の熱で体の自由を奪っていた氷が溶け、自由になったシロナと魔理沙がそう呟いた。

 

「ユキ…ふん、人間と妖怪が一緒になれる訳がないでしょう」

 

そう吐き捨てたレティに対し、シロナが激怒する。

 

「何ですって…!?全部あなたが悪いんでしょ、理由はなんだか知らないけど、自分の憎しみに子供を巻き込んで…!」

 

「それでも、恋しい男と一緒になりたいものよね…」

 

だが、シロナは遠い目で寂しそうにそう言ったレティを見て、何となく察した。きっと、このレティという雪女は過去に人間の男性と別れざるを得ない出来事があったのだろう。

 

「まさか、あなたも昔に…」

 

「ふ…女にはつらい過去を思い出させちゃいけないのよ。ふう…でも疲れちゃったわね…今回はおとなしく帰るとしようか。こんなに温かいんじゃ、もう敵わないからね」

 

レティはそう言い残すと、ふわりと舞い上がり、冷たい風が吹き抜いていくようにその場から姿を消した。

 

「さぁ、帰るぞシロナ」

 

それを道退けると、魔理沙はシロナの腕を掴んで歩き出す。

 

「うん…でも、可哀想だな…ユキさん、結局消えちゃった…」

 

「何を言ってるんだ?それはもういいことだろ?早くいくぞほら」

 

「え?え?どういうこと?」

 

「雪女を人間に出来る方法はひとつだけある…それは男が本当の愛情を持って抱きしめ続け、溶かしちまうことだってよ。あのヒロオという男がやったのはそれじゃねぇんかな」

 

シロナが振り返ったその時、ユキが溶けてできた水溜まりの中から、黒い髪の人間に変わることができたユキが現れていた。ユキとヒロオは愛を確かめ合うように、今度はふたりの人間同士として抱き合った。

 

「なら、もう私らはお邪魔ものってことだ」

 

 

 

 

「うう…う…うわああああ…ん…」

 

幻想郷の空を飛んで住処へと戻るレティの目からは大粒の涙が流れ、こぼれ落ちていく。それは過去に自分を裏切った人間への復讐を成し遂げられなかった悔しさ…ではないだろう。有りえるとすれば、理解者であってほしかった娘が自分の元を去ってしまった寂しさか、それとも自らの過去を思い起こし、なぜ自分は娘のように幸せになれなかったのだろうという悲しみからか…。

 

しかし、いずれにせよあのユキとヒロオは立派にやっていける。あの人里のひとかたまりの雪は、永遠に解けることはないだろう…。

 

 

 

 

 

【現在公開可能な情報】

 

ユキはレティ・ホワイトロックが雪の妖精を集めて作った雪女。雪女は熱や暑さに極端に弱いが、人間に化けることでいくらか通常の気温の中でもある程度活動できる。

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