もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第193話 「Dead!」

さて、シロナがスカーと出会い、無事に博麗の巫女になることができたのが6月の話。その後さまざまな妖怪たちと戦い、雪女と戦ったのが10月の出来事だった。

だがシロナの戦いはそれで終わりではなかった。もちろん雪女のあとにも、人に仇なす数多の妖怪との激戦を潜り抜けてきた。その結果、シロナは博麗の巫女として戦闘力的にも精神的にも大きく成長することができた。

 

「では、始めなさい」

 

「はい」

 

先日、八雲紫によって行われたシロナの”力試し”の際にも…

 

「ウラアアア!!」

 

以前はスカーの助けがあって間一髪勝つことができた蛇の式神が相手でも、難なく一撃で倒せるほどにまで強くなった。その実力は、かつてのカカロットには及ばないにも…

 

「シロナの力はカカロットと出会う前の霊夢であればとっくに超えているわね」

 

と、紫に言わしめるほどであった。

 

 

 

そして、寒い冬が明けた4月の春。人里では、冬頃から人々の間で流行しているとあるモノがあった。それはずばり薬のような物で、服用すればたちまち身体の調子が悪いところが改善されるという振れ込みだった。その評判と人気は絶大で、便秘や高血圧、風邪やその他病気にも効果があるという噂はあっという間に広がり、それを求める人間は多かった。

 

…しかし、この薬はそれほど都合の良いものではなかった。確かに、評判通りに肉体は健康になり軽い病気や疲労等であればすぐに回復した。だが、何故かこれを服用した人間は悪いところが無くなったにもかかわらず、続けて薬を求め続けたのだ。

そしてもう効果のない薬を使い続けた者は、それを服用した時の肉体の調子の良さと気分の高揚が忘れることができず、廃人のようになろうとも次の薬を欲してしまうのだ。

 

里中の人間がいわゆる中毒となり、それを求めるあまり仕事や家事にも手が回らず、経済や生活が回らなくなった。当然、これに危機感を抱く人間も現れる訳だ。

 

「お待ちしていたぞ、シロナくん…いいや、博麗の巫女さん」

 

シロナを呼びつけたのは、強面で長身の警察官、須藤黒助という男だった。

 

「須藤さん!」

 

須藤はシロナが今よりも幼かったころに、共に刑務所から逃げ出した凶悪犯罪者を追った事がある。それ以降、須藤は警察の中でもそれなりの地位へ出世し、シロナらとの付き合いも多少は続けていた。

 

「うむ…本来ならば、これは人間の間で起こった事件であり、我々のような警察や役人が始末をつけるべき仕事だ。だが今回はそうとも言い切れないのだよ」

 

「と、いうと?」

 

「騒動の原因となった薬はこういうものだ」

 

須藤はポケットから透明な小さい袋を取り出し、シロナに見せた。袋の中には半透明な粉末状の結晶のようなものが入っていた。

 

「実はな、今回の件は妖怪が絡んでいる可能性があるんだ」

 

「妖怪が…?」

 

「この薬は人から人へと取引されて広まっていったようだが、かなり初期の時点では怪しい二人組が売り歩いていたらしい。そしてな…その二人は踵を持ち上げてつま先で歩いていたようなのだ」

 

「つま先で…だとすると、それは妖獣の可能性が高いな」

 

少し後ろで町中に置いてある長椅子に腰かけた魔理沙がそう言った。

 

「低級な妖獣は姿かたちは人間そっくりに化けることはできても、踵を付けて歩くことが難しいのでそこが見分けるポイントになるんだ」

 

「そうなんだ!」

 

「その妖獣を見つけるのは、今のシロナなら難しい事じゃないはずだ。私はここでお前の仕事が終わるのを待ってるとするよ」

 

これまではシロナがまだ新人の巫女で心配が故に共に妖怪退治などをこなす事が多かったが、既にそれ相応の実力を手に入れたシロナにとって、自分は足手まといになるからという判断だった。

 

「うん!」

 

「既にこれが原因でかなりの死者が出ている。その責任を取る為にも、私も同行しよう」

 

 

シロナと須藤はものの数十分で、目撃情報と隠し切れない妖怪の匂いからその二体の妖獣が潜んでいるという場所を特定した。里には人間に友好的で人畜無害な妖怪が人間に秘密で暮らす区画が存在し、そこのひとつの空き家の中に妖獣は潜伏していた。

 

「博麗の巫女だ、お前たちに用がある!」

 

シロナはそう言いながら家の戸を蹴り倒し、中へ突入する。すると、そこでは机の前でふんぞり返るように椅子に座ったふたりの若い男女がいた。

 

「な、なんだお前!?」

 

そう言いながら立ち上がった男女は、踵を地に付けていなかった。そして、その机の上には紙の上に置かれたあの半透明な結晶の粒のようなものが山になって置かれていた。さらには現金までもが床に散乱している。

 

「どちらにせよ、見られたからには始末するしかないようね」

 

女がそう言うと、ふたりは姿を変える。動物のような一対の耳が頭から生え、目は鋭くなり口からは大きな牙が覗く。背後からは丸っこいが大きな狸の尻尾が現れた。

 

「まさか、こいつら化け狸か!?」

 

「そうみたいね…」

 

「おらァ、生きては帰さないぞ!」

 

化け狸のふたりはするどい爪を伸ばし、それを振りかざしてシロナと須藤に飛びかかる。が、シロナは両腕でふたりの攻撃を当時にガードしつつ方向を逸らし、がら空きになった顎と腹部へ素早いパンチを一撃ずつ喰らわせた。

 

「うげ…」

 

「つ、つよい…!」

 

化け狸たちは口から血を垂らしながらうずくまり、近寄ってくるシロナを見上げた。

 

「貴方たちがあの薬を売り歩いたのね?残念ながら、妖怪の仕業となれば私は貴方たち調伏せざるを得ないけど…」

 

「ひいい!わかった、本当の事を言うから大目に見てくれ!」

 

更なる問答無用の攻撃の手を構えているシロナを見たふたりは両手を上げ、もう敵意が無い事を示しながらそう言った。シロナは拳をひっこめる。

 

「本当のこと?」

 

「え、ええ…私たちは頼まれてやったのよ!」

 

「そうだぜ!もちろん、その報酬欲しさだがよ…」

 

シロナと須藤は顔を見合わせる。

 

「誰に頼まれたんだ?」

 

「それを今から言うから、今回は見逃してくれると約束してくれ」

 

「…いいだろう」

 

須藤がそう言うと、二匹の化け狸は同時に口を開く。

 

「そいつの名前は…ハウウッ!?」

 

がしかし、二匹がそう言いかけた瞬間、異変が訪れた。二匹は突然を顎を上へ向けて何もしゃべらなくなる。シロナと須藤は何か悪い予感がして後ろへ下がる。

 

パキ… パキ…

 

「ぐ…あ…!」

 

二匹の喉元に、突如として乳白色で半透明の塊が生え出し、見る見るうちに大きくなっていく。まるで鍾乳洞の中にでも生えているような結晶を彷彿とされるその物体は、言葉を失ったシロナ達の見ている前でさらに大きくなっていき、化け狸ふたりの首と顔の下半分を完全に覆い尽くしてしまう。

二匹は結晶の重さに耐えきれず倒れ込みながらも、必死にどうにか逃れようと暴れまわる。だが、巨大化した結晶の塊は、やがて内部に茶色や赤色が混ざり始める。その色の部分はどんどんと大きくなり…

 

「まずいぞシロナくん、逃げるぞ!」

 

シロナと須藤が家から出ようと走ろうとした瞬間、結晶ははじけるようにして炸裂した。粉々になった結晶の破片が飛び散り、壁や天井に突き刺さる。

シロナと須藤は咄嗟に破ったドアを盾にすることで結晶が飛んでくるのを防いでいた。ふたりが顔を出し、辺りを見渡すと、胸から上が今の炸裂の衝撃で消し飛んだ化け狸の死骸が転がっているのみだった。

何か恐ろしいものの片鱗を見てしまったような気になったふたりは、言葉を失いながらも次なる手がかりを探す段取りを決め始める。

 

「何故、どうやってあの二匹は死んだのだ…?」

 

須藤が冷や汗をかきながらそう言った。

 

「たぶん、口封じ、とか?親分の名前を出される前に始末したんじゃないかな?」

 

「確かに私もそう思うな…」

 

「それに、化け狸と言えば思い当たるふしがある…前に魔理沙が言ってたんだ、命蓮寺には狸の頭領が棲んでるって…」

 

その日の夜、シロナはひとりであの命蓮寺へと向かった。夜には妖怪が集う命蓮寺には、普通の人間である須藤では危険だからだ。

そして、表参道を抜けて寺の門をくぐると、目的の人物はまるでシロナがここに来るのが分かっていたかのように待ち構えていた。二ッ岩マミゾウだ。

 

「ほっほっほ、待っておったぞ…お若いの」

 

「…今、里で起きてる騒動に妖怪狸が絡んでいた…知っていることを全て話してください」

 

マミゾウは腰かけていた岩から立ち上がり、シロナの目の前に飛び降りる。

 

「儂からもお願いしたいくらいなんじゃよ…儂の部下をたぶらかし、挙句に殺した人間の始末をのう」

 

「まさか…人間が犯人なの?でも、あんなのは人間技じゃない…突然生えた結晶がはじけて…」

 

「この幻想郷の人間には二種類いるじゃろう…ただの人間と、異能を持つ人間が」

 

 

 

一方その頃、例の狸が爆散した現場へ訪れ、詳しい調査を行っていた須藤黒助。屋内の金と大量にある例の薬の押収と、更なる証拠を掴むのが目的だ。

 

「必ず…何かがあるはずだ…真犯人へと導いてくれる何かが…。もうまともな警察官は私しか残っていないのだ、私が絶対に平和を取り戻して見せる!」

 

須藤はそう言うと、シートをめくってその下にある化け狸の死骸を見た。見れば見るほど、謎が深まる。あの時、狸が犯人と想われる人物の名前を言おうとした瞬間、突然結晶が喉で大きくなり、直後に炸裂した。その勢いは人間よりも強靭な体を持つ妖獣の胸から上を跡形もなく吹き飛ばした。

そして、出回っている例の薬と、あの時炸裂して粉々になった結晶の破片を見比べると、よく似ているのだ。

 

「お前か…近頃、いろいろ嗅ぎまわっている警官は」

 

「誰だ!?」

 

その時だった。背後から声が聞こえて、須藤は振り返った。すると、外れたドアの枠に寄りかかるようにして、何者かが立ってこちらを見ていた。だが、向こう側から射しこむ街灯の光が逆光となって詳細な姿はよく見えない。

 

「警官にも薬を回させて使い物にならなくしたつもりだったが、1人だけ残っていたとはな」

 

「何者だと聞いている!」

 

須藤は隠し持っていた古いタイプの拳銃を抜き、弾倉を入れて構えた。

 

「しかし、お前の警官としての責務、仕事も…その命と共にこれにて終了する…」

 

「質問に答えろ!何者なのかと聞いている!!さもなくば、撃つぞ!」

 

「撃ってごらん。君もここで簡単に死んじゃつまらないだろう?遊んでやるからさ」

 

その影はそう続けた。

 

「ふざけやがって…どうなっても知らんぞ…!」

 

須藤は拳銃の引き金を引き、連続で2発の弾丸を発射した。

が、その時、須藤は確かに見た。発砲し、あとはあの影に向かって飛んでいくはずの弾丸から、白い結晶が生えてくるのを。

その結晶は回転している弾丸を包み込み、そして一気に炸裂した。

 

「な…!」

 

まさか、化け狸の時と同じだ!弾丸はその場で結晶と共に粉々に砕けてしまう。

 

「おぐ…ッ…!?」

 

そして、須藤の胸に激痛が走る。ゆっくりと下を見ると、青っぽい色の半透明の腕が須藤の胸を貫き、背中から突き抜けていた。

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