もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第197話 「Disenchanted」

「ほら、どけよガキ共!」

 

キヨヒロは目の前でうずくまる子供を蹴り飛ばし、壁にぶつける。そしてその子供に駆け寄り、抱き上げる者がひとり…。そう、この寺子屋の教師をしている上白沢慧音であった。

 

「そして静かにしな…じゃないと、僕の復讐リストの最後の一人、この上白沢先生を殺せねぇだろうがよ…」

 

「お、お前は一体何者だ…?」

 

慧音はキヨヒロを睨みつけながらそう言った。キヨヒロは黒いコートに黒いズボンを着用し、髪は風になびくくらいの長さで、その邪悪に歪んだ表情から、彼が誰なのか慧音にはわからなかった。

 

「わかんないかな?」

 

キヨヒロはそう言いながら、ふと横を向いた。

 

「まさか…キヨヒロか!」

 

慧音はその横顔を見て思い出した。キヨヒロは3年前まで自分の寺子屋の生徒だった少年だ。だが、当時の彼の性格では子供を蹴るなどそんな事ができるはずがない。

 

「ふふふ…あたりだよ、先生」

 

「だが、キヨヒロ…お前が生徒だったころは優しい子供だったじゃないか!勉強もそれなりに出来て、私に叱られたことも一度もない…」

 

「…僕の父親が犯罪者だということは、あんたも知ってるだろう」

 

 

──時は15年前、キヨヒロが生まれた頃にさかのぼる。

キヨヒロはごく普通の小売業を営む両親との間に生まれた。だが、彼が物心ついたころ、父親はある男と妖怪が謎の取引をしている現場を目撃してしまう。

外の世界から流れてきたその妖怪は人間が作った麻薬を密かに持ち込んでおり、人間に売っていたのだ。

当然、目撃してしまった父親は男と妖怪に証拠隠滅として殺されかけるが、何とか抵抗をして怪我はなかったが、反撃した際に逆に男を殺害してしまう。その妖怪はどこかへ逃げ去ってしまい、父親の「危険薬物の取引現場を見た」という証言は聞き入れられず、過失致死で逮捕された。しかしその数日後に父親が留置所内で何者かに惨殺されているのが見つかった。

犯人はどうやら事件の時に逃げた妖怪だったようで、その妖怪は後に人間の霊能力者達に調伏されて殺された。

 

が、キヨヒロは成長し寺子屋へ通うようになると、周囲の生徒から壮絶な嫌がらせを受けるようになった。彼の父親が犯罪者だという噂は広まっており、犯罪者の息子として余りある生活を強いられた。

 

 

「僕に、もっと力が有れば…僕に抵抗できるだけの自信と度胸があれば…そうだったら、母親が周りからのうるさいクチバシにやられて自殺しちまうことも無え…僕が惨めに人目から隠れて暮らすことも無え…」

 

 

しかし、転機は訪れる。

2年前、寺子屋を卒業したキヨヒロが里の道路舗装工事の仕事をしていた時、掘った地面の中で液体のように蠢く銀色の物体を発見する。彼がそれに触れた瞬間、液体はキヨヒロの体内へと入り込み、キヨヒロは数日間高熱に侵され生死の境をさまよう事になる。

だが気が付くと熱は引いており、その時から何故か体の奥から生命力がみなぎり、今までになかった不思議な能力…ケミカルロマンスを手に入れるに至った。

 

 

「あの頃、嫌がらせの主犯だった連中はこの手で直接殺し、あとの周りで見ていただけだった奴らは間接的に死をくれてやった。そして最後に残ったのは…あの時事情を知っておきながら何も手を打たなかった無能教師だけなんだよ」

 

そう言いながら、キヨヒロは黒い上着の内側からドスを取り出し、その刃を向け乍ら慧音に歩み寄る。周りの子供たちは怯え、慧音も冷や汗をかきながらその子供たちを庇うように立ち上がる。

 

「僕をここで叩きのめそうだなんて考えないほうがいい…僕が能力に目覚めてから、僕自身の身体能力も普通の人間より強くなっている…。そして大事な生徒らを殺されたくなければ、大人しくしていることだ…抵抗すればガキから一人ずつ殺す」

 

「くっ…!」

 

「あばよ、先生ェ~~~!!」

 

キヨヒロはドスを振りかぶり、慧音に向かって振り下ろした。

 

ドゴ…!

 

「ぐ…ぶ…!」

 

しかし、刃の切っ先が慧音に刺さる直前、何者かの拳がキヨヒロの顔面にめり込んでいた。キヨヒロは何とか踏ん張ろうとこらえるが、それも敵わずに盛大にぶっ飛ばされ、窓を突き破って外の地面に転がった。

 

「な…何者だ…!?」

 

キヨヒロは鼻血と泥で汚れた顔をぬぐいながらそう怒鳴った。すると寺子屋の中から出てきたのは、自分と歳は同じくらいに見える少女だった。だが、その横にはもう一人分の赤い半透明な影が寄り添っているようにも見える。

 

「なぁ、史奈…アイツの事知ってるか?」

 

「うん、知ってるよ妹紅ちゃん…同じ学年だったキヨヒロくんでしょ」

 

「き、キサマ…まさか…!!」

 

キヨヒロはよろよろと立ち上がりながら、それが誰なのか理解した。

そう、かつて幻想郷を襲撃した月夜見王との一騎打ちの末に自爆し、その魂が普通の人間として生まれ変わった存在…前世の自分ともいえる妹紅の力を借りて共に生きる道を選んだ人間、蓬莱山史奈だった。

 

「そうなのか、私はあんな奴知らないが…っていうか、妹紅ちゃんはやめなっていつも言ってるだろ」

 

「そうだった?ごめんね妹紅ちゃん」

 

史奈が慧音と子供たちを守るために、キヨヒロと対峙するのだった。

 

「ふ…ふふふ…そうだったな、まだお前が残っていたか…。お前も僕の復讐リストに入ってこそいたが、お前が普段暮らしている場所は月の医者がいる永遠亭…殺すのは断念せざるを得なかった。だが、まさかお前自身が自分で僕の前へやって来てくれるとはな…!」

 

「キヨヒロくん…里での悪行の噂は聞いてるわ。だからこそ、同級としてここで君を止めるよ」

 

「バカめ、史奈…お前如きがこの僕を止められると思うなよ!来い、戻って来いケミカルロマンスゥ!!」

 

 

 

 

スカーとケミカルロマンスは互いに激突し合い、反発して反対方向へ吹っ飛んだ。

 

「どうしたヨ、ケミカルロマンス…オマエのパワーはそんなもんカ?」

 

「…キヨヒロが戻れと言っている…心配だ」

 

次の瞬間、ケミカルロマンスは自分の目の前の地面を滅茶苦茶に何度も殴ると、一瞬でその場から消え失せてしまった。

そして殴った地面からは巨大な柱のような結晶が何本も伸び、スカーの周囲を取り囲うように固定する。

 

「おい待ちやがレ!」

 

スカーが渾身の力で殴ろうが特大の雷を落とそうが、今までよりも頑丈な結晶はとても壊れそうもなかった。

 

 

 

 

一方、キヨヒロの声に応えて戻って来たケミカルロマンスは、スカーとの戦いによるダメージを受けていたが、すぐにキヨヒロを守るためにその隣に付いた。

 

「随分と苦戦したようだな」

 

「ええ…敵も随分やりましたので」

 

「まあいいや、次の相手はアイツらだ…僕とお前なら倒せるよな」

 

「必ず!」

 

ケミカルロマンスは前へ飛び出し、史奈に殴りかかる。しかし、その横から現れた妹紅もパンチを繰り出し、拳と拳と合わせる形でぶつかり合った。両者はギリギリと力を込め合う。

6年前、妹紅の魂は生まれ変わりの史奈と同化することで強大な敵を倒すための力を与えたが、あの時の超パワーはその時限りのもので、それ以降はこのように魂だけの妹紅が史奈に憑りつくような形で行動を共にしている。

 

「くくく…」

 

だが、キヨヒロがにやりと笑うと、妹紅の拳からあの結晶が伸び始めた。

 

「な、なんだこれは…!?」

 

そしてその結晶は赤く変色するとすぐに炸裂した。妹紅の拳が吹っ飛び、本体である史奈の手から血が噴き出す。

 

「ぐ…!」

 

「はははは!これが僕のケミカルロマンスの能力よ!触れた場所から一定時間が経つと爆発する結晶を生成できる!」

 

「ふん、ソイツは御大層な能力だ。だけどな…」

 

妹紅がそう呟くと、破壊された拳が見る見るうちに修復されて元通りになっていく。それに伴って同様の怪我を負った史奈の手も元通り回復した。

 

「なるほど、自己再生能力か。しかし、いつまで持つかな」

 

「何ですって?」

 

「くっくっく…妹紅とかいったか?いくらお前がダメージを回復させ、史奈にも同様の効果が現れるとしても、その史奈の体力は持つかな?傷を治したとき、若干だが史奈の体力が低下した…僕の目はごまかせないよ。さぁどうした?もっと仕掛けて来なきゃ僕には勝てないぜ」

 

「だったらお前が触れられぬ距離から攻めればいいだけのことだ!」

 

妹紅は全身に炎が燃えているようなオーラを纏うと、その炎を両手に移動させて弾幕を作り出し、それをキヨヒロとケミカルロマンスに向けて放った。

 

「ふん」

 

だがキヨヒロが鼻で笑うと、ケミカルロマンスは連続でパンチを繰り出し、そのすべてを炎の弾幕に命中させて消し去っていく。

 

「まだまだ!」

 

今度は両掌から炎の光線を放ちながら、全身に溜めたオーラを炎の細かい弾幕へ変えて、キヨヒロへ向けて無茶苦茶に撃ちまくる。ケミカルロマンスはレーザーをキヨヒロに当てないように立ち回りつつ弾幕を殴って潰し続けていたが、それにも限界が訪れ、その足にレーザーが直撃してしまう。

 

「ぐっ…!」

 

ケミカルロマンスの動きが止まり、キヨヒロにも同様の傷があらわれる。

 

「もらった!これでくたばれ…!」

 

妹紅は片手を上にかかげ、そこへ太陽と見まがうような炎の光弾を作り出す。その光弾は直径にして2メートルを超すかというほど大きくなり、動きの止まったケミカルロマンスとキヨヒロに対して投げつける構えを取る。妹紅は無事だとしても、地面に着弾すれば周囲数メートルは炎に焼かれる事となるだろう。

しかし…

 

「ケミカルロマンス、やれ」

 

キヨヒロはケミカルロマンスにそう何かを命じた。その瞬間、気がつけば妹紅の腕には大きな結晶が貼りついていた。

 

「な…!私はヤツに触れられていないのに…!」

 

キヨヒロは不敵ににやりと笑った。

 

 

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