もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

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第199話 「シロナ、地底へ行く」

「ちィイイ…!」

 

「く…コイツ、べらぼうに強いわ…!」

 

ふたりまとめて岩壁に叩きつけられたシロナとスカーは、目の前に浮かぶ闇の塊を睨んだ。すると、その塊から大きな黒い火炎が噴き出してくる。

 

「うお!」

 

ふたりはそれを同時に避け、火炎が地面に当たるとたちまち周囲が炎の海と化す。そして、その闇の塊は一瞬膨らんだ次の瞬間、放射状に広がる強力な邪気の波動を放った。

 

「ぐああああああ…!」

 

それに包まれるシロナとスカーは全身が焼けるような衝撃を味わいながら敗北を悟った。

 

「強すぎるヨ…!!」

 

「これは…私たちだけじゃ、勝てない…誰か、他に強い人を…連れて来なければ…」

 

 

 

 

「地底の都も何年ぶりかな~!みんな元気かな~」

 

今日、シロナは幻想郷の地下に広がる地底世界、そこに存在する旧都と呼ばれる都へと足を運んでいた。

シロナは生まれてから4歳ごろまでのほとんどをこの旧都でカカロットと共に暮らしており、むしろ地上へ行くのは年に数回という程度だった。つまり、実質的なシロナの故郷こそがこの旧都なのである。

 

「おーい、シロナー!待ってたぞー!」

 

歩いていた旧都の大通りの先に居たのは、ふたり分の人影だった。そう、そのうちの1人はあの星熊勇儀、もう1人は伊吹萃香である。両者ともに地底世界を代表する種族である鬼…その中でも群を抜いて強く、この旧都をまとめ上げる存在だ。

 

「勇儀に萃香!会いたかったよ~!」

 

シロナのふたりのもとまで走っていき、ジャンプして勇儀に抱き付いた。勇儀はシロナを抱きしめ返すと、ひょいっと持ち上げて肩車のように自分の上に乗せた。

 

「大きくなったな~!」

 

「全くさ、もう私なんて背丈で追い越されてるねぇ」

 

勇儀と萃香はシロナに対して口々にそう言った。シロナがカカロットと地底で暮らしていたころ、子供の世話が苦手だったカカロットを手助けするために一緒に暮らしていたのがこの二人だった。そして二人はかつて赤ん坊のカカロットを物心つくまで育てたことがあり、シロナからすれば祖母に近しい存在でもある。

 

「ここは地上の人里よりも落ち着くネェ…」

 

そのシロナの上空で浮かびながらくつろいでいたスカーがそう呟いた。

 

「ところでシロナ、あの上にいる奴はだれだ?」

 

勇儀が上にいるスカーを指差しながらそう言った。

 

「あれはひょんなことから私についてくるようになった…何て言うのかな、自分で考えて自分で動くからくり人形なんだってさ」

 

「おいシロナ…ワタシの事を気安くからくり人形だとか呼ぶなよナ。ワタシはいわば憑りついてるんだヨ…オマエを殺すためにヨ」

 

スカーはふわりと降りてくると、シロナの頭を手で掴みながらそう言った。

 

「はいはい」

 

シロナはいつもの事だ、とでもいうように空返事をして聞き流す。

だが、勇儀と萃香がズイっとスカーの目の前に顔を近づける。

 

「シロナを殺すだって?それは聞き捨てならないねぇ…」

 

「捨てられねぇのなラ、大事に頭ん中仕舞っときなヨ」

 

両者の間に火花が散っているようにも見える。まあ、スカーに限っては実際に額から電気の火花を散らせているのだが…。

そこに勇儀の肩から降りたシロナがすかさず割り込み、スカーと勇儀らを引き離す。

 

「もう!ここで喧嘩はしないでよね!」

 

「ああ、すまんなシロナ…」

 

「チッ…」

 

どうやらスカーと勇儀たちはどうにも気が合わないらしいということがこの短い間で分かった。

シロナがどうしたものかと少し困りながら後ろを向きながら少し歩いた。

 

ドン

 

「あいたっ…」

 

と、その時、シロナは背中で誰かとぶつかってしまう。

 

「ご、ごめんなさい、よそ見してて…」

 

シロナは咄嗟に頭を下げてそう謝った。シロナとぶつかったのは彼女よりは年上に見える少女だった。長袖のセーターに黒いズボン、丸い眼鏡をかけていて、頭からは一対の短い角が見える。

その鬼の少女は怒りも謝りもせず、困ったような表情でじっとシロナを見つめると、さっさとどこかへ歩いて行ってしまった。

 

「なによ、今の人…感じ悪い…」

 

「アイツは私らとおんなじ、鬼の靄子ってやつさ」

 

「でも、鬼の癖に度胸が無くて暗い性格してんだよ」

 

勇儀と萃香が靄子という名前のあの鬼についてそう言った。シロナは歩き去る靄子の後ろ姿を眺めながら何かを考えていると、その時突如として強い地面の揺れが足元を襲った。

 

「わっ、なに!?」

 

「地震か!?」

 

立っていられない程の揺れに晒されてシロナ達は思わず地面に座り込んでしまう。すると次の瞬間、今立っている道に亀裂が入り、割れた。そしてその下から何か巨大なものが飛び出して空へ飛んでいき、それを追いかけて小さいものが3つほど飛んでいく。

 

「グオオオオオオ!!」

 

地面の中から現れたのは、大きな怪物だった。緑色の鱗を全身に纏い、亀のような大きな甲羅を持つ龍のような生き物。だが、その甲羅や頭に生えた黄色い一対の角などが欠け、全身のいたる場所から血がにじんでいる。

その生き物は吠えながら背後へ頭を向けて炎を吐く。その炎は旧都の建物に燃え移り、火災が発生して歩いていた妖怪たちが騒ぎ始める。

 

「止めないと!」

 

シロナはその亀のような生き物へ向かっていく。だが、勇儀と萃香は何故か目を見開いたまま固まったままだ。そして、辛うじて開いた口から言葉をひねり出す。

 

「まさか…アイツが…」

 

シロナは暴れる亀へ近寄り、大声を上げる。

 

「大人しくしないとみんなが困るでしょ!!」

 

しかし、亀はシロナの言葉に耳も貸さずの炎を吐き続ける。その時、シロナは気が付いた。この亀のような龍は闇雲に暴れているわけではない。何かを恐怖して錯乱し、それに向けて攻撃しているのだ。

次の瞬間、どこからか細かいエネルギー弾が飛んできて亀に命中した。その箇所が爆発し、亀は苦しみの声を上げながら倒れ込む。すると、なんとその亀の体が縮んでいき、人間そっくりの姿へ変わった。

 

「一体何が…?」

 

そう呟くシロナだが、何かが近づいてくる気配を感じて振り返る。そこには直径1メートルくらいの球体がこちらに向かって飛んできていた。球体は黒く、その真ん中に青い星型の模様があり、星の部分には丸っこいふたつの目が光っている。

 

「シロナ!その丸いのに気を付けろ!」

 

勇儀がシロナにそう呼びかけながら、こちらへ向かってくるその黒い球体に飛びかかって殴りつけた。さらに萃香ももう一体の球体を蹴って吹っ飛ばす。

が、球体は少しだけ傷を受けたもののそれを全く意に介さずに、今度は勇儀と萃香、シロナを標的にして襲い掛かってくる。

 

「一体何なのコイツらは!?」

 

「話は後だ、とにかくコイツらは危険だ!はやく退けるぞ!」

 

すると、勇儀と萃香は持っていた酒瓶を叩き割り、中の酒を球体へ向かってぶちまけた。酒をかけられた2体の球体は不思議な事に、茹でられたように真っ赤になり苦し気に甲高い声で叫んだ。

 

「今だ!」

 

勇儀と萃香は動きの止まった球体に飛びかかり、何度も殴りつける。

 

「コイツらは酒が弱点なんだ、だから…」

 

それを聞いたシロナは近くにあった酒屋から酒瓶を取ると、それで自分と戦っていた球体を殴る。こぼれた酒が球体にかかり、やはりそいつは叫び声を上げて動きが止まる。その瞬間、スカーの放った落雷のような強い電撃が球体に直撃すると、それは煙を上げながらボロボロと崩れて消えていく。

 

「この、この…!」

 

とてつもない怪力を持つはずの勇儀や萃香のパンチを何度も受けながら、その球体はほとんどダメージを受けていないように見える。弱点であるという酒の効果も切れ始め、球体たちは再び動き出そうとする。

だが、割り込んできたシロナの放った渾身の蹴りが勇儀と戦っていた球体を砕き、スカーの振るう手に持った左腕の一撃がもう一体を貫いた。

 

「ふう…」

 

勇儀と萃香は崩れゆく球体を見ながらため息をつきながらその場で膝をついた。

 

「そこの人、大丈夫!?」

 

とりあえずの危機を脱したシロナは、さきほど亀が変化した人間の姿をした者に駆け寄り、上半身を抱き上げる。その人物は金髪の女で、頭からは先ほどの亀の姿だったときと同じような角と、背中には甲羅を背負い、腰からは長い尻尾が伸びている。

 

「う、うう…私は”吉弔”という者…地上に住む…博麗霊夢という者の助けを…」

 

吉弔と名乗った女は掠れたような声でそう呟いた。

 

 

 

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