もしもカカロットが幻想郷に落ちていたら   作:ねっぷう

2 / 450
第2話 「幻想郷の猛者博麗の巫女」

岩にかけられた結界の一部が剥がれた。それを皮切りに結界はどんどんと千切れていき、ついには薄くなり、消えた。

少年はゆっくりと動き出し、岩の下から這い出た。

 

…その瞬間、少年は霊夢の背後に瞬時にまわり、その頭部を両手で殴りつけた。霊夢は目を見開きながら、突然の攻撃に言葉を失っている。すかさずに霊夢を蹴り飛ばし、今まで自分にのしかかっていた岩に激突させた。

 

そして立ち上がり、ズボンのポケットから何か眼鏡のような機械を取り出し、色のついたガラスの部分を拭いた。

黒いインナーを来た上半身の筋肉は引き締まっていて、身長は霊夢よりもやや小さい程度。そして腰からは茶色い毛に覆われた不思議な尻尾が生えている。

 

「ふん、戦闘力たったの4か」

 

倒れたまま動かない霊夢を機械に映すと、そこには「4」と数字が表示されていた。

 

「これがお前の力か…変な術を使う割には大したことなかったな!」

 

カカロットはそう吐き捨てると、素早くその場を離れた。岩や木々の間を目にもとまらぬスピードで飛び回り、南の方角へ向けて移動していく。

 

「腹が減ったな…向こうに微量な生命反応が多数ある!村か集落か…しめたぞ」

 

 

 

「いったた…」

 

しばらくして、霊夢は起き上がった。頭には大きなたんこぶが出来てしまっていて、そこをさすった。

 

「アイツ…なんてことを!絶対に許さないわ!!」

 

霊夢はカカロットの後を追うように、空に浮かぶと移動を開始した。

 

 

 

「誰だ、お前は!」

 

「妖怪か!?」

 

幻想郷の中央付近に位置する、唯一の人間の集落の集まりである人間の里。そこの外壁の回りを見回っている護衛は、近づいてくるカカロットを見てそう叫んだ。皆が一応人間としては武道の熟練者であり、一部の者は妖術のような技も使う事が出来る。

 

「ほう…お前たちが噂に聞く”人間”か。戦闘力たったの5…あるいは6か。…話に聞く通り弱い種族のようだな」

 

「即刻立ち去れ!立ち去らないのならば、力ずくでも退治してやるぞ妖怪め!」

 

4人ほどの護衛が、一斉にカカロットに襲い掛かった。拳を振り下ろし、鋭い蹴りを放つ。

が、カカロットは尻尾を地面につけるとそれをバネのように使い、宙へ飛び跳ねた。そしてパンチを打った護衛の頭に踵を振り下ろし、蹴りを放った護衛の攻撃をかわし、そのまま殴り抜ける。

そして残る二人の攻撃を軽くかわし、背後にまわる。

 

「な…」

 

驚く護衛を殴って叩きのめすと、里の外壁を蹴破って破壊した。

 

「美味そうな食い物のにおいがするな…」

 

カカロットは破壊した壁の残骸をまたぐと、里の中へと侵入していった。

 

 

 

「あれは…!」

 

少し遅れて里に到着した霊夢は、破壊された壁の前で倒れている護衛の人間たちを見て驚いた。

その近くに着地し、護衛の状態を確認する。

 

「大丈夫!?」

 

「う…変な猿みたいな妖怪が里に…」

 

「猿…さっきの奴ね。私に任せて!」

 

 

 

カカロットは商店通りにたどり着くや否や、店の人間を殴り倒し、八百屋の野菜や果物を食べ、肉屋の燻製や生肉を手当たり次第に貪り食う。その様子を見た里の住人は妖怪が襲って来たぞ、と恐ろしがり、逃げ惑った。

 

「うるせぇ連中だ…もぐもぐ」

 

飽きたら店の屋根を壊し、次の食べ物を求めて歩き出そうとする。

 

「コラ!待ちなさい!!」

 

すると、背後から怒りが込められた声が聞こえた。霊夢だ。

声に気付いたカカロットは生肉の塊を手に持ったまま、その方向に振り向いた。

 

「…さっきの女か。戦闘力4程度ならばとうに死んでいてもおかしくない攻撃だったはずだが…当たり所が良かったか?」

 

「戦闘力?なによそれ、アンタ本当に変な奴ね!」

 

「戦闘力…それは個々の生命エネルギーの強さを数値化したものだ。当然、高ければ高いほどソイツは強くなる…。俺の戦闘力は18だ!スカウターがはじき出したたった4の貴様が到底敵うはずはないのだ」

 

そう言ったカカロットは生肉を一口で食べきる。

確かに、いくらただの数値とはいえ、ここまでの差があればさすがの霊夢でもこのカカロットには勝てないだろう。それは会話を聞いていたただの里の住民が、何となくであるが理解できるほどであった。

…”今の”霊夢であれば、だが。

 

「そう、よくわからないけど、その4って数字が私の強さを表しているのね。だったらとんだ思い違いね…この博麗の巫女である私が、常に全力を解放して生活しているとでも思っているの?」

 

霊夢はにやりと笑いながらそう言った。

 

「何だと?くだらないハッタリを言うだけの余裕が、キサマにあるのか?」

 

「そのスカウターとやらで確かめてごらんなさい」

 

その言葉を聞いて、カカロットは眉間にしわを寄せた。この様子では、確かにただのハッタリではなさそうだ。しかし、ここから戦闘力が上昇するとしても、所詮自分に敵うような数値にはならないだろう、と高を括った。

霊夢はただ立ったまま、少しだけ目を見開いた。

 

「は…っ!!」

 

すると、スカウターに映る霊夢の戦闘力が上昇を始めた。最初は何処まで上がるのかと見ていたカカロットが明らかな焦りの表情を見せた。

 

「バカな…戦闘力20…!?」

 

「いくわよ!」

 

霊夢は勢いよく地面をけり、そのままカカロットへ向かった。迎撃の構えを取るが、霊夢は手刀を作り、それをカカロットへ向けて打ち付けた。腕でガードしようとするが、霊夢の手刀はそれをうまくすり抜け、カカロットの首に一撃が命中した。

 

「ぐは…!」

 

しかし、すぐに体勢を立て直し、霊夢に向けて負けじとパンチを放った。パンチは霊夢の頬に当たるが、こちらもすぐに向き直り、追撃の蹴りをカカロットへ浴びせた。

両者はしばしの格闘戦を繰り広げた。力任せに蹴りやパンチを放つカカロットと、相手の動きを読み的確な位置に的確なタイミングで攻撃を加える霊夢。その戦いは、やがて霊夢が優勢となった。

 

「くそ…め」

 

カカロットは後ろへ飛び、ハァハァと息を切らした。

 

「もう終わり?散々偉そうにしてた割には大したことないわね…」

 

「ち、ちくしょう…舐めやがって…!クソーッ!!」

 

完全に逆上したカカロットは周囲の住民たちに目を向けると、彼らに向かって殴りかかった。

 

「危ない!」

 

霊夢は空中に浮かび上がると、両掌に黄色い光の弾を生成し、それをカカロットの目前へ向かって放った。光弾は地面に当たり、それによって炸裂した光と土煙がカカロットの行く手を遮った。

思わずそれが飛んできた方へ目を向けるカカロットだが、その瞬間、目を見張った。

 

「一気に蹴りを付けてやるわ!」

 

霊夢は宙に浮いたまま、気合を入れるようなポーズを取って力み始めた。すると、彼女の周囲に霊力が赤いオーラとなって漂い始めたではないか。

 

「あ…あ、ありえん…!戦闘力がさらに上昇するだと…40…60…80…100!!」

 

ついに100にまで上がった霊夢の戦闘力を見て、カカロットが我に返った。地底世界では弱いと聞かされてきた人間…その人間の一人であるあの女が、サイヤ人である自分をはるかに上回る戦闘力を見せた!

 

「はっ!」

 

霊夢が小さくそう呟くと、物凄いスピードでカカロットに迫った。そしてぶつかり様に、その頭に渾身の拳を叩きつけた。

 

「ぬぐ…が…そんなバカ、な…」

 

カカロットはその場に倒れ込み、それを確認した霊夢は解放した霊力を解き、元の状態へ戻った。

 

「相手を侮らない事ね」

 

そう、霊夢は戦闘力…つまり気、霊夢に関しては霊力の最大出力を自在に引き上げることができるのだ。普段ではその霊力の消費を抑えながら生活しており、それを解除して初めて平常時の実力が出せる。さらに、平常時の霊力を爆発的に解放することで更なるパワーアップができるのだ。

 

「さて、と…アンタにはいろいろ話を聞かなきゃいけないのよね。カカロット…だっけ、担いであげるから私の神社まで来なさいな」

 

霊夢は既に気を失っていたカカロットを担ぐと、そのまま自分が住んでいる博麗神社へと向けて歩き始めた。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。