「カアアアアアアアアアア!!!!」
幻想郷の何処かから通じているとされる、魔物や魔人の住む世界、魔界。その一角に存在する岩場で、ウスターは叫び声を上げながら全身から気を放出した。
空気が震え、カタカタと音がする。いよいよ揺れが強くなると、ウスターの目の前に聳えていた巨大な岩山が、まるで爆発するかのように砕け散った。大小さまざまな大きさの岩が飛び散り、茶色の土煙があたりを覆い尽くす。
よく見ると、岩山を気合だけで砕いたどころか、そこに巨大な谷のような亀裂までも作ってしまっていたのだ。さっきまで地面が有った場所で、ウスターは浮かびながらハァハァと息を切らした。
「…カカロット。今度こそ必ず貴様を倒してやる…」
ウスターがそう呟いた時、彼女は視界の隅に何か黒い影を捉えた。
「…む?」
一瞬、目がおかしくなったのか、それともゴミが舞っているだけかと思った。しかし次の瞬間、今空けた谷底から別の影が飛び出してきた。
反応する間もなく、ウスターを突き飛ばすように体当たりをかました。
「な、なに!?」
吹き飛ばされそうになるが、何とか空中で踏みとどまる。そして、自分の後ろへ勢いのまま飛んでいったその影の方を向いた。だがその瞬間、別の影がウスターを背後から蹴り飛ばした。
さらに別方向からも別の何者かが飛び出し、殴りつけられた。
「ぐあぁっ!!」
続く、謎の3人による猛攻。目にもとまらぬ連続攻撃は、ウスターでさえも対抗することができずに、じりじりと谷底へと追い込められていく。
「うお…ぐあ…!」
3人は同時にウスターへタックルを喰らわせ、下へと突き飛ばす。
「トドメだ」
1人がそう口にすると、3人同時にエネルギー波を放った。壁に激突し、体勢を崩していたウスターへと真っすぐに向かい、その身体に命中した。
「ギャアアアアアア!!」
ウスターは悲鳴を上げながらエネルギー波に押され、谷底に激突し、そのまま巨大な爆発に巻き込まれた。
「…魔人ウスター、始末完了」
ここは八雲紫の住む異界。現世とは隔離された異界である幻想郷から更に分離された、紫とその部下の住まう場所である。
そこにある紫が普段生活している大きな屋敷で、彼女に仕える式である八雲藍が洗濯ものを外へ干している最中であった。慣れた手つきで、次々と作業をこなしている。
「あらおはよう、もう終わりそうね」
すると、寝間着姿の紫があくびをしながら近くを通りかかった。
「ええ、今日はお早いお目覚めですね紫様」
「もちろん、たまには私だって…って…か…」
「紫様、どうされました?」
会話の最中に突然目を見開き、言葉を途切れさせた紫を見て藍は不思議に思う。
次の瞬間、紫は前へゆっくりと倒れていく。それを受け止めようと駆け出す藍。
「…な…!」
しかしその時、上空から接近していたエネルギーの存在に気付き、上を向いた。そして迫っていた気功波を間一髪のところでかわすことに成功した。
干していた洗濯物は衝撃で吹き飛び、地面の上へ落ちてしまう。
「お前たち…何者だ…!!」
「くくく…お前と同じようにこの幻想郷の賢者に仕える者…ジンジャー」
と、黄緑色の皮膚をし目の赤い人物がそう言った。その風貌は、体の鎧のような外骨格やドクロのようにも見える顔つきから、骨を剥き出した悪魔のようだ。
「なに、賢者だと…まさか…」
「へへへ…俺はサンショ」
屋敷の屋根の上に、深い緑色の人物が一人。先ほどのジンジャーと名乗った敵よりは体が大きく、ゴツゴツとした外骨格で肩や足を覆っている。耳の下からは赤いヒゲのようなものが垂れている。
「かぁ…もぐもぐ。私はニッキーよ」
白いローブに白い髪を逆立てた人物が、屋敷の中から見つけたのかリンゴなどの果物を何個も一気に口に頬張った。
「我らの賢者様は目的遂行の為に他の賢者が邪魔だと仰った。なので、ここでおとなしく寝ていろ」
「何と。何が目的かは知らないが、よくも紫様を…。その報い、ここで受けるがいい!」
しかし、藍も負けじと言い返すと、全身に気を込めるような動作を取る。すると、明らかに藍の気の量が増え、その身体からはみなぎるような妖気が立ち上り始めた。
「これが私の全力だ…さぁ行くぞ!」
「ふっへっへ…」
だがジンジャーたちはそれを見てもニヤニヤと笑っているばかりだ。そして、藍は素早く駆けだすと、一瞬で彼らの背後にまで接近した。腕を高く振り上げ、手刀による一撃をお見舞いしようとする。
が、三人はそれを軽くかわし、藍のはるか上空へと飛び跳ねた。
「上か!」
藍は上を向くと、すぐに彼らを追うように自分も飛び跳ねた。迎え撃つように攻撃を仕掛けてきたニッキーと殴り合いの攻防を繰り広げる。
二人はほぼ互角なようであったが、突然背後からジンジャーが藍を殴りつけた。それに対応しようとするも、さらに横から忍び寄ったサンショのタックルが命中した。繰り出される三人の連携を前に、藍は手出しができないでいた。
「我らが三人衆の恐ろしさ、とくと見よ!」
ジンジャー、ニッキー、サンショの三人は一斉に藍に飛びかかった。ジンジャーは藍の右腕を、ニッキーは左腕を、サンショはその両足を掴み、決して身動きの取れないように固定した。
そのまま藍を三人がかりで羽交い絞めにしたまま胸を下へ向け、落下した。藍を動けないままの状態で地面へ叩きつけるという戦法だ。
ガシャアン…
藍と三人は屋敷の屋根の真上から落下し、屋根に大穴を空けた。崩れた瓦礫の中で藍が横たわっており、ジンジャーたちは素早く屋根の上へと移動し、その様子を見下ろした。
「ふふふ…八雲紫とその式も倒した。次は摩多羅と弟子共か…さて」
「ん…!?」
神社の裏手辺りにある滝に一人で打たれながら、霊力を鍛えていた霊夢は、何かの異変を勘づいた。裸のまま滝つぼから上がり、目を閉じた。
そう、既に幻想郷一武道会があった日から一年が過ぎようとしていた。あれ以来、カカロットとは一度も顔を合わせていない。幻想郷は狭いはずだから嫌でも顔を見てしまうはずだが、そうならないという事はアイツもアイツでどこか別の場所で何かしているのかもしれない。
「妙ね…今一瞬だけ感じた事のない気が…」
そう言いながらタオルで体を拭き、いつもの巫女服に着替える。とその時、さっき感じた気がもう一度現れた。
「出た!…これは…天界?」
妙な気ははるか上空へ昇っていき、やがて再び感じなくなってしまった。
「…胸騒ぎがするわ、行ってみるのが賢明ね」
「ほう、ではお前たちはこれでドラゴンボールを4つ手に入れたということだな?」
「は!二人の賢者からそれぞれ奪い、摩多羅の持っていたボールが1つでございます」
天界の遥か奥地には、巨大な要石の一部がめくれ上がって出来た非常に不安定な場所が存在する。周囲に立ち込める雲は黄色や赤に変色し、その中には黒い石造りの宮殿があった。そこで、何やら話声が聞こえる。
「ですが、どうやら八雲のボールを持っているはずのウスターの近辺からは何故かボールが見つからず…」
「何だと…ウスターと言えば幻想郷一武道会で優勝し、八雲の四星球を授かったはずだが」
「も、申し訳ありません!この後、直ちに探してまいりますので…」
「まあ焦らずともいい。次は山の賢者を狙うか。ドラゴンボールは決して破壊できないが一度使えば最低1年は石になりまったく使えなくなる…そろそろ1年が経つ頃なので復活しているはずだが」
「は!ただいまから集めに行ってまいります!我らが賢者、ガーリック様」
巨大な、生き物の背骨を模したような玉座の上に、黒い道着のような服を着た大柄な男が肘を立て顎について座っていた。青緑色の皮膚に、大きな尖った耳。頬からは一対の触角のような器官が伸びていて、こめかみに赤い模様が浮き出ている。
彼の名はガーリック。この幻想郷を管理する賢者の内、最も強い7人のうちの1人である。その前にはあのジンジャーたち三人衆が跪いている。
「あと数年で約束の300年が経つ…それまでにドラゴンボールを七つ揃えそのすべてを使い、私がこの幻想郷から抜け出して現世へ復活せねばならない。1つ1つのボールの魔力ではそれが成し得ぬ故…」
ガーリックは遥か昔のことを頭に思い浮かべていた。
300年近くも前、ガーリックは地球で最も崇高たる地位である「神様」になるべく、修行を積んでいた。しかし、先代の「神様」にその邪悪な心と野望を見透かされ、神に選ばれる事は無かった。それを不服に思ったガーリックは神へ反旗を翻すのだが、逆に返り討ちに会い「300年後に必ず蘇る」と言い残し、その力ごと封じ込められてしまう。
その封印は死と同然と言える程強力なものであったが、偶然にも幻想郷へ迷い込んでシュネックと出会い、彼と共にこの幻想郷の賢者になるという道を選んだのだ。
そして最近、あれから300年が経ち現世へ蘇る準備はできた。先代の神による封印はガーリックをこの幻想郷へしばりつけているが、ドラゴンボールを7つそろえた時顕現する真の龍神の完全パワーならばそれを完全に解けるということに気付いた。だが、ガーリックが元から持っていたドラゴンボールで封印の解除を行おうとしたが、どうやら1つ1つのボールの力では力が足りず、神の封印をどうすることもできないのだ。
「さ、アナタも行くのよ新入り」
オカマ口調のニッキーがそう言った。すると、ガーリックの横に小さく控えていた少女が顔を上げた。そう、その少女はあの鬼人正邪であった。この髪の色と、小さな角は間違いないだろう。
「は…」
正邪はニッキーたちと共に、次の賢者を倒してドラゴンボールを奪いに行こうと歩き出した。
今、幻想郷の賢者であるガーリックとその一味の暗躍が始まろうとしていたのだった…。
jr.の方ではなく、父のガーリックです。